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『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』のあらすじ・紹介【東野圭吾】

東野圭吾の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』のあらすじ・見所を重要なネタバレなしで紹介していく。


【感想はコチラ】

目次

あらすじ

謎を解くためなら、手段を選ばない。コロナの時代に、とんでもないヒーローがあらわれた!
名もなき町。ほとんどの人が訪れたこともなく、訪れようともしない町。けれど、この町は寂れてはいても観光地で、再び客を呼ぶための華々しい計画が進行中だった。多くの住民の期待を集めていた計画はしかし、世界中を襲ったコロナウイルスの蔓延により頓挫。町は望みを絶たれてしまう。そんなタイミングで殺人事件が発生。犯人はもちろん、犯行の流れも謎だらけ。当然だが、警察は、被害者遺族にも関係者にも捜査過程を教えてくれない。いったい、何が起こったのか。「俺は自分の手で、警察より先に真相を突き止めたいと思っている」──。颯爽とあらわれた〝黒い魔術師〟が人を喰ったような知恵と仕掛けを駆使して、犯人と警察に挑む!

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%81%A8%E5%90%8D%E3%82%82%E3%81%AA%E3%81%8D%E7%94%BA%E3%81%AE%E6%AE%BA%E4%BA%BA-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4334913725)

紹介・見どころ

──現代とリンクした時代背景

『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の一番の特徴はなんといっても、コロナが巻き起こっている現代を舞台にした作品であることだ。


『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』が刊行されたのが2020年の11月。本格的にコロナが蔓延し始めてから1年未満での作品刊行である。早すぎる。


コロナの時代背景をいち早く取り入れていて、今の時代のリアルさを感じる。それとともに物語の鍵に爆発的ヒットのアニメの存在があるのも昨今の世の中と似ている部分がある。もちろんタイトルや内容はまったく違うけれども、どうしても鬼○の刃を連想してしまった。


コロナ禍である今、本作を読んだとしたらより物語にリアリティを感じられるだろう。逆に「小説の中でまでコロナは勘弁」という方はオススメできない。


──今回の探偵は……!

タイトルで感づいた方もいるだろうが、今回の探偵役(主人公)は、凄腕の元・マジシャンである。東野圭吾の作品で探偵役としては初起用の職業のはずだ。


元・マジシャンの神尾武史。彼の実の兄が何者かに自宅で殺人されてしまう。真相を探るべく、事件の調査に乗り出すわけだが、この主人公がかなりの曲者なのである。


冷静沈着で、狡猾で、そして利用できるものすべてを利用する大胆さ、何よりマジシャンならではの手さばきで警察すら出し抜く様子はまさに読んでいて爽快である。


──続編もありそう?

個人的な予想だが、今後続編が出そうな雰囲気がする。というのも主人公の過去があからさまに語られていないのである。過去についてノータッチだったわけでなく、主人公が過去に触れるのを断り、そのまま本作は終わってしまった。


つまり今後、主人公の過去の出来事を絡めた続編がでるのではないか?と期待している。

【オススメ】




加賀恭一郎シリーズの作品一覧とあらすじ・紹介【東野圭吾】



数多くの作品を世に放っている東野圭吾。その中でもシリーズ作品は特に人気を博している。魅力的な主人公、巻き起こる事件、そしてシリーズを通して読むことで明らかになる新たな事実──!


東野圭吾でシリーズものとえば、天才物理学者・湯川学を主人公とした『ガリレオシリーズ』や、最近では映画化もされた『マスカレードシリーズ』も人気である。

【各シリーズ紹介】


そして今回は東野圭吾もう一つの人気シリーズ『加賀恭一郎シリーズ』の紹介をしていく。


目次

『加賀恭一郎シリーズ』の特徴

主人公の加賀恭一郎は刑事である。他シリーズと比較すると設定としては一番シンプル。いや、シンプルだからこそ小細工のない面白いさも魅力の一つであるのだろう。


また映像化作品も多数あり、『麒麟の翼』、『祈りの幕が下りる時』は映画化され、『赤い指』などはドラマ化されている。


以下、刊行順のシリーズ一覧と()内は文庫本の刊行年数

1.『卒業』(1989年)
2.『眠りの森』(1992年)
3.『どちらかが彼女を殺した』(1999年)
4.『悪意』(2001年)
5.『私が彼を殺した』(2002年)
6.『嘘をもうひとつだけ』(2003年)
7.『赤い指』(2009年)
8.『新参者』(2013年)
9.『麒麟の翼』(2014年)
10.『祈りの幕が下りる時』(2016年)


読む順番としては、素直に刊行順に読めば間違いない。ただ、単体で読んでもミステリーとして十二分として面白いし、楽しめるようにできてるので、気になったタイトルから手をつけてみてもいいかもしれない。ただし個人的には刊行順に、そして『祈るの幕が下りる時』は最後に読むのをオススメする


『加賀恭一郎シリーズ』は、東野圭吾の他シリーズと違いすでに完結している。続きを待つモヤモヤが嫌な方にはオススメのシリーズである。


作品紹介

──1.『卒業』

──あらすじ

7人の大学4年生が秋を迎え、就職、恋愛に忙しい季節。 ある日、祥子が自室で死んだ。 部屋は密室、自殺か、他殺か? 心やさしき大学生名探偵・加賀恭一郎は、祥子が残した日記を手掛りに死の謎を追求する。 しかし、第2の事件はさらに異常なものだった。 茶道の作法の中に秘められた殺人ゲームの真相は!? 加賀恭一郎シリーズ

