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『クジラアタマの王様』の感想・考察:夢と現実とハシビロコウ、伊坂マジックの新境地【伊坂幸太郎】


2022年7月に文庫化された伊坂幸太郎の『クジラアタマの王様』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『クジラアタマの王様』あらすじ・紹介】


目次

あらすじ

記憶の片隅に残る、しかし、覚えていない「夢」。自分は何かと戦っている?──製菓会社の広報部署で働く岸は、商品の異物混入問い合わせを先輩から引き継いだことを皮切りに様々なトラブルに見舞われる。悪意、非難、罵倒。感情をぶつけられ、疲れ果てる岸だったが、とある議員の登場で状況が変わる。そして、そこにはおもいもよらぬ「繋がり」があり……。伊坂マジック、鮮やかに新境地。

(引用:クジラアタマの王様 裏表紙/伊坂幸太郎)



感想

読んでいると、突如漫画のようなイラストが現れてビックリ。このイラストの意味は、夢の中のもう一つの世界であることは後に明かされるわけだが、最初はとにかく気になって読み進めるばかりだった。


全体を通しての感想としては、面白かったな。夢中になって読めた。私自身は、伊坂幸太郎の作品は数冊しか読んだことがなく、今回の『クジラアタマの王様』は久しぶりに触れた伊坂作品だったわけだが、久しぶりがこの作品でよかった。


ストーリーのテンポのよさ、主人公のユーモアさによる軽快さ、夢の中の不思議さ・わくわく、張り巡らされた伏線、ムダのない展開、そして独特で特徴的なイラスト……良かったところをあげるときりがない。


特に夢の中の出来事を、セリフなしの漫画で描いているわけだが、これがいい味をだしてる。ぶっちゃけ漫画部分(夢)の要素がなかったとしても面白い作品だったろうが、漫画部分が小説部分を引き立てるいい役割をしていたと思う。


──人の悪意・非難

今の時代、ちょっとしたことでも問題が起きればネットで炎上し、非難の的として晒し上げられる世の中である。個人的にはそこまで大騒ぎしなくても……と思うところではあるが、ネットでは毎日、大小様々な炎上が起き、匿名をいいことに好き勝手に言う輩が多くいる。


本作でも、マシュマロの異物混入や、新型インフルエンザの初期感染で岸の会社や、岸・岸の家族がターゲットにされてしまう。しかし"夢"でも勝利もあり、無事に問題を解決方法し、炎上を抑え、マスコミを黙らせる。このあたりが読んでいて気持ちよかった。


新型インフルエンザの題材は、やはり現在のコロナ禍において身近に感じすぎるテーマで、共感する部分がとてもあった。だがしかし、この『クジラアタマの王様』単行本の発売が2019年の夏である。コロナが猛威をふるい始めたのが、2019年の冬にだったのでまだコロナとはまったく関係ない時に生まれた作品である。偶然とはいえテーマ的には、今の時代に刺さる一冊である。


──クジラアタマの王様

ハシビロコウがラテン語で「クジラアタマの王様」というのは、物語終盤で明かされたが、詳しく説明されているページを見つけたので引用。

学名「Balaeniceps rex」は、それぞれラテン語で、balaena:クジラ+ceps:頭 とrex:王様 からなります。すなわち「クジラ頭の王様」。
その特徴的なクチバシの形状を含む頭部のシルエットがクジラの姿に似ていることに起因しています。
英名の「Whale-headed Stork」はずばり「クジラ頭」です。別称のShoebillは、「靴のようなクチバシ」ですが、これはやはり頭部のシルエットが靴の形に似ていることからそう呼ばれます。
和名のハシビロコウは「クチバシが幅広いコウノトリ」の意です。

(引用:https://www.city.chiba.jp/other/shoebill/shoebill.html)






──夢の世界についてと考察

現実の世界と、夢の世界の関係がストーリーに大きく関わってくるわけだが、2つの世界の関係がわかりそうな部分をピックアップしていく。


・現実の岸と、夢の中の岸は容姿がそっくり。そして夢の中で見た紙に書かれた生年月日と、実際の岸の生年月日が一致。(P89)

・「自分以外の誰かが、自分を操作している、そう感じることはないか」
夢の中の池野内さんのセリフ。(P237)

・現実の人物が夢の世界を寝ているときに見るのと同様に、夢の世界の人物は現代の夢を見ている。(P360)

・岸、池野内、小沢の三人は境遇が似ている。同じ火事に遭遇、子供の頃の不遇さ(P92、P139、P154)

・岸、小沢は金沢、法船寺に行ったことがある。(P154)
法船寺の義猫塚は実際にある場所で、本書で話されていたように猫と鼠の伝説がある。下記ページで詳しく載っている。


・夢の中の戦いは現実世界と関係している。簡単に言えば、夢の中で勝てれば現実の問題が解決する。(P245)

・「向こうの自分がトラブルを乗り越えると、こっちの敵が倒せるんだ」(P417)。夢の中と現実は同じような関係なのがわかる。

・岸の会社の創設者は、法船寺に行ってから、変な夢を見るようになった。(P432)



◎簡単な考察
・夢のきっかけ
夢の世界とのきっかけが法船寺を訪れることとすると、岸の初めての戦いは火事のオオトカゲということになる。P251で「子供のころのいじめも、夢で勝ったから解決したのでは?」と池野内から言われていたが、これは誤りだと思われる。
岸も『いじめられている状況を打開したのは自分の頑張り、自分が出した結果だったはずだ』と強く考えている。


・敵はすべて動物がモチーフ
そして、その動物と現実の問題の関連性がある。
一番最初のページに書かれた敵は、ヘビ、ゴリラ、ゾウ。また物語中に登場する敵もオオカミ、サル、そして岸たちが戦うハリネズミ、トラ、クマ、トカゲ、トリ(ハシビロコウ)……と敵はすべて動物がモチーフとなっている。


また、画鋲だからハリネズミ
火事だからオオトカゲ(サラマンダー)
鳥インフルエンザだから鳥(ハシビロコウ)
トラとクマは……まぁ言うまでもない。
というように、現実問題と動物の種類にも関連性がある。



・夢の戦いは不可抗力からの救済?
夢の戦いは、自分の過失とは関係ない、理不尽なトラブルに巻き込まれた際の救済措置のように思える。


今回の、異物混入、火事、インフルエンザはどれも岸自身の過失ではなく、巻き込まれた結果である。


池野内は、子供のころのいじめ問題を、夢で勝ったから解決したと言っていたのが、このケースに当てはまらない気がする……。いや、子供のいじめなんて自分に過失がなくても起こる天災みたいなもんでしょ(暴論)


──印象に残ったセリフ・名言

「どうするんですか、これ」
ネット検索の結果を映し出しているノートパソコンを僕は指差す。こちらを破滅させる呪文、もしくは、僕たちを地獄の底に引きずり落とそうとする餓鬼たちの詰まった壺のよくに思えてならない。今もこの端末の中で、それが増幅し続けているのだ。

