たぶんこれは、一枚の写真についての物語なのだろう。
むろん、ある男の死を巡る謎についての物語でもあるし、山の話でもあるはずだ。そして、一組の男女の別離の話という側面も持っている。
(引用:木漏れ日に泳ぐ魚 P7/恩田陸)
恩田陸の作品は、今回読んだ『木漏れ日に泳ぐ魚』が初めての作品だったが、文句無しに面白かった。
感想はネタバレありなのでご注意を。未読の方はコチラからどうぞ。
『木漏れ日に泳ぐ魚』あらすじ・紹介
目次
感想
1.二人の関係
アキとヒロ、二人はどんな関係なんだろう?そんな疑問が最初に浮かぶ。そしてそれは形を変えて最後の最後まで引っ張られる。
状況から考えて普通に考えれば恋人?じゃあ何故、朝には別れてしまうのだろう?様々な疑問がよぎる中、二人の関係が少しずつ明らかになる頃には、もう物語から抜け出せなくなっていた。
恋人から兄妹、そしていとこ...。なんて残酷な偶然なんだろう。そしてなんてタイミングが悪いんだろう。本当の兄妹なら諦めもついただろうに、最後に辿り着く、いとこという真実はとんでもない絶望だ。
アキは障害のある恋だからこそ、続いていたと言っていたけれど、本当にそうだったのかな?初めは二人がそんな複雑な関係だとは知らずに仲良くなった訳だし、初めからいとこと分かっていたなら少しは結末も違ったのかな?
二人の報われなかった結果を受けると、何か変えることができなかったのかと他の答えを探してしまう。
2.『真珠のピアス』
物語にでてくる歌や小説ほど、興味をひかれるものはない。今回で言えば松任谷由実の『真珠のピアス』なわけだが、私は気になって速攻で聴いた。むしろ聴きながら読んでいた。
『真珠のピアス』の歌詞のように、アキはヒロのカバンにピアスをそっと仕込む訳だが、朝が来て、アキと別れて、いつの日かヒロがこのピアスを見つけてしまったとき、彼はこのピアスをどうするのだろう?
なんとなくだが、私はピアスを見つけた彼は、悩んだあげくにカバンの同じ場所にピアスを戻す気がする。目を背けるように、何にも気付かなかったように。
アキが指摘した通り、ヒロは自分の手は汚さずに、いつかアキと再会したときピアスについて聞かれるまで「気が付かなかった」で逃げるんじゃないかな。
最後のシーン、アキはどうしてナイフを埋めたのだろう?
私は記念品を求めていた。彼の愛用のバッグにピアスを忍ばせてみたけれど、それは彼の元に残り、私の手元には何も残らない。そのことに勝手に不公平感を抱いていたのだ。
(引用:木漏れ日に泳ぐ魚 P172/恩田陸)
記念品、この時まだ二人は「真実」に気付いていなかった。まだ障害のある恋の最中にいた。だからこそ記念品などというものをアキは求めたのだろう。
しかし、「真実」にたどり着いていたラストでは、その記念品はもはや、なんの意味もないものだったのだろう。だから手元から離し、埋めてしまった。
自分はピアスをヒロのカバンに仕込んで、ヒロに自分を思い出すきっかけを与えておきながら、自分はそのきっかけを埋めてしまう。なんと一方的な決別だろう。
3.刺さった言葉
私たちはカバンが好きだ。どうしてシーズン毎に、いつも似たようなものを買ってしまうのだろう。 可愛らしいポケットや、ちょっとした「機能的な」仕切りにすぐ騙されてしまう。そして、沢山ある「機能的な」はずのポケットは、日常の中でたちまちブラックホールと化すのである。
それは、たまに思い出すようにカバンのポケットを探ってみればすぐに分かる。
映画の半券、探していたタクシーの領収書や、取れたカーディガンのボタン、せっかく書いてもらったアドレスのメモなど、かつてはとても必要なもので、そこらじゅうを引っくり返して探したものが、波打ち際に打ち上げられた漂流物のように色褪せた状態で出てくる。そして、取り出したもののすっかり賞味期限切れで、結局またどこかどうでもいいところにしまいこまれて二度と出てこない。
(引用:木漏れ日に泳ぐ魚 P40/恩田陸)
めっちゃ共感できたところ。この部分を読んで『木漏れ日に泳ぐ魚』に夢中になり始めたと言っても過言ではない。
探してるときには見つからないのに、忘れた頃に、もうどうでもいいときに出てくるんだよなぁ。
「 やっぱり、死は『生きる』ということの無数の選択肢の中の一つなんだよ。生と死が別個にあるんじゃなくて、死は生の一部分なんじゃないかな」
(引用:木漏れ日に泳ぐ魚 P268/恩田陸)
なるほど、心中というのは、ある意味で生の成就なのだ。好きということの達成感を得るのに、互いの死くらい明確なものはない。それぞれの命を持って子孫を残すことを否定するのだから。
(引用:木漏れ日に泳ぐ魚 P269-270/恩田陸)
「死」について二箇所。
相思相愛の障害のない恋愛感情は、まっとうに燃え尽きて終わります。けれど燃え上がることを禁止された恋愛感情は、いつまでもくすぐり続けるのです。
たっぷりの酸素を得れば、激しく燃え上がるのに、灰に埋まり、くすぶり続ける恋愛。埋火のように、灰の中でちろちろと深く燃える恋愛は、いつまでもやっかいに長く続く。
(引用:木漏れ日に泳ぐ魚 P296/恩田陸)
鴻上尚史さんの解説部分
恋愛の熱量には限度がある。一気に燃焼してしまうか、くすぶり続けるか。妙に納得してしまった。
4.物語全体をみて
濃密すぎる一夜。
喜怒哀楽すべてが巡る一夜だった。
回想を挟むとはいえ、物語の主軸は別れを前にした男女が夜を徹して語り合うだけの単純な話だ。しかし単純だからこそ、面白い。単純だからこそ二人の心理が鮮明に見えてくる。
一転、ニ転する二人の関係と、解き明かされる男の死。設定こそ単純だが練り込まれているものは、想像以上に深い。
一枚の写真。物語に没頭しすぎて、冒頭部分を忘れかけてたけど、ラスト付近で冒頭の写真についての伏線が回収されていて、「ここに持ってくるのか!」と興奮した。
最後に
私は最近、SFの世界にがっつりハマってしまっていた。『インターステラー』『天才感染症』『ダーウィンの警告』『遥かなる円環都市』。宇宙、海底、南極、アマゾン、本を通して様々な場所を旅してきた。
予想外の展開、派手なアクション、驚異の技術、ロマン...。SFという性質ゆえに、最近の読書は次の展開、次の展開と物語の流ればかりに目を向けてしまっていた。
それだけに『木漏れ日に泳ぐ魚』では、最近味わっていなかった文章を、表現を、感情を、余すことなく堪能できたと思う。ジャンルが違うとはいえ、最近読んだ中では一番面白い作品だった。
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