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E5%8D%92%E6%A5%AD-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4061844407


──学生時代の加賀恭一郎
『加賀恭一郎シリーズは刑事ものである』と前述してしまったが、シリーズ1作目の『卒業』だけは例外で、加賀恭一郎が大学4年の時のストーリー。


加賀恭一郎のシリーズ1作目、そして東野圭吾の比較的初期の作品という点もあり、加賀恭一郎の、そして東野圭吾のルーツも垣間見える一冊となっている。


──2.『眠りの森』

──あらすじ

美貌のバレリーナが男を殺したのは、ほんとうに正当防衛だったのか?完璧な踊りを求めて一途にけいこに励む高柳バレエ団のプリマたち。美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡未緒に魅かれ、事件の真相に肉迫する。華やかな舞台の裏の哀しいダンサーの悲恋物語。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E7%9C%A0%E3%82%8A%E3%81%AE%E6%A3%AE-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4061851306


──若き日の加賀恭一郎
バレエ団という、多くの人には馴染みのない世界で描かれる物語。華やかなイメージの裏側にある過酷なプロの世界が垣間見えるのが印象的。


加賀恭一郎シリーズの中でも、恐らくもっとも感情的、情熱的な彼の姿を見る事ができる作品。冷静沈着だが、まだまだ若き刑事だったんだなと、再確認させられた。

──3.『どちらかが彼女を殺した』

──あらすじ

最愛の妹が偽装を施され殺害された。愛知県警豊橋署に勤務する兄・和泉康正は独自の“現場検証”の結果、容疑者を二人に絞り込む。一人は妹の親友。もう一人は、かつての恋人。妹の復讐に燃え真犯人に肉迫する兄、その前に立ちはだかる練馬署の加賀刑事。殺したのは男か?女か?究極の「推理」小説。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E3%81%A9%E3%81%A1%E3%82%89%E3%81%8B%E3%81%8C%E5%BD%BC%E5%A5%B3%E3%82%92%E6%AE%BA%E3%81%97%E3%81%9F-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4062645750

──作者からの挑戦状、あなたは解けるか…!?
タイトル通り初めから殺人事件の容疑者は二人に絞られており、ラストでも犯人は明かされず、東野圭吾から読者への挑戦状のような形式となっている変わった作品。


一度でわからなくても、2周目、3周目と読み返して是非ご自身の力で真相に答えを見つけ出してほしい。そうしたならきっと加賀恭一郎のすごさを改めて思い知らさせるはずだ。



──4.『悪意』

──あらすじ

人はなぜ人を殺すのか。
東野文学の最高峰。
人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、その妻と昔からの友人だった。
逮捕された犯人が決して語らない「動機」とはなんなのか。
超一級のホワイダニット。
加賀恭一郎シリーズ

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E6%82%AA%E6%84%8F-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4062730170

──タイトルに込められた想い
早い段階で犯人は特定されてしまう。その段階から3作目『どちらかが彼女を殺した』では、”どちらが犯人なのか?”を突き詰めていった訳だが、『悪意』では犯人探しではなく、犯人の”とあること”についてスポットがあたっていく。


加賀恭一郎シリーズは、普段は隠れている人間の本性がよく見えるのも特徴の一つだと思うが、タイトル通りまさに人間が持つ『悪意』を思い知らされる一冊である。


──5.『私が彼を殺した』

──あらすじ

婚約中の男性の自宅に突然現れた一人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺をはかった。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルの数とその行方。加賀刑事が探りあてた真相に、読者のあなたはどこまで迫れるか。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E7%A7%81%E3%81%8C%E5%BD%BC%E3%82%92%E6%AE%BA%E3%81%97%E3%81%9F-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4062733854


──作者からの挑戦状、第二弾
前々作『どちらかが彼女を殺した』に続き、最後まで犯人は明かされないスタイル。体感的には前作以上に難しい。是非チャレンジしてみてほしい。


前作と大きく異なるのは、加賀恭一郎視点ではなく、容疑者3人の視点でストーリーが進展していく点である。容疑者視点から見る加賀恭一郎も一味違って面白い。


──6.『嘘をもうひとつだけ』

──あらすじ

バレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は自殺で処理の方向に向かっている。だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに一人の刑事がやってきた。彼女には殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。ところが…。人間の悲哀を描く新しい形のミステリー。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E5%98%98%E3%82%92%E3%82%82%E3%81%86%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%A4%E3%81%A0%E3%81%91-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4062736691


──嘘は悪いこと?それとも…
加賀恭一郎シリーズ、唯一の短編集。 短編だけど、それぞれ読み応えはばっちりで、5つの事件が描かれている。一つひとつは50ページほどなので、サクサク読めるだろう。   


自衛のため、逃れるため、また大切な人を守るため……。
人はそれぞれいろんな理由で嘘をついて生きているが、この作品で描かれている嘘は……!