(引用:クジラアタマの王様 P37)

岸のセリフは、いちいちユーモラスで面白い。上記は、画鋲の件での、ネットの炎上について。

「私がいれば、ツキノワグマもトラもみんな言うことを聞くからね。安心してほしい」というメッセージらしかった。その後の映像では、グレーヘアの男が動物たちと親しそうに、まさに友達の如く触れ合っている。
職場での部長と栩木係長のことがふいに思い出され、人間同士のほうがよほどぎくしゃくしている、と考えてしまう。

(引用:クジラアタマの王様 P131)

『人間同士のほうがよほどぎくしゃくしている』
なかなかに皮肉がきいてる。

最後に

ファンタジックな作品大好きだから特に刺さった一冊だったのかもしれない。著者の作品はあまり詳しくないので、「『クジラアタマの王様』が好きならこの作品もハマるはず」ってものを教えて頂けると非常にありがたい。







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【オススメ記事】






『未踏の蒼穹』の感想を好き勝手に語る【ジェイムズ・P・ホーガン】


「ずっと昔から伝わっているんだ。カテクには重要な秘密が隠されている。《中略》生命とはなにか、それはどのようにして始まったのか、わたしたちはどこから来たのか?」
「誰?人間のこと?」
「そうだ。わたしたちみんなだ。その答がカテクの中にあると考えられている。だがいまだにだれも解読できていない」

(引用:未踏の蒼穹 P83/J・P・ホーガン)


2022年1月に発売されたジェイムズ・P・ホーガンの『未踏の蒼穹』
これは、2007年2月に『Echoes of an Alien Sky』として刊行されたもので、15年の時を経て、ようやく邦訳、発売となった。今回はそんな『未踏の蒼穹』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。





目次

あらすじ

金星文明は、かつての栄華を誇りながら絶滅した文明が存在する惑星、地球〈テラ〉の探査計画に取り組んでいた。テラ文明はなぜ滅んだのか?月の遺跡で発見された、テラ人が持っていたはずのない超技術の痕跡は、何を示唆しているのか?科学探査隊の一員カイアル・リーンは、テラ文明が遺した数々の謎に挑む──。ハードSFの巨星が放つ、もうひとつの『星を継ぐもの』ついに邦訳。

(引用:未踏の蒼穹 裏表紙)


感想

あらすじに《もうひとつの『星を継ぐもの』》とあるように、『星を継ぐもの』に似た要素はあった。


具体的には、『星を継ぐもの』は、月で発見された人と似た生命体の起源を探る話。
対して『未踏の蒼穹』は、金星人たちが自分たちと似ている地球人について調べ、地球人並びに金星人の起源を探る話である。


『未踏の蒼穹』は、『星を継ぐもの』より圧倒的に未来の話なので、この二つの直接的な繋がりはない(もしかしたらあったかもしれないが、私は気づかなかった)。


正直な感想を言えば、文句なしに面白かった!!とは言えないかな。ハードSF、冒険SF、ロマンスなどの要素が詰め込まれて順当に物語は進み、ハッピーエンドで締めくくられる。普通に面白いが、【もうひとつの『星を継ぐもの』】というあらすじの触れ込みに期待して読むと少しがっかりするかもしれない。


「金星人の正体は、テラ人の子孫である」というのは、まぁ読者の予想の範囲内であろう。
テラ人が滅亡した時には、金星はまだ、人が住める状況ではなかった。そのため金星への単なる移住では話が合わない。本書の言葉を借りるならタイムスケールが合わない。


【金星人=テラ人】であろうという考えては、読者はすぐに浮かぶだろう(金星人の立場からしたら、あんな暴力的なテラ人と繋がりがあるとは、あまり思えないだろうが)。なのでその答えをどのようにすり合わせていくのか?結果より過程を楽しむのが本書の見所であると思ったし、プロヴィデンスに迫っていく様子はワクワクした。


あとは、金星人からみた過去の地球人についての見解も面白かった。物語の舞台が遠い未来の話だから、『過去の地球人』というのが丁度我々なわけだが、地球人をホントに客観的に見てる様子が新鮮だった……粘り強く、そして愚かな地球人……。

──カテクとプロヴィデンス

序盤にカテクの説明が絵?付きであったときに、「あ、これは明らかに重要なやつだな」って注目してたけど、期待通り最後はキレイにまとまっていた。


カテクについて語られていた部分を引用・書き出しをしていく。



・その形は金星で"カテク"と呼ばれている記号で、昔から幸運のシンボルとされていた。(P81)
・カテクは帰郷とも関連があった。(P81)
・実際のカテクのマークP81にあり。

「ずっと昔から伝わっているんだ。カテクには重要な秘密が隠されている。哲学者たちや科学者たちが一日中それについて議論したり長い本を書いたりしているがほとんどの人にとっては悩んでもしかたながない大きな謎のひとつだ。生命とはなにか、それはどのようにして始まったのか、わたしたちはどこから来たのか?」
「誰?人間のこと?」
「そうだ。わたしたちみんなだ。その答がカテクの中にあると考えられている。だがいまだにだれも解読できていない」

(引用:未踏の蒼穹 P83/J・P・ホーガン)


・カテクは、プロヴィデンス計画のロゴマークに似ていた。(P342)
・地図とカテクの形が一致する(P385、P410)




──悪役ジェニンを登場させたわけ

〈進歩派〉で言語学者のジェニン・ソーガン。ロリライには振られ、最後はテラを滅亡させた病原菌に感染し虚しい結末を迎える。物語にジェニン以外の悪役は登場しないが、そのジェニンも悪役としては中途半端が否めない。


彼の役割としては、悪役としての物語の盛り上げというよりは、『テラ人は金星人の祖先である』という本書の核心に対するヒントを与えている役割だと考える。


物語の多くの場面で、「金星人はテラ人のように暴力性はなく、協力的な人種である」というような主張がされている。


しかし、ジェニンは金星人が重視する考えから外れ己の欲のために行動をするようになる。つまりテラ人が持つような支配欲や暴力性があるように振る舞い始める。


テラ人のような暴力性、支配性を持った金星人もいる。つまり、金星人にもテラ人が持っていた考えを潜在的に持っているということを表している。よってテラ人と金星人の子孫の可能性がある……という訳だ。




──印象に残ったセリフ・名言

人類はたくさんのものを生み出してきたのになにも学んでいない。わたしたちの種族の潜在意識の奥底には国家を暴力と相互破壊の饗宴に駆り立てるなにかがあるようだ……。

(引用:未踏の蒼穹 P176-177)


それでも、彼らはこの地に立ち寄ったという記録だけは残した。自分たちが何者で、どんな来歴をもっているのかの記録を。そうしておけば、まるで彼らが存在しなかったかのように宇宙がそのままずっと続いていくことはないだろう。

