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普通の恋愛小説が飽きたあなたへ『四月になれば彼女は』のあらすじ・紹介【川村元気】

「 でも僕、思うんです。人は誰のことも愛せないと気付いたときに、孤独になるんだと思う。それって自分を愛していないってことだから」

(引用:四月になれば彼女は P250/川村元気)


ありきたりな恋愛小説に飽きたあなたへ。
心躍る恋心から人間らしい欲望を孕む生々しさまで、振り幅のある表現で描かれる『四月になれば彼女は』。人間の真理が見えてしまうような恋愛模様に、思わず息をのむ瞬間があるはずだ。


裏表紙のあらすじには、異形の恋愛小説なんて紹介があったがまさにその通り。今まで自分が持っていた価値観や常識が、手ですくった砂のようにサラサラとこぼれ落ちていく、私はそんな感覚を味わった。


そんな川村元気の『四月になれば彼女は』を重要なネタバレは避けて紹介していく。


目次

【書籍情報】

タイトル:四月になれば彼女は
著者:川村元気
出版社:文春文庫
ジャンル・要素:恋愛
ページ数:274ページ
刊行年:2019年7月10日
映像化:なし(2019年9月現在)
読後感:すっきり、考えさせられる


あらすじ

4月、精神科医の藤代のもとに、初めての恋人・ハルから手紙が届いた。だか藤代は1年後に結婚を決めていた。愛しているのかわからない恋人・弥生と。失った恋に翻弄される12ヶ月がはじまる──なぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去ってしまうのか。川村元気が挑む、恋愛なき時代における異形の恋愛小説。

(引用:四月になれば彼女は 裏表紙/川村元気)

章題も『月』で統一されていてとっても印象的

四月になれば彼女は
五月の横顔
六月のいもうと
七月のプラハ
八月の嘘
九月の幽霊
十月の青空
十一月の猿
十二月の子供
一月のカケラ
二月の海 
三月の終わりに彼は


 

──「いまわたしは、ボリビアのウユニにいます。」

物語は、主人公の藤代の元に届いた一通の手紙で、幕を開ける。それは大学時代の恋人であったハルからの9年越しに便りだった。


手紙は、日本から見たら地球の果て、ボリビアのウユニから送られてきていた。そこには、ハルの現状と9年前に秘めた思いが綴られていた。


どうして彼女は1人で旅に出たのだろう?
どうして彼女はかつての恋人に手紙を送ったのだろう?
そして……この二人はどうして別れてしまったのだろう?

たった4ページに書かれた手紙は、読者を物語に没頭させるだけの魔力を持っている。


──大学時代、写真部での出会い

藤代とハルは大学の写真部で出会う。先輩である藤代が新入部員であるハルに指導をする所から、二人の関係が始まっていくわけだが……二人が恋に落ちていく様子がキュンキュンしてたまらない。


自分が他人を好きになる瞬間、または自分はこの人の事が好きなんだな……って気づく瞬間。ハッキリとはわからなくても、なんとなくの経験はあるかと思う。


その恋に気づいた瞬間のシチュエーションがもうずるい。ハルが撮った写真に写っていた藤代自身の笑顔が、自分でも見たことないくらい輝いていたものだった……そこで自身の恋心に気づくって、最高だと思いません?


そんな幸せに浸っていく二人だったが……。


──付き受けられる現実

2章目である『五月の横顔』では、幸せな大学時代の雰囲気とは一変して、物語は大学時代から9年経った時系列で始まる。


そこで読者が突き付けらる現実が藤代がハルとは付き合っておらず、ハルとは違う婚約者・弥生と付き合っているという点だ。


三年間の同棲を経て、すでに結婚を決めていた藤代と弥生。だがしかし、幸せを迎えるはずの結婚式の打ち合わせでもどこか影が伺える二人の関係。


そんなタイミングで藤代の元に、ボリビアからハルの手紙が届くのだ。ただでさえ先の読めない展開に焦燥感が加速され、後戻りできなくなる。


はたして、あんなに仲睦まじかった藤代とハルに何があったのだろう?
何故、ハルは手紙を書いたのだろう?
藤代と弥生の関係はどこへ向かっていくのか?


──幸せな時間は永遠には続かない

思わず心惹かれるような、淀みのない、澄んだ表現も登場するなか、それ以上に心に刺さってくるのは、人間が奥底に抱えるリアルな感情、そして現実だ。


そんなハッとしてしまうモノの一部を引用しておく。

「愛情といえば何もかもが許されるのが嫌なんですよ。愛し合うふたりは無条件で美しくて素晴らしいものだという感じが」

(引用:四月になれば彼女は P99/川村元気)

「誰かのことを心から愛している、と思えるのは一瞬だしね」
〈中略〉
「その一瞬が永遠に続くはずだ、というのは幻想ですよ。それなのに、男と女が運命的に出会って恋に落ち、一生の伴侶として愛し合うということが前提になっているのがおかしい。誰と恋愛しても行き着くところは一緒なんです。だから結婚の先のセックスレスだって当然のことだと思いますけど」

(引用:四月になれば彼女は P100/川村元気)

愛を終わらせない方法はひとつしかない。それは手に入れないことだ。決して自分のものにならないものしか、永遠に愛することはできない。

(引用:四月になれば彼女は P198/川村元気)



まだまだ引用して紹介したいところだがこのくらいにしておく。
『四月になれば彼女は』では、ページをめくる手を止めて、一言一言を噛み砕くように消化しなければならなくなる瞬間がいくつもあるはずだ。是非とも物語を堪能しながら、自分の価値観と摺り合わせながら読み進めてみてほしい。


最後に

この物語の解説をあさのさつこさんが書いてくれているのだがその一部を引用しておく。

軽やかに生きていきたいと望む人は、すてきな恋をしたいと願う人は、すてきな恋をしていると公言できる人は、誰かが愛しくて、幸せにしてくれると信じている人は、読書は楽しくてためになると口にする人は、この本を読まないほうがいいと思う。残酷なシーンなど一つも出てこない最上等の残酷な物語、わたしの、あなたの、人間の正体に肉薄する物語。 うん、やっぱり怖い、怖すぎる。

(引用:四月になれば彼女は P281)


「残酷なシーンなど一つも出てこない最上等の残酷な物語」そう、この解説に私が言いたかったことが詰まっている。恋愛というキレイな幻想の裏側、人々が見ようとしない部分をさらけ出している残酷な物語。だがしかし、そんな幻想と知ってなお、葛藤する主人公の姿が胸をうつのだろう。



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