小川一水の『天冥の標Ⅱ 救世群』の感想と、疑問・考察について書いた。ネタバレありなので未読の方はご注意を。
【『天冥の標Ⅰ』の感想はコチラ】
目次
感想
『天冥の標Ⅰ』での未来の話とは打って変わって『天冥の標Ⅱ〈救世群〉』では現代の話。それだけで「おいおい、続きじゃないんか!?カドムたちはどうなったんや!?」ってなった。
けれども、裏表紙のあらすじの「すべての発端を描くシリーズ第2巻」とあるように冥王班について触れられはじめ、Ⅰとの繋がりが見えてくると一気に物語に引き込まれる。
物語に引き込まれたのは、Ⅰとの繋がりがきっかけだけど、そこから先はシンプルにストーリーと展開が面白かった。読んでいてつらい場面もあったが……。
同じ本を読むにしても、読む時期によって受け取る印象が変わるだろうなぁと思わざるを得なかった。というのも感染症について大きく触れられている物語なので、ついつい今のコロナの状況と照らし合わせて読んでしまう。
もしまだコロナが蔓延する前に読んでいたとしたら”フィクションの世界”と割り切って読めていただろうが、コロナ禍の今の状況だと、もし今回のコロナがこれほど殺傷力があったとしたら、阿鼻叫喚の世界に変わってしまっていた可能性も否定できないと思うと、ゾッとした。
圭吾視点からみる医療現場もずいぶん悲惨さが溢れているけど、とくに競技場に感染者が集められるところから、無人島へ送られるところなんて辛すぎるんだよなぁ……。理想論だけでは語れないつらすぎる現実がある。
天冥の標ⅠとⅡの繋がり
1.フィオドール
Ⅰでは、カドムが持っている石造のロボットの名前
Ⅱでは、主要な登場人物の名前であり、そのAIは『フェオドール・ダッシュ』という名前。
そしてⅡの最後では、AIのアバターとして石造のロボットがでてきている。
2.病気
Ⅰでイサリがもたらした病と、Ⅱの病、病名はともに『冥王斑』であり同じである。
3.ダダー
断章で唐突にⅠにでてきたダダーがでてきた。フェオドール・ダッシュを乗っ取ったようだが……これがⅠにでてきたダダーになると思われる。
4.救世群
千茅たちは回復者たちである自分たちの事を『救世群〈プラクティス〉』と名乗り始める。
そしてⅠのラストで
かつて六つの勢力があった。
それらは「医師団〈リエゾン・ドクター〉」「宇宙軍〈リカバラー〉」「恋人〈プロステイユート〉」「亡霊〈ダダー〉」「石工〈メイスン〉」「議会〈スカウト〉」からなり、「救世群〈プラクティス〉」に抗した。
(引用:天冥の標Ⅰ〈下〉P357)
とあるようように、この救世群が着実に力をつけていくであろうことが伺える。
残された謎・今後気になる点
1.コトクトについて
「解剖学的に地球の生物の系統樹から大きく外れたことクトクトの体や、大気圏突入を前提とした卵の構造、それに冥王斑を人類に蔓延させるために調整されたとしか思えない、ゲノム塩基配列などから、これは地球の生き物ではないと考えられます。その意味するところを、私はこう解釈しました。──すなわち、冥王斑とは地球外の何者かが仕掛けた、大げさないたずらだった、と」
(引用:天冥の標Ⅱ P433)
もっともらしい事をいっているが、これを言っているのがフェオドール・ダッシュだから素直に受け取れない。
2.村崩壊の原因
ジョプの村が冥王斑に襲われることになった原因は下記である。
だが、そこで運命が一変した。夫婦がある者にそそのかされ、何かを食べた。そこから悪夢が始まった。
(引用:天冥の標Ⅱ P195-196)
ある者と何かは、今回明かされていなかったが、”何か”はコクトク関連だと推測できる。
またジョプが”ある者”と言っているので、ジョプが名前の知らない村の部外者であることが想像できる(この書き方だと村人の誰かという意味で”ある者”をさしている可能性もあるが)。
そうなるとコトクトについて知っていて、かつ閉鎖的なこの村で婚礼の儀に参加できる人物と考えるとだいぶ謎が深まる。
印象に残ったセリフなど
どうということもない、何の意味もない会話。再び自分にそれができたことが、自制を忘れるぐらい嬉しかった。しかも、もっともあり得ないと思っていた相手がそれを持ってきてくれたのだ。
それに自分が飢えていることすら、いつしか忘れ果ててしまっていた。千茅は両手で代わる代わる涙をぬぐいながら、必死になってマイクに手を伸ばした。
(引用:天冥の標Ⅱ P225)
この国に国民は人間に囲まれすぎているいっぽう、アジアの多くの都市よりも恵まれた環境に生きており、外因に害される心配がないので、人間関係以外のものが見えなくなっている。興味があるのは自分とつながりのあるごく狭い世界だけ。──あの圭吾や華奈子のような例外はあるにしても、ほとんどの人が自分の周りに壁を作り、壁の外の事は関係ないと考えている。ただ壁の内側に入られたと感じたときだけ、昨日の施設で目撃したように、猛然と反撃してくるのだ。
(引用:天冥の標Ⅱ P265)
まさに今の日本の状況に近い。