(引用:未踏の蒼穹 P412-413)










【オススメ記事】






『流星の絆』の感想を好き勝手に語る。【東野圭吾】


14年後、彼らが仕掛けた復讐計画の最大の誤算は、妹の恋心だった

(引用:流星の絆  帯/東野圭吾)

 

 

今回はドラマ化された東野圭吾の大人気作品『流星の絆』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。

 
【書籍情報】
タイトル:流星の絆
著者:東野圭吾
出版社:講談社文庫
ジャンル・要素:ミステリー・恋愛
ページ数:617ページ
刊行年:2014年に4月(文庫本)
映像化:2008年にドラマ化
読後感:スッキリ

 

 

あらすじ

何者かに両親を惨殺された三兄妹は、流れ星に仇討ちを誓う。14年後、互いのことだけを信じ、世間を敵視しながら生きる彼らの前に、犯人を突き止める最初で最後の機会が訪れる。三人で完璧に仕掛けはずの復讐計画。その最大の誤算は、妹の恋心だった。涙があふれる衝撃の真相。著者会心の新たな代表作。

(引用:流星の絆 裏表紙)


幼い三兄妹はある日、流星群を見るために、こっそりと家を抜け出した。しかし、三兄妹が帰宅すると両親が自宅で惨殺された。

 

三兄妹は施設で幼少期を過ごした後に、相次いで詐欺などに襲われ、強く生きるためいつしか彼ら自身も、詐欺を行いながら生きてきた。

 

そして次のターゲットの父親が、両親が惨殺されたときに家から出てきた人物に似ていることに気付く。ある「きっかけ」から3人はこの人物が犯人だと確信し、完璧な復讐計画を仕掛ける。

 
その最大の誤算は妹の恋心だった。
そして事件の衝撃の真相とは...!?

 
 

感想

ページ数は600ページと多いが、それを感じさせないスリリングな展開の連続。そして最後の最後まで気が抜けない小説の醍醐味をあじわえる作品で一気読みだった。文句なしに面白い。


メインは復讐劇のわけだが、「詐欺」「禁じられた恋」などの要素が絡められながら物語が進んでいく。


あらすじに『最大の誤算は、妹の恋心だった』とある。妹が好きなってしまった相手が実は……という訳なのだが、この妹の葛藤が実に胸にくる。


″運命を共にしてきた兄達″と″自分達の仇の息子″、どちらを取るべきかなんて決まってる。けどまぁ理屈じゃないんだよなぁ……。あちらを立てればこちらが立たずの状況だけども、真犯人の存在でその状況が一変すると。


この落とし所が完璧で、戸神が犯人じゃないなら当然、仇の息子ではなくなるし、それなら兄たちを裏切るわけではなくなる。


警察が犯人な訳がない……という裏をついたどんでん返しの結末と、3兄妹の絆が守られ、静奈と戸神が無事に結ばれてのハッピーエンド。見事なくらいキレイに物語がまとまっていて、読後感も非常によかった。


600ページと長いもののスピーディーな展開、そしてエンタメ要素(詐欺の計画や、禁じられた恋)とミステリ要素(最後のどんでん返しなど)のバランスがよくて、飽きがなく読み続けられるオススメの一冊だった。

最後に

確かだが、私が東野圭吾の作品で初めて読んだのが『流星の絆』だった。思い出補正もあるかもしれないが、それを差し引いても名作であることは間違いない。



【オススメ記事】






2分でわかる『マスカレード・ゲーム』のあらすじ・紹介【東野圭吾】




今回は、2022年4月20日に発売した東野圭吾『マスカレードシリーズ』の最新作『マスカレード・ゲーム』のあらすじやどんな内容なのかを重要なネタバレを除いてを紹介していく。



目次

1.はじめに

『マスカレード・ゲーム』は、『マスカレード・ホテル』からはじまるシリーズ作品である。以下、シリーズ一覧。

1.『マスカレード・ホテル』
2.『マスカレード・イブ』
3.『マスカレード・ナイト』
4.『マスカレード・ゲーム』

過去作を読んだことない方は、とりあえず『マスカレード・ホテル』から読み進める事をオススメする。シリーズの紹介をしているので詳しくは下記リンクからどうぞ。

『マスカレードシリーズ』一覧・あらすじ紹介




2.あらすじ

解決の糸口すらつかめない3つの殺人事件。
共通点はその殺害方法と、被害者はみな過去に人を死なせた者であることだった。
捜査を進めると、その被害者たちを憎む過去の事件における遺族らが、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。
警部となった新田浩介は、複雑な思いを抱えながら再び潜入捜査を開始する──。
累計490万部突破シリーズ、総決算!

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4087754618)


不可解な殺人事件が3件、連続で発生する。この3つの殺人事件に共通すること、それは前科持ちだったこと……被害者は全員、過去に人を殺したことのある人物だったのである。


復讐目的の犯行かと目星をつけた警察は、過去の事件の遺族たちに捜査の手を伸ばすものの、なかなか決定的な証拠をつかむまではいかなかった。


そんな中、その過去の遺族たちがクリスマスイブにホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明する。


この絶好の機会を生かすべく、警部となった新田浩介は、再びホテルマンとして潜入捜査を開始するのであったが、今回もまた次々と問題が浮かび上がってきて……。

3.あらすじ補足

もう少し踏み込んで『マスカレード・ゲーム』について紹介していく。
重要なネタバレには触れないが、ちょこちょこと物語の中身に触れていくので嫌な方は戻る推奨。
















今回の『マスカレード・ゲーム』では、新たな主要人物が登場する。それが女性警部の梓 真尋である。頭がキレ、優秀な人物なのは間違いないのだが、我の強い部分があり、『マスカレード・ホテル』初期の頃の新田を思い出させる。


梓は、事件を解決させるためなら、盗聴・盗撮など手段を選ばない捜査方法で違法ではあるものの、着実に事件の輪郭を明らかにしていく。新田は、これまでの経験があり、更にはホテル側との信頼関係もあるため、無茶な捜査を進める梓と衝突を繰り返すこととなる。
そんな二人のやりとりは、かつての新田・山岸を連想させられるものだ。


さて、ではそんな山岸は?という疑問は当然浮かぶだろう。時系列的には『マスカレード・ゲーム』は、前作『マスカレード・ナイト』の数年後。なので山岸はまだロサンゼルスから戻ってきていないのである……。


だがしかし、ちゃんと山岸は本作に登場し再び新田・山岸ペアを拝むことができるので、二人の活躍を期待している方は安心して読んでもらって大丈夫だ。


肝心の殺人事件の方だが、物語が始まった段階で既に3つの事件が起きていて、次の事件現場として可能性が挙がったのがホテル・コルテシア東京。なんとか事件を阻止するべく新田たち刑事が潜入捜査を行う……という流れなわけだが……。そう、この流れ『マスカレード・ホテル』とかなり近い展開なのである。


