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『グラスホッパー』の感想を好き勝手に語る【伊坂幸太郎】


とにかくよ、仲間が燃やされて、他のホームレスが怒っちまったんだ。あいつらだって、やる時はやるからな。希望は持ってるってわけだ。ホームレスっつっても、ホープレスじゃねえだろ

(引用:グラスホッパー P46-47/伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ『グラスホッパー』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

あらすじ

「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。
一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに──「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!

感想

目の付け所というか、物語の設定が新鮮。あらすじに『分類不能の「殺し屋」小説』とあるように、たしかに分類不能でこれまでに読んだことがないような物語だった。


内容も個人的にかなり好きで面白かった。いきなりクライマックスか!?ってくらいの始まりの仕方。所謂、殺し屋などの裏の世界にはまったく縁のなかった鈴木が、妻の死により復讐を心に刻み、裏の世界に飛び込んでしまう。そこで暗い現実を目の当たりにしながらも、彼なりに強く生きていく……と。


登場する殺し屋が個性豊かなのがまた面白いところ。「蝉」が一般的(?)と言うのはまた違うかも知れないが、想像しやすい殺し屋だけど、他の殺し屋である「鯨」とか「押し屋」とかは、そのスタイルが面白い。まぁ「鯨」のやってる『自殺をさせる殺し屋』っていうのは、この現実世界でも少なからず存在してそうでちょっと暗い気持ちに。


あとは、あいも変わらず伊坂幸太郎らしい言葉選び、テンポの良さが光る作品だったと思う。


これは違う作品のネタバレになるから詳しいことは書かないが、物語の重要な部分、キーになってくる部分が道尾秀介の『カラスの親指』に似ていて「おぉ!?」ってなった。いや、パクり云々を言うつもりはサラサラない。なんなら刊行年で言えば『グラスホッパー』のほうが先だし。


『カラスの親指』は好きな作品だし、内容もかなり覚えていたのに、『グラスホッパー』で同じトリックにまんまとハマったのが少し悔しかった。



──印象に残ったセリフ・名言

「政治家の秘書が自殺して、どうなるって言うんですかね」
「誰かが自殺すると、面倒臭くなる。効果はあるんだ」
《中略》
死ぬなんて卑怯じゃないか、逃げただけじゃないか、というもっともな批判も上がるが大筋では、「これで許してやろうじゃないか」という暗黙の了解のようなものが広がる。
「生贄を差し出されると、理屈に合わなくても、それ以上責めるのが面倒臭くなる」

(引用:グラスホッパー P35)

「生贄を差し出されると、理屈に合わなくても、それ以上責めるのが面倒臭くなる」

事実なんだろうけど、なんだかなぁって。

「死にたくなければ、自殺しろ」と言う理屈だったが、それでも説得力を持っていた。拳銃で撃たれたくないために、言うことを聞く。人は本当に死ぬまで、自分が死ぬとは信じないからだ。

(引用:グラスホッパー P39)

とにかくよ、仲間が燃やされて、他のホームレスが怒っちまったんだ。あいつらだって、やる時はやるからな。希望は持ってるってわけだ。ホームレスっつっても、ホープレスじゃねえだろ

(引用:グラスホッパー P46-47)

ホームレスっつっても、ホープレスじゃねえ
言葉のリズムがいいね。

「不安になったり、「怒ったりするのは動物的だけど」と言った亡き妻の声が甦る。「原因を追求したり、打開策を見つけようとしたり、くよくよ悩んだりするのは、絶対人間特有のものだと思うよ」
「だがら、人間は偉いって言いたいわけ?それとも、人間は駄目だって言いたいわけ?」鈴木は訊き返した。
「動物にね、『どうして生き残ったんですか』って訊ねてみてよ。絶対こう答えるから『たまたまこうなった』って」

(引用:グラスホッパー P131)


度々鈴木の妻のエピソードが出てくるが、それはどれも印象的なものばかり。あとはバイキングの話とかね。鈴木が妻のこと、ホントに愛していたんだなって痛感させられる。まぁなにしろ復讐のあめに命がけで怪しい組織に潜入するくらいだしな。


手っ取り早く自由になる唯一の方法は、親を殺害することだ。ある小説にそう書いてあったことを蝉は思い出した。今は違う。世界から自由になるには、携帯電話を切ればいい。丹治で、ひどくくだらない。

(引用:グラスホッパー P168)


最後に

『グラスホッパー』の他シリーズとして、『マリアビートル』や『AX』が現在あるようなので、そちらも是非読んでみようと思う。チラッとあらすじをみたところ今回の登場人物とはまた違うキャラが活躍するらしい。


槿の謎めいたキャラがすきだったので、登場してほしいところだが……どうなることやら。





【オススメ記事】






『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の感想:過去と繋がる奇蹟の手紙【東野圭吾】



東野圭吾の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はコチラの紹介からどうぞ。
【『ナミヤ雑貨店の奇蹟』あらすじ・紹介】



目次

あらすじ

悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。時空を超えて過去から投函されたのか?
3人は戸惑いながらも当時の店主・波矢雄治に代わって返事を書くが・・・。次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。悩める人々を救ってきた雑貨店は、最後に再び奇蹟を起こせるか!?

