FGかふぇ

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『図書館の魔女』の二次創作小説を書いてみた。

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─注意事項

  • 以下は、著・高田大介『図書館の魔女』の二次創作小説です。
  • 『図書館の魔女』本編を読んでから読む前提で書かれています。
  • 好き勝手に書いています。

以上、大丈夫な方はどうぞ。


─図書館の秘密を追って 〈前編〉

 季節外れの春の嵐が図書館を襲っていた。天井には止めどなく激しい雨が打ちつけているのが見え、豪風が高い塔を揺らさんばかりに吹きつける。
「マツリカ様、この嵐の中で離れに戻るのは危険ですよ。もう少し様子を見るべきです」
──そうみたいだね。ハルカゼたちが心配するだろうから帰りたいところだけど、しょうがないね。まったく……嵐がきていることが分かっていたなら起こしてくれればいいものを。
 この日アカリとマツリカは二人で図書館に詰めていた。アカリは嵐の予兆を感じ、マツリカに嵐の旨を伝えようとしたが、そのときマツリカは迷宮のような本棚の間でぐっすりと眠ってしまっていた。結局、アカリは幸せそうなマツリカの寝顔を前に声をかけることができず、二人は図書館に閉じ込められてしまったのだった。
「起こしたら起こしたで文句を仰るでしょう。それにこの嵐はすぐに去ると思うので待っていたほうが懸命です」
──何故わかるの?
「経験からですね。山の仕事は天候との戦いでもあります。常に天気の予測は欠かせませんでしたから自然と身につきました。雲の流れが速いので数刻の辛抱でしょう。」
 マツリカは書見台の上で開きっぱなしになっていた本を閉じると、スツールに座ったまま両手を組んでグッと上に伸ばして体をほぐしていた。
──それにしてもお腹が空いたね。本来ならば今頃イラムの夕食にありついている頃だというのに。
「いつまでもそんな憎まれ口をおっしゃらないでください。」
──まぁいいさ、私はいくらでもやることが残っているからね。
「私は何をしていたらよいでしょう」
──それくらい自分で考えな。


 雑務をこなし終えて手持ち無沙汰になってしまったアカリは、伽藍の螺旋階段を下り、階段の基部である石造りの壇に腰かけた。小部屋ほどの広さがある基部で、そのまま仰向けに倒れ込むと、明かり取りの柱の隙間から大粒の雨が叩きつけられているのが見えた。
 アカリは目を閉じて、高い塔に足を踏み入れてきてからの日々を思い返していた。初めて高い塔に訪れたときは緊張と不安しかなかったが、数日前にニザマでのキリヒトとしての最後の仕事を無事に終えて、再び高い塔の前に立ったときは、素馨の香りで懐かしさを感じ、帰ってきたという安堵の気持ちでいっぱいだった。自分には、やはり高い塔しかないと痛感させられた。
 そんな事を考えていると閉め切ったはずの大伽藍に素馨の爽やかで甘い香りが微かにするのにアカリは気づく。少し黴臭いような本の匂いに包まれている図書館内で、素馨の香りは夜空に光る一番星のように目立っていた。アカリは上体を起こしあたりを見回すが素馨は見当たらない。導かれるように立ち上がると香りの元を探し始めた。
 アカリは螺旋階段の側面へ回り込み身を屈めて、階段の根元の裏側を覗き込むと香りの元がそこに隠れていた。大伽藍の扉が開いたときに風と一緒に舞い込んでしまった素馨の花が隠れるように落ちている。膝を床につき階段下に手をのばし素馨を掴むと、一緒に塵とホコリのザラリとした感覚が手に残った。
 ホコリで薄黒く汚れてしまっていた素馨の花を、アカリは優しく息を吹いて綺麗にしてやる。いつまで経ってもアカリにとって素馨は特別な花だった。
 アカリが再び階段下に目を戻すと、先程触れた床の場所のホコリが取れ床が見えていたのだが、そこに何か違和感があった。
 素馨の花を床に置くと、手のひらで更に床のホコリを取る。伽藍内は暗く、階段下ともなればかなり見にくいが、床にはいくつもの細かい傷が薄っすらと走っていた。傷は階段の幅を堺にしていくつかあるようだったがすべて同一の方向についているようだ。
 なんだろう、引っ掻いたような、何かを引きずってような……。アカリはその場に座ると考えを巡らせはじめた。