もちろん、事件の展開まで同じということはないので、そこは安心してほしい。しかし、似た展開の中での新田・山岸の関係の変化を感じられるのは、今作の大きな見所の一つと言っていいだろう。


事件だけでなく、"シリーズ作品"としての楽しみも大いに堪能できる一冊となっている。これまでの『マスカレードシリーズ』を読んできた方にとっては、必読といっていい作品だろう。


最後に

先程も述べたが、シリーズ通して読んでいる方には、是非勧めたい一冊。ネタバレありの感想等は、下記で書いているので既に『マスカレード・ゲーム』を読んでいる方は是非、どうぞ。

【『マスカレード・ゲーム』感想】





【オススメ記事】






和製ファンタジーといえばこの人!!上橋菜穂子の作品一覧・あらすじ・読む順番等を紹介



和製ファンタジーといえばこの人!!というほどの知名度を持つ上橋菜穂子


その緻密に作り上げられた世界観、登場人物たちの関係性や気持ち、著者の民族学者ならではの知識を生かしての物語……など、子供向けかと思いきや大人が読んでも面白い。また子供の頃読んだことがあっても、大人になった今読んだらまた違う視点で物語を楽しめること間違いない。


今回は、上橋菜穂子の作品をすべてまとめて紹介していく。(エッセイ等は除く)




目次

上橋菜穂子の作品一覧・読む順番

以下、著者の小説一覧である。《》内は刊行年。

1.精霊の木《1989年》
2.月の森に、カミよ眠れ《1991年》
3.精霊の守り人《1996年》
4.闇の守り人《1999年》
5.夢の守り人《2000年》
6.虚空の旅人《2001年》
7.神の守り人〈上〉来訪編《2003年》
8.神の守り人〈下〉帰還編《2003年》
9.狐笛のかなた《2003年》
10.蒼路の旅人《2005年》
11.天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編《2006年》
12.天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編《2007年》
13.天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編《2007年》
14.流れ行く者〈守り人短編集〉《2008年》
15.炎路を行く者〈守り人短編集〉《2012年》
16.風と行く者〈守り人外伝〉《2018年》
17.獣の奏者〈Ⅰ闘蛇編〉《2006年》
18.獣の奏者〈Ⅱ王獣編〉《2006年》
19.獣の奏者〈Ⅲ探求編〉《2009年》
20.獣の奏者〈Ⅳ完結編〉《2009年》
21.獣の奏者〈外伝刹那〉《2010年》
22.鹿の王《2014年》
23.鹿の王 水底の橋《2019年》
24.香君《2022年》


読む順番は、シリーズの途中からでなければ、好きなもの・気になったものから読めばいいだろう。個人的に上橋作品で一番好きなのは『獣の奏者』なので、そこは推しておく。

以下では、シリーズ事に各作品を紹介していくので、そこで気になった作品が見つかれば幸いである。

1.『精霊の守り人』シリーズ

──あらすじ

 老練な女用心棒のバルサは新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズは今始まる


──言わずと知られた和製ファンタジーの代表作
小さいときから読書家だった方なら必ずと言っていいほど通るであろう上橋菜穂子の代表作、『精霊の守り人』シリーズ。以下シリーズ一覧。


【守り人シリーズ・作品一覧】

1.精霊の守り人
2.闇の守り人
3.夢の守り人
4.虚空の旅人
5.神の守り人〈上・下〉
6.蒼路の旅人
7.天と地の守り人〈1〜3部〉
8.流れ行く者〈短編集〉
9.炎路を行く者〈短編集〉
10.風と行く者〈外伝〉


短編集まで含めると全10作品で、『○○の”守り人”』は主人公がバルサという女短槍使い。『○○の”旅人”』は主人公がチャグムという皇子、といった構成となっている。


児童書という枠組みでもあるので、子供向けの作品なんじゃないの?と思われる方もいると思うが、ところがどっこいこのシリーズ、大人が読んでも面白い


純粋な気持ちでストーリーを楽しめる子供時代に出会ったとしても間違いなく面白いだろうし、大人の視点では、世界観の緻密さ、登場人物たちの関係性や気持ち、著者の民族学者ならではの知識を生かしての物語……面白い点が多すぎて物語の世界に没頭してしまうことだろう。


それでありながらキャラクターたちがそれぞれ魅力的で、彼らの会話のやり取りも読みやすい。そしてストーリーも小気味よく進むのでサクサクと読み進めることができることから子供向けというのも納得だ。

2.『獣の奏者』

──あらすじ

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが──。苦難に立ち向かう少女の物語が、今ここに幕を開ける!

──少女の執念は世界を変える
『獣の奏者』は、外伝も含めると5冊からなるファンタジー作品だ。

【獣の奏者・作品一覧】

1.獣の奏者〈Ⅰ 闘蛇編〉
2.獣の奏者〈Ⅱ 王獣編〉
3.獣の奏者〈Ⅲ探求編〉
4.獣の奏者〈Ⅳ完結編〉
5.獣の奏者〈外伝 刹那〉

〈Ⅰ 闘蛇編〉と〈Ⅱ 王獣編〉で一区切りつくので、興味がある方はまずこの2冊を読んでみてはいかがだろうか。


『獣の奏者』は、国と国の争いの物語でもあり、政治的な駆け引きの物語でもあり、決して人に懐かない王獣と少女が心を通わせていく物語でもある。


王獣闘蛇と呼ばれる二つの特殊な生き物が登場するのだが、どちらの生き物も人間では太刀打ちできないくらい強い。


闘蛇は、なんとか人が制御できるため国を守護する兵器として使われている。対する王獣は闘蛇以上に強いが決して人に懐かない。特殊な笛の音で硬直させてからでないと近づくことさえできない。


しかし、主人公・エリンは決して人に懐かないはずの王獣と心を通わせてしまう


エリンと王獣が仲良くなればなるほど、政治的な波に飲み込まれてしまう。心を通わせたい、しかしそれは王獣を兵器として使用させられてしまう事を意味する。そのときエリンが選んだ道は……。


一気読み必死のファンタジー。自信をもってオススメできる作品で個人的には上橋作品の中で一番好き。





3.『鹿の王』

──あらすじ

強大な帝国・東乎瑠から故郷を守るため、死兵の役目を引き受けた戦士団”独角”。妻と子を病で失い絶望の底にあったヴァンはその頭として戦うが、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子にユナと名前を付けて育てるが!?
たったふたりだけ生き残った父と子が、未曾有の危機に立ち向かう。壮大な冒険が、いまはじまる──!


