FGかふぇ

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『狼と香辛料XXⅢ Spring LogⅥ』の感想を好き勝手に語る【支倉凍砂】


「旅の間に感じる寂しさとか、悲しさとか、どうにもならぬ苦しい感情もまた、今は楽しいんじゃ」

(引用:狼と香辛料XXⅢ P265)


支倉凍砂氏の『狼と香辛料XXⅢ Spring LogⅥ』の感想を語っていく。ネタバレありなのでご注意を。


感想

『狼と香辛料』シリーズも羊皮紙をいれずにもう23巻目。シリーズを追い続けてる身としては感慨深いものがある。前回から期間は空いたが、無事新刊がでてよかった。


SpringLogシリーズの安定感たるやいなや。前シリーズのハラハラドキドキする感じもいいけど、それを乗り越えて一緒になった二人の日常は、微笑ましいし何の不安もなしに見ていられる。


読者が求めていたものって感じ。


現在は、『狼と羊皮紙』でコルとミューリの冒険も並行して進んでいるけど、やっぱりロレンスとホロのコンビのほうが圧倒的にすきだな。というかホロの存在が大きすぎる。


相変わらずホロの可愛さが遺憾なく発揮されているSpringLogシリーズなわけだが、珍しくロレンスがホロを完璧に出し抜いているシーンが印象的だった。『狼とかつての猟犬のため息』だね。川=大蛇はイメージしやすいけど、そこを密輸などを絡めて勇者伝説としたのはなるほどと思った。


『見事に実った麦穂が風に揺られることを狼が走るという』
上記は1巻の冒頭部分で個人的に好きな言い回しなんだけど、また作中でこの文章が見れるとは……。


作中のだいたいが甘いんだけど、二人は別れ(死別)を前提に置いて今を楽しんでるのが垣間見えてそれが見えるたび悲しくなるんだよなぁ。まぁ結ばれた時点でそれを許容しての関係ではあるのだが。


とくに今巻でいうと、『今回の旅を毎年思い出せるように』とロレンスが機転をきかせて、ニョッヒラに毎年麦を送らせるようにする。『自分が死んでしまったあとでも、思い出が届く』確かに素晴らしいんだけど、嬉しいと悲しいの感情がゴチャ混ぜになる。


「旅の間に感じる寂しさとか、悲しさとか、どうにもならぬ苦しい感情もまた、今は楽しいんじゃ」

(引用:狼と香辛料XXⅢ P265)


これも『ただしロレンスがいるから』だから、その後は?と考えると甘々に見えて悲しさと表裏一体なのかもしれない。


まだまだ二人の旅は続くみたいなので、気長に続巻を待ちたいと思う。そろそろミューリたちと再開しないかな。



【オススメ】




『狼と羊皮紙Ⅵ』の感想を好き勝手に語る【支倉凍砂】


『狼と羊皮紙Ⅵ』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

感想

ストーリー全体の感想としては、いつもどおりって感じ。コル、ミューリの前で巻き起こるトラブルを解決して、謎を解いて、めでたしめでたし…と。


あっと驚くような派手さはないけど、コル、ミューリのやり取りに癒やされつつ、物語全体が進行したような安定の展開。


それにしても『人ならざるもの』の登場が増えてきた。今回だけでも鷲、羊、鳥、鼠、そして猫。


『狼と香辛料』では、ホロ以外の『一人ならざるもの』の登場はレアだったから、なんだか謎のインフレを感じる。


エーブは前回に引き続きだけど、キーマンの登場とかシリーズを追ってる身からすると過去キャラの登場はワクワクする。



さらに今回は、実際に登場してはいないが、猫の『人ならざるもの』の存在があきらかに…!猫と錬金術師の組み合わせってどう考えても、著者の他シリーズ『マグダラで眠れ』のフェネシスなんだよなぁ……。


実は『狼と香辛料XXⅡ springlogⅤ』でもフェネシスの存在がほのめかされていとけど、実際にコルたちが会うところまでいきそうでワクワクする。


時間軸でいうと『マグダラで眠れ』が過去の時間軸なんだろうな。それはspringlog5を読むとそう推測できるし、今回に至ってもフェネシスが錬金術師と名乗っているからクースラたちと会った後だと考えられる。


でも彼女一人ってことはクースラたちはすでに死んでしまったのかな。(人ならざるものは寿命が長いから)


