「はい。このゲームにルールはないと思っています。勝つためなら何でもやります。もっと確実にゲームに勝つ方法がある、とおっしゃるなら話は別ですけど」
(引用:マスカレード・ゲーム P130)
2022年4月20日に発売した東野圭吾『マスカレードシリーズ』の最新作『マスカレード・ゲーム』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。
【マスカレード・ゲームのあらすじ・紹介】
前作の感想はコチラ。
【マスカレード・ナイトの感想】
目次
あらすじ
解決の糸口すらつかめない3つの殺人事件。
共通点はその殺害方法と、被害者はみな過去に人を死なせた者であることだった。
捜査を進めると、その被害者たちを憎む過去の事件における遺族らが、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。
警部となった新田浩介は、複雑な思いを抱えながら再び潜入捜査を開始する──。
累計490万部突破シリーズ、総決算!
感想
マスカレードシリーズが大好きだから贔屓目もあるかもしれないが、今作も面白かった。前作『マスカレード・ナイト』みたいな派手さはなくて、淡々と進む感じが現実的ですき。
読み始めたらあっという間だったなぁ……事件の方は意外性あり。シリーズとしての進展もあり。エンタメだけじゃなくて、罪の話がありこれまでのシリーズにはなかった深みがある。世の中悪い人間ばかりじゃないと思えるいい話。
そして、ラストはまさかの展開。確かに今後もマスカレードシリーズを続けていくためには、新田がコルテシアに転職することが、一番都合がいいのかな。(これ以上、ホテルで凶悪事件が続くのはコ●ン君もビックリの事件遭遇体質になってしまう)
まだシリーズが続くのかは知らないけど、大好きな作品だから、『マスカレード・イブ』みたいに短編でもいいから続いてほしい。むしろ短編は新田と山岸が同じ職場なら書きやすいんじゃないかな。今後も期待。なんとしても新田・山岸のその後は見届けねばならぬ……!
──山岸は出ないと思ったが……。
今作は、時系列的には『マスカレード・ナイト』から数年後。山岸はまだロサンゼルスで、コルテシア東京には帰ってきておらず、新しい登場人物の梓と新田のコンビが初期の山岸・新田コンビを彷彿とさせるものがあって、『マスカレード・ゲーム』ではこの路線で進むのかなぁと思っていたが、無事に(?)山岸も登場して安心した。
梓は事件を解決させること第一主義で『マスカレード・ホテル』の頃の新田に似てて、新田はホテル側にも配慮があって山岸役っぽかったけど、この二人は見ててハラハラする(だいたい梓のせい)。やっぱり新田・山岸コンビの安定感が一番なんだと思い知らされた。
「新田警部、お詳しいんですね。まるでホテルの人みたい」
新田は一旦梓から目をそらした後、改めて彼女の顔を見つめていった。「とんでもございません」
「はあ?」
「今日の夕方、管理官にいったでしょう。とんでもございません、と。そんな敬語はありません。正しくは、とんでもないことでございます、です」
(引用:マスカレード・ゲーム P68)
初代シリーズからお馴染みの『とんでもないことでございます』のくだり。このへんのやりとりがシリーズものを追ってきたファンとしてはたまらない所。
この場面では、まだ山岸が登場してなかったけど、このやりとりを見ていたらついつい姿を思い浮かべてしまったよね。
「そんなことはいわれなくてもわかっています。御心配なく、こんな格好をしていますけど、ふつうの客には決して近づきません。怪しい客がいた場合に、なるべく近くから監視したいだけなんです」
新田は、客ではなくお客様、という言葉が浮かんだが、さすがに口には出さなかった。
(引用:マスカレード・ゲーム P91)
『客ではなくお客様』も定番の流れだよね。このあたりのやりとりで山岸の影がチラつかせてからの本人登場…!最高だった…!