── 7.『赤い指』

──あらすじ

少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E8%B5%A4%E3%81%84%E6%8C%87-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/406276444X


──平凡なんてないのかもしれない
名作と名高い『赤い指』
トリックや誰が犯人なのか?を追及するのではなく、ひたすらに人間関係、家族関係についてスポットをあてており、加賀恭一郎シリーズらしさが全面にでている。

 

最後にはミステリーらしく、どんでん返しのような予想外の展開もまっているのだが……。読んでいて心苦しくなること間違いなしだ。




──8.『新参者』

──あらすじ

日本橋の片隅で一人の女性が絞殺された。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎の前に立ちはだかるのは、人情という名の謎。手掛かりをくれるのは江戸情緒残る街に暮らす普通の人びと。「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」。大切な人を守るために生まれた謎が、犯人へと繋がっていく。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E5%8F%82%E8%80%85-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4062776286

──殺人事件と人間ドラマ
東京の下町を舞台に、殺人事件の謎に迫っていくのだが、殺人事件とは別に、加賀恭一郎が下町で暮す人々の日常に溶け込んだ作品である。


殺人事件の真相に迫りながらも、町で暮す人々との人間ドラマが絶妙に読み心地がいい。


重いテーマが多いこのシリーズだが、その中でも珍しく(?)暖かい気分になれる一冊。



──9.『麒麟の翼』

──あらすじ

ここから夢に羽ばたいていく、はずだった。誰も信じなくても、自分だけは信じよう。加賀シリーズ最高傑作。
寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E9%BA%92%E9%BA%9F%E3%81%AE%E7%BF%BC-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4062168065


──大事なのは過ちを犯した後
人は過ちを犯してしまう生き物だが、その後の身の振り方について深く考えさせられる一冊。


事件現場に残された小さな謎から、大きな人情ドラマが展開される。被害者の不可解な行動に隠されていた真実を、一つ一つ紐解いていき、事件の背景を明らかにしていく様子はまさに圧巻。


『麒麟の翼』のタイトルに込められた想いもまた胸が熱くなる。


──10.『祈りの幕が下りる時』

──あらすじ

明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。シリーズ最大の謎が決着する。吉川英治文学賞受賞作。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E7%A5%88%E3%82%8A%E3%81%AE%E5%B9%95%E3%81%8C%E4%B8%8B%E3%82%8A%E3%82%8B%E6%99%82-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4062934973

──圧巻の最終巻
まさに最終巻の名に恥じない名作中の名作。シリーズを通して読んできた方には、今までの伏線回収を含めたたまらない構成になっている。


個人的に、感想に「泣ける」と全面に出してオススメするのは好みではないのだが、理不尽な運命に振り回される親子の無償の愛に、泣けずにはいられなかった。


二組の親子の切ない”祈り”を描いたシリーズ集大成。



【オススメ】




『狼と香辛料』でお馴染み!支倉凍砂の小説一覧!あらすじと作品紹介



この村では、見事に実った麦穂が風に揺られることを狼が走るという。
風に揺られる様子が、麦畑の中を狼が走っているように見えるからだ。

(引用:狼と香辛料 P13/支倉凍砂)


ライトノベル作家の支倉凍砂氏のこれまでに刊行されている小説をまとめた。またシリーズごとに作品のあらすじなどを紹介をしているので参考にしていただければと思う。


※これから紹介する『狼と香辛料 Spring Log』と『狼と羊皮紙』は、『狼と香辛料』の続編にあたる。そのため、あらすじ紹介で『狼と香辛料』の若干のネタバレに触れざるを得ないので、ネタバレNGの方は、そこは飛ばして読むのをオススメする。


目次

作品紹介

──1.『狼と香辛料』

──あらすじ

行商人ロレンスは、麦の束に埋もれ馬車の荷台に眠る少女を見つける。少女は狼の耳と尻尾を有した美しい娘で、自らを豊作を司る神ホロと名乗った。
「わっちは神と呼ばれていたがよ。わっちゃあホロ以外の何者でもない」
老獪な話術を巧みに操るホロに翻弄されるロレンス。しかし彼女が本当に豊穣の狼神なのか半信半疑ながらも、ホロと旅をすることを了承した。
そんな二人旅に思いがけない儲け話が舞い込んでくる。近い将来、ある銀貨がねあがりするという噂。疑いながらもロレンスはその儲け話に乗るのだが──。
第12回電撃小説大賞〈銀賞〉受賞作!

(引用:狼と香辛料)



──狼少女の可愛さに狂え!
支倉凍砂の代表作といえば、狼少女と行商人が織り成すファンタジー『狼と香辛料』。これをなしには語れない。


物語の舞台は中世ヨーロッパを思わせる世界。リアルな世界観で魔法などの超常的現象はいっさい生じない。狼の化身”ホロ”の存在を除けば。


狼の耳と尻尾を持つ少女”ホロ”の本来の姿は、人間を一口で飲み込めるほど巨大な狼。旅の行商人クラフト・ロレンスは、商いのために訪れたパスロエ村を後にした夜、荷馬車に忍び込んでいたホロを発見する。


ホロがただの娘ではなく、狼の化身であることを知ったロレンスは、彼女を旅の供に迎えることとなる。2人は旅の途中に様々な騒動に巻き込まれながら、遥か北にたるホロの故郷を目指して旅をすることになる。


ファンタジーの作品であるが、ロレンスの行商人という職業を通じて、商人たちの駆け引きの様子がまず面白いし、経済的な内容が多いのも特徴的だ。


そしてとにかくホロが可愛い。これに尽きる。
少女の見た目なのに老獪な話し方をするギャップ。頭脳明晰で完璧なようなのにたまにみせる弱さ。ホロの可愛さを堪能したいがために全巻読み切ったまである。


全17巻(完結)



──2.『狼と香辛料 spring Log』

──あらすじ

 賢狼ホロと湯屋の主人になったロレンスの、旅の続きの物語がついに登場!
 ホロとロレンスが温泉地ニョッヒラに湯屋『狼と香辛料』を開いてから十数年。二人はスヴェルネルで開催される祭りの手伝いのため、山を降りることになる。だがロレンスにはもう一つ目的があった。それは、ニョッヒラの近くにできるという新しい温泉地の情報を得ることで──?

