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【小説】『羊と鋼の森』の感想を好き勝手に語る【宮下奈都】

天文学と音楽が世界の基礎だという説にうなずこうとしている。無数の星々の間からいくつかを抽出して星座とする。調律も似ている。世界に溶けている美しいものを掬い取る。その美しさをできるだけ損なわないよそっと取り出して、よく見えるようにする。

(引用:羊と鋼の森 P212/宮下奈都)



心洗われ、静かながらワクワクする宮下奈都の『羊と鋼の森』の感想を語っていく。ネタバレありなのでご注意を。


ネタバレなしの紹介はコチラから。
【『羊と鋼の森』あらすじ・紹介】


目次

あらすじ

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、調律の森へと深く分け入っていく─。一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。

(引用:「BOOK」データベース)


感想

──ピアノの魅力に引き込まれる

ピアノと、ピアノに命を吹き込む調律師の魅力が大いに語られていた。私はピアノは全然弾けないし、ましてや調律なんてまったく縁のないものだったけれども『羊と鋼の森』を読んで、あっという間にこの世界の魅力にひきこまれた。


主人公、外村の成長も物語の魅力の一部だが、私が一番引き込まれたのはピアノの魅力、そしてそのピアノとピアニストの魅力を存分に引き立てる調律の仕事についてだった。私は調律についての知識は、「乱れた音の音程を調節しなおすもの」くらいの認識だったが、調律の奥深い世界を知ることができた。


「相手が求める音を作る」
言うのは簡単だけど、とてつもなく難しいよね。明るい音、暗い音、大きい音、小さい音、硬い音、柔らかい音、響く音、鈍い音……。音程とはまた違う、感覚に近い部分。だから相手が本当に求めるものをくみ取る感性と、更にそれを再現する技術力…。


また、人にそれぞれ個性があるように、ピアノにも一つとして同じものはない。そして演奏者も違う、学生なのか、プロなのか。弾く場所は家庭の部屋なのか、コンサートのホールなのか。今の季節にあった調律は…。奥が深すぎる。


調律師とは、まさにピアノに命を吹き込む仕事だ。そんな奥深い世界を繊細に表現している『羊と鋼の森』が面白くないはずがない。



──主人公・外村の成長に心動かされる

真っ直ぐ、愚直に、時には迷いながらも調律師の道を進む外村に心動かされる。思わずグッときたのは、調律師を目指すと決めた双子の由仁の外村に向けた一言。

「すごいです、外村さん、私も早く調律の勉強をしたいです、外村さんの見習いになりたいです」
〈中略〉
「ううん、このピアノの音色が和音を引っ張ってます。和音がそれに乗って、楽しそうに、見たことない音を出してるんです」

(引用:羊と鋼の森 P230-231/宮下奈都)

外村本人は和音の実力がすごいから、と謙遜しているが、和音のピアノを一番聴いているであろう由仁の言葉に間違いはないんじゃないかな。


この人のようになりたい!という調律師に外村はなれている。外村が板鳥に憧れて調律師を目指したように、外村は憧れられるような調律師に成長していると思ったら込み上げてくるものがあった。



──言葉って美しい

言葉の美しさ、表現の美しさがこの物語を引き立てている。印象に残ったものをあげていく。

「さっきよりずいぶんはっきりしました」
「何がはっきりしたんでしょう」
「この音の景色が」
音の連れてくる景色がはっきりと浮かぶ。一連の作業を終えた今、その景色は、最初に弾いたときに見えた景色より格段に鮮やかになった。

(引用:羊と鋼の森 P10/宮下奈都)

"音の景色"
音の感想なのに、視覚の表現の景色っていうあたりいいよね。物語序盤で、まだピアノになんの関心も持ってなかった外村がこの感想を持てるって、ある種の予感めいたものを感じる。

「美しい」も「正しい」て同じように僕には新しい言葉だった。ピアノに出会うまで、美しいものに気づかずにいた。知らなかった、というのとは少し違う。僕はたくさん知っていた。ただ、知っていることに気づかずにいたのだ。
 その証拠に、ピアノに出会って以来、僕は記憶の中からいくつもの美しいものを発見した。
 たとえば、実家にいる頃ときどき祖母がつくってくれたミルク紅茶。小鍋で煮出した紅茶にミルクを足すと、大雨の後の濁った川みたいな色になる。鍋の底に魚を隠していそうな、あたたかいミルク紅茶。カップに注がれて渦を巻く液体にしばらく見惚れた。あれは美しかったと思う。

(引用:羊と鋼の森 P19/宮下奈都)

「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えるいるようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」

(引用:羊と鋼の森 P57/宮下奈都)

『羊と鋼の森』を読んだ方、おそらく全員が気をひかれた一文だと思う。板鳥が目指している音として答えた一文。実際には原民喜の小説の一文だ(調べたら『沙漠の花』という作品の一文らしい)。

 ホールでたくさんの人と聴く音楽と、できるだけ近くで演奏者の息づかいを感じながら聴く音楽は、比べるようなものでない。どちらがいいか、どちらがすぐれているか、という問題ではないのだ。どちらにも音楽のよろこびが宿っていて、手ざわりみたいなものが違う。朝日が昇ってくるときの世界の輝きと、夕日が沈むときの輝きに、優劣はつけられない。朝日も夕日も同じ太陽であるのに美しさの形が違う、ということではないだろうか。

(引用:羊と鋼の森 P147/宮下奈都)

例えが素晴らしすぎる。本書で1、2を争うくらい好きな表現かもしれない。


──『羊と鋼の森』

タイトルがもう秀逸
ハンマーのフェルトで"羊"
ハンマーが叩く弦で"鋼"
そして"羊"と"鋼"でできたピアノで"森"


一見すると意味がわからないが理解するとスッと胸に入ってきて、これ以上はないと思えるタイトルである。こういうタイトルが大好き。他の例をあげるとすれば『すべてがFになる』とかかな。


最後に

続きが読みたい、と切に思った。中途半端だからという事ではない。物語はしっかり区切りよく終わっている。でも、まだ彼らの歩む道を、歩んだ道を見てみたい。


外村の今後の活躍はもちろん。和音は一流のピアニストになれるのか。板鳥の調律師になったきっかけの話とか。まだまだ気になることがありすぎる。短編集とかでもかまわないから、続編でないかなぁ。


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