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『向日葵の咲かない夏』の感想を好き勝手に語る。爽やかな皮を被ったえげつない物語。【道尾秀介】



油蝉の声を耳にして、すぐに蝉の姿を思い浮かべる人は、あまりいないだろう。雨音を聞いて、雨音のそれぞれが地面に接している瞬間を想像する人がいないように。

(引用:向日葵の咲かない夏 P5/道尾秀介)



道尾秀介の代表作『向日葵の咲かない夏』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

目次

あらすじ

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音聞こえる S 君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体が忽然と消えてしまう。一週間後、 S 君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追い始めた。あなたの目の前に広がる、もうひとつの夏休み

(引用:向日葵の咲かない夏 裏表紙/道尾秀介)


感想

かなり好き嫌いが分かれる作品なのは間違いない。私は...…あまり好きにはなれなかったかな。


では、「なんでわざわざ感想なんて書いてるんだ?」と思われる方もいるかも知れないが、好き嫌いととは関係なく、衝撃を受けた作品だったからだ。


物語自体が放つ異様な雰囲気、そして巧みに描かれた叙述トリック、ラストの展開などなど...。


読み始めたきっかけは『向日葵の咲かない夏』というタイトルにひかれたからだ。あらすじだけ読むと、「夏休みに生まれ変わった友人の頼みを聞いて事件を解決させる小学生の物語」と、爽やかなイメージを予想していたが、まったく逆の展開に、もうビックリ。(あらすじは読んでいたが前情報はまったく持っていなかった)


ジャンルとしてはホラー寄りのミステリーになるのだろうか。好きになれなかったのは、私自身がホラー系が苦手というのが大きいだろう。


──絶望が見える

物語が始まって序盤から、「あ、これは救われない物語かもしれない」と感じた。

妹の遺骨の一部を、僕はいまでも大事に持っている。当時僕が使っていた、背の高い硝子のコップに入れて、ラップをかけ、机の上に置いている。

(引用:向日葵の咲かない夏 P6/道尾秀介)


最初に読んだこの一文だけでも若干の狂気を感じたが、読了しすべてを把握したうえだと、より一層の狂気を感じる。



S君が死んで、妹が死ぬこともあかされてて、主人公の家庭環境みると暗い未来しかみえない。


まぁ、そんな私の憶測では足りないくらい、真相はぶっとんでいたわけだが。

──登場人物について

歪んでる。この一言に尽きる。
主要な登場人物全員の人格が歪んでるといっても過言ではないのでは?


主人公のミチオも、S君も、ミチオのお母さんも、岩村先生も、古瀬お爺さんも。


物語の至るところにその異常さが滲み出ているわけだが、その一番最初のインパクトがある部分がS君の書いた作文だった。

──印象に残った部分

先程挙げたSくんの作文

やがて、王様の前に置かれたお皿の上に、ころころと二つの丸いものは転がり落ちてきます。それは塔のてっぺんにとらわれた人の、目玉なのです。
王様はフォークでそれをつきさし、うまそうにペロリと食べてしまいます。そして言うのでした。
『ああ、希望。私はこれを食べるのが大好きなんだ』
王様の好物とは、希望なのでした。王様はそれを食べて、国を大きくしていたのでした。しかしやがてその国は滅びてしまったといいます

(引用:向日葵の咲かない夏 P80/道尾秀介)

目玉を食べるというのもゾッとするが、その過程もえぐい。Sくん本来の異常性が伺える。

何かをずっと覚えておくということは大変なことだ。しかし、何かをわざと忘れることに比べると、大したことはない

(引用:向日葵の咲かない夏 P93/道尾秀介)


「ミカ、S君、死んじゃったよ」
指先でS君の体を挟み込んだまま、ゆっくりとミカに近づく。
「ねぇミカ──S君の事、好きだった?」
しゃがみ込み、ミカの身体を左手で捕える。
「食べちゃいなよ、ミカ」
左手をミカの口許に近づける。
「もう我慢しなくていいんだよ。S君なんて、食べちゃいな」
ミカは嬉しそうに口をあけた。S君の身体は、その中に消えた。

(引用:向日葵の咲かない夏 P378/道尾秀介)

これを読んでいるときにはまだ、ミカ=トカゲと分かっていなかったので、とにかく不気味だった。


しかし、あとから見ると「なるほど」と感心する。
「しゃがみ込み、ミカの身体を左手で捕らえる」とある。違和感なく読めるが、真相を知った後だとトカゲに対面しているとよく分かる。


「しゃがみ込み」は、それだけ小さいモノと対面しているのが分かるし、「ミカの身体を左手で捕らえる」は、『つかむ』ではなく『捕らえる』と表現していることが、人ではなく、トカゲと対面しているのだと想像させる。


油蝉の声を耳にして、すぐに蝉の姿を思い浮かべる人は、あまりいないだろう。雨音を聞いて、雨音のそれぞれが地面に接している瞬間を想像する人がいないように。

(引用:向日葵の咲かない夏 P5/道尾秀介)

記事の冒頭にも引用した、物語の1行目〜の部分。自分自身でも”何が”とは説明できないけど、引き込まれる冒頭部分。

ここでも紹介してるので是非


──見せ方は秀逸の一言

さて、先程『ミカ=トカゲ』と述べた通り『向日葵の咲かない夏』のトリックは、「Sくんやミカが他の生き物に生まれ変わった訳ではなく、すべてがミチオの妄想で、それを叙述トリックによって見事に隠している」ことである。


叙述トリックの見せ方がとにかく秀逸。叙述トリックにいて、まとめている方のサイトがあったので貼っておく。見事に考察なされているので是非とも。


──ラスト

太陽は、僕たちの真後ろに回り、アスファルトには長い影が一つ、伸びていた。

(引用:向日葵の咲かない夏 P462/道尾秀介)


「僕たち」と言っておきながら、「長い影が一つ」と言っているので、両親は火事で亡くなりミチオだけ生き残ったということは分かるが、ミチオが両親を何の生き物で妄想していたかは明らかにされていない。


しかし、ミチオ自身がP69-70でお父さんはカメだろう。お母さんはカマキリに違いない。と語っている。


恐らくラストでミチオが持っている生き物は、その通りトカゲとカメとカマキリだと思う。深読みをすればこの生き物の選択もなかなかに残酷だ。


カメが長生きなのは言うまでもない。実はトカゲも長生きで、日本全土に生息するニホンカナヘビも寿命は7年前後とされている。(ミカは4年だったが)


それに比べるとカマキリは生きても1年と、かなり短命だ。この寿命の差もミチオの家族に対する好き、嫌いが現れているように思える。


メスのカマキリがオスのカマキリを食べてしまうという性質があるが、お母さんが圧倒的に幅をきかせている家庭環境を見るとその例えも、なんだかしっくりとくる。

最後に

実に、爽やかな皮(タイトル)を被った、えげつない物語だった。


ホラー系が苦手な私からすると、なかなかにトラウマが植え付けられそうな展開だったが、いい意味でも悪い意味でも決して忘れる事ができない一冊になったことは間違いない。

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