 しばらくすると頭上から足音が響いてきた。どうやらマツリカが階段を下りてきたようだった。風の音に混じってコツンコツンと一定のリズムが伽藍に反響する。マツリカは座り込んだアカリを見つけると怪訝そうに目をやる。
──アカリ、雨はだいぶ弱まってきたみたいだよ。それにしてもそんなところにあぐらなんてかいて何してるの?
「マツリカ様、以前にこの階段の下に何か置いてあったりしましたか?」
──階段下に……?さぁ知らないね。何か見つけたの?
「たいした事ではないのですが……床に微かに傷がついています。なにか引っ掻いたような傷が」
 マツリカは眉をひそめると階段を降りきり、ローブを右手でさばいてアカリの隣にかがみ込んだ。そして階段下をじっと見つめる。
──私には影しか見えないよ。灯りを持ってきて。
 アカリは近くにあった卓上にあった燭台を取ってくると階段下にそっと置いてやる。
──傷か……。たしかにうっすらとついてるね。
「そうなんです。私たちから見て横方向に向かっていくつも線があるのです」
マツリカは、アカリがホコリを払った部分を撫でる。
──触っただけでは傷があるかはわからないね。それにしても妙だね。私の知る限りではここに何か置いた記憶はないし、引きずってついた傷なら相当重いものを引きずったはず。
 マツリカはそのままアカリと同じように、あぐらをかくと腕組みをしたまま右手を顎に伸ばし、親指で頤を支えて手先で口元を隠す仕草。視線は階段の根本に向けられていたが、アカリにはマツリカが床の更に奥へと目を向けているように見えた。アカリはマツリカの思考の邪魔にならないように静かに座り直すと、マツリカの視線の先に自身も目を向けた。

