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『ψの悲劇』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



「それじゃあ、話をしましょうか」島田は言った。「鈴木さん、覚悟はよろしい?」
「何の覚悟ですか?」
「貴方が何者か、という話です」

(引用ψの悲劇 P195/森博嗣)


森博嗣のGシリーズ第11弾、後期三部作の二作目『ψの悲劇』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前回の感想
【『χの悲劇』感想】

【『Gシリーズ』一覧まとめ】

目次

あらすじ

遺書ともとれる手紙を残して老博士、八田洋久が失踪した。一年後、洋久と親しかった人々が八田家に集まり、失踪の手がかりを探して実験室に入ると、コンピュータに「ψの悲劇」と題された小説、ノートに〈真賀田博士への返答〉とのメモが。その夜、八田家に悲劇が訪れた。Gシリーズ後期三部作、第二弾。

(引用:ψの悲劇 裏表紙)


感想

やられたね。やられましたよ。
最後に全部持っていかれた……。
このレベルの衝撃を味わったのは久しぶりな気がする。


この流れで、そのままGシリーズ最終巻へ!!……と思っていたら2022年現在、Gシリーズラストを飾る『ωの悲劇』はまだ発売されていないと……。これまでの刊行ペースでいくと2023〜2024年くらいの発売になりそうだから、気長に待つとする……。 



読み始めは時系列が分からず、探り探りで読み進めていた。
島田が登場していて、若い……ってことは『χの悲劇』の最後より前の出来事か?でも今やってることもなんか違うし、どことなくキャラも違うし……って思ってたら、まさかまさかの展開に突入していったね。


ロボットがここまで精巧に、そして世界に根付いていってるとは……。しっかり『χの悲劇』より未来の話だった。私はWシリーズを少しかじっていたので、ロボット技術的には、ようやく繋がってきたなぁと思ったが、Gシリーズしか読んでいなかった方は、この精密すぎて人間と遜色ないロボットの登場に大いに驚かれたはずだ。


物語のほとんどが鈴木の視点で展開され、鈴木の思考も惜しみなく描写されている。ホントに惜しみなくだ。途中で鈴木がロボットだと明かされるわけだが(八田の頭脳の鱗片があるとはいえ)、この今までの思考がロボットで!人工知能で!!作られたものだったなんて!!!と思わずにはいられない。作中でも語られていたが、『人間』っていったいなんなのか、生きているとはなんなのか、考えさせられる。





──衝撃の連続

これまでのGシリーズにないくらい衝撃の連続。前作『χの悲劇』は登場人物の人間関係が明らかになり、そちらの面での衝撃が大きかったが、今回の『ψの悲劇』では、シンプルに物語の展開、前述したが、とくにラストシーンの衝撃が凄まじかった。最後はホントに鳥肌だった。


鈴木、そして八田洋久と2人にポスト・インストールしていたってことは、3人目ができない理由なんてないが、そんなこと考えてもいなかった。



結果を見れば、猫のブラン、将太、吉野を殺害(将太は死んでないが)したのは、身体は違えど八田ということになる。えげつない。


──「わかりません」

八田洋久の残した
最後に内容の数字が、暗号化されていて、解読すると「わかりません」との内容だったことが明かされる。


(残念ながら、もとの数字の暗号、解読方法は明記されていなかった。わかるのは数字は、十数桁だった。ということのみ P39)
そしてその数字の下に〈真賀田博士への返答〉と書かれていたということ。


読者からしたら、こっちがわからないわ!!と言いたくなる所だが、真賀田四季と「わからない」といえばS&Mシリーズ『有限と微小のパン』で下記の会話を四季と犀川でしていた。


「退屈ですか?」
「いいえ」四季はにっこりと微笑む。「先生……。私、最近、いろいろな矛盾を受け入れていますのよ。不思議なくらい、これが素敵なのです。宇宙の起源のように、これが綺麗なの」
「よくわかりません」
「そう……、それが、最後の言葉に相応しい」
「最後の言葉?」
「その言葉こそ、人類の墓標に刻まれるべき一言です。神様、よくわかりませんでした……ってね」
「神様、ですか?」
「ええ、だって、人類の墓標なのですから、それをお読みになるのは、神様しかいないわ」