(引用:狼と香辛料 spring Log)


──ファン待望、二人の続編
先程紹介した『狼と香辛料』の、ホロとロレンスのその後を描いたストーリー。前作の『狼と香辛料』が好きな方には間違いなく刺さるであろう続編となっている。


ロレンスは、すでに行商人を引退し、温泉地ニョッヒラにてホロと一緒に湯屋を営んでいる。変わったのは職業だけでなく、二人の関係も前作とは微妙に変化がある。それはお互いが完全に信頼しきっている点だ。


前作では、二人のすれ違いからトラブルに発展したことが多々あったが、結婚を経て二人は良きパートナーへとかわっている。もちろん可愛らしいホロの姿を拝むことができる。更に二人の間には──!?


2021年現在、5巻まで刊行中(連載中)



──3.『狼と羊皮紙』

──あらすじ

 聖職者を志す青年コルは、恩人のロレンスが営む湯屋『狼と香辛料亭』を旅立つ。ウィンフィール王国の王子に誘われ、教会の不正を正す手伝いをするのだ。そんなコルの荷物には、狼の耳と尻尾を持つ美しい娘ミューリが潜んでおり──!?
 かつて賢狼ホロと行商人ロレンスの旅路に同行した放浪少年コルは青年となり、二人の娘ミューリと兄妹のように暮らしていた。そしてコルの旅立ちを知ったお転婆なミューリは、こっそり荷物に紛れ込んで家出を企てたのだ。
『狼と香辛料』待望の新シリーズは、ホロとロレンスの娘ミューリが主人公りいつの日にか世界を変える、『狼』と『羊
皮紙』の旅が始まる──!

(引用:新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙)


『狼と香辛料』の新シリーズとなっているこの『狼と羊皮紙』。『狼と香辛料』が、狼=ホロ、香辛料(行商人)=ロレンスを指していたのに対して今回は、狼=ミューリ、羊皮紙(聖職者)=コルを指している。


そう!!ホロとロレンスの子供であるミューリと、『狼と香辛料』でホロとロレンスの旅に登場したコル、二人の物語がこの『狼と羊皮紙』なのである。


狼少女と青年の旅という点では前作と同様たが、老獪だったホロに対してミューリは敏い部分はあるが基本お転婆で天真爛漫、行商人だったロレンスと違い、コルは正しい聖職者を目指すための旅。


性格趣向の真逆な二人が織り成す旅は前作とは一味違った面白みがある。


また、先程紹介した『狼と香辛料 spring Log』と同じ時系列で物語は進んでいるので並行して読み進めるとより楽しめるかもしれない。


2021年現在、6巻まで刊行中(連載中)



──4.『マグダラで眠れ』

──あらすじ

 人々が新たなる技術を求め、異教徒の住む地へ領土を広げそうとしている時代。錬金術師の青年クースラは、研究過程で教会に背く行動を取ったとして、昔なじみの錬金術師ウェルランドと共に、戦争の前線の町グルベッティの工房におくられることになる。
 グルベッティの町で、クースラたちは前任の錬金術師が謎の死を遂げたことを知る。そして辿り着いた工房では、フェネシスと名乗る白い修道女が二人を待ち受けていた。彼女の目的は、クースラたちの”監視”だというが──?
 眠らない錬金術師クースラと白い修道女フェネシスが紡ぐ、その「先」の世界を目指すファンタジー、開幕。

(引用:マグダラで眠れ)


──ヒロインはまたしても……!?
世界観としては『狼と香辛料』と同様に中世ヨーロッパ風、世間から忌み嫌われる錬金術師の主人公クースラと、敬虔な修道女フェネシスの交流が描かれている。


主人公クースラは錬金術師。錬金術というと、荒唐無稽な魔法のようなものを想像してしまうかもしれないが、現代でいう科学を使用している。


教会と騎士団の対立やその中での主人公のあり方、舞台設定は緻密さなどは前作に引き続き健在である。


またヒロイン、フェネシスも印象的な人物で『狼と香辛料』のホロとは違った魅力を持った人物である。そんなフェネシスには一つ、大きな秘密があって──!?

 
全8巻(連載中?)
※2016年2月10日に8巻が刊行されたが、2021年現在、9巻の情報はない。


──5.『少女は書架の海で眠る』

──あらすじ

書籍商を目指す少年フィルは、自身の所属するジーデル商会の命令で、仲間のジャドと異端審問官アブレアと共にグランドン修道院を訪れていた。修道院の書架に収められた貴重な蔵書を買い付ける。書籍商としての初仕事と新たな本との出会いに、心を躍らせるフィル。しかし、そこで彼を待っていたのは、本を憎む美しい少女クレアだった。フィルたちを修道院からかたくなに追い帰そうとするクレア。彼女が隠そうとする、ある秘密とは―。『マグダラで眠れ』と同じ世界観で描かれる、本を愛するすべての人に贈る至高のビブリオ・ファンタジー!

(引用:少女は書架の海で眠る (電撃文庫) | 支倉凍砂, 松風水蓮 |本 | 通販 | Amazon

全1巻
『マグダラで眠れ』のスピンオフ作品である。 
 

──6.『WORLD END ECONOMiCA』

──あらすじ

人類のフロンティア、月面都市を埋め尽くす摩天楼で、多くの人々が見果てぬ夢を追いかけている時代―。月生まれ、月育ちの家出少年ハルは、“前人未踏の地に立つこと”を夢見ていた。そのために必要なのは、圧倒的な資金。少年ハルが足を踏み入れたのは、人類の欲望を呑み込み、時に無慈悲に打ち砕いてきた場所「株式市場」だった。そんなハルが、月面都市の片隅にある寂れた教会で、黒尽くめの美しき天才少女ハガナと出会ったとき、運命の歯車は動き始める―。少年の見果てぬ夢を描く金融冒険青春活劇。支倉凍砂シナリオの同人ヴィジュアルノベル完全版が、電撃文庫で登場!!