 アカリが置いた燭台の蝋燭が芯を焼きゆらゆらと揺れる。その揺らめきがなければ時間が止まってしまったように見えただろう。二人はしばしの間も微動だにしていなかった。
 アカリは横目でマツリカの様子を伺う。以前は肩にかからない程だったマツリカの髪が、今では背中に少しかかるほどに伸びている。耳にかきあげた髪をかけていて、そこから思考に集中している横顔が見える。
 程なくしてマツリカの口の端がきりと上がる。
「何か分かったのですか」
──初めて地下水道を見つけたときの記録の事を覚えてる?
「えーと……工費の請求書のようなものでしたよね」
 マツリカからの突然の、そして予想外の質問に驚いたが、アカリは遠い記憶を探って答える。
──そう。工費の費目と額が表になって並んでいる書き付け。あとは東方の治水と土木の専門家を招聘した記録だね。
「その記録がどうかしたのですか」
──地下水道の全貌を把握したくて、他に地下水道の設計図やら全体図がないか、お前がニザマに行ってる間も暇さえあれば探していたんだ。どうして私が地下水道について調べていたかわかる?
「町に抜け出しやすくするためですか」
──……アカリ、私は真面目な話をしているんだよ。
 呆れて顔のマツリカにアカリは申し訳なさそうに首をすくめる。
──お前の頭の悪さは変わっていないようだね。ニザマに行ったくらいで考えが変わるなんて期待もしてなかったけど。
「すみません……」
──あの地下水道はね、お前が考えているよりずっと危険なんだよ。
「崩れる恐れがあるということですか」
──いや、違う。構造的な話ではない。私たちは地下水道のおかげで離れの中庭の井戸から簡単に町へ抜け出す事ができるようになったね。つまり逆もしかりなんだよ。地下水道の全貌さえ把握していれば、誰でも地下水道を使って私たちの喉元に迫れるということさ。
 アカリはここまで言われてようやくマツリカの言わんとしていることがわかった。どうして今までこんな単純な事に頭が回らなかったのだ!
「つまり敵が私の首をねらっていて、地下水道について精通していたらどうなるだろうね。なんの苦労もせずに囲いを突破して一手で王手さ。
「では、はやく対応をしなくては!」
 アカリは思わず立ち上がって答えた。しかし、それに対してマツリカは変わらず冷静だった。
──落ち着け、これは万に一つの可能性さ。逆に今、大々的に動いたらやつらにヒントを与えるだけ、それこそ危険だよ。だから私は図書館に記録がないか調べてたのさ。
「なるほど……」
──工費の請求のような些細な記録が残っていたのだから、地下水道に関するもっと詳しい記録があるはずだろう?それでね、何が見つかったと思う?
 マツリカは自信満々の表情でアカリに問いかける。
「さては、本命が見つかったのですね?」
──何も見つからなかったのさ。
「え?どういう事ですか?」
──どうもこうもない。地下水道に関する記録はほかに何もなかった。
 アカリはマツリカの考えがまったくわからなかった。言葉と態度が合っていない。何も見つからなかったのに何故こんなに自信満々なのか。マツリカはそんなアカリの思考はお見通しだった。
──何故、何も見つからなかったのに堂々としているのか?って顔をしてるね。何も残っていないって事がわかったのさ。不自然なほどにね。
 マツリカは畳み掛けるように手を振るう。
──おかしいと思わないか?工費の請求書なんて地味な物が残っているのに、肝心の地下水道の全体図や、設計図がないんだよ?明らかに作為的な力が働いていると思わない?誰かが地下水道に関する記録を廃棄、または隠蔽したと考えるのが筋ってもんじゃない?
「一体誰がそんなことをしたんですか?」
──人に聞く前に考えてからモノを言えと前から……。まぁいい。図書館の記録を扱える人間だよ?そんなの決まってるじゃないか。図書館の番人さ。
 このマツリカの答えは、アカリには信じられなかった。歴史と記録を重んじ、すべてを明らかにしようとしている図書館の番人が、真実を闇に葬るなんて真逆の行為を行っているとはとても考えられなかった。
「そんなことがあるのでしょうか?図書館の番人が記録を……?」
──時と場合によるということさ。おそらく誰にも知られてはならない秘密がそこには書いてあったのさ。
「地下水道の記録に誰にも知られてはならない秘密……?想像がつきません」
──私もその秘密が何なのかまではわからなかったんだ。この傷を見るまでは。
 マツリカは澄ました顔で口の端をきりと上げて、はねた方の眉を上げてみせる。
──この傷は階段の基部が引きずられてできた傷さ。隠れているはずだよ。図書館の地下室が。
 今日一番の衝撃がアカリを襲い、アカリはもう開いた口が塞がらなかった。
──地下水道ができたのは何百年も前だ。そんな昔に異国の職人たちを手配する手腕があって、彼らの言葉や文字に理解があって、王宮に顔がきく、そんな人物、当時の一ノ谷のどこにいるんだろうね?
 マツリカは皮肉な笑いを浮かべて、聞かずもがなのことを聞いた。
──おそらくは、王宮が図書館に治水に関する相談でもしたんだろう。それを図書館は逆に利用でもしなんじゃないかな。地下水道作りはあくまでカモフラージュ、本命は職人たちに図書館に秘密の地下室……または地下通路を作らせること。思い切ったことをする番人もいたもんだ。相当のキレ者だよ。
 マツリカは立ち上がるとローブを数回はたいて、階段の正面に回り込む。
──さぁ詳しい話はあとだ。アカリ、基部の上の書見台を床におろして。
「わかりました」
 アカリは我に帰って頷くと作業に移った。馬蹄形に並んだ書見台を降ろし終えると、正面で待つマツリカのもとへと戻る。
──これを階段の方向に押して。おもいっきりね。
「はい」
 アカリは、腰を落として両手を階段につけ、両足を踏ん張り石造りの基部を押し込んだ。グッと力を込めて押し込んでみても、基部は根が張ったようにびくともしない。さらに暫く粘ってみたが結果は変わらなかった。
「重すぎます。私一人では無理ですよ。それに本当にコレが動くのでしょうか」アカリは押すのを諦めて、階段から手を離す。
 マツリカは腕組みをして眺めていたが、きりと口の端が上がる。マツリカは今しがたアカリが押していた箇所に軽く触れる。
──よく見ていな。
 マツリカは軽く押しているだけのように見えたたのに、びくともしなかった石造りの基部が静かにスライドしていった。マツリカはすぐに手を離したが、その後も基部は意志をもったようにゆっくりと進んでいく。
「そんな……!」
──大伽藍の扉と一緒さ。図書館は資格と意志のある者に対して応えてくれる。
「今までここが開かなかったのは、ここに地下がある事を知らなかったから……。」
──英知を収める本たちが螺旋階段を登った先にあると知っていて、下を見ようとする人間なんていやしないさ。
 ゆっくりと動いていた階段は一段目と重なる位置で動きを止め、元々階段の基部があった場所にはポッカリと口を開けた地下への階段が姿を現した。
──さて、久しぶりに冒険といこうか。
 止めても無駄だなと察したアカリは、螺旋階段をかけあがり、柱の窪みから蝋燭を六本拝借してきて、階段下を照らしていた燭台を手にとった。
「四本目に火をつけた時点で引き返しましょう」
 マツリカは頷くと、二人は手を繋ぎアカリを先頭に地下への螺旋階段を一段、また一段と下っていく。
 二人に大伽藍の灯りが届かなくなるほど階段を下った頃、石造りの基部は音もなくスライドを始め、元の位置に収まってしまった。嵐がおさまり始め、静寂を取り戻しつつある大伽藍に残ったのはアカリが置いた一輪の素馨の花だけであった。




続き→行き詰まってます(10/1)

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