感想

『東野圭吾史上、最も泣ける作品』との触れ込みもあるが、それに恥じない感動と、心暖まるストーリー。個人的には東野圭吾の作品の中で一番好きな作品。


『最も泣ける』の部分は、悲壮からの涙ではなく、感動・心暖まるものなので、読了感がよい。そしてストーリーは、過去と手紙で繋がるというSF・ファンタジックな設定が軸になっているものの、描かれるのは終始人と人との繋がりを描くヒューマンドラマ。


全5章で構成されている物語は、それぞれ章ごとに違う人物の悩み相談で展開されるが、それぞれが少しづつ繋がっていき、最後に大きな輪郭が見えてくるという緻密な作り。


読後感がよく、ファンタジックな面白い設定、そして全体を通すことで見えてくる物語の緻密さ。すべて自分の好みに突き刺さる素晴らしい物語だった。


──読みやすく・飽きさせない構成

物語の基本的な構成は、5章とも過去と現在とが繋がる『ナミヤ雑貨店』の手紙のやりとりである。5章ともそれだと単調なストーリーになってしまうのでは……?と思うがところがどっこいそんなことはない。


一章〈回答は牛乳箱に〉では、敦也たち現在のみの視点で、過去のことは手紙の内容だけ。

二章〈夜明けにハーモニカを〉では逆に、過去の"魚屋ミュージシャン"の視点で、敦也たち現在は手紙の内容のみ。

三章〈シビックで朝まで〉は、ナミヤ雑貨店の店主である波矢のじいさんが初めてでてくる章。敦也たちがやりとりしている過去よりさらに昔の話。

四章〈黙祷はビートルズで〉では、波矢のじいさんが、はじめて真剣な悩み相談に回答する章。

五章〈空の上から祈りを〉では、再び敦也たちが登場。過去と現代2つの視点から物語が進んでいき、これまでの伏線を回収しつつ終幕へ。


以上のように、過去と現代の手紙のやりとりが軸となっているが、見せ方を少しずつ変えて物語が進行しているので飽きないし、最初は現代だけ、次は過去だけ、と時系列がはじめはごちゃごちゃしていないので、読者としても混乱せずに読み進めることができる。


──好きな展開・シーン3選

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で、個人的に特に展開・シーンが3つあるので挙げていく。

──1.『再生』

1つ目は2章〈夜明けにハーモニカを〉の魚屋ミュージシャンこと松岡克郎のオリジナル曲『再生』が、児童養護施設『丸光園』で育った水原セリに受け継がれ、大人気アーティストになる話。


メインは、売れないミュージシャン松岡が、このままミュージシャンを続けるか、実家の魚屋を継ぐべきか。という悩みをナミヤ雑貨店に相談する展開の話だが、とにかくラストシーンが刺さる。


恩返しとして『再生』を歌い続けるセリ、そして松岡が作った『再生』が彼女の歌声によって後世に残されていく……。シンプルにいい話すぎて泣ける。


このシーンに関しては、映画だと更にいい。理由としては単純に『再生』が映像とともに聴けるから。小説だとどうしてもこれはね……。門脇麦さんの魂揺さぶられる歌声、気になった方は是非映画のほうも除いてみてはどうだろうか。時間の都合で省かれている所はあるが、全体を通して原作ファンでも大満足な仕上がりだと思う。詳しくは下記の記事で書いている。
【映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』】


──2.受け継がれる意思・男と男の約束

何度も言うようだが『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は過去と現在とのやりとりが主軸となる物語だが、ナミヤ雑貨店のじいさんが未来(じいさんが過去の登場人物なので、ここでの未来は現在を指す)から手紙を貰うために彼の子孫が大活躍する。それが波矢駿吾だ。


彼は波矢貴之の孫、つまり波矢のじいさん・波矢雄治の曾孫にあたる人物。


雄治からの遺言を貴之の代では果たせず、更に孫の駿吾に託す。そして駿吾が約束通り雄治の遺言をネットに流すことで、雄治は未来からの手紙を受け取ることができた……と。30年越しの、世代を超えての男と男の約束。なかなかに熱いじゃないか。


駿吾自体の登場は一瞬だし、物語上ではここの場面はさらっと流されるが個人的にはかなり好きな場面。それだけに映画でこのシーンがなかったのは、ちょっと悲しかったな。


──3.白紙の手紙

敦也たちが雑貨店の秘密を確かめるためち白紙の紙をシャッターの郵便受けに入れ、それを受け取ったナミヤのじいさんがただのイタズラととらえずに真面目に白紙の紙へ、手紙の返事をする。