っていっても私自身『マグダラで眠れ』は全巻読めてないので、ただの妄想の域をでない。ちゃんと考察するならそちらも追わねば……。こういう他シリーズのキャラがでてくるのは、人によって好き嫌いがあるだろうけど、私は好き。今後の展開に超期待。


【オススメ】




『カラスの親指』の感想を好き勝手に語る。天才!?詐欺師の驚愕ペテン【道尾秀介】

「飛びたいです、自分」
テツさんはそう言ったのだ。
「ずっと這いつくばるようにして生きてきたんです。人を、下から見上げてばかりだったんです。だから──だからいつか、飛びたいです」

(引用:カラスの親指 P38-39)


驚愕の逆転劇!?感動の結末!?!?
今回は道尾秀介の『カラスの親指』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。


目次

あらすじ

人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは?息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末。道尾秀介の真骨頂がここに!

(引用:カラスの親指 裏表紙)

感想

面白い。
文句なしに面白かった。


タケさんとテツさんの絶妙なやりとりで最初から引き込まれ、二人の重い過去に気持ちが沈み、因縁の相手に一泡吹かせる爽快さを味わい、そして予想の斜め上の結末を迎える……。


最近は小説を読む頻度が落ちていたが、稀にこういう作品に出会えるから読書はやめられない。



──著者『道尾秀介』のイメージ

個人的に著者の作品には軽いトラウマがあった。


『カラスの親指』を読む前に、著者の代表作の一つである『向日葵の咲かない夏』は読んだことがあった。そこで受けた衝撃たるやいなや……。まぁ、詳細はここでは語らないので、よければ下記からどうぞ。

【『向日葵の咲かない夏』の感想】


とにかく『道尾秀介のイメージ』=『向日葵の咲かない夏』だったので、ホラーテイストが苦手な私からしたら、再び道尾秀介に手を出すのは怖いもの見たさがあったといっても過言ではない。


それに『カラスの親指』もタイトルだけみたらものすごく不穏な感じがしないだろうか?


とまぁ、そんな不安を抱えながらの読み始めたわけだが……度肝を抜かれたね。


これ、ホントに『向日葵の咲かない夏』を書いた人と同じか!?って


確かに物語に端々に仕組まれた細かいトリックや伏線、叙述トリックの見せ方、また人間の後ろ暗い部分の書き方など共通する所はあるが、『向日葵の咲かない夏』にはなかったコミカルな部分、感動する部分などはとても新鮮だった。


これを期に是非とも著者の他作品も読んでみたいと思った。


──作中に感じた違和感の正体

本書の最大のポイントは、なんといってもテツさんの正体と彼が仕掛けたペテンだろう。


タケさんたち5人で協力して憎きヒグチたちから金を奪うシーンも、作戦はよく練れれていたし、読んでいてハラハラした。テツさんのペテンを知る前はココが最大の見せ場だと思ったし、事実面白かった。しかしラストの衝撃を知ってしまったら……霞んでしまうな。


なにより読んでいて一番違和感を感じたのは、作戦がヒグチにすべて筒抜けで5人が捕まってしまった所。「さぁ、この絶望的状況からどのようにして脱するのか!?」と期待していたところで、まさかのあっさり解放。


裏の人間の対応としてはあまりにもぬるすぎるし、『向日葵の咲かない夏』でエグい書き方をする著者だとは知っていたので、違和感を感じずにはいられなかった。


……が、それが最後ですべて納得した。私もテツさんの仕掛けたペテンに見事にハマったいたのだ。

──印象に残ったセリフなど

「飛びたいです、自分」
テツさんはそう言ったのだ。
「ずっと這いつくばるようにして生きてきたんです。人を、下から見上げてばかりだったんです。だから──だからいつか、飛びたいです」

(引用:カラスの親指 P38-39)

重いなぁ。
結果的に最大のペテンをやりきったんだし、飛ぶことはできたんだと思いたい。


「あのですね、理想的な詐欺はですね、相手が騙されたことに気づかない詐欺なんですよ。それが完璧な詐欺なんです。でも、それと同じことがマジックにも言えるかというと、これが違う。まったく反対なのです。マジックでは、相手が騙されたことを自覚できなければ意味がないのですよ」

(引用:カラスの親指 P219-220)


普段は適当な印象がある貫太郎だが、たまに的を得た事を言ったり行動したりするギャップがある。マジシャンってのもビックリだったし。


「親指だけが、正面からほかの指を見ることができるんです。ぜんぶの指の中で、親指だけが、ほかの指の顔を知ってるんですよ」

(引用:カラスの親指 P488)

