FGかふぇ

読書やらカフェ巡りが趣味。読んだ本、行ったカフェの紹介がメインのブログです。ごゆるりとどうぞ。

『キャプテンサンダーボルト』の感想を好き勝手に語る【伊坂幸太郎・阿部和重】


「これは全部、ガキの頃の思い出のおかげだ。あの頃に見聞きして、味わったことのすべてが、今の俺たちを守ったんだ」

(引用:キャプテンサンダーボルト〈下〉/263)


伊坂幸太郎と阿部和重の合作『キャプテンサンダーボルト』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。



目次

感想

──全体を通しての感想

結論として全体を通して面白かった。
ストーリー前半はあまり動きはないもののじわじわと広がる不穏な気配でどんな展開が待っているのか気になるし、後半はその期待を裏切らないスピード感とスリル、そして伏線回収で見事なエンタメ小説になっていた。


伊坂幸太郎の他作品は読んだことあるが、阿部和重は読んだことなかったので、二人の特徴がどこにでているのか詳しくはわからなかったけど、伏線やスピード感など全体として伊坂色が濃い印象だった(阿部和重の作品を読んだらまた違う印象になるのかな?)。阿部和重の作品も読んでみたいなぁと思った。


強いて言うならラストがギリギリでの爆弾(ウィルス)処理というかなり王道…というかよくみる展開。でもちょっと先が読めるだけだしワクワクしながら読めた。ベタだけどそれをあまり感じさせない書き方でいい。



──史実を含めてのストーリー

個人的に好きなのが、史実を含めたストーリーと伏線。
「東京大空襲の日、3機のB29爆撃機が宮城蔵王の不忘山に墜落した」
これ自体は事実らしいがなぜ、3機のB29が蔵王に墜落したのかは未だに謎らしい。この史実を、もしかしたら……と思わせる解釈が面白い。


こういう史実が絡んたストーリーが好きな方は、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』とかオススメ。
【2022年版】『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズ一覧!全5作品をまとめて紹介する【ダン・ブラウン】 - FGかふぇ


──謎が謎を呼ぶ展開と伏線

「伊坂幸太郎といえば見事な伏線回収!!」っていうイメージだけど、キャプテンサンダーボルトもそれを裏切らない見事な構成だった。


・戦時中のB29の不可解な墜落
・ゴシキヌマの水
・「村上病はあるけど、ない」
・テロ組織の存在
・戦時中にばらまかれた紙の数字


あげたら数え切れないけど、後半にかけて今までのさりげない描写に隠された秘密があかされていく様子がたまらない。再読してもう一度堪能したくなる。

──印象に残ったセリフなど

「俺が官僚だったら、予防接種なんてやらないぜ。副作用のことで文句を言われるくらいなら、予防接種なんて広めずに、病気に勝手に罹ってもらうほうを選ぶ。そのほうが批判はされない。やって批判されるよりは、やらないで知らんぷりだ

(引用:キャプテンサンダーボルト〈上〉P80)

やって批判されるよりは、やらないで知らんぷりだ
めっちゃわかる……出来ることならこの精神で生きていきたい。

「これは全部、ガキの頃の思い出のおかげだ。あの頃に見聞きして、味わったことのすべてが、今の俺たちを守ったんだ」

(引用:キャプテンサンダーボルト〈下〉/263)

このセリフにすべてが詰まってる気がする。



最後に

合作って今までなんとなく敬遠してたけど、なんの違和感もなく読めたなぁ。


ペア、相棒そんな言葉が似合う小説だった。相葉と井ノ原の主人公コンビはもちろん、米軍兵の二人もそうだし、なにより伊坂幸太郎と阿部和重のコンビで形になった『キャプテンサンダーボルト』。いい読書体験になった。


【オススメ】




『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の感想を好き勝手に語る【東野圭吾】



「自分の手でって、そんなことできる?叔父さんは捜査のプロじゃないでしょ?」
「もちろんそうだが、できないときめつける理由は何もない。警察にはできないが、俺にはできるということもあるしな」

(引用:ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人 P95/東野圭吾)


東野圭吾最新作『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の感想を語っていく。東野圭吾をひさしぶりに読んだが、安定のテンポの良さと読みやすさでサクサク読めた。


著者の筆のはやさには驚くばかりで、はやくもコロナの時代背景を反映させているこの作品は、世の中に広がる不安や不透明な将来を投影していてるとともに、タイムリーな話題のためどこか本当にあった話のようにも感じるリアルさがあった。


以下ネタバレありなので未読の方はコチラから。
【『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』あらすじ・紹介】



