森見登美彦さんの『四畳半神話大系』を読んだ。
心地よく独特な読み口、魅力的で癖が強すぎる登場人物たち、考え抜かれた設定と世界観。
パラレルワールドというSF的要素も取り込み、読者を夢中にさせること間違いなしだ。
あらすじ
私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい! さ迷い混んだの4つの平行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。
(引用:四畳半神話大系 裏表紙/森見登美彦)
第一話 四畳半恋ノ邪魔者
第二話 四畳半自虐的代理代理戦争
第三話 四畳半の甘い生活
最終話 八十日間四畳半一周
それぞれの話は、主人公のである『私』が大学1回生のとき、何のサークルに入るか?という選択によって話が分岐している。
第一話では映画サークル『みそぎ』に
第二話では樋口という人物の『弟子』に
第三話ではソフトボールサークル『ほんわか』に
最終話では秘密機関『福猫飯店』に
薔薇色のキャンパスライフを夢見ていたが、何故か鬱々とした日々を送ることになってしまった主人公による物語だ。
感想
私が森見登美彦さんの作品を読んだのは、この『四畳半神話大系』が二作目となる。
一作目は『夜は短し歩けよ乙女』を読んだ。
相変わらずの独特な文体は中毒性があり、いつの間にかに森見登美彦ワールドに引き込まれてしまう。
また、『夜は短し歩けよ乙女』に登場した樋口さんや羽貫さんも本書では登場する。『夜は短し歩けよ乙女』を読んでいれば、更に楽しめることだろう。
逆もしかりで『四畳半神話大系』を先に読めば、『夜は短し歩けよ乙女』を更に楽しめるはずだ。
さて
まずは平行世界の設定についてだが
分岐は大学一回生のサークル選びからとなっている。そしてそこから完全に別の物語になっている.....という訳ではない。
各物語の端々に平行世界の断片が見てとれる。各物語では解決しきれない部分が別の世界線を読むことでしっくりとくる。各世界はひっそりと干渉しあっていると思うと不思議な感じがするし、ワクワク感も生まれてくる。
個人的には第二話と最終話が好きだった。
樋口師匠に弟子入りする第二話『四畳半自虐的代理代理戦争』この伝統だけで理由のない争いが、凄まじくくだらなく、だからこそ面白い。
突っ込みどころが満載すぎて突っ込むのも疲れてしまうほどだ。
かくして、「樋口城ヶ崎和解会談」の幕が切って落とされたのである。
「まぁ、もうそろそろ終わらせようかね」樋口師匠が言った。
「そうだな」城ヶ崎氏が頷いた。
かくして、樋口城ヶ崎和解会談は終了した。
(引用:四畳半神話大系 P164/森見登美彦)
樋口師匠と城ヶ崎先輩が繰り広げる謎の争い。主人公には詳細を知らされないまま物語が進んでいき、やっと物語の核に触れる二人の和解が始まると思いきや、たった4行で終了する。
こんなに引っ張ってそれで終わりかよ!!!
と思わず声がでてしまった。
また自由奔放な樋口師匠とそこから生まれる名言(迷言)には思わずニヤリとしてしまう。
人生一寸先は闇である。我々はその底知れぬ闇の中から、自分の益となるものをあやまたずに掴みださねばならない。そういう哲学を実地で学ぶために、樋口師匠が「闇鍋」を提案した。たとえ闇の中であってもなべから的確に意中の具をつまみだせる技術は、生き馬の目を抜くような現代社会を生き延びる際に必ずや役に立つであろうと言うのであるが、そんなわけあるか。
(引用:四畳半神話大系 P153/森見登美彦)
他にも、小津の紹介場面
野菜嫌いで即席ものばかり食べているから、なんだか月の裏側から来た人のような顔色をしていて甚だ不気味だ。夜道で出会えば、十人中八人が妖怪と間違う。残りの二人は妖怪である。
(引用:四畳半神話大系 P8/森見登美彦)
普通なら、妖怪と間違う。で終わってしまうところをこの最後の一言。
センスしか感じない。
そして、最終話『八十日間四畳半一周』
ついにはそれぞれにある平行世界の旅が始まる。というより突如迷いこむ。
今までの話とはガラリと変わり主人公がひたすらに永遠に続く四畳半をさ迷い続ける。
これまでの物語の総まとめのようなお話。
また同じような展開になるのだろうと、たかをくくって読みはじめたが、足元をすくわれる事になった。
旅を通じて少しづつ核心に迫っていくところでは、もうページをめくる手が止まらなくなる。
結局どの選択をしても、彼には薔薇色のキャンパスライフはやってこなさそうだが、悪友であり親友の小津とは出会うことができ、明石さんとは付き合える運命だったのだろうか、このパッピー野郎が!