物語中盤にも指の話はあったけど、そこも深かったな。そこでテツさんが「親指が自分、タケさんは人差し指」と言っていて、逆な印象だったけど、そんなことなかったんだなぁ。


タケさんだけが、全員の本当の顔を知っていた……と(貫太郎は微妙な所だが?)。


最後に

人の闇をみせる所は相変わらずゾクッとした。とくに「わたぬき」は闇金○シジマくんを読んだときを思いだしてなかなかに心にきた。


あとコンゲームのポスターからの伏線は、うまいなぁって思った。絶対に「なにかに関係してくるんだろうな!?」とは思ったけど全然気付けなくて、スケールが大きくてそうくるかぁって感じだった。


【オススメ】




『恋恋蓮歩の演習』の感想:罪な男の大活躍回【森博嗣】



あなたが急いでも、あなたの人生は短くならない。

(引用:恋恋蓮歩の演習 P17/森博嗣)


『種も仕掛けもありません』なんて、トリックがあると言っている常套句のようなものだ。今回は、森博嗣のVシリーズ第6弾『恋恋蓮歩の演習』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

シリーズ前回の感想はコチラ。
【『魔剣天翔』の感想】


目次

感想

豪華客船が舞台ってことで、勝手に派手な事件でも起きるのかなぁと思っていたが、そんなこともなく、どちらかといえば主要メンバーたちのやり取りを眺めるシリーズもの特有のまったり回だった。むしろそれがいい。


どれくらいまったり回かというと、200ページくらいまで事件が起きない。ちなみにこれは、本書のうち約半分である。


もちろんだからといって退屈な訳ではない。先述したが主要メンバーのやりとりが面白いし、今回はしこさんと保呂草の間で新しい展開があったのもびっくりだった。


──罪な男

保呂草さん大活躍回だった今作。そしてこの男、まったくもって罪な男である。彼に惚れてしまっている、しこさんは不憫に思えてならない。結ばれることはまずないだろうなぁ……。それにしてもキスまでするとは……罪な男……。


「羽村怜人=保呂草」の図式は、最初からなんとなく予想できた。


読んでいる最中は根拠のない直感と、変装がありうる彼の性質があるための予想だったが、改めて読み直してみるとタバコを吸う点、レストランでのピザとビールの組み合わせなど保呂草の特徴が垣間見える。注意深く読んでいれば、直感的ではなく論理的に気づけていたかもしれない。


あとは大笛(羽村に惚れた女性)にとって都合の良すぎる存在だったから、明らかに怪しさは感じる。それが保呂草と感づけるかどうかは別にしても。


毎回カッコいいと思うけど、今回はとくに保呂草さんカッコよかったな。とくにラスト。だからこそ読後感がいい。普段飄々とした人物がみせるふとした時の男前さは強い。惹かれる。


未だに謎多き男、保呂草だけれども過去についてチラッと触れている箇所があった。

まだ若かった私は、貨物船に乗って海を渡った。祖国から逃げ出したのだ。そうなるまでの無数の原因を、小さな無数の蟻たちが巣穴へ運び入れた結果だった。

(引用:恋恋蓮歩の演習 P13)


海外に行っていた描写は以前にあったんだけど、それとは別にもともと日本にはいなかった…?



──『恋恋蓮歩の演習』

タイトルが印象的なので毎度おなじみの森博嗣。今回の『恋恋蓮歩の演習』の字面も、まぁ一度見たら忘れないであろうインパクトのかあるタイトル。「恋」と「演習」の並びで擬似恋愛のようなことが起きるのかな?と思っていたが……当たらずも遠からずって感じ。


ちなみに調べてみたら

『恋恋』は、「恋い慕う情の切なこと」

『蓮歩』は、中国の故事で「美人のあでやかな歩み」

とのこと。


個人的な解釈だけれども『恋い焦がれながらも、それを周りに感じさずに取り繕う』って感じ。


読了後にタイトルの意味を踏まえてしこさんと大笛の気持ちを思うと……切なさが溢れてくるな。



【オススメ】




『六人の超音波科学者』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】

未来は過去を映す鏡だ。
心配する者はいつか後悔するだろう。
自分が生まれ変わるなんて信じている奴にかぎって、ちっとも死なない。

(引用:六人の超音波科学者 P27/森博嗣)