目次

感想

ストーリーなど

率直に感想を言って面白かったな。個人的には好きな部類。ガリレオシリーズや加賀恭一郎シリーズなど様々な作品がある東野圭吾だが、マスカレードシリーズが好きな人は今回の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は好きそうな印象。かくいう私はマスカレードシリーズ大好き。


探偵役の武史がひたすらにカッコいい。マジシャンらしい手先の器用さ、観察力、話術。表の顔と裏の顔のギャップがいい。そしてなにより警察を出し抜く様子が見てて楽しい。


仮にこのシリーズの続編がでるのなら彼の過去編の話(アメリカでの話)とかがきたら面白そう。というのも武史が過去を語ろうとしなかった場面があった。

さすがだね、といってみた。「さすがはサムライ──」
がんと大きな音をたて、武史がビールのジョッキを乱暴に置き、真世を睨めつけていた。
「その名を口にするな」
「どうして?」
「どうしてもだ。口が裂けてもいうな」
真世は首をすくめた。
サムライ・ゼン──この叔父がマジシャンだった頃の芸名だ。

(引用:ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人 P78)


この場面の他にも、マジシャンとしてアメリカで成功していたと推測されるのに突然帰国してバーを始めたりと本作では説明しきれていない箇所もあるので続編でこのあたりにスポットがあてられるのかな(たぶん説明されてなかったはず……見逃してたら教えていただけると助かる)。


あともう一つ、明らかになっていなさそうなのは最後の真世に送られてきているメールの件。親切心を装った真世たちの結婚を妬んだ誰かの嫌がらせだろうとの推測だが、誰の仕業なのか明確に語られてはいなかった。再読する際に注意して読んでみようと思うが、次作への伏線なのだろうか?


広がるコロナと大人気アニメ

冒頭で述べたようにコロナの時代背景をいち早く取り入れていて、今の時代のリアルさを感じる。それとともに物語の鍵に爆発的ヒットのアニメの存在があるのも昨今の世の中と似ている部分がある。


作中では幻脳ラビリンスなるアニメが大ヒットしているが、どうしても今ブームである鬼滅の刃が頭をよぎる。内容はまるっきり違うが、原作は漫画で、アニメとなって大ブームを起こすという流れは同じである。今後はこんな時事ネタ(コロナとか)を取り入れた小説も増えてくるのかな。


最後に

小説の中で、自分が読んだことある小説がでてくると嬉しくなるよね。『オデッセイ』っていう映画の話がチラッとでてきたけど、原作の『火星の人』おもしろいからオススメ。ハードSF好きな人はハマるはず。


【オススメ】





『彼女は一人で歩くのか?』感想と考察を好き勝手に語る【森博嗣】


「もしかして、生きているのですか?」「生きているかどうかは、問題ではないのでは?」シモダは言った。
その意味は、よく理解できる。今の時代、生きていることの定義が非常に曖昧だ。人は死なないし、人工知能は、既に人間の能力をはるかに超えている。実際に言葉にするものは少ないが、世界を支配しているのは、その種の完璧な知能であることは勇気のない事実だ。

(引用:彼女は一人で歩くのか? P250/森博嗣)


森博嗣の『彼女は一人で歩くのか?』を読んだので感想と考察を語っていく。ネタバレありなのでご注意を。


目次

感想

今より約2世紀後の世界で、人間と人間そっくりの人工人間『ウォーカロン』がいる世界の物語。シリーズ作品でまだまだ続きがあるらしいので続きは近いうちに読んでいきたい。


このシリーズだけでなく、他の森博嗣作品も読んでいる方なら誰でも知っているであろう”あの人”がでてきたのは完全に予想外だった。興奮したね。


著者はミステリー作家のイメージだったが、SF寄りのこの作品も新鮮で面白かった。

──未来の世界が印象的

やっぱり個人的な一番の衝撃はマガタ博士の登場。『マガタ』とカタカナ表記だが、ほぼ間違いなく他シリーズに登場する真賀田四季と考えていいと思う。彼女に限らず登場人物の名前がすべてカタカナなのは何か意味があるのかな?ただ単に未来の世界観を示しているだけなのかな?


『ミチル』が登場したとき、最初は気づかなかったけど途中から、「そういえば『すべてがFになる』ででてきてたよなぁ」ぼんやりと思ってたら、その直後に圧倒的な語り口の女性がでてきて、これはもしや…ってなった。終盤にはきっちり『マガタ博士』と名前を出してくれてたしね。


この物語で彼女はどんな役割を果たすのか…。今後のシリーズでもでてくるだろうから今後の登場が楽しみ。


──『彼女』とは誰を指すのか?タイトルの意味は?

