語りえぬものについては、沈黙せねばならない。
(引用:Φは壊れたね P299/森博嗣)
森博嗣のGシリーズ第1弾『Φは壊れたね』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。
【『Gシリーズ』一覧まとめ】
目次
あらすじ
その死体は、Yの字に吊られていた。背中に作りものの翼をつけて。部屋は密室状態。さらに死体発見の一部始終が、ビデオに録画されていた。タイトルは「Φは壊れたね」。これは挑戦なのか?N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。Gシリーズ、待望の文庫版スタート!
感想
本書あらすじの後半『N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。』を見て、てっきり萌絵が探偵役として事件の真相を解き明かしていくのかと思っていたが、ところがどっこい新たな探偵役が登場してGシリーズも楽しそうで期待が高まる。
登場人物は、先程ふれた西之園萌絵をはじめ、犀川、国枝、鵜飼刑事……とS&Mシリーズを読んでいた方にはお馴染みのメンバーが登場してとても懐かしい気分になった。
山吹は、『四季 秋』で萌絵にコーヒーの入れ方を教えていた人物だとすぐにわかったが、加部谷もすでに登場していた人物だったらしい…。
ちょいと調べたらS&Mシリーズ『幻惑の死と使徒』で登場してた。読み返してみたら加部谷は初登場は中学生…!今回のGシリーズでは大学生となっていて時の流れを感じる……。
ちなみに若干(?)のヒントはあって、物語の中盤、録画の映像を見ているシーンで
加部谷は呼吸を整え、もう完全に復活した。
死体を間近に見た経験が、彼女にはある。そのときは、本当にびっくりした。今でも、その映像を鮮明に再現できる。
(引用:Φは壊れたね P195)
『死体を間近に見た経験が、彼女にはある。』と明らかなフリを書きながら『Φは壊れたね』の物語中では、このコトについて触れられなかったのから、どういうことかと思っていたが、過去作へのヒントだった訳か。納得納得。
──海月及介
海月及介《クラゲキュウスケ》。今回の探偵役。変わった名前がよく登場する、でお馴染みの森博嗣作品だが、『クラゲ』はなかなかのインパクト。でも実際にある苗字らしいね。
必要なこと以外しゃべらない寡黙さは犀川以上。犀川のようにジョークさえ言わないので、よりクールな印象。でも滞りなく理路整然と推理を話すのはギャップの塊。
その姿をみて、犀川に似てる…!と思ったが萌絵ですら『同類』と称するのなら、私の印象は間違ってなかったようだ。
「そう……」西之園も目を丸くして海月を見ていた。「いるのね、同じ系列の人が……」
(引用:Φは壊れたね P275)
萌絵が活躍するものだとばかり思っていたので、彼の活躍は予想外だった。
──『Φは壊れたね』
正直、私はタイトル『Φは壊れたね』の意味を納得しきれなかった。作中では海月の推理によって一応の解釈は提示されていた。
「作品なんですよ」海月は答える。「そういう作品だったのです。その作品のタイトルが《Φは壊れたね》だったのです。もちろん、宙吊りになり、手も腕も痛い。彼の意識は殺されるときには、既に朦朧となっていたでしょう。しかし、声を上げなかったのは、彼に相当な覚悟があったからだと想像できます。
(引用:Φは壊れたね P291)
『作品のタイトルです。はい、おしまい』って感じで釈然とせず、他の方の記事を読んでみてたのだが、この方の記事のタイトルへの考察アプローチが面白かったので、海月の推理で納得しきれなかった方は是非目を通してみてほしい。
森博嗣『φは壊れたね』ガチ考察|そら|肩書きのないnoter|note
もちろんこの記事の解釈が正解かは、わからない。答えは森博嗣のみぞ知るのだから仕方がない。それにしても私としては、納得できたし、その他の考察も本書の隅々まで目を光らせ、そして他シリーズまで絡めて書かれており、とても参考になった。
最後に
質のある密室トリック、そして新たな探偵。S&M、Vとはまた違う空気感の中、Gシリーズはどこへ向かうのか。次作がはやくも楽しみだ。
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