(引用:https://www.amazon.co.jp/WORLD-END-ECONOMiCA-1-%E9%9B%BB%E6%92%83%E6%96%87%E5%BA%AB/dp/4048691120


全3巻

最後に

支倉凍砂氏の小説を読んだことないよ!という方はまず『狼と香辛料』をオススメする。ホロとロレンスの物語を是非堪能して頂きたい。


『少女は書架の海で眠る』と『WORLD END ECONOMiCA』に関しては、私はまだ読んでいないため、あらすじのみの紹介となっている。あしからず。


今回、記事を書くにあたってあらすじなど初めて知ったのだが、とても興味を惹かれたので近いうちに読んでみたいと思う。



【オススメ】




『天冥の標Ⅸ〈ヒトであるヒトとないヒトと〉』の感想:さぁ舞台は整った【小川一水】



「大きな構図の、外側のさらに大きな構図がわかったところで、いちばん小さな手元の問題が消えてなくなる訳じゃないの。ねえ、知ってるかしら?痛みや悲しみはそれが重なると麻痺してしまうけれど、責任というものは、背負えば背負っただけ、無限に重く感じていくものなのよ。

(引用:天冥の標Ⅸ part2 P100)



天冥の標シリーズ第9弾、『天冥の標Ⅸ〈ヒトであるヒトとないヒトと〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ
【『天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アーク〉』の感想】


目次

感想

ついに全10巻のうちの、9巻まで到達してしまった……。物語は佳境を迎えており、舞台は整い、役者は揃い、あとは結末を見るばかりって……感じ。


天冥の標シリーズに手を出してはや5ヶ月。シリーズを見届けたい気持ちと、読み終えたくない気持ち、相反する想いがせめぎあっている。


1巻から登場人物自体はあまり増えていないが、2〜8巻のこれまでの物語の軌跡を考えると、1巻と9巻は時系列的には全然変わらないのに関わらず、登場人物たちの歴史、背負っているものを知ってしまった今、物語から受ける重厚感がまるで違う。


以前の感想でも書いたかもしれないが、シンプルに時系列順に物語が進んでいくのではなく、はじめに1巻のようにはるか未来を描き、そこから過去の出来事を追っていく……。2巻の〈救世群〉編ではなく、この1巻の〈メニー・メニー・シープ〉編を先に描いていることが天冥の標の肝のような気がするし、1巻で散りばめられた伏線がその後の巻でジリジリと回収されていく様子がたまらなく面白い。よくこの構成ができたなぁと改めて思う。


──「ヒトとはなんだ?」

サブタイトルである〈ヒトであるヒトとないヒトと〉。謎掛けのようで興味をひかれるものだが、part2の半ば、エランカとラゴスの会話でこの核心に触れる部分があった。

「──しかし、ヒトとはなんだ?」
エランカは答えない。彼がいま答えを求めている相手は、自分ではない。
「植民地人、《海の一統》、《救世群》それに、カヨやフェオドールや、ロイズ社団のロボットたちもいたな。また今では、太陽系艦隊などという者たちも近づいている。これらみなヒトであり、ヒトの申し子たちだ。しかしその辺縁に向かうほど、もともとのヒト──二足歩行する知能の高い地球に発する生物の姿からは、隔たっていく。定義づけは難しくなり、曖昧になる。考えを推し進めれば、ヒトの被造物である俺たち自身もヒトだということになり、論理は自己言及の渦に呑みこまれてしまう。それは避けるにしても、俺たちは、自分を何に支配させるのかという思考を通じて、ヒトとはなんであるかを俺たちが規定できるかもしれないという着想にまで行きついたんだ

(引用:天冥の標Ⅸ part2 P233)


本当はエランカとラゴスのやりとり全文を引用したいくらいだが、長すぎてしまうので一部だけ(これでも長いが)。



大雑把に言えば、
《恋人たち》はヒトに支配される存在であり、そう設計されている→実際これまで様々なヒトに支配されてきた→つまり、《恋人たち》の支配させられる存在がヒトである。


『ヒト』を何をもって定義するのか……。森博嗣のWシリーズに通ずるものがあって面白い。あれは人間とロボットの境界についてだったかな……。


メニー・メニー・シープに生きるヒト
救世群
海の一統
恋人たち
カルミアン
地球軍
ノルルスカイン
ミスチフ


多様すぎる人種?生物が登場しているからこそ、ラゴスがこれから導き出すであろう”答え”も10巻で期待したい。


それにしてもラゴスの「自分を何に支配させるのか」って台詞面白いよね。《恋人たち》の(ラゴスの?)特殊性を端的に示してる。


一般的に支配は、強者が弱者を”支配する”ものだけど、”自らを支配させる”って初めて聞いた。支配される側なのにも関わらず風格が明らかに弱者じゃないんだよなぁ…。


最後に

エランカたち政府
イサリやカドムたち
ミヒルたち救世群
恋人たち……
互いの思わくが絡みあうなか、太陽系艦隊、カルミアン星との接近がせまり

さらにはミスチフ、ノルルスカイン、そしてラストに出てきた謎の第三者…?