タイトル『彼女は一人で歩くのか』の”彼女”とは誰の事を指すのだろうか。またタイトルにはどのような意図が込められているのだろうか。


タイトルの副題は『Does She Walk Alone?』で、直訳すれば『彼女は一人で歩くのか?』とタイトル通りになる。


しかし、物語に登場するウォーカロンは
『Walk-Alone』と書かれている。なのでタイトルのもう一つの意味は『彼女はウォーカロンなのか?』というもう一つの意味を持つと考えられる。


さてここで、主要な女性登場人物でウォーカロンなのは誰だろうか?可能性がある人物をあげていくと
①ウグイ
②マナミ
③マガタ博士
④ミチル
の4人に絞られる。


①ウグイ
ハギリのボディガードのウグイは人間だと思われる。下記はウグイのセリフである。

「私も先生も、比較的新しい人間なのですね」

(引用:彼女は一人で歩くのか? P190)



②マナミ
物語途中からハギリの助手を務めはじめたマナミ。彼女はハギリが人間と推測していた。

一つ収穫があった。助手のマナミが人間だとわかった。これは僕の判定だが、しかし、僕はこの分野の世界的権威なのだから、たぶんまちがいない。

(引用:彼女は一人で歩くのか? P103)



③マガタ博士
マガタ博士は人間かウォーカロンかわからない。

「私は、ウォーカロンです」
「嘘だ。そんなはずはない」
「では、人間です。先生の判断に従いましょう」

(引用:彼女は一人で歩くのか? P180)


ここではマガタ博士は曖昧な様子だったが、ラストではウォーカロンではないか?という推測がなされている。

「おそらく、本人ではない。本人の分身というか、ウォーカロンです。その科学者は、ウォーカロンの生みの親でもあります。歴史的な人物です」

(引用:彼女は一人で歩くのか?P249)



④ミチル
ミチルは自らをウォーカロンと言っていた。

「スミレさんもウォーカロンと言ったけれど、ほかに、誰がウォーカロンなのかな?」
「私」
「そうなんだ。それは、誰に教えてもらったの?」
「うーん、わからない」

しかし、自らをウォーカロンと名乗ってはいるが、グレーな箇所がいくつかある。一つは彼女が普通のウォーカロンとは違い、最新型らしいという点(ここだけならウォーカロンという点には変わりないが)、もう一つはハギリの判断が曖昧な点だ。

「ミチルは、本当にウォーカロンなのですか?」僕は変な質問をしてしまった。
「面白い……」彼女はそこでくすっと笑った。「面白い質問だわ。それは、先生がもうご存知のことです」
「私は、人間だと判断しました」
「そう、それが、ミチルが人間だという証拠です」

(引用:彼女は一人で歩くのか? P179)


以上の点よりミチルはウォーカロンか人間かは現段階ではわからない。



結果をまとめると
①ウグイ、②マナミは人間
③マガタ博士、④ミチルはどちらかわからない

と考えられる。


詳細は後々の物語で明らかになってくるのかな?
個人的な根拠のない予想だと、ミチルは人間でマガタ博士がウォーカロンじゃないかなぁと思う。

つまりタイトルが指すのはマガタ博士。


──『魔法』とはなんなのだろうか

物語で登場する『魔法』とはなんなのだろうか?

「黒い魔法を知っている?」
「そんなものは怖くないさ」と熊は言いました。
「白い魔法を知っている?」少女は続けて尋ねました。
「そんなものはなんでもないさ」と熊は笑います。
「じゃあ、赤い魔法を知っている?」
それを聞いた熊は、そのまま動かなくなりました。
そして、砂が崩れるように、地面に落ち、散ってしまったのです。

(引用:彼女は一人で歩くのか?P140)

初めて魔法について出てきた場面。唐突に現れる意味深な描写である。

「黒い魔法を知っているか?」僕はきいた。
「何?」
「赤い魔法を知っているか?」続けてそう尋ねた。
何も起こらなかった。
僕は、数秒待った。男たちは動かない。

(引用:彼女は一人で歩くのか?P237)

そして上記がハギリがウォーカロンに襲われた際の描写。『赤の魔法を知っているか?』でウォーカロンの動きが止まっている。

話し合う時間は、いくらでもあるのではないか、とそう思うのである。
もしかしたら、その時間を気づかせることが、〈赤い魔法〉なのかもしれない。

(引用:彼女は一人で歩くのか?P253)

赤の魔法はウォーカロンの停止のスイッチのようなものなのかなと思う。
なので、P253はウォーカロンを停止させて人類の今後を考えろってことかな?