ラストシーンだし、印象に残ってる方も多いのではないかと思う。


この敦也たちへの手紙の返事の内容がまたいい。
「白紙の地図なら、これからどんな地図だって描くことができる。すべて自由で、自分次第で、無限の可能性がある」


現代で、悩み、迷走する敦也たちにとっての素晴らしすぎる回答。事実彼らは最後この手紙に後押しされてるしなぁ。彼らは過去から手紙を受け取っている唯一の人物だというのもなんだか響くものがある。


まぁ敦也たち以外への手紙の回答も、それぞれ刺さる部分があってじいさんの懐の深さというか、思慮深さが表現されてて好き。


──印象に残ったセリフ・名言

「おまえの世話にならなきゃいけないほど、俺も『魚松』もヤワじゃない。だから余計なことは考えず、もういっぺん命がけでやってみろ。東京で戦ってこい。その結果、負け戦なら負け戦でいい。自分の足跡ってものを残してこい。それができないうちは帰ってくるな。わかったな」

(引用:ナミヤ雑貨店の奇蹟 P128)

考えてみな。たとえでたらめな相談事でも、三十も考えて書くのは大変なことだ。そんなしんどいことをしておいて、何の答えも欲しくないなんてことは絶対にない。だからわしは回答を書くんだ。一生懸命、考えて書く。人の心の声は、決して無視しちゃいかん」

(引用:ナミヤ雑貨店の奇蹟 P142)


最後に

東野圭吾の中で個人的に一番好きな作品だが、好き故にこれまで感想を書けていなかったが、再読を期に書き記してみた。やっぱり何度読んでもいい話。一年後くらいにまたここに帰ってこようと思う。





【オススメ記事】






『香君』の感想を好き勝手に語る【上橋菜穂子】


2022年4月に発売された、上橋菜穂子氏の新作長編ファンタジー『香君』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。


目次

あらすじ

遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲、オアレ稲。ウマール人はこの稲をもちいて帝国を作り上げた。この奇跡の稲をもたらし、香りで万象を知るという活神〈香君〉の庇護のもと、帝国は発展を続けてきたが、あるとき、オアレ稲に虫害が発生してしまう。
時を同じくして、ひとりの少女が帝都にやってきた。人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャは、やがて、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E9%A6%99%E5%90%9B-%E4%B8%8A-%E8%A5%BF%E3%81%8B%E3%82%89%E6%9D%A5%E3%81%9F%E5%B0%91%E5%A5%B3-%E4%B8%8A%E6%A9%8B-%E8%8F%9C%E7%A9%82%E5%AD%90/dp/416391515X)

感想

声を持たない草木が主張する"香り"という声。それが聞こえてしまう少女の物語『香君』


聡く、心優しく、度胸も持ち合わせた少女・アイシャの覚悟と勇気の物語は、心振るわずにはいられない。上巻・下巻構成で文量はそこそこあるものの、読み始めたら一気に世界に入り込んでしまった。


本書『香君』に限ったことではないが、著者の作品はファンタジーという架空の世界のディテールが細かく、本当にその世界を見て描いたようなリアルさがある。


そのリアルさを感じさせるのは、政治、民族・風習、その土地それぞれの食事、街の風景・山の風景……そして特に今回でいうなら植物と虫の描写が惜しげなく語られているためであろう。


物語序盤から読んでいるのが辛いほどの境遇で、絶対絶命の状態のアイシャがどのように生き延び、そして彼女しか持っていない、『香りで万象を知る力』をどのように生かすのか……。読了後には熱い気持ちの残る一冊であった。




──『香りで万象を知る』

『香りで万象を知る』、初代香君のみが持っていたとされる力を持っていたアイシャ。その特別な力で物語の舵がきられていくわけたが、特別な力を持つ故の『孤独』というのがとても印象的だった。


香りが見える、聞こえるのが当たり前なのにそれは自分だけ。
他の人には見えない香りが見える、聞こえない香りが聞こえる。自分にとっては当たり前な事を、他の誰にも理解されないというのは、考えれば考えるほど悲しくなる。
 

確かにアイシャは香りで物事を知れる能力があるので、人より様々な事を知れるかもしれない。だがその能力によって誰にもわからない『孤独』な状況にある。


アイシャが人より聡く、勘が鋭い様子がたびたび描写されるが、これはなんとなくだがアイシャがずっと『孤独』だったためな気がする。


そして、そんなアイシャと対極として登場するのが現代の香君・オリエ。彼女がまたいい人すぎるんだ……。末永くマシュウと幸せになってほしい。

誰にもわからぬ世界にいるよう振る舞う君と、本当に、誰にもわからぬ世界にいるアイシャ。──君たちが助け合って生きることは、他の方法では得られない救いもあるんじゃないか」