複雑すぎぃ!!
さぁ10巻読むぞ!!



【オススメ】




『天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アーク〉』の感想:二つの”ジャイアント・アーク”【小川一水】



一千メートルの柱を登り、長い長いドーム天井の道を歩いてもなお、この巨大な箱舟〈ジャイアント・アーク〉の輪郭を実感きていなかったのだとカドムは思った。多分、今もなお実感しきっていないのだ。自分たちは、あとどれほどのことを理解していないのだろう……。

(引用:天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アークpart2〉P219)

天冥の標シリーズ第8段、『天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アーク〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ
【天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉の感想】

目次

感想

相も変わらず濃い展開だった。
「岸無し川」の訳がわからない断章から始まり、1巻のイサリ視点、〈恋人たち〉視点で、あの時の事情が明らかになって、ついに1巻の……〈メニー・メニー・シープ〉の物語の続きが明らかになる……と。これは間違いなく欲張りセット。「そういう事だったのかー!!」という伏瀬回収のオンパレード。そして懐かしい登場人物たちとの再開。


1巻の続き(時系列的な意味で)が8巻にしてようやく読めるようになるとは、2ヶ月前の自分は思いもしていなかっただろう。

──1巻で気になってたこと

過去に1巻の感想を書いたときに、気になった点を8つ上げていたが、その疑問はこれまででほぼほぼ解消されていた。その疑問点は以下の通り。

1.イサリについて
2.メニー・メニー・シープの外の新天地
3.地球からの訪問者
4.アクリラの生死
5.ハーブC
6.羊飼い
7.ダダー
8.カドムが地下通路で聞いた謎の音

どこがどう気になっていたのか?などはここでは省略。詳しくはコチラで書いている。
【天冥の標Ⅰの感想】


今回8巻を読んでも解消されず、むしろ謎が増したのが『3.地球からの訪問者』について。


1巻では、『ルッツとキャスランという人物が地球から植民地へ、救援要請を出してほしい。と登場。』くらいの情報しかでていなかった。


今となっては、『地球からの訪問者』ってだけで疑問がいくつもでてくる。つまり、プラクティスに地球は征服されきれなかった?メニー・メニー・シープの存在をどうやって知ったのか?カルミアンを凌駕しそうな技術力は一体なんなのか?本当に救助のために来たのか?などなど……。


他に1巻ではよく分かっていなかったけど、〈恋人たち〉内部の関係も明らかになってきてようやく1巻で起きたことの重要性が見えてきた。とくにベンクト……。彼が〈恋人たち〉であるにも関わらず人を殺せた理由、そして彼を失ったことの重大さ……。


──アクリラとカヨ

アクリラが生きててくれて嬉しいと思った矢先にカヨの正体、そしてカヨの行動に再びの絶望。


これ……予想外すぎるだろ……。カヨの正体は全くわからんかった。これミスチフだったって理解でいいんだよな…?これまで度肝を抜かれる展開はいくつも味合わされてきたつもりだったけど、これはその中でも上位にくる驚きだった。


カヨの無機質だけど、どこか暖かみがある性格(?)に好感を抱いていたのも大きかったかもしれない。


──二つのジャイアント・アーク

物語中に『ジャイアント・アーク』という記載が恐らく2ヶ所あったのだが、意味がわかると、このタイトルなかなか痺れるものがある。


まず下記がその2ヶ所。

一千メートルの柱を登り、長い長いドーム天井の道を歩いてもなお、この巨大な箱舟〈ジャイアント・アーク〉の輪郭を実感きていなかったのだとカドムは思った。多分、今もなお実感しきっていないのだ。自分たちは、あとどれほどのことを理解していないのだろう……。

(引用:天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アークpart2〉P219)

太陽──にしては明らかに大きすぎる二つの恒星が天の半分を圧して浮かび、お互いがこぼす白金色の光の尾を、お互いの煮え立つ光球面へと注ぎかけているのでだった。
それはまさに、人知を超えたスケールで交換される、赤色の巨大な放電〈ジャイアント・アーク〉──。

(引用:天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アークpart2〉P349)


P219のほうがカドムの視点、P349のほうがアクリラの視点。


カドムのほうでは『巨大な箱舟』に〈ジャイアント・アーク〉のルビ。アクリラのほうには、『巨大な放電』に〈ジャイアント・アーク〉のルビがついている。


『Ark』が「箱、大箱、箱舟」の意味。そして『Arc』が「円弧または、二つの電極間の放電によってつくられる光の円弧。電弧。」の意味を持っている。


つまり、タイトルの『ジャイアント・アーク』にはこの二つ両方の意味が込められているのだと推測できる。


カドムとアクリラの二人ともお互いの消息が把握できていない中で、巨大すぎる箱舟と巨大すぎる放電、二つのジャイアント・アークに二人が唖然とする様子が印象深かった。


ともに巨大すぎるモノに打ちひしがれる様子が、これから抗うであろう困難を示しているように思えた。

最後に

舞台がメニー・メニー・シープに帰ってきていよいよ本番といった感じ。気づけばⅨとXを残すのみとなってしまった。まだまだ先は読めないし物語がどう着地するのかワクワクが止まらない。


『天冥の標〈ヒトであるヒトとないヒトと〉』の感想


【オススメ】




『天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉』感想:ついに謎の原点が明らかになる【小川一水】



「まだわかってないな。人類だよ」ハンは両手の先をクイと自分の顔に向けた。「僕たちが人類であり、人類といえば僕たちになったんだ。厳密な意味で」

(引用:天冥の標Ⅶ P213)