長くなるので省略しているがP252-253でハギリが考えを述べているので見てみてほしい。


黒の魔法はウォーカロンに対して、反応がなかった。白の魔法はP140のおとぎ話にしかでていない。単純に推測するなら停止があるなら動き出す魔法もありそう。白か黒の魔法がそれにあたるのかな。

──印象に残ったセリフなど

「それは、肉体のあらゆる部位に対しても言われてきた。生物は複雑なものだ。これを作ることができるのは神のみだ、とね。だけど、結局は、単なるタンパク質だ。化合物なんだ。その仕組みが明らかになれば、いたって単純だといえる。単純でなければ、細胞は再生できない。単純だからこそ、これだけ膨大な数が集まっても、だいたい同じものになる。複雑だと思い込みたい傾向を人間は持っているんだ。自分たちを理解し難いものだと持ち上げたい心理が無意識に働く。でも、誰もがだいたい同じように怒ったり笑ったりしているんじゃないかな」

(引用:彼女は一人で歩くのかP106-107)


複雑はカッコいいと漠然と思いがち。
前回読んだ『三体』でも同じような表現があった。単純こそ美しい。数式と同じ。

「もしかして、生きているのですか?」「生きているかどうかは、問題ではないのでは?」シモダは言った。
その意味は、よく理解できる。今の時代、生きていることの定義が非常に曖昧だ。人は死なないし、人工知能は、既に人間の能力をはるかに超えている。実際に言葉にするものは少ないが、世界を支配しているのは、その種の完璧な知能であることは勇気のない事実だ。

(引用:彼女は一人で歩くのか? P250)

最後に

これは完全に個人の意見なんだけど、この『彼女は一人で歩くのか?』を読むより先に著者の代表作品『すべてがFになる』を先に読むことを提唱したい。


理由は……読んだことある人ならわかるよね…?



【オススメ】





『三体2 黒暗森林』の感想を好き勝手に語る【劉慈欣】

「”わたしがおまえたちを滅ぼすとして、それがおまえたちとなんの関係がある?”」

(引用:三体 黒暗森林〈下〉P212)


前作からの圧倒的な物語の余韻をそのまままに、さらなる興奮の展開をみせる劉慈欣(りゅう・じきん)の『三体 黒暗森林』の感想を語っていく。


ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。
【シリーズ第1段 『三体』あらすじ・紹介】


目次

感想

前作では、本当に続きが気になりすぎるいい所で終わってしまってノンストップで『黒暗森林』に手を出す事となった。結論から言えば大満足の一冊だった。


『三体』は三部作でまだ続きがあるらしいけど、二部作目の『黒暗森林』は一部作の流れを引き継いでほぼ完結のようにみえた。だから三部構成と知ったときはずいぶん驚いた。


次回の三部作目ではどんな展開を見せるのか?今までとは違った意味で楽しみだ。


──面壁計画

三体人、そして智子〈ソフォン〉は人の思考を読むことができない。その唯一といっていい弱点をついた面壁計画。これが出てきてから物語が一気に面白くなる。


面壁計画を雑に説明すると「思考を読むことができないならば、優秀な頭脳を持つ個人に地球防衛の策を丸投げする」っていう無茶苦茶な作戦だけど、確かにこれ意外の打開策は見当がつかないよなぁ。


面壁計画で生じてくる弊害……「すべての行動は作戦のうちと見られてしまう」とかの理不尽さも、個人を尊重している暇なんてない追い詰められた人類のなりふり構ってられてない様子がよくわかる。


話の流れ的には羅輯が鍵になるであろうことは予測できるが、優秀な人物であるとはいえ、他の面壁者たちは元国防長官だったり、大統領だったり…と、ただの社会学の大学教授である羅輯とは天と地ほどの差があるといってもいい。それを文潔に授けられたヒントだけでどう状況を打破するのか、とても見応えがあった。(思ってた以上に本気を出すのが遅くてやきもきしたが)


──圧倒的絶望感

下巻、羅輯がコールドスリープから覚めると雰囲気が一変する。技術が進んだ世界で三体世界との戦争に対する楽観主義が浸透する中で、ついに地球の宇宙軍と三体の宇宙軍が接触する。前作から待ち望んだ展開、やっとか…!と。


まぁ物語の展開的にも地球の宇宙軍が三体の宇宙軍に勝てるとは思ってなかったけど、たった一つの探査機に完膚なきまでやられるとは思わなかったよね。いっそすがすがしい、すばらしいほどの圧倒的絶望感だった。