(引用:香君〈上〉 P251)

上記はマシュウのセリフ。
『誰にもわからぬ世界にいるよう振る舞うオリエと、本当に、誰にもわからぬ世界にいるアイシャ。』


どちらも違う辛さがあるんだよなぁ……。



初代香君のような力を持つアイシャ。
オリエを救うため、そして本当の力を持っているアイシャに香君になってもらいたいと思うマシュウ。
実際に香君を努めているからこそ、この重荷を背負ってもらいたくないオリエ。


後半はとくに3人のそれぞれの想いと葛藤が胸に刺さった。


誰か一人でも明確な悪役なら話は違うんだけど、3人とも悪意がなく、他人思いなところがまたつらい。まぁ結局はキレイに収まるわけだが。



物語の流れ的に、アイシャが香君になるのではないか?と思っていたし、実際そうなったわけだが、香君になる場面が最高に盛り上がる……といったら失礼かもしれないが、読者目線からしたら、そうくるか!!と思わずにはいられない。アイシャかっこいい。


──神域オアレマヅラ

オアレ稲、天炉のバッタ、アイシャの母の謎……など、神域オアレマヅラは多くの謎を残したまま今回の物語は幕を閉じた。


アイシャたちオアレマヅラに行くかと思ってたけど、そんなことはなかったなぁ。でもそれは今後に……つまり続編に期待……!!


旅する香君になったアイシャならいずれオアレマヅラを訪れる可能性あると思う。オアレ稲の研究を続ける上で、オアレマヅラに行く、探す動機としては十分だと思うし……妄想の粋はでないけど。

──印象に残ったセリフ・名言

「嫌いっちゅうこともねぇでしょうが、リタランは、あの人はリタランじゃ、と、言われるのを好かんもんです。──誓いっちゅうもんは、ひっそりと立てるもんで。外から、あれやこれや言われるのは、いやなもんでしょうけ」

(引用:香君〈上〉 P90)

「誓いはひっそりと立てるもの」


誰にもわからぬ世界にいるよう振る舞う君と、本当に、誰にもわからぬ世界にいるアイシャ。──君たちが助け合って生きることは、他の方法では得られない救いもあるんじゃないか」

(引用:香君〈上〉 P251)

──人という生き物は、過去に幸せだった思い出だけでは、生きていけないのかとしれないわね。
あるとき、ふと、そう言ったオリエの言葉をアイシャはよく思い出した。
──この先にも、なにか幸せがあると思えなければ、苦しみを越えて行かれない。自分がしていることに意味がある、人を幸せにできると思えることが、私にとって救いなの。

(引用:香君〈下〉 P56)


最後に

著者のあとがきで、『香君』を書くにあたって、かなりの数の参考文献が挙げられている。とくに『生きものたちをつなぐ「かおり」──エコロジカルボタイルズ──』は気になる。是非読んでみようと思う。






【オススメ記事】






2分でわかる『クジラアタマの王様』のあらすじ・紹介:ファンタジックな伊坂ミステリ【伊坂幸太郎】

2022年7月に文庫化された伊坂幸太郎の『クジラアタマの王様』のあらすじ・紹介を語っていく。重要なネタバレなしで解説していく。


ネタバレありの感想はコチラ。
【『クジラアタマの王様』感想】


目次

1.あらすじ

記憶の片隅に残る、しかし、覚えていない「夢」。自分は何かと戦っている?──製菓会社の広報部署で働く岸は、商品の異物混入問い合わせを先輩から引き継いだことを皮切りに様々なトラブルに見舞われる。悪意、非難、罵倒。感情をぶつけられ、疲れ果てる岸だったが、とある議員の登場で状況が変わる。そして、そこにはおもいもよらぬ「繋がり」があり……。伊坂マジック、鮮やかに新境地。

(引用:クジラアタマの王様 裏表紙/伊坂幸太郎)



主人公の岸は、製菓会社の広報部署で働いているユーモアあふれる、どこにでもいそうな社会人。


ある日、お菓子の新商品に「画鋲が入って子供が怪我をした!!」というクレームが入ったことをきっかけに、ネットでの炎上騒ぎ、マスコミの殺到、非難罵倒など、大きなトラブルへの発展してしまう。


しかし、そんなトラブル中、岸は不思議な夢をきっかけに異物混入事件は思わぬ好転をとげる。そして岸の元に池野内と名乗る議員が現れて物語は更に加速していく……。



2.あらすじ補足

もう少し踏み込んで『クジラアタマの王様』について紹介していく。
重要なネタバレには触れないが、ちょこちょこと物語の中身に触れていくので嫌な方は戻る推奨。















『クジラアタマの王様』の大きなポイントは、『現実世界』と『夢の世界』の2つの世界が登場する点である。

記憶の片隅に残る、しかし、覚えていない「夢」。自分は何かと戦っている?

