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『天冥の標Ⅴ〈羊と猿と百掬の銀河〉』の感想:本当の根源に迫る【小川一水】

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「知ろうとした?今は違うの?」
「今でもそうだ。けれどもぼくは思ったよりもたくさん見てしまったから」
「何を?」
「人が、可憐に滅んでいくさまを」
かの者を除いて、この世に彼より可憐でないものなど、存在しなかった。

(引用:天冥の標Ⅴ P315-316/小川一水)


小川一水の人気SFシリーズ『天冥の標Ⅴ〈羊と猿と百掬の銀河〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前作の感想はコチラ
【『天冥の標Ⅳ』の感想】

目次

感想

Ⅰ〜Ⅳでは、少しずつ触れてきていたノルルスカインについて一気に進展した巻だった。


断章のノルルスカインについて語られる所は格別に面白い。面白いが……如何せん話が難しい。しかしタックたちの話と並行だったので丁度いい読み具合だった。


もちろん今回も独立した話な訳もなく、これまでの各巻(Ⅰ〜Ⅳ)に散らばってる伏線の回収がされ、また一つ核心に迫ってきた感がある。


ドロテア・ワットがでてきた所とか、こう繋がるのか!と興奮したし、冥王斑の出処もついにでてきた。前からコトクトは出てきていたが、”誰が”、”どうやって”行っていたかちゃんと明記されたのはコレが初だったはず。

オムニフロラの攻撃を察知するのは困難である。ごく小さなポッドを使って惑星へ保菌生物を降下させるからだ。
《中略》
広い惑星表面に六本足のサルの幼獣を収めた卵を一日ひとつだけ落とすという方法で、かの者は攻撃できる。

(引用:天冥の標Ⅴ P304)


先を読み進めば読み進めるだけ、以前の巻を読み返したくなる。今読み返したら新しい発見がありそう。


──ダダーのノルルスカイン編

相変わらずノルルスカインが出てくる話は、スケールが宇宙の基準だから年月が桁違い。今回はノルルスカインの誕生から成長、そして宿敵のオムニフロラとの戦いが描かれてる訳だが……。


どこをとっても興味深くて面白い。これまでのⅠ〜Ⅳのチラっと書かれた断章だけでも満足だったのに、今回は濃密すぎてお腹いっぱい。


ノルルスカインは、サンゴ人の奇妙な生態や他人依存な生き方に触れて誕生・成長をしたために彼らの生態と近しい所があるわけだが、じゃああのイタズラっこで自由奔放なミスチフは何が元で誕生したのか気になるところではある。たぶん語られることはないだろうが……。


ノルルスカインとオムニフロラの対立の進行が素直に面白い。
オムニフロラについてはⅢの感想で触れたがずっと気になっていて、ようやくでてきたか!って感じ。
【『天冥の標Ⅲ』の感想】
『天冥の標Ⅲ〈アウレーリア一統〉』感想:過去と未来を繋ぐ物語【小川一水】 - FGかふぇ


Ⅳまでの段階では、ミスチフ自体がノルルスカインと対立してるかと思っていたが、ミスチフが呑み込まれたのはビックリだった。弱肉強食……。


今思い返せば、Ⅲでフェオドール(ノルルスカイン)とオムニフロラの対面のシーン……こんなに深い因縁だったんだなって。

「あぁ、よく知ってる。こいつはぼくときみたちの敵だ。なかんずくきみたちとは、三百年前から不倶戴天となった──」
フェオドール・ロボットは、人の胴ホドもある玉石を連ねた右腕を振り上げ、轟然と突進した。
「ミスチフ、失敗した被展開体。オムニフロラと睦んでしまった、ぼくの歓迎できない仲間だ」

(引用:天冥の標Ⅲ P509)


ノルルスカイン目線で見るとオムニフロラとは敵対関係なわけだけど、オムニフロラは純粋な生存本能で動いていて、悪意がないのが逆にこわい。姿が植物なだけあって構造というか生態を強く反映してるのも面白い。


植物のテーマのSFというと以前『地球の長い午後』を読んだことあって、これも植物の純粋な生存本能からくる意図しない悪意が印象的だった。癖は強いけどオススメ。

【『地球の長い午後』紹介】
植物が地球を支配した世界『地球の長い午後』のあらすじ・感想を好き勝手に語る【ブライアン・W・オールディス】 - FGかふぇ

──本編(農業編)

宇宙での食料(農業)事情の話が個人的にすごく好き。Ⅲの〈アウレーリア一統〉みたいなゴリゴリに宇宙船を使った戦闘や宇宙海賊との争いも、いかにもSFって感じがしてワクワクする。


しかしそれ以上に、生活を支える『食』という生きていくうえで必要不可欠な存在が、地球外の環境においてどのようにまかなわれているのか?さらには地球外ではどのような問題が発生するのか?など派手さはないが、身近に感じてとても興味をひかれるし面白い。


また、農業だけではなくて地球ではない場所での食べて、寝て、働くという”普通”の暮らしが、今までのⅠ〜Ⅳではあまり描かれていなかったので、そんなあたりまえのような日常生活がみれて新鮮だった。


ザリーガがイシスのクローンというのは、明かされる前から予想がついたけど、アニーの正体は予想外すぎた……終盤までわからなかった。


また、詳細は語られてなかったけど、レッドリートもオムニフロラの仕業としか思えない。


タックたちの説明だと食用じゃない麦が広がるだけかと思ってたけど(それでも農家としたら大惨事だが)、残されてた映像の内容えぐすぎたな。そりゃ必死に食い止めようとするのも理解できる。あの生存能力、意図してない悪意がオムニフロラを連想させられる。

最後に

大きな進展をみせた巻、本編も断章もめっちゃ面白かった。Ⅰ〜Ⅴまで読んできたけど一番好きな巻になった。

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【天冥の標Ⅵ〈宿怨〉の感想】

【オススメ】