三体の探査機と思われるもの…水滴が地球の宇宙軍を殲滅する様子はもちろん強烈だった。だが個人的にはその前のシーン、水滴を分析するシーンが三体と地球の技術格差を改めて突き付けているのが、それ以上に印象的だった。


三体の圧倒的な力の根源…というか理由が説明されてるのが面白い。ページでいうと下巻のP208〜212あたり。未知の技術の登場ってわくわくする。あとは冒頭にも引用したが、水滴が猛威をふるうまえの下記のセリフが忘れられない。

「知るものか。ほんとうに、ただのメッセンジャーなのかもしれない。だが、これが人類に伝えるのは、想像されているのとはべつのメッセージだ」丁儀はそう言うと同時に、水滴かは目をそらした。
「どんなメッセージですか?」
「”わたしがおまえを滅ぼすとして、それがおまえたちとなんの関係がある?”」

(引用:三体 黒暗森林〈下〉P212)



──2つの公理と2つの概念

答えはシンプルなほどインパクトがあるし、ド肝を抜かれるもの。序盤に葉文潔が羅輯に残した2つの公理と2つの言葉は、物語を読み進めている途中、つねに頭の片隅に引っかかっていた。

宇宙社会学の2つの公理

『生存は、文明の第一欲求である。』
『文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である』


2つの概念

『猜疑連鎖』
『技術爆発』


あの文潔が残した言葉がなんの意味がないなんてあり得ないだろうし、どうやって物語にリンクしてくるのか楽しみだったけど、まさにすべての答えだったのは興奮した。


羅輯の説明を聞けば、こんな単純明快なものが真理なのかと思えてしまうが、このシンプルさが美しい。

 単純だからと見くびってはいけない。単純であることは堅固であることを意味する。数学という大伽藍は、これ以上単純にできないほど単純な、それでいて岩のように堅固な、公理という基礎の上に建てられる。

(引用:三体 黒暗森林〈下〉P287)



デッドマン装置と、大量の爆薬、今までの面壁者が残したモノやアイデアが使われてるのも熱いし凄まじい伏線だなって思う。

──印象に残ったセリフなど

「あなたがいま書いているのは作文ね。小説の登場人物になっていない。キャラクターの十分間の行動は、彼女の十年分の経験が反映されているのよ。プロットの中だけで考えてちゃだめ。彼女の人生すべてを想像しなきゃいけない。実際に文字になるのは氷山の一角」

(引用:三体 黒暗森林 〈上〉P99)


そう、どこなのか知ったら、世界が一枚の地図みたいに小さくなってしまう。どこなのか知らないほうが、世界を広く感じられる。

(引用:三体 黒暗森林〈上〉P152)


単純だからと見くびってはいけない。単純であることは堅固であることを意味する。数学という大伽藍は、これ以上単純にできないほど単純な、それでいて岩のように堅固な、公理という基礎の上に建てられる。

(引用:三体 黒暗森林〈上〉P287)


「いま現在、人類の生存にとって最大の障害は、人類自身だからな」

(引用:三体 黒暗森林〈下〉P62)


智子が近くにいるのはわかっているが、あなたたちはいままで人類の呼びかけを無視してきた。沈黙は最大の軽蔑だ。われわれは二世紀にわたってこの軽蔑に耐えてきた。

(引用:三体 黒暗森林〈下〉P322)

最後に

第1部からの期待を裏切らない、素晴らしい展開だった。第3部も発売されたらそっこうで買おうと思うくらい楽しみだ。

【オススメ】




『図書館の魔女』の好きな所「小さな欠片を未来に届ける」【高田大介】



『図書館の魔女』の好きな所を書いただけ。今回は、図書館の本質を語っている、小さな欠片を未来に届けるについて。引用が多めになってしまったがご容赦いただきたい。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。
【図書館の魔女 あらすじ・紹介】


