「まだわかってないな。人類だよ」ハンは両手の先をクイと自分の顔に向けた。「僕たちが人類であり、人類といえば僕たちになったんだ。厳密な意味で」
(引用:天冥の標Ⅶ P213)
小川一水の『天冥の標』シリーズ第7段、『天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。
前回の感想はコチラ
【天冥の標6〈宿怨〉 感想】
目次
感想
とりあえず一言、面白かった。これに尽きる。前作『天冥の標Ⅵ〈宿怨』も面白かったが、それに負けず劣らず…!これまでの伏線である衝撃の事実が次々に明らかになっていくから読む手が止められなかった。
Ⅵ、Ⅶと後半に突入してから加速度的に面白くなってる。終盤読む頃にはもう燃え尽きてるかもしれない。
──ついに……
ついに1巻〈メニー・メニー・シープ〉と繋がった。2〜6巻までは、1巻の祖先たちが出てきていたことで物語の繋がりを感じていたが、7 巻にしてついに謎多き1巻の舞台〈メニー・メニー・シープ〉が登場した。
私たちの新しい社会を豊かですばらしいものにしましょう。その願いをこめて、この国をメニー・メニー・シープと名付けたいと思います。──賛成の人は、また後で投票してくださいね」
(引用:天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉P358)
サンドラが「メニー・メニー・シープ」と発言するまでブラックチェンバーがそこであるなんて思いもしてなかった。逆にその一言ですべてが繋がった…!!
1巻で昼間にも関わらず空が暗くなったのは、それが地下だったから。プラクティスが襲ってきた理由と〈メニー・メニー・シープ〉にいた理由。ラゴスたち《恋人たち》がいた理由。メイスンがいた理由etc……。
今思えば、〈メニー・メニー・シープ〉に繋がる鍵はちゃんと揃ってた。登場人物でいえば、セキアやユレイン、《恋人たち》、メイスンなど。
他にはシェパード号も登場してたし、電力のひっ迫状況に関しては1巻と似た状態だなぁと思いはしたのに、同じ場所だとは結びつけられなかった。メニー・メニー・シープを1巻の説明にあったように、「どこか遠い宇宙」っていうのを完全に信じてしまっていた。
それに1巻ででてきた広大な場所がまさか地下だとは思えない。初期のブラックチェンバーとは絶対に結びつかない。
たくさんのヒントはあったのにまったく気づかなかった…。だからそこ明かされた瞬間の衝撃といったらなかった。
──相変わらずの絶望
先に後半について触れてしまったが、前半に語られる子供たちだけで取り残されてしまったブラックチェンバーでの生活もなかなかに絶望を極めてた。
ずっと息が詰まる展開だし、希望は絶たれていくし、ブラックチェンバー内の状況は悪化の一途をたどってるし……。
子供たちだけの無秩序さって、ここまで残酷になるんだなって思い知らされた。そんな中でもスカウトのメンバーは優秀すぎたよ……。
──印象に残ったセリフなど
「まだわかってないな。人類だよ」ハンは両手の先をクイと自分の顔に向けた。「僕たちが人類であり、人類といえば僕たちになったんだ。厳密な意味で」
(引用:天冥の標Ⅶ P213)
「『できない』を私は見るの。団結できない。ルールを守れない。弱いものを助けられない。夫婦で許しあえない。みんなが許そうとしないそういうところに、私は目が向く」
(引用:天冥の標Ⅶ P260)
サンドラのこのセリフ、自分でもなんで引っかかったのか最初はわからなかったけどこれ、『図書館の魔女』のキリンとマツリカの会話に似てるからだった。将棋でなぜその手を『選ばなかったか』のか、の話。
『図書館の魔女』はイイぞ…!
「ねぇ、アイン。乗り越えているの?そんなは、スカウトは、あなたは、私は、たくさんのたくさんの死を、乗り越えて前に進んでいるのかしら。乗り越えるってどういうことなのかしら」
(引用:天冥の標Ⅶ P264)
最後に
今回のⅦでは途中から重力が強くなったという描写はあったものの、結局その
原因は明記されていなかった気がする。そんなことができるとしたらドロテアくらいのものだと思うが……。実際メニー・メニー・シープがセレスの地下だから、ドロテアがある理由もわかるし、1巻でアクリラが地下で見た”ドロテアらしきもの”の正体もこれで繋がるような気がする。
何はともあれ2800年に近づいてきた今後に期待。
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