森博嗣のVシリーズ第7弾『6人の超音波科学者』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

あらすじ

土井超音波研究所、山中深くに位置し橋によってのみ外界と接する、隔絶された場所。所内で開かれたパーティに紅子と阿漕荘の面々が出席中、死体が発見される。爆破予告を警察24時送った何者かは橋を爆破、現場は完全な陸の孤島と化す。真相研明に乗り出す紅子の怜悧か論理。美しいロジック溢れる推理長編。

感想

橋を落とした理由、首と手が切断してなくなっていた理由、壁に残された暗号、消えた死体、そして犯人……。色々推理しながら読み進めてはいたものの、今回も正しい答えに行き着くことはできないまま、紅子の理路整然の推理を目の当たりにして読了。紅子がキレイに推理をあかしてくれたのでスッキリとした読了感だった。


練無が事件に巻き込まれ、殺される寸前にまでなってしまったことに対して紅子が激昂した場面が印象深かった。普段はクールな印象が強いけど、叫ぶほどに怒りをあらわにする熱い一面が垣間見えた。まぁその怒った理由も単に『友達である練無が襲われたから』ではないあたりが紅子らしいとえばらしいけど。

「小鳥遊君が私の友達だから言ってるのではありません。そうではない。何の関係もない、何も知らない人の首を絞めたのですよ。モルモットでも、ネズミでもない。どうです?関係のない者を殺すことは、私は絶対に許さない」

(引用:六人の超音波科学者 P344)




──紅子と祖父江

細かい人間関係の様子が相変わらず面白い。保呂草の紅子と祖父江の対応の違いで、無響室での救出場面の扱いの差は笑ってしまった。もちろん祖父江の自業自得である。


紅子と祖父江の険悪な関係は前から描かれているが、その中でも今回は群を抜いてバッチバチ。

「ちょっと待って」七夏は紅子の前に立った。「どういうことなんですか?私にわかるように説明して下さい。瀬在丸さん、博士たちと何か取引でもなさったのですか?そんなふうに見えますよ」
「ごめんなさいね、申し訳ないですけれど、私の前から、どいていただけないかしら?」紅子は微笑んで言う。「今、お話ししますわ。ゆっくりと落ち着いていらしてね。理解するのに慎重な方にも、順を追って飲み込めるように、噛み砕いてご説明いたしますから、どうかこの場は、もうしばらく私に任せていただけないでしょうか?それとも、何かのパフォーマンスで強気に出てらっしゃるの?通路に警察の方々がいらっしゃいますよ。ご自重なさった方がよろしいんじゃなくて?」
「あの……」七夏は顔を真っ赤にして口を開きかけた。しかし、林を一瞬だけ見て、溜息をつき、黙って小さく頷きながら後ろに下がった。
「ありがとう」紅子が小首を傾げる。「感情をコントロールできる理性をお持ちだったのね。

(引用:六人の超音波科学者 P376-377)


これ言葉遣いがいいから皮肉で済んでるけど、言ってることは「今からお前みたいな馬鹿にでもわかるようにきちんと説明文するから黙って聞いてろ、身内に恥晒してるのにも気づいてないの?」って事だからなぁ……紅子容赦ない。


祖父江は争うには相手が悪すぎなんだよ……哀れだ。読者の大半は、紅子派だろうからなんとも思わないだろうが。むしろ爽快である。


P350-351で描かれる、林との電話のやりとりも面白かったので引用したかったが長いので割愛。

──表紙に隠されているもの

Vシリーズの表紙は抽象的でカラフルなのが特徴としてあげられる。なかには意図がわからないものもあるが『六人の超音波科学者』の表紙に隠されているものは、比較的わかりやすい。

中央に正三角形が二つ、上向きと下向きで重なっている。よく見かける幾何学模様だ。そう、占星術だったか、悪魔を呼ぶ魔法陣だったか……。

(引用:六人の超音波科学者 P56)




──印象に残ったセリフ

人間というのは、多少は不便な方法であっても打つ手がある場合にはそれを使う。それが使えることで、それ以外の方法を考えられなくなってしまう

(引用:六人の超音波科学者 P395)

共感しかわかない。
改善したほうが良いことはわかっているのに、それができない。


実に、偶然と必然は、紙一重といわねばならない。
あまりにも特別な偶然があったとき、それは、必然として理由をこじつけられるか、あるいは、奇跡と呼ばれるしか、道はないのである。

(引用:六人の超音波科学者 P404)



【オススメ】




『魔剣天翔〈Cookpit on Knife Edge〉』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