──小さな欠片を未来に届ける

『図書館の仕事』『図書館の責務』について語られる場面がたまらなく好き。場所でいうと、3巻のP62-65にかけて。

──そうだね。「書物一般」なんてものは在りはしないんだよ。あるのはかくかくの書物だけ。それどころかしかじかの「書の断片」だけ。今に残っているのは「書一般」どころか、書の一欠片だけ。かりに一冊、一巻き、あるいは粘土版の一枚がきれいに丸ごと遺ってたとしても、それもまた今は失われた文化のほんの一欠片に過ぎない。ほんとうに小さな欠片だけが、なにか歴史の偶然によって、遺され、秘匿され、拾い集められ、掘り当てられてきた。そうした欠片を誰かが丁寧に取り集めて取っておいたなら、また別の誰かがずっと先、ずっと未来にその断片を失われた全体の中に置き戻す作業を手がけるのかも知れない。失われた文化が一部分だけでもその時よみがえるのかも知れない。ならばどんなに小さな欠片でも、小さな断片であればこそむしろ、誰かが未来に届けなくてはならない。誰かが大事に守っていかなければならない。
「それが図書館の仕事であると」
──そうだ。この小さな欠片を未来に届けるのが図書館の責務だ。この上なく具体的な責任だ。「書一般」なんていう得体の知れない抽象物に拘っている暇はないな。

(引用:図書館の魔女〈3〉P62-63/高田大介)


マツリカが語る上記の引用した部分も刺さるものがあるし、そのあとのイズミルの回想シーンもまたどストライク。


60年間、一度も繙かれなかった本との出会い。イズミルが生まれるずっとずっと前から、自分を待っていたかのように書架で眠り続けていた本。


遠い未来の誰かと巡り合わせるために、図書館の誰かが保存し続けてきた。それは「小さな欠片を未来に届ける」ため。


最近気づいたんだけど、ちゃんと「図書館の仕事」についての前ふり……のような伏線が2巻でされてるんだよね。

──キリヒト、これはね、「それだけのこと」なんかじゃない。ここで彼女らが守ろうとしているものは、彼女らを使嗾した者達が守ろうとしていた議会の権益だの、王室の威光だの、そんなものよりはずっと重要でずっと永続的で、それでいて守るに難しいものなんだ。それを倦まず弛まず数千年を超えて守ってきた高い塔の伝統にくられれば、王権の三百年の威光やら議会の埒もない利害の葛藤なんて、吹けば飛ぶようなものに過ぎない。
 それはハルカゼにだって、キリンにだって、それぞれの来歴もあれば義理もあろう、任務もあろう、それは勝手にやってくれればいいんだ。でもあの二人ならもうとっくに判っている。高い塔が何のためにあるのか、図書館が何故ここにあり続けばならないのか。
「それは何のためなんですか」
──大層なことを軽々しく聞くんじゃないよ。しばらく自分で考えなさい。

(引用:図書館の魔女 〈2〉P15-16/高田大介)



2巻で、「しばらく自分で考えなさい。」ってキリヒトと読者を突き放しておいて、3巻でイズミルの回想っていう具体的な例を出して答えにたどり着く形になっている。


ただし読者には「図書館がなぜここにあり続けなければならないのか」のヒントは、このページの4ページ後ろにハルカゼについての記述に含まれている。


ハルカゼの関心は地質や鉱物、人の歴史に比べれば遙か永遠にも近い時間軸の中で展開する無機物の繰り広げるドラマの方に向けられていた。ところがこれら鉱物の永遠の片鱗が、書物と図録と標本の森となって、この図書館の一劃に、その価値を知る者の来訪をずっと待っていたのである。
《中略》
ハルカゼはこの図書館の書架の狭間で、世の鉱物学者や地質学者の書きためた資料と、集めた標本とを総合して地下数十尋におよぶ、岩石と鉱物の織りなす、幾重にも重なった綴れ織りのような立体地図を構想しつつあった。ちょうどマツリカが、焼け残った写本の束から、歴史上失われている原本を脳内で再構をしているように、ハルカゼもこの図書館の書棚の前で、野山に足を踏みいれるものでも気がつかぬ深層の地質の歴史を、ありありとまぶたの裏に描き、彼女の愛する好物の歴史物語を心の中に組み立てていたのである。彼女の偏愛に応える地質と鉱物の真実は、大地の下に隠されているばかりではない、むしろ図書館の中にこそひっそりと隠されてあったのである。

(引用:図書館の魔女〈2〉P19-20/高田大介)


マツリカは、「焼け残った写本の束から、歴史上失われている原本を脳内で再構をしている」と書かれている。
これはまさに、3巻で語っていたいたように、誰かが取り集めた欠片を全体の中に置き戻す作業だし、ハルカゼがおこなっていることも同様だ。


こうやってマツリカ、ハルカゼが残した欠片がさらに未来で誰かの手によって、さらに精錬されていくのだろう。


こういう話がファンタジーの作品で書かれているって物凄く贅沢な寄り道だと思う。好き。


本編では、語られていないけどキリンは、兵法や蝶々の世界を作りあげて、未来に残そうとしているんだろうな。そうなると、ゆくゆくはキリヒトやイズミルたちも未来に欠片を残すことになるのかな……彼らは何を残すんだろう。