──2人の男が過酷な運命に立ち向かう
『鹿の王』は4巻構成で、2つの視点を中心に物語が進行していく。一人はあらすじで書いてある”ヴァン”。そしてもう一人は医術師の”ホッサル”だ。


ヴァンは、飛鹿〈ピユイカ〉と呼ばれる鹿を操ることができる。また、独角〈どっかく〉という戦闘集団の頭領であった。しかし戦いに破れ、奴隷に落とされると岩塩鉱で働かされることとなる。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。多くの人が病で命を落とすなか生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子”ユナ”とともに逃げ出すが……。


ホッサルは病の原因究明のため岩塩鉱に行く。多くの者が命を落としている中、脱走防止の足枷がひとつ外れていることが分かり、ヴァンだけが生き残ったことが発覚する。犬に噛まれても病にかからない人もいる事がわかったことで、謎の病の究明のため生き残ったヴァンを捜索することになる。


ヴァンとホッサルの2人の男を中心に過酷な運命に立ち向かう人々のストーリーが展開されていく。


『鹿の王』は、上で紹介した上橋菜穂子氏の他作品『守り人シリーズ』と『獣の奏者』と比較するファンタジー的な要素はやや薄めな印象。その分、生と死、病気とは、医療とは…とリアルな部分を深く掘り下げているのが特徴と言えるだろう。


いつもながら登場人物が魅力的で、細部まで世界観が構築されていてる。そして思わずうなってしまうような美しい日本語(表現)がページをめくる手を止めさせてくれない。


4.『鹿の王 水底の橋』

──あらすじ

なによりも大切にせねばならぬ人の命。その命を守る治療ができぬよう、政治という手が私を縛るのであれば、私は政治と戦わねばなりません。
黒狼熱大流行の危機が去り、東乎瑠帝国では、次期皇帝争いが勃発。様々な思惑が密かに蠢きはじめているとは知らずオタワルの天才医術師ホッサルは、祭医・真那の招きに応じて、恋人ミラルとともに清心教医術の発祥の地・安房那領へと向かう。
ホッサルはそこで、清心教医術に秘められた驚くべき歴史を知るが、思いがけぬ成り行きで、次期皇帝争いに巻き込まれていき!?異なる医術の対立を軸に人の命と医療の在り方を問う意欲作!


──2つの医術とタイトルの意味
前作のヴァンたちの存在が気になりつつも登場はせず、ホッサルがメインのストーリー。『鹿の王 水底の橋』は『鹿の王』の続編なので、先に『鹿の王』を読むことをオススメする。


ホッサルひとりを主人公に置くとこによって医術についてピックアップされているので前作『鹿の王』よりもアクション要素は薄いが、民族間での医術や文化の違い、死についての考え方などファンタジーとは思えないほどリアルに展開されていた。安定の上橋菜穂子クオリティ。


物語の軸になってくるのは2つの医術、『清心教医術』と『オタワル医術』。患者の全体を見る清心教医術と、患者の身体の内部を見るオタワル医術。そして死への考え方など、相反する意見をもつ両者。2つの医術がどう物語に関係してくるのか、そしてタイトルの『水底の橋』に秘められた意味とは……?


5.『香君』

──あらすじ

遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲、オアレ稲。ウマール人はこの稲をもちいて帝国を作り上げた。この奇跡の稲をもたらし、香りで万象を知るという活神〈香君〉の庇護のもと、帝国は発展を続けてきたが、あるとき、オアレ稲に虫害が発生してしまう。
時を同じくして、ひとりの少女が帝都にやってきた。人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャは、やがて、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる。

──2022年に発売された最新作
『香君』は、2022年に発売された、上橋菜穂子の最初作。香りですべてを知ることのできる少女の物語……らしいのだが、買ってはあるものの、私はまだ読めていない。


読み次第追記するのでご容赦ください。



6.『精霊の木』

──あらすじ

環境破壊で地球が滅び、様々な星へ人類は移住していた。少年シンが暮らすナイラ星も移住二百年を迎えるなか、従妹のリシアに先住異星人の超能力が目覚める。失われた〈精霊の木(リンガラー・ホウ)〉を求め、黄昏の民と呼ばれる人々がこの地を目指していることを知った二人。しかし、真実を追い求める彼らに、歴史を闇に葬らんとする組織の手が迫る。「守り人」シリーズ著者のデビュ ー作、三十年の時を経て文庫化!

(引用:https://www.shinchosha.co.jp/book/132085/)



7.『月の森に、カミよ眠れ』

──あらすじ

月の森の蛇ガミをひたすら愛し、一生を森で送ったホウズキノヒメ。その息子である蛇ガミのタヤタに愛されながらも、カミとの契りを素直に受けいれられない娘、キシメ。神と人、自然と文明との関わりあいを描く古代ファンタジー。小学上級から。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E6%9C%88%E3%81%AE%E6%A3%AE%E3%81%AB%E3%80%81%E3%82%AB%E3%83%9F%E3%82%88%E7%9C%A0%E3%82%8C-%E5%81%95%E6%88%90%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E4%B8%8A%E6%A9%8B-%E8%8F%9C%E7%A9%82%E5%AD%90/dp/4036524305)

8.『狐笛のかなた』

──あらすじ

小夜は12歳。人の心が聞こえる〈聞き耳〉の力を亡き母から受け継いだ。ある日の夕暮れ、犬に追われる子狐を助けたが、狐はこの世と神の世の〈あわい〉に棲む霊狐・野火だった。隣り合う国の争いに巻き込まれ、呪いを避けて森陰屋敷に閉じ込められている少年をめぐり、小夜と野火の、孤独でけなげな愛が燃え上がる……ひたすらに。真直ぐに、呪いの彼方へと駆けていく、ニつの魂の物語。

【オススメ記事】






【2023年版】絶対に読んでほしいミステリ作品オススメ厳選9作品




あっと驚く展開、予想していなかったどんでん返し、華麗な伏線回収、摩訶不思議な密室トリック、そしてそれを解き明かす探偵……。ミステリーの楽しみは人それぞれ無限大である。




今回は、そんなミステリーにジャンルを絞って、私が自信を持ってオススメできる小説9作品を紹介していく。


ジャンルフリーのオススメ14選はこちらから
【小説オススメ14 選】



注意事項

  • 2023年現在の私が実際に読んだ作品、ベスト9を紹介している。(随時更新予定)
  • 紹介はランキング形式ではなく、ランダムに紹介する。
  • あらすじは、基本裏表紙のものを引用している。
  • 物語の核心に触れるネタバレはしていない。
  • 一人の作家に対して、一つの作品を採用している。

目次

1.『容疑者Xの献身』/東野圭吾

──あらすじ

天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。


──天才vs天才 愛とはなんだ

『容疑者Xの献身』を簡単に説明すれば、惚れた女性の犯罪を隠す石神と、犯罪の秘密に迫る湯川の二人の天才による対決が描かれた物語だ。


あらすじなどから分かる通り『容疑者Xの献身』は倒叙もののミステリーである。(倒叙とは、ミステリーで最初から犯人が明かされて、主に犯人視点で物語が進行していくもの)
 

石神と湯川は大学時代の同期であり、お互いに「天才」という意味では同じであったが、決して似ている二人ではない。


湯川は頭脳明晰、容姿端麗おまけにスポーツ万能...とすべてを兼ね備えた完璧人間と言っても過言ではない。このようなことに対して石神は、湯川と対極の人物である、と説明すればわかりやすいだろう。


この二人によって展開される頭脳戦が『容疑者Xの献身』の見所の一つである。石神による人の盲点を突く、天才的発想の隠蔽工作は予想の斜め上をいく。また、その石神の隠蔽工作に対して湯川はどこから真実を見抜くのか...!?