──事件の真相
メタ的な考えだが交換殺人(ローテーション殺人)だと『マスカレード・ホテル』とほぼ一緒だし、それはないだろうなぁとは思ってた。
弁護士の三輪葉月が怪しいと思って、犯人では…?と考えていたが、流石にそんな一筋縄ではいかず犯人はまったく別の人物と予想外の展開…。
復讐を果たすこと、犯人が罰せられることだけが遺族の救いになるわけじゃない。犯人を許すことが遺族の救いにもなる……と。その救いが難しいものなのは百も承知だけどね……。だからこそ点字ブロックの展開はグッときた。
「誰かを憎み続けるって、エネルギーのいることなんです。そのくせ、そこから新しいものは何も生まれないし!自分を幸せにしてくれるわけでもない。それがわかっているのに憎しみ続ける自分のことが、ひどく卑しい人間のように思えて、だんだん嫌いになっていくんです。だけど『ファントムの会』に入って、自分だけじゃない、みんなそうなんだと知り、ほっとしました。憎しみっていうのは心の弱さから生じるものだろうけれど、そこ弱さを恥じる必要はないんだと思えるようになりました」
(引用:マスカレード・ゲーム P357)
罪人をどう罰するかだけでなく、救うことも考えるべきなんだと。罪をつぐなうことと自らを救うことは同じなんだって。
(引用:マスカレード・ゲーム P364)
──マスカレード・ゲーム
今作のタイトルは『マスカレード・ゲーム』だが、これまでのシリーズほどタイトルの意図が明確にはわからない。一応、作中で『ゲーム』の単語が出てきた場所は2箇所(抜けがあったら申し訳ない)。
梓と新田の会話の場面と、三輪と新田の会話の場面。
「はい。このゲームにルールはないと思っています。勝つためなら何でもやります。もっと確実にゲームに勝つ方法がある、とおっしゃるなら話は別ですけど」
「そのために我々が潜入しているんですがね」
「だけど容疑者たちの部屋には入れないでしょ?私にいわせれば潜入捜査官は──」少し間を置いてから梓は続けた。「役立たずのままゲームオーバーを迎える可能性が高いと思っています」
(引用:マスカレード・ゲーム P130)
盗聴と盗撮のルール無視で捜査を続ける梓と、潜入捜査のルールを守りつつ捜査を進める新田。
結局のところ裁判なんて、罪の重さを賭けた検察と弁護側のゲームに過ぎないと思った。
(引用:マスカレード・ゲーム P327-328)
罪を犯した人間の内面に寄り添わない現在の制度に煮えきらない三輪。
なんだかな……。わざわざこれをタイトルにすることもないと思うが……。これまでのタイトルは全部しっくりきてたからなんだか煮えきらない感じ。
──印象に残った場面・名言
「盗聴器のこと、総支配人に報告しなくていいんですか」
山岸尚美は眉をぴくりと動かした。「してもいいんですか?」
「いや、それは……」
新田が口籠ると山岸尚美は唇の両端を上げた。
「小さなトラブルをいちいち上に報告していたらきりがありません警察もそうじゃないんですか」
「まあ、たしかに」
彼女は人差し指を立てた。「ひとつ、貸しです」
新田は肩をすくめた。「覚えておきます」
(引用:マスカレード・ゲーム P230-231)
全然小さなトラブルじゃないんだけど、これまでに二人が築いた信頼関係あってこそ。このやりとりはかっこよかったな。
「あの方こそ大変そうですね」安岡がいった。「山岸さんが1610号室に行っている間、ずっと端末を睨んでおられました」
「優秀な方よ、警察官としてはね。あの人がいれば悪いことにはならないと思う。でももしかしたら」尚美は閉まったドアを見つめて続けた。「ホテルマンとしても優秀かもしれない」
(引用:マスカレード・ゲーム P285)
「正義?そんなもんはどうだっていいんだよっ」
(引用:マスカレード・ゲーム P332)
今作一の名言。
ただ一人の人間を救いたい。普段クールな新田の熱い部分が垣間見えた瞬間。
最後に
物語の端々に新田がホテル側の考えに寄ってるなぁとは思っていたが、そこも新田転職の伏線だったのかな。ある意味で刑事らしからぬ新田が見れた。
自殺をしようとした犯人の沢崎(長谷部)も、点字ブロックの件の入江も、自分の罪としっかり向き合っていて救いがあった一冊。これまでのシリーズとはまた違った読みごたえに大満足。
【オススメ】