最後に

高い塔といえば、『謎めいた螺旋階段』とかに注目しがちだけれども、図書館としての本質もしっかり語られているのがたまらなく好きなポイント。


他にも、登場人物紹介、考察など色々書いてるので興味があれば是非どうぞ。

【図書館の魔女 まとめ】




【オススメ】




物語のスケールに圧倒される『三体』のあらすじ・紹介【劉慈欣】


「それは、宇宙のどの場所においても適用できる物理法則が存在しないことを意味する。ということはつまり……物理学は存在しない」

(引用:三体 P78/劉慈欣)


SF小説の話題作、中国作家である劉慈欣(りゅう・じきん)の『三体』のあらすじ・紹介をしていく。


【感想はコチラ】



目次

1.あらすじ

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。
失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。
そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。
その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。
そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

(引用:三体 /劉慈欣)

2.三部作で綴られる『三体』

中国作家・劉慈欣の『三体』は三部作で構成されている(今回詳しく紹介するのは第一部のみ)。


第一部:『三体』
第二部:『三体 黒暗森林』
第三部:『三体 死神永生』

このうち現在日本では、2020年6月28日に『三体 黒暗森林』が発売されている。『三体 死神永生』に関しては2020年9月現在では、まだ発売日は未定となっている。



3.見所・ポイント

──序盤は読むのに苦労する

紹介しておいていきなり「読みにくいよ!」というのは恐縮なのだが、序盤は読むのに苦労するだろうと思う。逆にいえばそこを乗り越えられれば、あとはノンストップでいけるはずなので、少し我慢して読み進めてみてほしい。その「読みにくい!」と感じてしまう理由は、主に3つある。



1つ目は、作者が中国の方であり物語の舞台が中国であること。私自身、中国の文化や歴史や地理に疎いため、世界観に順応するのに少し手間取った。


2つ目は、登場人物が覚えづらい。これはあるあるが、海外の作品で横文字の登場人物の名前がわかりにくい、覚えづらい、というのはよくあると思う。これと同じで、登場人物が総じて馴染みのない漢字と読み方なのでスッと頭に入ってこなかった。


3つ目は、序盤は先がまったく見えないこと。『三体』の”さ”の字もでてこないし、歴史の闇を見るような暗い話もでてきて、とっつきにくい感がある。


少し具体的に説明すると、『三体』は3章で構成されている。


第1章 沈黙の春
第2章 三体
第3章 人類の落日

この第1章が先程述べたようになかなかに曲者な部分。あとから振り返ってみれば必要不可欠なことがわかるわけだが、この最初が難問。しかし450ページほどの本書で、第1章は50ページほどしかないので、そこは安心してほしい。

──科学者の相次ぐ不審死と怪現象

主人公で、科学者である汪森(ワン・ミャオ)は、軍と警察の共同組織の会議に招集され、科学者が相次いで不審な死を遂げていることを告げられる。

汪森は共同組織の指令に従い、学術組織「科学フロンティア」のスパイを引き受けるのだが、その後彼の身を『ゴースト・カウントダウン』という怪現象が襲う。物理学の常識を覆す体験をした汪森は、やがて3つの太陽がある異星を舞台としたVRゲーム『三体』にたどり着くのだが……。

──VRゲーム『三体』とその由来

そもそもタイトルの『三体』とは、古典力学の三体問題に由来するものであると思われる。

 天体力学の一分野。三個の物体が、万有引力で引き合っている場合の運動を明らかにする研究。二体問題はニュートンによって解かれたが、三体問題は今日に至るまで厳密な解は得られていない。

(引用:三体問題(さんたいもんだい)とは? 意味や使い方 - コトバンク)


つまりどういうこと?と思った方、百聞は一見にしかず。You Tubeで『三体問題』と調べるとシミュレーションの動画がいくつかでてくる。

三体問題 - YouTube

簡単に説明すれば、3つの物体は、万有引力の影響で常に位置を変え続けるため歪んだ軌道になり、予測不可能になる。というもの。


そして主人公は、この摩訶不思議な軌道を描く3つの太陽がある異星を舞台としたVRゲームに出会う。誰がなんのためにこのゲームを作ったのか、そしてこのゲームが示唆するものはなんなのか?