(引用:クジラアタマの王様 裏表紙)


上記のあらすじにあるように、岸の頭の片隅には、何かと戦う夢の記憶が残っている。そして『クジラアタマの王様』の最大の特徴が、この夢の出来事がマンガのような形で描いているのだ。冒頭ほうの夢の1ページだけ引用する。






(引用:クジラアタマの王様)


味のあるいい絵…!普通のマンガと違う点としては、セリフが一切ない点だろう。これは夢の中の曖昧さを表しているのか、読者に判断を委ねているのかは定かでないが、どちらにせよ小説の文中に突然現れるこのマンガは読者に驚きと、このマンガは何なのか、と想像力掻き立てられること間違いない。


もちろんだが、このマンガが大切な役割を果たしているので是非じっくり見て頂きたい。


そして、現実世界では主人公の岸、議員の池野内の他にあと一人、重要な登場人物がいる。それがスカイミックスという人気ダンスグループの小沢ヒジリなる人物だ。



・製菓会社の岸
・議員の池野内
・人気ダンスグループの小沢


共通点、関連性も何もなさそうな3名だが、3人には過去にとある繋がりを持っていて──それが夢と大きな関わりがあるのである。



3.最後に

あらすじの最後に『伊坂幸太郎の新境地』とあるように、マンガと小説の構成は新しく、なおかつマンガ部分は小説部分を引き立てる役割をしている。


著者の緻密な物語構成と、はりめぐらされた伏線を回収しながら進む良さを残しつつ、ミステリとファンタジーが融合したような不思議な世界。是非一読してみて頂きたい。




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【オススメ記事】






『クジラアタマの王様』の感想・考察:夢と現実とハシビロコウ、伊坂マジックの新境地【伊坂幸太郎】


2022年7月に文庫化された伊坂幸太郎の『クジラアタマの王様』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『クジラアタマの王様』あらすじ・紹介】


目次

あらすじ

記憶の片隅に残る、しかし、覚えていない「夢」。自分は何かと戦っている?──製菓会社の広報部署で働く岸は、商品の異物混入問い合わせを先輩から引き継いだことを皮切りに様々なトラブルに見舞われる。悪意、非難、罵倒。感情をぶつけられ、疲れ果てる岸だったが、とある議員の登場で状況が変わる。そして、そこにはおもいもよらぬ「繋がり」があり……。伊坂マジック、鮮やかに新境地。

(引用:クジラアタマの王様 裏表紙/伊坂幸太郎)



感想

読んでいると、突如漫画のようなイラストが現れてビックリ。このイラストの意味は、夢の中のもう一つの世界であることは後に明かされるわけだが、最初はとにかく気になって読み進めるばかりだった。


全体を通しての感想としては、面白かったな。夢中になって読めた。私自身は、伊坂幸太郎の作品は数冊しか読んだことがなく、今回の『クジラアタマの王様』は久しぶりに触れた伊坂作品だったわけだが、久しぶりがこの作品でよかった。


ストーリーのテンポのよさ、主人公のユーモアさによる軽快さ、夢の中の不思議さ・わくわく、張り巡らされた伏線、ムダのない展開、そして独特で特徴的なイラスト……良かったところをあげるときりがない。


特に夢の中の出来事を、セリフなしの漫画で描いているわけだが、これがいい味をだしてる。ぶっちゃけ漫画部分(夢)の要素がなかったとしても面白い作品だったろうが、漫画部分が小説部分を引き立てるいい役割をしていたと思う。


──人の悪意・非難

今の時代、ちょっとしたことでも問題が起きればネットで炎上し、非難の的として晒し上げられる世の中である。個人的にはそこまで大騒ぎしなくても……と思うところではあるが、ネットでは毎日、大小様々な炎上が起き、匿名をいいことに好き勝手に言う輩が多くいる。


本作でも、マシュマロの異物混入や、新型インフルエンザの初期感染で岸の会社や、岸・岸の家族がターゲットにされてしまう。しかし"夢"でも勝利もあり、無事に問題を解決方法し、炎上を抑え、マスコミを黙らせる。このあたりが読んでいて気持ちよかった。


新型インフルエンザの題材は、やはり現在のコロナ禍において身近に感じすぎるテーマで、共感する部分がとてもあった。だがしかし、この『クジラアタマの王様』単行本の発売が2019年の夏である。コロナが猛威をふるい始めたのが、2019年の冬にだったのでまだコロナとはまったく関係ない時に生まれた作品である。偶然とはいえテーマ的には、今の時代に刺さる一冊である。