もう一人の見所としてはタイトルの意味だろうか。読了後にはタイトルの意味を深く噛み締める事になるだろう。そして石神という人間に対してきっと涙するはずだ。


ちなみに『容疑者Xの献身』はガリレオシリーズと呼ばれる東野圭吾の人気シリーズである。『容疑者Xの献身』をはじめとするシリーズ作、またはどんなシリーズかは下記ページで紹介している。
《ガリレオシリーズ作品紹介・あらすじ》



2.『すべてがFになる』/森博嗣

──あらすじ

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウェディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大教授・犀川創平と学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。ミステリィの世界を変えた記念碑的作品。

──衝撃のデビュー作!伝説の始まり
だれが犯人なのか?どんなトリックを使っているのか?これらの要素はミステリーで欠かせない要素だが『すべてがFになる』は、これらに対する解答が素晴らしいと思う。


天才工学博士・真賀田四季の部屋にあるコンピューターのカレンダーには、たった一行のメッセージが残されていた。そのメッセージが『すべてがFになる』


謎めいたタイトルに秘められた意味が分かったときの衝撃といったら他にない。印象的すぎるタイトルにして意味不明なタイトルであるが、読んでから考えるとこれ以上のタイトルはないだろうと思える。


『すべてがFになる』は主人公・犀川創平と西野園萌絵の頭文字をとって『S&Mシリーズ』と呼ばれており、10冊から構成されている。以下、シリーズ一覧だ。

【S&Mシリーズ作品一覧】

1.『すべてがFになる』 The Perfect Insider
2.『冷たい密室と博士たち』 Doctors in Isolated Room
3.『笑わない数学者』  Mathematical Goodbye
4.『詩的私的ジャック』 Jack the Poetical Private
5.『封印再度』 Who Inside
6.『幻惑の死と使途』 Illusion Acts Like Magic
7.『夏のレプリカ』 Replaceable Summer
8.『今はもうない』 Switch Back
9.『数奇にして模型』 Numerical Models
10.『有限と微小のパン』 The Perfect Outsider


個人的に大好きなのは『すべてがFになる』と『有限と微小のパン』である。是非とも制覇してみてほしい。

【関連記事】
《『すべてがFになる』紹介・あらすじ》
原点にして頂点!?森博嗣の傑作小説『すべてがFになる』あらすじ・紹介 - FGかふぇ
《S&Mシリーズ作品一覧・紹介》
『すべてがFになる』をはじめとする『S&Mシリーズ』の作品一覧とあらすじ・感想【森博嗣】 - FGかふぇ


3.『まほり』/ 高田大介

──あらすじ

蛇の目紋に秘められた忌まわしき因習
膨大な史料から浮かび上がる恐るべき真実
大学院で社会学研究科を目指して研究を続けている大学四年生の勝山裕。卒研グループの飲み会に誘われた彼は、その際に出た都市伝説に興味をひかれる。上州の村では、二重丸が書かれた紙がいたるところに貼られているというのだ。この蛇の目紋は何を意味するのか? ちょうどその村に出身地が近かった裕は、夏休みの帰郷のついでに調査を始めた。偶然、図書館で司書のバイトをしていた昔なじみの飯山香織とともにフィールドワークを始めるが、調査の過程で出会った少年から不穏な噂を聞く。その村では少女が監禁されているというのだ……。代々伝わる、恐るべき因習とは? そして「まほり」の意味とは?
『図書館の魔女』の著者が放つ、初の長篇民俗学ミステリ!   

(引用:「まほり」 高田 大介[文芸書] - KADOKAWA)



──膨大な史料から浮かび上がる驚愕の真実
『まほり』は、現実世界を舞台にした民俗学ミステリーである。知識量と情報量が圧倒的で、史実をベースを展開される物語はリアリティの塊である。


大衆の歴史の裏に隠れて普段は表立っては出てこない史実をベースとして物語は展開されていくわけだが、とにかく事実と虚構(フィクション)の境目がわからなくなるくらいリアル。もしかしたら物語に登場する村はどこかあるのでは…?こんな風習が残されているんじゃないか…?と思ってしまうほど。


白文がでてきたり、知識量と情報量の圧倒的物量で会話が進んで行くところがあったり、歴史について深く突っ込んだりと、要所要所は間違いなく難解である。


だがしかし、白文でいえば登場人物たちがうまい具合に解説をしてくれたりと、なるべくスムーズに読み進められるようになっているので安心してほしい。


そして、そんな膨大な史料から答えを読み解いていき、少しづつ物語の全体像が浮かび上がってくる様子が、パズルのピースを一つ一つはめていき全体像を作っていくようでたまらなく面白い。史料を読み解くにしても、机にかじりついているだけではなくフィールドワークや実体験の昔話からのアプローチを駆使しているのも物語に引き込まれる。


あとは難しい話だからこそ、登場人物たちのやりとりがまた映えるし癒やされる…。


とはいえ、なんといっても一番のポイントはタイトルの『まほり』の意味、そして表紙にも散りばめられた◎の意味。すべての答えが明かされる時に…!


個人的には、ミステリではないが同著者の『図書館の魔女』も推したい一冊。本好きなら絶対に楽しめる濃密な内容になっているので是非。

《『図書館の魔女』あらすじ・見所紹介》

4.『スロウハイツの神様』/辻村深月

──あらすじ

人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ──あの事件から十年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激しあってた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。

(引用:スロウハイツの神様〈上〉/辻村深月)


──物語は衝撃で幕をあける
物語は小説家であるチヨダ・コーキの大ファンが廃屋で殺人事件を起こす場面から始まる。そしてこの殺人事件が普通の事件ではない。

「チヨダ・コーキの小説のせいで人が死んだ」その日の天気は、快晴だった。
《略》
二十一歳、大学生の園宮章吾の発案による自殺ゲーム。下は十五歳から、上は三八歳までの、参加者十五名は全員死亡。(発案者、園宮含む)

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P9/辻村深月)


こんなインパクトのある始まりなわけだが、本筋は夢を追いかける創作家たちの青春物語が描かれている。


『スロウハイツの神様』を簡単に説明すると、現代版『トキワ荘』を舞台とした物語である。トキワ荘とは、手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎など、今なお語り継がれる漫画家たちが住んでいた実在のアパートだ。