(引用:有限と微小のパン P826-827)



神様、よくわかりませんでした。
神様=四季って考えられるし、八田の言葉としては死ぬ(眠りにつく)前の、最後の言葉ともとれる。


八田も素晴らしい頭脳の持ち主であるし、四季と似た思考をもっていたのかな。それか八田が四季と話したことがあったか。


たぶん前者かな。八田は下記のような言葉も残していたし

わからない。
私には、わかりません。
それが結論なのだ。
そこが私の到達点。
その先には、なにもない。

(引用:ψの悲劇 P312)

──印象に残ったセリフ・名言

「鈴木さんは、八田家の執事さんなんですね?」島田はきいた。
「はい、そうです」
「私も、メイドをしていたことがあります」
「メイド、ですか……」どういう意味だろうか。

(引用:ψの悲劇 P55)

ここで島田の言うメイドは、冥土とかけたシャレかな。たぶん。一回死んだことありますよ、と。

「人工知能がさ、しかたがない、なんて言うか?それは、あきらかに人間の台詞。人間の思考回路が移植されているから、でてくる言葉だよ」

(引用:ψの悲劇 P216)
人工知能でも言いそうなものだが……。根拠がよくわからない。

「してない。二年まえの八田先生の頭脳を取り込んだの。コピィしてね。ダウンロードに半月近くかかった。それで人口頭脳ストラクチャに二ヶ月もかけてインストールしたわけだ

(引用:ψの悲劇 P218-219)
コピーアンドペーストみたいに簡単に言うなぁ……。もうSFみがある。これが未来か。

「人間なんですか?」
「どこが人間と違う?私には違いがわからない。私自身にわからないんだから、誰にもわからないじゃない?そうでしょう?」

(引用:ψの悲劇 P229)

人間ってなんだろうね?何をもって人間っていうんだろうね?

私は機械だ。《中略》まちがいなく無機なのである。
だが、私には、有機のストラクチャが再現され、組み込まれ、有機の記憶が刻まれてた。それは、生きていることと、かぎりなく近い。
私は意識を持っている、と意識できる。
私というものを、疑うことなく、知っているのだ。
私は、私には証明できる。
私は、私だからだ。

(引用:ψの悲劇 P241)


「難しいところですね。人間って、存在しなければならないのかな」私は言った。それは自分へ跳ね返ってくるテーマにほかならない。「人間は、コンピュータを作った。これが、つまりは人間の進化であって、もう前世代の人間は、役目を終えたのかもしれません」

(引用:ψの悲劇 P278)
人類とコンピュータ、そして人工知能。ダン・ブラウンの『オリジン』にも似たような話があったな。



──備忘録

「えっとね、頭脳を物理的に移植するんじゃないの。全然違う。頭脳回路を、擬似的に構築させるわけ。ニューラルネットワークの構築プロセスに、個人の頭脳から遺伝子アルゴリズムをまず抽出して、その履歴から、同じようにリンクを増殖させる。簡単に言えないんだけど、ようするに、頭の作り方をコピィして、それを電子的に再現する。だから元の頭脳には損傷はなくて、単なるシステムのコピィというか、似た意識を再現することになる。上手く設計どおりに構築すれば、もう同じ器ができたわけで、あとは、メモリィ上のデータを転送するだけ。ほとんど同じ思考回路を持つ個人がもう一体できてしまう。人間の頭脳のシステムだけを、そうやってインストールできるの。わかります?」

(引用:ψの悲劇 P227)
☆頭脳の作り方☆



・八田の利き手がなぜか入れ替わる(P257、P275)

・鈴木は二重人格のロボットだった。人工知能へのインストール技術(P260-261)

・また、久慈昌山の名前が登場(P320)

最後に

後期三部作の『χの悲劇』『ψの悲劇』、そして今後発売予定の『ωの悲劇』は、アメリカの推理作家『エラリー・クイーン』の作品のオマージュだということは、明かされていたが、私の自身その作品を読んだことがなく、是非読んでみようと思っている。どうぜ『ωの悲劇』はまだ発売されないし……。



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