──クジラアタマの王様

ハシビロコウがラテン語で「クジラアタマの王様」というのは、物語終盤で明かされたが、詳しく説明されているページを見つけたので引用。

学名「Balaeniceps rex」は、それぞれラテン語で、balaena:クジラ+ceps:頭 とrex:王様 からなります。すなわち「クジラ頭の王様」。
その特徴的なクチバシの形状を含む頭部のシルエットがクジラの姿に似ていることに起因しています。
英名の「Whale-headed Stork」はずばり「クジラ頭」です。別称のShoebillは、「靴のようなクチバシ」ですが、これはやはり頭部のシルエットが靴の形に似ていることからそう呼ばれます。
和名のハシビロコウは「クチバシが幅広いコウノトリ」の意です。

(引用:https://www.city.chiba.jp/other/shoebill/shoebill.html)






──夢の世界についてと考察

現実の世界と、夢の世界の関係がストーリーに大きく関わってくるわけだが、2つの世界の関係がわかりそうな部分をピックアップしていく。


・現実の岸と、夢の中の岸は容姿がそっくり。そして夢の中で見た紙に書かれた生年月日と、実際の岸の生年月日が一致。(P89)

・「自分以外の誰かが、自分を操作している、そう感じることはないか」
夢の中の池野内さんのセリフ。(P237)

・現実の人物が夢の世界を寝ているときに見るのと同様に、夢の世界の人物は現代の夢を見ている。(P360)

・岸、池野内、小沢の三人は境遇が似ている。同じ火事に遭遇、子供の頃の不遇さ(P92、P139、P154)

・岸、小沢は金沢、法船寺に行ったことがある。(P154)
法船寺の義猫塚は実際にある場所で、本書で話されていたように猫と鼠の伝説がある。下記ページで詳しく載っている。


・夢の中の戦いは現実世界と関係している。簡単に言えば、夢の中で勝てれば現実の問題が解決する。(P245)

・「向こうの自分がトラブルを乗り越えると、こっちの敵が倒せるんだ」(P417)。夢の中と現実は同じような関係なのがわかる。

・岸の会社の創設者は、法船寺に行ってから、変な夢を見るようになった。(P432)



◎簡単な考察
・夢のきっかけ
夢の世界とのきっかけが法船寺を訪れることとすると、岸の初めての戦いは火事のオオトカゲということになる。P251で「子供のころのいじめも、夢で勝ったから解決したのでは?」と池野内から言われていたが、これは誤りだと思われる。
岸も『いじめられている状況を打開したのは自分の頑張り、自分が出した結果だったはずだ』と強く考えている。


・敵はすべて動物がモチーフ
そして、その動物と現実の問題の関連性がある。
一番最初のページに書かれた敵は、ヘビ、ゴリラ、ゾウ。また物語中に登場する敵もオオカミ、サル、そして岸たちが戦うハリネズミ、トラ、クマ、トカゲ、トリ(ハシビロコウ)……と敵はすべて動物がモチーフとなっている。


また、画鋲だからハリネズミ
火事だからオオトカゲ(サラマンダー)
鳥インフルエンザだから鳥(ハシビロコウ)
トラとクマは……まぁ言うまでもない。
というように、現実問題と動物の種類にも関連性がある。



・夢の戦いは不可抗力からの救済?
夢の戦いは、自分の過失とは関係ない、理不尽なトラブルに巻き込まれた際の救済措置のように思える。


今回の、異物混入、火事、インフルエンザはどれも岸自身の過失ではなく、巻き込まれた結果である。


池野内は、子供のころのいじめ問題を、夢で勝ったから解決したと言っていたのが、このケースに当てはまらない気がする……。いや、子供のいじめなんて自分に過失がなくても起こる天災みたいなもんでしょ(暴論)


──印象に残ったセリフ・名言

「どうするんですか、これ」
ネット検索の結果を映し出しているノートパソコンを僕は指差す。こちらを破滅させる呪文、もしくは、僕たちを地獄の底に引きずり落とそうとする餓鬼たちの詰まった壺のよくに思えてならない。今もこの端末の中で、それが増幅し続けているのだ。

(引用:クジラアタマの王様 P37)

岸のセリフは、いちいちユーモラスで面白い。上記は、画鋲の件での、ネットの炎上について。

「私がいれば、ツキノワグマもトラもみんな言うことを聞くからね。安心してほしい」というメッセージらしかった。その後の映像では、グレーヘアの男が動物たちと親しそうに、まさに友達の如く触れ合っている。
職場での部長と栩木係長のことがふいに思い出され、人間同士のほうがよほどぎくしゃくしている、と考えてしまう。

(引用:クジラアタマの王様 P131)