『スロウハイツの神様』は登場人物こそ漫画家ではないが、脚本家、作家、漫画家etc…創作に情熱を注ぐ人たち共同生活をするアパートで、そのため現代版トキワ荘という訳である。


なぜ彼らは共同生活をしているのか?登場人物たちの関係は?そして殺人事件については?など、初めに多くの気になる情報を与えられて、後々なぜそうなったのかじっくり明かされていく形なので、気づかないうちに物語の世界に一気に惹き込まれることになるだろう。


読み終わる頃にはきっと、とある登場人物がとても好きになるはずだ。


5.『ダ・ヴィンチ・コード』/ダン・ブラウン

ルーヴル美術館館長のソニエールが館内で死体となって発見された。殺害当夜、館長と会う約束をしていたハーヴァード大教授ラングドンは、フランス警察より捜査協力を求められる。ソニエールの死体は、グランド・ギャラリーでダ・ヴィンチの最も有名な素描〈ウィトルウィウス的人体図〉を模した形で横たわっており、さらに、死体の周りには、複雑怪奇なダイイングメッセージが残されていた。館長の孫娘でもあり、現場に駆けつけてきた暗号解読官ソフィーは、一目で祖父が自分だけに分かる暗号を残したことに気付く...。
〈モナ・リザ〉〈岩窟の聖母〉〈ウィトルウィウス的人体図〉──。
数々のダ・ヴィンチ絵画の謎が導く、歴史の真実とは!?


──全世界7000万部突破の衝撃作

『ダ・ヴィンチ・コード』は、ハーヴァード大学の象徴学者ロバート・ラングドンを主人公としたシリーズ作品であり『ダ・ヴィンチ・コード』はそのシリーズ第2作目の作品である。シリーズ作品の2作目ではあるが、この作品から読んでも問題ないようになっている。


とはいえ、第一作目である『天使と悪魔』も負けず劣らず面白いので、興味と時間がある方はそちらからトライしてみてもいいだろう。以下、2022年時点での『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズ一覧

シリーズ5作品と刊行年
1.天使と悪魔〈2000年〉
2.ダ・ヴィンチ・コード〈2003年〉
3.ロスト・シンボル〈2009年〉
4.インフェルノ〈2013年〉
5.オリジン〈2017年〉


『ダ・ヴィンチ・コード』は、史実にまつわるストーリー、実在する舞台、芸術作品、名だたる偉人、宗教が登場するので、フィクションなのだがノンフィクションのようなリアルさがある。実在するものゆえに知的好奇心が刺激されてやまない。


歴史や宗教に対して予備知識があったほうが楽しみやすいし理解もしやすいだろうが、予備知識がなかったとしても十分に楽しめるはずだ(私は予備知識をもってはなかった)。逆に『ダ・ヴィンチ・コード』が新しい興味を発掘させてくらるきっかけになるかもしれない。


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6.『カラスの親指』/道尾秀介

──あらすじ

人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは?息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末。道尾秀介の真骨頂がここに!

(引用:カラスの親指 裏表紙)


──大計画に目が離せない!?
あらすじに出てくる中年二人、タケさんとテツさんの絶妙なやりとりがコミカルで最初から引き込まれ、二人の重い過去に気持ちが沈み、しかしそれを上回る爽快もあり、そして予想の斜め上の結末を迎える……。是非その大計画に刮目してほしい。


『カラスの親指』、タイトルだけみたらものすごく不穏な感じがするが、その意味がわかると納得しかない。


物語に端々に仕組まれた細かいトリックや伏線、人間の後ろ暗い部分の書き方など道尾秀介らしさが存分に発揮されている一冊になっている。著者の作品を読んだことがない人にとって、初めてにピッタリの作品だと思う。
最後に心に残った本作の一文を。

「親指だけが、正面からほかの指を見ることができるんです。ぜんぶの指の中で、親指だけが、ほかの指の顔を知ってるんですよ」

(引用:カラスの親指 道尾秀介)

7.『重力ピエロ』/伊坂幸太郎

──あらすじ

兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟は大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは──。溢れくる未知の感動、小説の軌跡が今ここに。

──『春が2階から落ちてきた』
登場人物たちのユーモアな会話や言葉選びで軽快に物語は進むのにも関わらず、レイプ、放火、父の癌……と、取り扱っている題材は、かなり重いラインナップである。


本書の名言の一つに「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」とある。『重力ピエロ』は春の上記の名言を、まさに実行してる物語のようである。深刻なテーマな物語であるにも関わらず、軽快でユーモアある……つまり陽気なやりとりで構成されている。



読み進めているときには気づかない、何気ないエピソードの一つひとつが最後に線で結ばれる様子が圧巻。著者の作品を数多く読んでいる訳ではないが、「あぁ、この感じが伊坂幸太郎だなぁ」と思い知らされる。


ちなみに『春が2階から落ちてきた』は本書の冒頭部分である。この始まりがあまりにも美しい。


【関連記事:印象的な小説の一文目まとめ】

8.『盤上の向日葵』/柚月裕子


──あらすじ

実業界の寵児で天才棋士――。 男は果たして殺人犯なのか! ? さいたま市天木山山中で発見された白骨死体。唯一残された手がかりは初代菊水月作の名駒のみ。それから4ヶ月、叩き上げ刑事・石破と、かつて将棋を志した若手刑事・佐野は真冬の天童市に降り立つ。向かう先は、世紀の一戦が行われようとしている竜昇戦会場。果たしてその先で二人が目撃したものとは! ?日本推理作家協会賞作家が描く、渾身の将棋ミステリー!

──慟哭のミステリー


タイトルの『盤上』、そして表紙の『王将』を見て分かる通り、将棋、そして将棋の駒が物語の中核をなすミステリー作品。


もちろん対局の様子も描かれていて将棋を知っている方ならイメージしやすいと思う。将棋のルールを知らない方でも楽しめる内容になっているので、その辺りは安心してほしい。


物語は
・白骨死体と駒の謎に迫る刑事・石破と佐野の視点
・異色の天才棋士・上条の視点
この二つの視点で物語が進展していく。


ポイントとしては、
・死体は誰なのか?何故、駒が埋められていたのか?
・異色の天才棋士・上条の生い立ち
・タイトルにもなっている『向日葵』


死体と共に埋められていたいた駒は普通の将棋の駒ではなく、初代菊水月作錦旗島黄楊根杢盛り上げ駒という、時価600万は下らない高価な駒であった。そんな貴重な駒を何故、一緒に埋めなければならなかったのか?