徐々に明らかになっていく、壮大なスケールを目の当たりにしたらもう戻れない。

最後に

冒頭でも述べたが、序盤こそ乗り切ってしまえば、あとはノンストップの読書体験ができるはずだ。私自身、まだ第2部は読めておらず、これから読むのだが楽しみでしかたない。


そう思えるほど、この『三体』は素晴らしいものだと思う。SF好きはもちろん、普段SFを読まない方も一度手にとってみてはいかがだろうか。




【オススメ】




『三体』感想:圧倒される傑作SF【劉 慈欣】


 すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった。

(引用:三体 P66/劉慈欣)


SF小説の話題作、中国の作家である劉慈欣(りゅう・じきん)の『三体』。つい最近続編の『三体 暗黒森林』も発売され話題沸騰中なわけだが、満を持して読んだので感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『三体』あらすじ・紹介】



目次

感想

中盤、終盤にかけてひたすらに圧倒されたよね。そして『三体』の物語がまだ終わらず続編があることが、まだこの圧倒的な物語を楽しめることが純粋に嬉しかった。なにより終わり方がズルい。間違いなく面白かったのに、まだ序章にすぎない…って感じの終わり方。続編も期待しかない。


──高く飛ぶには、それだけ助走もいるわけで

読み終わってみればこの『三体』面白い事この上ないわけだが、序盤は読むのになかなか苦労した。


その理由は、作者が中国の方であり物語の舞台も中国であること。私自身、中国の文化や歴史に疎いため、世界観に順応するのに少し手間取った。あとは登場人物が覚えづらい。これはあるあるだが、海外の作品で横文字の登場人物の名前がわかりにくい、というのはよくあると思う。これと同じで馴染みのない漢字と読み方なのでスッと頭に入ってこなかった。


もう一つの理由は、先がまったく見えないこと。文潔の過去の話から始まっていくわけだが、『三体』の”さ”の字もでてこないし、歴史の闇を見るような暗い話にとっつきにくい感はあった。


しかしそれも今思えば物語に必要不可欠な助走的で部分だった。いい助走がなければ高く飛べないように、文潔の過去話があってこそ、物語に深みが生まれているようだった。


──『三体』の意味が分かったとき……

『三体』を読んでいたときに疑問だったのは、そもそもタイトルの『三体』とはなんなのか?という点。


タイトルの本当の意味が明らかになったときの衝撃といったらない。


はじめ、ゲームの『三体』が登場し、その不思議な世界に一気に流れが変わって物語に惹き込まれた。そこで「これがタイトルの『三体』の意味なのか!」と早とちりしていたために、本当の意味の『三体』が明かされたときはもう、「やられた!!」って思った。


読んでいて一番不可思議だったのは汪淼( ワン・ミャオ)の視界に現れた『ゴーストカウントダウン』のこと。特殊な装置をつけているわけでもないのに、視界に現れる謎のカウントダウン。常識的に考えて不可能な事象がどのように起きているのか?どう説明されるのか?


その解明が、三体世界の実在、そして三体世界の技術によって、これまでの伏線(ゴーストカウントダウンも含めて)が一気に結びつくことになる。正直震えたよね。


スケールが……やべぇよ……そうくるのかよ……。


簡単に、雑に、言ってしまえば『三体』って、”地球VS三体”侵略戦争の準備段階でしかないんだよね。
『三体』という星が存在する。そして密かに侵略が始まっている。ということを描いただけ。


それだけなのに、抜群に面白い。


まだまだ序章にしか思えないのに、これからどうなってしまうのか気になってしかたがない。

──シミュレーション

百聞は一見にしかず。You Tubeで『三体問題』と調べるとシミュレーションの動画がいくつかでてくる。この摩訶不思議な軌道を見ていると、三体世界がいかに過酷な状況下に置かれているかが理解できる。そして地球がいかに安全な奇跡の上に存在しているのかも実感できる。
三体問題 - YouTube


──印象に残ったセリフなど

人類のすべての行為は悪であり、悪こそが人類の本質であって、悪だと気づく部分が人によって違うだけなのではないか。人類が自ら道徳に目覚めることなどありえない。

(引用:三体 P29/劉慈欣)

 すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった。

(引用:三体 P66/劉慈欣)

「それは、宇宙のどの場所においても適用できる物理法則が存在しないことを意味する。ということはつまり……物理学は存在しない」

(引用:三体 P78/劉慈欣)



最後に

物語の怒涛の展開も『三体』の大きな魅力だが、やはり一番面白いのはゲームの三体。ゲームが登場してからが、一気に流れが変わってワクワクする。あの不可思議な世界……怖いもの見たさかもしれないけど、人列コンピュータとか寒気がする。よくもまぁ思いつくものだなぁって思ってしまった。





【オススメ】