『人間同士のほうがよほどぎくしゃくしている』
なかなかに皮肉がきいてる。

最後に

ファンタジックな作品大好きだから特に刺さった一冊だったのかもしれない。著者の作品はあまり詳しくないので、「『クジラアタマの王様』が好きならこの作品もハマるはず」ってものを教えて頂けると非常にありがたい。







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【オススメ記事】






『未踏の蒼穹』の感想を好き勝手に語る【ジェイムズ・P・ホーガン】


「ずっと昔から伝わっているんだ。カテクには重要な秘密が隠されている。《中略》生命とはなにか、それはどのようにして始まったのか、わたしたちはどこから来たのか?」
「誰?人間のこと?」
「そうだ。わたしたちみんなだ。その答がカテクの中にあると考えられている。だがいまだにだれも解読できていない」

(引用:未踏の蒼穹 P83/J・P・ホーガン)


2022年1月に発売されたジェイムズ・P・ホーガンの『未踏の蒼穹』
これは、2007年2月に『Echoes of an Alien Sky』として刊行されたもので、15年の時を経て、ようやく邦訳、発売となった。今回はそんな『未踏の蒼穹』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。





目次

あらすじ

金星文明は、かつての栄華を誇りながら絶滅した文明が存在する惑星、地球〈テラ〉の探査計画に取り組んでいた。テラ文明はなぜ滅んだのか?月の遺跡で発見された、テラ人が持っていたはずのない超技術の痕跡は、何を示唆しているのか?科学探査隊の一員カイアル・リーンは、テラ文明が遺した数々の謎に挑む──。ハードSFの巨星が放つ、もうひとつの『星を継ぐもの』ついに邦訳。

(引用:未踏の蒼穹 裏表紙)


感想

あらすじに《もうひとつの『星を継ぐもの』》とあるように、『星を継ぐもの』に似た要素はあった。


具体的には、『星を継ぐもの』は、月で発見された人と似た生命体の起源を探る話。
対して『未踏の蒼穹』は、金星人たちが自分たちと似ている地球人について調べ、地球人並びに金星人の起源を探る話である。


『未踏の蒼穹』は、『星を継ぐもの』より圧倒的に未来の話なので、この二つの直接的な繋がりはない(もしかしたらあったかもしれないが、私は気づかなかった)。


正直な感想を言えば、文句なしに面白かった!!とは言えないかな。ハードSF、冒険SF、ロマンスなどの要素が詰め込まれて順当に物語は進み、ハッピーエンドで締めくくられる。普通に面白いが、【もうひとつの『星を継ぐもの』】というあらすじの触れ込みに期待して読むと少しがっかりするかもしれない。


「金星人の正体は、テラ人の子孫である」というのは、まぁ読者の予想の範囲内であろう。
テラ人が滅亡した時には、金星はまだ、人が住める状況ではなかった。そのため金星への単なる移住では話が合わない。本書の言葉を借りるならタイムスケールが合わない。


【金星人=テラ人】であろうという考えては、読者はすぐに浮かぶだろう(金星人の立場からしたら、あんな暴力的なテラ人と繋がりがあるとは、あまり思えないだろうが)。なのでその答えをどのようにすり合わせていくのか?結果より過程を楽しむのが本書の見所であると思ったし、プロヴィデンスに迫っていく様子はワクワクした。


あとは、金星人からみた過去の地球人についての見解も面白かった。物語の舞台が遠い未来の話だから、『過去の地球人』というのが丁度我々なわけだが、地球人をホントに客観的に見てる様子が新鮮だった……粘り強く、そして愚かな地球人……。

──カテクとプロヴィデンス

序盤にカテクの説明が絵?付きであったときに、「あ、これは明らかに重要なやつだな」って注目してたけど、期待通り最後はキレイにまとまっていた。


カテクについて語られていた部分を引用・書き出しをしていく。



・その形は金星で"カテク"と呼ばれている記号で、昔から幸運のシンボルとされていた。(P81)
・カテクは帰郷とも関連があった。(P81)
・実際のカテクのマークP81にあり。

「ずっと昔から伝わっているんだ。カテクには重要な秘密が隠されている。哲学者たちや科学者たちが一日中それについて議論したり長い本を書いたりしているがほとんどの人にとっては悩んでもしかたながない大きな謎のひとつだ。生命とはなにか、それはどのようにして始まったのか、わたしたちはどこから来たのか?」
「誰?人間のこと?」
「そうだ。わたしたちみんなだ。その答がカテクの中にあると考えられている。だがいまだにだれも解読できていない」

(引用:未踏の蒼穹 P83/J・P・ホーガン)


・カテクは、プロヴィデンス計画のロゴマークに似ていた。(P342)
・地図とカテクの形が一致する(P385、P410)




