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『虹を待つ彼女』感想:もしかしたらそれは究極の愛の形【逸木 裕】


人工知能と劇場型自殺事件を起こした女性を扱ったミステリ『虹を待つ彼女』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『虹を待つ彼女』あらすじ・紹介】

目次

感想

青が基調の美しい表紙と、『虹を待つ彼女』というタイトルに惹かれて購入。前情報なしに読み始めたわけだが、物語にのめり込んであっという間に読み切ってしまった。人工知能についての考えも面白いし、彼女の自殺の謎、ラストでは今までにない読後感を味わうことができた。そして未来の技術について考えさせられる一冊だった。


──ミステリ?いや、究極の恋愛小説

工藤を狙うのは誰なのか?
晴は何故、あんな自殺の仕方をしたのか?

この二つの謎に迫るのが『虹を待つ彼女』のミステリの主軸だと思うが、それ以上に工藤の晴に対する思いが強すぎて、人工知能によって復活させた晴とどのような結末を迎えるのかが気になりすぎてしまった。

恋愛はサプリメントと同じだ。工藤はある時期から、そう考えるようになった。ドーパミン、ノルアドレナリン、フェニルエチルアミン。恋愛ホルモンなど俗称されるそれらが、脳内で活発になっている状態、それが「恋をしている」状態だ。恋愛とは脳内物質の分泌に過ぎない。必要な時に、必要な分だけ摂取すればいい。
中学、高校。工藤はひたすら人間関係の調整を行い、ときに「サプリメント」を摂取して過ごした。

(引用:虹を待つ彼女 P25/逸木裕)


上記のあたりが工藤の恋愛観を如実に表わしている。小さいころから達観した人物……頭が良すぎるのも大変だなと思ってしまう。


そんな恋愛観をブチ壊して工藤を狂わせてしまったのが晴な訳だが……初めて体験した本気の恋愛感情を感じた相手がすでに死んでしまっているって切なすぎない?



自分のすべてをかけて晴を人工知能として復活させようとする様子は狂気を感じる……と最初は思ったが、少し考え方を変えると工藤がした事も共感できる点がある。


それは、もし自分が愛する人を失ったとして、生き返るらせることができる手段があるとしたら手を出さずにいられるだろうか?


工藤は「人工知能との恋愛は、通常の恋愛と変わらない」という考えの持ち主だった。つまり工藤にとっては”データ”としての復活ではなく、”一人の人間”としての復活だった……そして幸か不幸かそれができる環境と技術があった。愛する人と会いたい、という彼の気持ちをそこまで責められるだろうか。


工藤は晴とは生きてるうちに一度も会ったことがなく、彼女の生き様しか知らない点だ。それでもすべてをかけて晴に会おうとした姿勢はある意味、究極の愛だったのかもしれない。


──切なすぎるラスト

雨を協力者に迎え入れて、晴の完成もいよいよになってきた物語の佳境、このストーリーがどのように終幕を迎えるのか、まるで想像ができなかった。


工藤にとっては、辛すぎる結末だったと思う。小賢しく、頭がいいだけに本当の恋をしたことがなかった工藤。なのにはじめての恋がすでに死んだ人間。そして人工知能にも振られる。


工藤は人工知能との恋愛も普通という考えの持ち主だからいいかもしれないが、そう割り切ることができない私にとっては、その恋愛に切なさしか感じられなかった。


最後に工藤ではなくて、雨を選んだということは、生きていた頃と同様に人工知能の晴も同性愛者になったというわけで、人工知能の完成をあらわしていそう。完成な晴を追い求めすぎたがゆえにその恋が報われなくなるって皮肉もいいところだよな。



最後に

ミステリとしても面白かったけど、人工知能との恋愛かぁ…考えさせられる一冊だった。技術としては、現実世界においても近い将来実現可能にはなりそうな気がする。倫理感とかを考慮しなければ。


夢はある……が、しかしって感じ。
今回は、故人との恋愛だったわけだが、2次元と3次元の壁を超えられる技術でもあるわけだよな。それこそ工藤が言ってたように人工知能と普通に恋愛する時代がくるのかもしれない。



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