小川一水の『天冥の標』シリーズ第7段、『天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ
【天冥の標6〈宿怨〉 感想】

目次

感想

とりあえず一言、面白かった。これに尽きる。前作『天冥の標Ⅵ〈宿怨』も面白かったが、それに負けず劣らず…!これまでの伏線である衝撃の事実が次々に明らかになっていくから読む手が止められなかった。


Ⅵ、Ⅶと後半に突入してから加速度的に面白くなってる。終盤読む頃にはもう燃え尽きてるかもしれない。

──ついに……

ついに1巻〈メニー・メニー・シープ〉と繋がった。2〜6巻までは、1巻の祖先たちが出てきていたことで物語の繋がりを感じていたが、7 巻にしてついに謎多き1巻の舞台〈メニー・メニー・シープ〉が登場した。


私たちの新しい社会を豊かですばらしいものにしましょう。その願いをこめて、この国をメニー・メニー・シープと名付けたいと思います。──賛成の人は、また後で投票してくださいね」

(引用:天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉P358)


サンドラが「メニー・メニー・シープ」と発言するまでブラックチェンバーがそこであるなんて思いもしてなかった。逆にその一言ですべてが繋がった…!!


1巻で昼間にも関わらず空が暗くなったのは、それが地下だったから。プラクティスが襲ってきた理由と〈メニー・メニー・シープ〉にいた理由。ラゴスたち《恋人たち》がいた理由。メイスンがいた理由etc……。


今思えば、〈メニー・メニー・シープ〉に繋がる鍵はちゃんと揃ってた。登場人物でいえば、セキアやユレイン、《恋人たち》、メイスンなど。


他にはシェパード号も登場してたし、電力のひっ迫状況に関しては1巻と似た状態だなぁと思いはしたのに、同じ場所だとは結びつけられなかった。メニー・メニー・シープを1巻の説明にあったように、「どこか遠い宇宙」っていうのを完全に信じてしまっていた。


それに1巻ででてきた広大な場所がまさか地下だとは思えない。初期のブラックチェンバーとは絶対に結びつかない。


たくさんのヒントはあったのにまったく気づかなかった…。だからそこ明かされた瞬間の衝撃といったらなかった。




──相変わらずの絶望

先に後半について触れてしまったが、前半に語られる子供たちだけで取り残されてしまったブラックチェンバーでの生活もなかなかに絶望を極めてた。


ずっと息が詰まる展開だし、希望は絶たれていくし、ブラックチェンバー内の状況は悪化の一途をたどってるし……。


子供たちだけの無秩序さって、ここまで残酷になるんだなって思い知らされた。そんな中でもスカウトのメンバーは優秀すぎたよ……。


──印象に残ったセリフなど

「まだわかってないな。人類だよ」ハンは両手の先をクイと自分の顔に向けた。「僕たちが人類であり、人類といえば僕たちになったんだ。厳密な意味で」

(引用:天冥の標Ⅶ P213)

「『できない』を私は見るの。団結できない。ルールを守れない。弱いものを助けられない。夫婦で許しあえない。みんなが許そうとしないそういうところに、私は目が向く」

(引用:天冥の標Ⅶ P260)

サンドラのこのセリフ、自分でもなんで引っかかったのか最初はわからなかったけどこれ、『図書館の魔女』のキリンとマツリカの会話に似てるからだった。将棋でなぜその手を『選ばなかったか』のか、の話。
『図書館の魔女』はイイぞ…!

「ねぇ、アイン。乗り越えているの?そんなは、スカウトは、あなたは、私は、たくさんのたくさんの死を、乗り越えて前に進んでいるのかしら。乗り越えるってどういうことなのかしら」

(引用:天冥の標Ⅶ P264)

最後に

今回のⅦでは途中から重力が強くなったという描写はあったものの、結局その
原因は明記されていなかった気がする。そんなことができるとしたらドロテアくらいのものだと思うが……。実際メニー・メニー・シープがセレスの地下だから、ドロテアがある理由もわかるし、1巻でアクリラが地下で見た”ドロテアらしきもの”の正体もこれで繋がるような気がする。


何はともあれ2800年に近づいてきた今後に期待。




【オススメ】




『天冥の標Ⅵ〈宿怨〉』の感想:どこまでも「ヒト」の物語である【小川一水】

ブレイドがそれこそ真の目的だとして心の源に捉えたのは、どちらも人間であるという信念だった。《救世群》は歪められた人間である。パナストロ人は、まだそれを知らない人間である。〈中略〉何より絶望的なのは、《救世群》誕生からこれまでの5百年間、当の彼らも含めて、人間はただの一人もこのことに気づかなかったらしいということだ。

(引用:天冥の標Ⅵ Part3/P148)

小川一水氏の天冥の標シリーズ第6作品目、『天冥の標Ⅵ〈宿怨〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前回の感想はコチラ
【『天冥の標Ⅴ』の感想】


目次

感想

あれよあれよという目まぐるしく展開、そしてパート3まであり合計1000ページを超える濃密すぎるシリーズ第6弾だった。辛い箇所も多かったが今までの中で一番好きだったかもしれない。


シリーズ1作目〈メニー・メニー・シープ〉に残されていた核心の謎についに迫ってきた(毎回感想で言ってる気もする)。なにより今回は活発化した救世群たちの行動が見所。彼らの復讐心にも共感できる所があり、序盤は応援しながら読んではいたが、カルミアンとの出会いで道を大きく踏み外し始めてからは、見てられなくなった。