森博嗣のVシリーズ第5段『魔剣天翔』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。前回の感想はコチラ。


『夢・出逢い・出逢い』の感想

目次

感想

前作の『夢・出逢い・魔性』と比べると読みやすくて、サクサクと読み進められた。


飛行機?の中、空中密室の殺人というインパクト。
時限装置説や、離陸前にすでに撃たれていた説は練無や紫子があげていたけど、私が考えついたのも彼女らと同じレベルの所までだった。


紅子のように視点を180度変えての発想と、論理的な思考力……かっこいいわ。今巻での紅子の活躍で一番印象に残ってる場面は、タクシーに乗っていた各務にワインボトルを渡して、各務の指紋を取った場面。


物語後半、林へのプレゼントという形で、あのときの行動の答え合わせをしてくれた訳だが……鳥肌たったね。

「このボトルに、斎藤静子さんの指紋があります」紅子は澄ました表情で言った。「わたし、あのとき、わざと彼女にこれを握らせたの。だって、ずっと姿を隠していた保呂草さんが、あんな時間に慌てて戻ってきて、しかもタクシーの中で待たせている女なのよ。興味が湧くのが当然でしょう?普通のじゃないって思ったものですから、つい……」

(引用:魔剣天翔 P400)


指紋をとるって発想もそうだし、物事への嗅覚の良さが半端ない。

──脅迫状

P115に出てくる脅迫状。なんらかの意図があるのだろうとは思っていたものの、出てきた段階で解読はかなわなかった。しかし、物語後半で紅子が「各務亜樹良」の名前が入っていると語っていて……!

ヨワキココロヨ
スカイボルトヲイダ
ソノモノノチルハサイワ
ヒトハチリテマケンハト
アタラシキチヲハサキニソソ
テンクウニミルユメハサラニトオ

(引用:魔剣天翔 P115)



脅迫状は、末尾の文字を50音順を1つ前にずらすと『キギムイクリ』→『カガミアキラ』になる。



暗号としては、奇抜な訳じゃないが……ノーヒントじゃなかなか気付けないよなぁ……。保呂草の遊び心。



──練無の過去

練無に関係の深い登場人物、杏奈の登場によって練無の過去の鱗片が垣間見えたのだが……。切なかったな……とくにラスト、あの明るさの裏にある本音の部分が見えた。


癖が強い阿漕荘のメンバー、その中でもとくに練無は女装趣味の上、少林寺が使える…とVシリーズを読み始めた頃から「どうしてそうなった」と思っていた。


でも蓋をあけてみれば……と。一途なんだなぁ……それに物語の結末を知ってしまうて切なくて切なくてしょうがない。


練無だけではなく、保呂草の新たなる一面や、紅子と林の離婚のいきさつ(?)にも少し触れられ、よりVシリーズを読むのが楽しくなってきた。この『魔剣天翔』でちょうど折り返しだしね。




──印象に残ったセリフなど

もしかすると、飛んでいる姿が美しいと感じるのは、バックに大空があるためであろうか。

(引用:魔剣天翔 P11)

飛行機がなぜ美しく感じるのか
なんか納得


ところで、私は美術品がとても好きだ。その中でも、特に絵画に興味がある。それが好ましく、あるいは美しく感じられる理由(あるいは対象)は、物体としての「絵」そのものにはない。つまり、そこに描かれているものに対する美ではありえない。もしそうならば、絵画の写真を撮れば、ほぼ自分のものになるのだろう。そうではなく、絵筆を持ちキャンパスに向かっている画家の姿、その目、その手、その姿勢、その生きざまのすべてが、つまりは、「美」として、彼の絵の中に焼き付いているのだ。
それを私は観る。
結局のところ、人が作ったものを美しいと感じるのは、すべてこのシステムによるものだと、おぼろげながら、私は考えている。まだまだ言葉が足りないと思うけど、この辺でやめておこう。

(引用:魔剣天翔 P13)

人が”美しい”と感じる理由。
美しさは物語の過程に宿る。苦悩とも言える。

どんな出来事でも、ある観測点から見れば奇跡である。したがって、どんな事象についてもほとんど例外なくいえることだが、今回の物語も、いろいろな偶然が重なった、その結果だった。つまり、偶然というのは、人が偶然だと感じる、ただそれだけの評価であって、その気になって観察すれば、自然界のいたるところに偶然は存在する。木の葉は偶然にも、私の足元に舞い降りる。こんな奇跡的なことが無限に発生して、日常を形成するのだ。

(引用:魔剣天翔 P18)

偶然とは、人が偶然だと感じる、ただそれだけの評価。


前置きがあったように、偶然が多い物語だったのは確か。しかしそれは読者がそう感じただけ?