──悪役ジェニンを登場させたわけ

〈進歩派〉で言語学者のジェニン・ソーガン。ロリライには振られ、最後はテラを滅亡させた病原菌に感染し虚しい結末を迎える。物語にジェニン以外の悪役は登場しないが、そのジェニンも悪役としては中途半端が否めない。


彼の役割としては、悪役としての物語の盛り上げというよりは、『テラ人は金星人の祖先である』という本書の核心に対するヒントを与えている役割だと考える。


物語の多くの場面で、「金星人はテラ人のように暴力性はなく、協力的な人種である」というような主張がされている。


しかし、ジェニンは金星人が重視する考えから外れ己の欲のために行動をするようになる。つまりテラ人が持つような支配欲や暴力性があるように振る舞い始める。


テラ人のような暴力性、支配性を持った金星人もいる。つまり、金星人にもテラ人が持っていた考えを潜在的に持っているということを表している。よってテラ人と金星人の子孫の可能性がある……という訳だ。




──印象に残ったセリフ・名言

人類はたくさんのものを生み出してきたのになにも学んでいない。わたしたちの種族の潜在意識の奥底には国家を暴力と相互破壊の饗宴に駆り立てるなにかがあるようだ……。

(引用:未踏の蒼穹 P176-177)


それでも、彼らはこの地に立ち寄ったという記録だけは残した。自分たちが何者で、どんな来歴をもっているのかの記録を。そうしておけば、まるで彼らが存在しなかったかのように宇宙がそのままずっと続いていくことはないだろう。

(引用:未踏の蒼穹 P412-413)










【オススメ記事】






『流星の絆』の感想を好き勝手に語る。【東野圭吾】


14年後、彼らが仕掛けた復讐計画の最大の誤算は、妹の恋心だった

(引用:流星の絆  帯/東野圭吾)

 

 

今回はドラマ化された東野圭吾の大人気作品『流星の絆』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。

 
【書籍情報】
タイトル:流星の絆
著者:東野圭吾
出版社:講談社文庫
ジャンル・要素:ミステリー・恋愛
ページ数:617ページ
刊行年:2014年に4月(文庫本)
映像化:2008年にドラマ化
読後感:スッキリ

 

 

あらすじ

何者かに両親を惨殺された三兄妹は、流れ星に仇討ちを誓う。14年後、互いのことだけを信じ、世間を敵視しながら生きる彼らの前に、犯人を突き止める最初で最後の機会が訪れる。三人で完璧に仕掛けはずの復讐計画。その最大の誤算は、妹の恋心だった。涙があふれる衝撃の真相。著者会心の新たな代表作。

(引用:流星の絆 裏表紙)


幼い三兄妹はある日、流星群を見るために、こっそりと家を抜け出した。しかし、三兄妹が帰宅すると両親が自宅で惨殺された。

 

三兄妹は施設で幼少期を過ごした後に、相次いで詐欺などに襲われ、強く生きるためいつしか彼ら自身も、詐欺を行いながら生きてきた。

 

そして次のターゲットの父親が、両親が惨殺されたときに家から出てきた人物に似ていることに気付く。ある「きっかけ」から3人はこの人物が犯人だと確信し、完璧な復讐計画を仕掛ける。

 
その最大の誤算は妹の恋心だった。
そして事件の衝撃の真相とは...!?

 
 

感想

ページ数は600ページと多いが、それを感じさせないスリリングな展開の連続。そして最後の最後まで気が抜けない小説の醍醐味をあじわえる作品で一気読みだった。文句なしに面白い。


メインは復讐劇のわけだが、「詐欺」「禁じられた恋」などの要素が絡められながら物語が進んでいく。


あらすじに『最大の誤算は、妹の恋心だった』とある。妹が好きなってしまった相手が実は……という訳なのだが、この妹の葛藤が実に胸にくる。


″運命を共にしてきた兄達″と″自分達の仇の息子″、どちらを取るべきかなんて決まってる。けどまぁ理屈じゃないんだよなぁ……。あちらを立てればこちらが立たずの状況だけども、真犯人の存在でその状況が一変すると。


この落とし所が完璧で、戸神が犯人じゃないなら当然、仇の息子ではなくなるし、それなら兄たちを裏切るわけではなくなる。


警察が犯人な訳がない……という裏をついたどんでん返しの結末と、3兄妹の絆が守られ、静奈と戸神が無事に結ばれてのハッピーエンド。見事なくらいキレイに物語がまとまっていて、読後感も非常によかった。


600ページと長いもののスピーディーな展開、そしてエンタメ要素(詐欺の計画や、禁じられた恋)とミステリ要素(最後のどんでん返しなど)のバランスがよくて、飽きがなく読み続けられるオススメの一冊だった。

最後に

確かだが、私が東野圭吾の作品で初めて読んだのが『流星の絆』だった。思い出補正もあるかもしれないが、それを差し引いても名作であることは間違いない。



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