些細な手掛かりから徐々に真相に迫っていく様子は読者にワクワクを与え、その先にあるものの想像を掻き立てる。


9.『さよならドビュッシー』/中山七里

──あらすじ

ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。第8回『このミス』大賞受賞作品。


──
『さよならドビュッシー』は探偵役・岬洋介の名前をとって『岬洋介シリーズ』と呼ばれるシリーズの第一作目である。


他作品には『おやすみラフマニノフ』や『いつまでもショパン』などがある。ここまで説明すればおおよそ検討がつくだろうが、このシリーズは『音楽』がメインのテーマとなっている。ちなみに岬洋介はピアニストだ。


音楽がテーマなだけあって、音の表現が秀逸。ついつい本作に登場する曲を実際に聞きたくなる。というか、聞いたことがない人は是非聞いてみてほしい。もちろんそれだけではなく、ストーリーは最後まで目が離せない。きっと衝撃を与えてくれるはずだ。




【オススメ】






【2023年版】『ラプラスの魔女』シリーズ紹介!全3作品のあらすじ・感想【東野圭吾】


不幸な偶然の重なり──そんな簡単な言葉で片付けていいものだろうか。
しかしそれ以外には考えられない。人為的なものが関わる余地などゼロだ。この世に魔力とでもいうべきものが存在しないかぎりは──。

(引用:魔力の胎動/東野圭吾)


今回は、東野圭吾の『ラプラスの魔女』シリーズを紹介していく。


目次

『ラプラスの魔女』シリーズとは?読む順番は?

『ラプラスの魔女』シリーズは、フランス人数学者の「ピエール・シモン・ラプラス(1749-1827)」が提唱した「ラプラスの悪魔」という仮説を題材にした物語となっている。具体的にどんな仮題かというのは、作品紹介で書いているのでここでは省略する。


今回はシリーズとして、まとめて紹介していて現在は3作品が刊行されている。以下、その3作品と刊行年。


1.ラプラスの魔女《2015年》
2.魔力の胎動《2018年》
3.魔女と過ごした七日間《2023年》


シリーズ第一弾が『ラプラスの魔女』、その前日譚が『魔力の胎動』だ。そして続編として『魔女と過ごした七日間』読む順番としては、素直に『ラプラスの魔女』→『魔力の胎動』→『魔女と過ごした七日間』の順で読んでいけばいいだろう。


評判的に賛否が分かれている作品ではあるが、個人的にはかなり好きな作品たちなので、この3作で終わらずに続編が出る事を切に願っている。


また『ラプラスの魔女』は2018年に櫻井翔さん、広瀬すずさん主演で映画化されている。
まぁ……個人的には小説で楽しむ事をオススメする。

1.『ラプラスの魔女』

──あらすじ

円華という若い女性のボディーガードを依頼された元警官の武尾は、行動を共にするにつれ彼女には不思議な《力》が備わっているのではと、疑いはじめる。
同じ頃、遠く離れた2つの温泉地で硫化水素による死亡事故が起きていた。検証に赴いた地球化学の研究者・青江は、双方の現場で謎の娘・円華を目撃する──。
価値観をくつがえされる衝撃。物語に翻弄される興奮。作家デビュー30年、80作目の到達点。

──彼女の瞳は何を写すのか

冒頭で前述した通り、『ラプラスの魔女』は、フランス人数学者の「ピエール・シモン・ラプラス(1749-1827)」が提唱した「ラプラスの悪魔」という仮説を題材にした物語となっている。どんな仮説かというと以下の通りだ。
 

 「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は、物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから、未来の状態のがどうなるか完全に予知できる。」

これは実際に『ラプラスの魔女』本文から引用したものだ。


「もし、未来がわかったら…」と、だれもが一度は考えたことがあるはず。そんな力を得てしまった主人公と、巻き起こる事件に一気読み必死の作品だ。


賛否がわかれる作品ではあるが、個人的には推したい一冊。何よりも『ラプラスの悪魔』を持ち込んできた設定が好みすぎた。

2.魔力の胎動

──あらすじ

成績不振に苦しむスポーツ選手、息子が植物状態になった水難事故から立ち直れない父親、同性愛者への偏見に悩むミュージシャン。
彼等の悩みを知る鍼灸師・工藤ナユタの前に、物理現象を予測する力を持つ不思議な娘・円華が現れる。
挫けかけた人々は彼女の力と助言によって光を取り戻せるか?円華の献身に秘められた本当の目的と、切実な祈りとは。
規格外の衝撃ミステリ『ラプラスの魔女』とつながる、あたたかな希望と共感の物語。

(引用:「魔力の胎動」 東野 圭吾[角川文庫] - KADOKAWA)

──悩める人々の前に現れた彼女は、魔女

『魔力の胎動』は、『ラプラスの魔女』の前日譚になっている。そのため、先に『ラプラスの魔女』を読むことをオススメする。『ラプラスの魔女』と交差してる部分もあるので、それらの伏線も気にしながら読むと、よりいっそう楽しめるはずだ。


『魔力の胎動』は五章構成で

第一章:あの風に向かって翔べ
第二章:この手で魔球を
第三章:その流れの行方は
第四章:どの道で迷っていようとも
第五章:魔力の胎動

一~四章は、円華がラプラスの魔女の力を使って悩める人たちを救っていく物語。


そして五章は青江が過去に出会った事件で、『ラプラスの魔女』の事件に呼ばれるきっかけとなる物語。


本作は、『ラプラスの魔女』ありきの物語であり、欠けているところ……ではないが、歯痒いところを補った作品というのが『魔力の胎動』の印象。


物語前半は、東野圭吾らしい読み進めやすい理系チックな話、感動を誘ういい話だが、後半になるにつれて徐々に雰囲気が……!?


3.魔女と過ごした七日間

──あらすじ

AIによる監視システムが強化された日本。
指名手配犯捜しのスペシャリストだった元刑事が殺された。
「あたしなりに推理する。その気があるなら、ついてきて」
不思議な女性・円華に導かれ、父を亡くした少年の冒険が始まる。
少年の冒険×警察ミステリ×空想科学
記念すべき著作100作目、圧巻の傑作誕生! 

(引用:https://www.kadokawa.co.jp/product/322208000298/)

──少年の冒険×警察の闇×AI×ラプラスの悪魔

待ちに待っていていた『ラプラスの魔女』シリーズの第三段。『魔力の胎動』は『ラプラスの魔女』の前日譚的な話だったので、『魔女と過ごした七日間』がシリーズの実質的な続編と言っていいだろう。


タイトルから予測できるように、今回の主人公は魔女と共に事件を追った少年がメインである。少年・陸真の父親がある日、何者かによって殺害される。陸真の父親・克司は元警察官で、『見当たり捜査官』という指名手配犯を探す部署の人間だった。


事件によって父親を失った少年が、魔女・円華の力を借りて事件の真相に迫っていくと、そこには警察の闇があって……。AIが普及しはじめているこの世界で人間にできることはなんなのか、人間にしかできないことはなんなのか。


シリーズファンには必読の一冊となっている。



最後に

《ラプラスの悪魔》の仮説を取り入れたこのシリーズ、ホント好きだから続編に期待したいのだが、ようやく第三段も読むことができて嬉しい限りだ。

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