森博嗣のVシリーズ第5段『魔剣天翔』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。前回の感想はコチラ。
『夢・出逢い・出逢い』の感想
目次
感想
前作の『夢・出逢い・魔性』と比べると読みやすくて、サクサクと読み進められた。
飛行機?の中、空中密室の殺人というインパクト。
時限装置説や、離陸前にすでに撃たれていた説は練無や紫子があげていたけど、私が考えついたのも彼女らと同じレベルの所までだった。
紅子のように視点を180度変えての発想と、論理的な思考力……かっこいいわ。今巻での紅子の活躍で一番印象に残ってる場面は、タクシーに乗っていた各務にワインボトルを渡して、各務の指紋を取った場面。
物語後半、林へのプレゼントという形で、あのときの行動の答え合わせをしてくれた訳だが……鳥肌たったね。
「このボトルに、斎藤静子さんの指紋があります」紅子は澄ました表情で言った。「わたし、あのとき、わざと彼女にこれを握らせたの。だって、ずっと姿を隠していた保呂草さんが、あんな時間に慌てて戻ってきて、しかもタクシーの中で待たせている女なのよ。興味が湧くのが当然でしょう?普通のじゃないって思ったものですから、つい……」
(引用:魔剣天翔 P400)
指紋をとるって発想もそうだし、物事への嗅覚の良さが半端ない。
──脅迫状
P115に出てくる脅迫状。なんらかの意図があるのだろうとは思っていたものの、出てきた段階で解読はかなわなかった。しかし、物語後半で紅子が「各務亜樹良」の名前が入っていると語っていて……!
ヨワキココロヨリ
スカイボルトヲイダク
ソノモノノチルハサイワイ
ヒトハチリテマケンハトム
アタラシキチヲハサキニソソギ
テンクウニミルユメハサラニトオキ
(引用:魔剣天翔 P115)
脅迫状は、末尾の文字を50音順を1つ前にずらすと『キギムイクリ』→『カガミアキラ』になる。
暗号としては、奇抜な訳じゃないが……ノーヒントじゃなかなか気付けないよなぁ……。保呂草の遊び心。
──練無の過去
練無に関係の深い登場人物、杏奈の登場によって練無の過去の鱗片が垣間見えたのだが……。切なかったな……とくにラスト、あの明るさの裏にある本音の部分が見えた。
癖が強い阿漕荘のメンバー、その中でもとくに練無は女装趣味の上、少林寺が使える…とVシリーズを読み始めた頃から「どうしてそうなった」と思っていた。
でも蓋をあけてみれば……と。一途なんだなぁ……それに物語の結末を知ってしまうて切なくて切なくてしょうがない。
練無だけではなく、保呂草の新たなる一面や、紅子と林の離婚のいきさつ(?)にも少し触れられ、よりVシリーズを読むのが楽しくなってきた。この『魔剣天翔』でちょうど折り返しだしね。
──印象に残ったセリフなど
もしかすると、飛んでいる姿が美しいと感じるのは、バックに大空があるためであろうか。
(引用:魔剣天翔 P11)
飛行機がなぜ美しく感じるのか
なんか納得
ところで、私は美術品がとても好きだ。その中でも、特に絵画に興味がある。それが好ましく、あるいは美しく感じられる理由(あるいは対象)は、物体としての「絵」そのものにはない。つまり、そこに描かれているものに対する美ではありえない。もしそうならば、絵画の写真を撮れば、ほぼ自分のものになるのだろう。そうではなく、絵筆を持ちキャンパスに向かっている画家の姿、その目、その手、その姿勢、その生きざまのすべてが、つまりは、「美」として、彼の絵の中に焼き付いているのだ。
それを私は観る。
結局のところ、人が作ったものを美しいと感じるのは、すべてこのシステムによるものだと、おぼろげながら、私は考えている。まだまだ言葉が足りないと思うけど、この辺でやめておこう。
(引用:魔剣天翔 P13)
人が”美しい”と感じる理由。
美しさは物語の過程に宿る。苦悩とも言える。
どんな出来事でも、ある観測点から見れば奇跡である。したがって、どんな事象についてもほとんど例外なくいえることだが、今回の物語も、いろいろな偶然が重なった、その結果だった。つまり、偶然というのは、人が偶然だと感じる、ただそれだけの評価であって、その気になって観察すれば、自然界のいたるところに偶然は存在する。木の葉は偶然にも、私の足元に舞い降りる。こんな奇跡的なことが無限に発生して、日常を形成するのだ。
(引用:魔剣天翔 P18)
偶然とは、人が偶然だと感じる、ただそれだけの評価。
前置きがあったように、偶然が多い物語だったのは確か。しかしそれは読者がそう感じただけ?
最後に
名言?好きなセリフが多い巻だった。ミステリとしての面白さもあるし、上記で引用したような印象に残るセリフがたくんあるのも森博嗣を好きなところ。
【オススメ】