2018年本屋大賞、堂々の1位に輝いた、辻村深月の『かがみの孤城』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。
目次
あらすじ
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた──
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。
感想
──まとまりがあるストーリー
全体として見るとストーリーはキレイにまとまっている。不思議な城とオオカミさまとの邂逅、個人が抱える闇、仲間との出会い、そして成長。ホント粗がなく順当に面白かった。
ミオが作った”かがみの孤城”の設定の細かさがこの作品に深みを出していると思う。
姉の好きだったドールハウス。
迎えられた7人
姉がよく読んでくれた絵本になぞらえた『七ひきの子やぎ』の鍵探し。
そして、城が閉まると言われていた三月三十日。
三十一日ではなく、三十日。
その日が姉の命日であることに、意味がないとは思えなかった。
(引用:かがみの孤城 P537)
「みんなの中で、1999年だけ、抜けてるんだ。七年ごとに呼ばれているのに、その代だけ、だれもいない。アキとオレたちの間だけ、倍の十四年、違う」
こちらを振り向かない”オオカミさま”に声をぶつけるように訴える。
「オレと姉ちゃんの歳の差は、七歳だよ」
(引用:かがみの孤城 P538)
驚きのポイントとしては、①オオカミさまの正体、②喜多嶋の正体、③そしてパラレルワールドではなく時代が異なる。という3点が大まかな所だったと思う。
私はオオカミさまの正体だけは気づかなかったけど、喜多嶋の正体と時代が異なる、の2点は予想ができた。大どんでん返し的な面白さの要素は薄いかもしれないが、先が多少読めたとしてもそれを覆す程の登場人物たちの関係や設定の細かさが『かがみの孤城』の魅力だと思う。
読み始める前は、城の冒険がメインの異世界ファンタジー的な作品のイメージだったが、実際はそれとは異なり城での冒険ではなく、城を通しての登場人物たちのやりとりがメインだったのが意外だったけどもそれはそれで良かった。
現実世界ではありえない、違う時代の同じ世代とのやり取り……。12歳が12歳に会うのと、12歳が30歳に会うのでは関係がまったく変わってしまうもんなぁ……。
あとは『オオカミと7匹の子ヤギ』の童話自体を私は知らなかったから、城の設定が明かされたときに『なるほど!!』と感動できなかったのが残念だった……。
──こどもたちを繋ぐもの
オオカミさまを含めて、城には8人の子供がいてそれぞれは最終的には仲良くなって終わるわけだが(オオカミさまは除く)、とくに2人ずつが種類の異なる形で結ばれているのが印象的だった。
ウレシノとフウカは恋愛的な繋がり
スバルとマサムネは友情的な繋がり
こころとあきは庇護的な繋がり
リオンとミオ(オオカミさま)は姉弟の繋がり
このそれぞれにドラマをもたせてるのも抜け目がない。
ウレシノ&フウカのその後については、書かれていなかったが、これから未来で、いずれ出会えうことができれば夢がある。
スバル&マサムネは、ゲームで繋がる友情があつい。
「目指すよ。今から”ゲーム作る人”。マサムネが『このゲーム作ったの、オレの友達』ってちゃんと言えるように」
口が──きけなかった。
見えない力で胸が押されたように、息まで止まりそうになる。鼻の奥がつん、となって、あわてて、熱くなった目を伏せた。
(引用:かがみの孤城 P523)
ここの場面めっちゃすき。
このあとに別れの前の自己紹介で皆のフルネームが明らかになり、スバルの名前が”長久昴”だということが初めて分かるわけだが……。
「あん?知ってんだろ?『ゲートワールド』。今超売れてるプロフェッサー・ナガヒサのゲーム。まさか知らねえの?」
「ナガヒサ……?」
スバルが怪訝そうに問い返す声に、マサムネが苛立ったように言う。
「ナガヒサ・ロクレンだよ!ゲーム会社ユニゾンの天才ディレクター」
(引用:かがみの孤城 P358)
ちゃんと繋がってくるんだよなぁ……。さすが。もしかしたら、スバルが「ゲームを作る人になる」って言ったのは、マサムネのここのセリフを覚えていたからでもあるんじゃないかな。
『昴』の意味は
二十八宿の一、昴宿(ぼうしゅく)の和名。牡牛座(おうしざ)にあるプレアデス星団で、肉眼で見えるのはふつう6個。六連星(むつらぼし)。
ロクレンは6連星から取っているんだろう。
こころ&アキ
アキは城でこころに救われ、こころは「こころの教室」でアキに救われる。守り守られの関係、しかも記憶がなくなっているけれどもしっかり巡りあっているっていうのがほっこりする。しかもあのアキが立派な大人になって……。
リオン&ミオ(オオカミさま)、ついつい主人公のこころに注目してしまう所だけど、この二人の真相が一番びっくりした、完全に予想外だった。いい姉弟愛…。
──印象に残ったセリフなど
「自分は、みんなと同じになれない──、いつ、どうしてそうなったかわからないけど、失敗した子みたいに思えていたから。だから、みんなが普通の子にするみたいに友達になってくれて、すごく嬉しかった」
(引用:かがみの孤城 P528)
「未来で待ってるから」
そう言うのが精いっぱいだった。晶子が目を見開く。
「2006年。アキの、14年後の未来で、私は待ってる。会いに来てね」
(引用:かがみの孤城 P532)
時をかける少女かな?
最後に
著者の他作品は『冷たい校舎の時は止まる』と『スロウハイツの神様』は読んだことがある。『かがみの孤城』とそれらの作品で共通するのは、限られた空間の数人からなるグループがメインで構成されたストーリーである点。
『冷たい校舎の時は止まる』では、同級生同士が学校という空間で、『スロウハイツの神様』では、スロウハイツに集まった仲間同士で、そして『かがみの孤城』では、雪科第五中学に通えていない者同士が城で。
このようなシチュエーションの作品が著者は得意なのかな。他の作品も是非読んでみたくなった。
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