──イサリとミヒル

本編の前にまずパート1の裏表紙にイサリの名前が早速でてきてしまうんだよね……《救世群》の少女イサリって。


やっぱり天冥の標Ⅰ〈メニー・メニー・シープ〉ででてきた異質すぎる存在《咀嚼者》は、《救世群》の成れの果てだったのか……とあらすじの時点で察してしまって絶望した。しかも300年は生き続けることになるし、残酷すぎる。


気になってⅠを読み返したら、イサリの妹ミヒルの名前もすでに登場してたことに気づいた。

ラゴスは目を細めて、小柄な影に声をかけた。
「生きてたんだな……ミヒル」
《咀嚼者》がラゴスを見つめる。

(引用:天冥の標Ⅰ〈下〉P345)


Ⅰのイサリがセアキに異常に執着していた理由も今回明らかになったわけだが……。Ⅵを読んだあとなら分かる、Ⅰのイサリの心情を察するともう押し潰れそうになる。巻を進めるごとにⅠの重みが増してくる。


しかもⅠでは(Ⅵから300年経ったあとでも)イサリとミヒルが敵対関係っていうのも、絶望感に拍車をかけてる。


まぁ、硬殻体がでてくるまではイサリが化け物になる技術も理由もないし、たまたま”イサリ”という名前が同じだけだろう、と淡い期待をしてたけど、カルミアンの登場ですべての期待を裏切られたよね。

──カルミアン

カルミアンの登場は、完全に予想外だった。名前は違うがⅠの《石工(メイスン)》だということは、特徴的にすぐわかる。しかし、Ⅰの奴隷的で無能さすら感じる存在だった彼女らが、人類を凌駕する技術力を持っていたことがまず驚き。そして人類の歴史において、こんなにも大きな影響を及ぼしてしまったやつらだったのかと、二重に驚いた。


これまでの天冥の標シリーズの傾向は、Ⅰの登場人物たちの先祖たちの話で展開されてきたわけだが、そこにメイスンも入っているとは思わなかった。正直メイスンが登場するまで存在すら完全に忘れてた。


カルミアンと人類の接触は、オーバーテクノロジーを与えてしまうとどうなってしまうかっていういい見本。


『技術力はあるが間抜け』という印象が否めないカルミアンだが、『異星人』としてのカルミアンに注目するとその生態がなかなか面白い。


まずカルミアンがどんな生物かというのを改めて考えると、地球でいう昆虫の姿に人間並の知能を持った生物。生態的には、アリや蜂など女王を持つ社会性昆虫。


地球生まれの人類と比べて大きく違うのは、やはり昆虫らしい性質を大きく継いでいる点。


個々を優先する人間と比較すると集団を優先するカルミアン。物語を読んでいると違いがよくわかる。物語上では前述したように間抜けな印象だが、間抜けなのではなく人間の社会に適応できなかった(人間と性質が違いすぎた)感が強い。


女王を基盤とする社会性昆虫感のあるカルミアンは、一つの種族が完全な協力体制を気づいている。カルミアン視点からは、人間同士で争いあう非合理さを指摘している場面もあった。


そのカルミアンがもつ完全なる協力体制は、一見争いもなく完璧なように思えるが脆弱な部分ももちろんある。それは人のような狡猾さがないこと。つまり種族間の争いが起こらない社会のため(共感覚を持っているため?)、嘘や騙し合いがないことである。


技術力で人類を圧倒しながらも、《救世群》にやりこまれていいように利用されてしまったカルミアンだが、これまで嘘や裏を探るようなやりとりを経験してなかったカルミアンが人間の深い闇に浸り続けていた《救世群》の手玉に取られたのは必然といっていいのではないだろうか。


結局《救世群》はカルミアンの、悪意のない効率主義によって計画が大きく崩れてしまうわけだが……。


つまり何が言いたいかって、カルミアンのまさに人類とはまったく違う”異星人”であるっていう設定が作りこまれてるなって思った。


──「ヒト」の物語である

物語の大きな流れは、ノルルスカインとオムニフロラの強大すぎる被展開体たちの手の上で踊らされる人間たちという構図になってしまうが、『天冥の標』は、結局は「ヒト」の物語である。


私に『天冥の標』を推してくれたうちの一人の方が「『天冥の標』はどこまでも『ヒト』の物語である」仰っていたが、その意味がよくわかる巻であった。


それを強く感じたのは、ブレイド・ヴァンディとシュタンドーレ総監とのやりとりであったり、冒頭と下記に引用したとおり結局は、《救世群》も人間であるという所。

ブレイドがそれこそ真の目的だとして心の源に捉えたのは、どちらも人間であるという信念だった。《救世群》は歪められた人間である。パナストロ人は、まだそれを知らない人間である。〈中略〉何より絶望的なのは、《救世群》誕生からこれまでの五百年間、当の彼らも含めて、人間はただの一人もこのことに気づかなかったらしいということだ。

(引用:天冥の標Ⅵ Part3/P148)


アイネイアとイサリだったり、ブレイドとシュタンドーレだったり、《救世群》だろうが、そうじゃなかろうが人間同士うまくいきそうな兆しはあるのに……。ノルルスカインVSオムニフロラの構図は、物語の重要な点であるが、結局胸に刺さるのは「ヒト」同士のやり取りなんだよなぁ……。

最後に

ホント、Part3に入ってからは急展開で面白かったが、それ以上に胸が痛む展開が多すぎて辛かった……。著者は容赦がない。読者を絶望させるのがうますぎる。



【オススメ】