最後に

名言?好きなセリフが多い巻だった。ミステリとしての面白さもあるし、上記で引用したような印象に残るセリフがたくんあるのも森博嗣を好きなところ。



【オススメ】




『夢・出逢い・魔性』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】


どんな記録でも、多かれ少なかれ同じだと思う。しかもそれがずっと以前のことであれば、なおさらだろう。記憶とは、想像力が作る記号なのだ。

(引用:夢・出逢い・魔性 P30/森博嗣)


森博嗣のVシリーズ第4作品目、『夢・出逢い・魔性』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。前回の感想はコチラ。

【『月は幽咽のデバイス』の感想】

目次

感想

犯人視点での怪しげな雰囲気、立花亜裕実視点での夢の中の不可解な様子など要領を得ない不思議な様子が不気味で後をひく。


しかしそんな暗いイメージとは対象的に密室トリックなど事件の全容は紅子から大盤振る舞いで解説されるのでスッキリとした読後感があった。カメラの前できっと何かやってくれるだろうという期待通りに、まさにカメラの前での推理ショーは気持ちがいい。


トリックも犯人もまったくわからなかったので、私は完全に紅子のショーを見る観客の一部だった。


立花亜裕実の要領を得ない証言と夢、そして被害者との奇妙な関係もあり、ヒントとミスリードがよく読み切れなかったのが、真相にたどり着けなかったの大きな要因かな……。


──タイトル

見るからに意味ありげなタイトルな『夢・出逢い・魔性』。サブタイトルの『You May Die in My Show』。そして読み方を変えて『夢で逢いましょう』のトリプルミーミング。相変わらず遊び心満載。


当たり前だが、読む前はタイトルの意味わけわからんけど、読んだあとはストンと納得できるのは流石。こういうのは先にタイトルを決めてから物語を作るのか、物語を作ってる途中で思いつくのか……。



──性別と先入観

練無が設定(女装)が物語のキーであったのは言わずもがな。その他にも序盤、犯人がに運転していたタクシーに保呂草たちは偶然乗り合わせたわけだが、タクシー運転手の多くが男性のため、その先入観のせいで、謎が深まってしまった。


そして何より驚いたのは、稲沢が女性であったこと。男だって言ってなかったっけ…?と思い読み返してみたところ

稲沢真澄と会うのは、3年ぶりだ。保呂草が海外にいるとき、日本から観光旅行でやってきた稲沢と妙な経緯で同じホテルになった。そのあと、一週間ほどずっと彼と一緒だった。

(引用:夢・出逢い・魔性 P58)


やはり彼って書いてある……!と思ったが、実はこれが三人称で語られているため、彼=稲沢ではなく、彼=保呂草、というトリックらしい。個人的にはグレーな気もする。


しかし、彼女の名前が真澄(ますみ)で男女どちらともとれる名前を採用していたことで疑えるヒントは隠れていたのだろう。


──印象に残ったセリフなど

自分の夫が殺されたばかりなのに、彼女は落ち着いていた。どこか冷めている。保呂草にはそれが不思議であり、また、自然であると思えた。これが、人間の本性、本来の動物としての機能かもしれない。愛する者の死、仲間の死を受け入れるために、まるでローンを組むように、少しずつショックを分散するのだろう。

(引用:夢・出逢い・魔性 P190)

いずれにしても、人ほど、自分の皮膚を不安に感じる動物はいない。人は服を着る。そのうえ家に籠もる。家や城を築く。堀や城壁で取り囲む。さらには、村を作り、国を作る。そうして、社会というシールドを構築し、常に、その綻びに目を光らせ、直し続けるのだ。
それが、人間という動物だろう。
幾重にも及ぶかぶりもの一生を脱がないまま、生きていこうとする。
最後には死装束に棺桶。

(引用:夢・出逢い・魔性 P414)
著者の、人について、生と死について、などの考え面白いんだよな。『最後には死装束に棺桶』とは皮肉がきいてる。

私がかぶっているものは、それが好きらしい。

(引用:夢・出逢い・魔性 P417)

保呂草の最後の言葉。あいも変わらず彼はミステリアス。本物の保呂草は何者なのか……。そもそも本物ってなんなのか……。



【オススメ】