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『図書館の魔女』の好きな所「小さな欠片を未来に届ける」【高田大介】


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『図書館の魔女』の好きな所を書いただけ。今回は、図書館の本質を語っている、小さな欠片を未来に届けるについて。引用が多めになってしまったがご容赦いただきたい。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。
【図書館の魔女 あらすじ・紹介】


──小さな欠片を未来に届ける

『図書館の仕事』『図書館の責務』について語られる場面がたまらなく好き。場所でいうと、3巻のP62-65にかけて。

──そうだね。「書物一般」なんてものは在りはしないんだよ。あるのはかくかくの書物だけ。それどころかしかじかの「書の断片」だけ。今に残っているのは「書一般」どころか、書の一欠片だけ。かりに一冊、一巻き、あるいは粘土版の一枚がきれいに丸ごと遺ってたとしても、それもまた今は失われた文化のほんの一欠片に過ぎない。ほんとうに小さな欠片だけが、なにか歴史の偶然によって、遺され、秘匿され、拾い集められ、掘り当てられてきた。そうした欠片を誰かが丁寧に取り集めて取っておいたなら、また別の誰かがずっと先、ずっと未来にその断片を失われた全体の中に置き戻す作業を手がけるのかも知れない。失われた文化が一部分だけでもその時よみがえるのかも知れない。ならばどんなに小さな欠片でも、小さな断片であればこそむしろ、誰かが未来に届けなくてはならない。誰かが大事に守っていかなければならない。
「それが図書館の仕事であると」
──そうだ。この小さな欠片を未来に届けるのが図書館の責務だ。この上なく具体的な責任だ。「書一般」なんていう得体の知れない抽象物に拘っている暇はないな。

(引用:図書館の魔女〈3〉P62-63/高田大介)


マツリカが語る上記の引用した部分も刺さるものがあるし、そのあとのイズミルの回想シーンもまたどストライク。


60年間、一度も繙かれなかった本との出会い。イズミルが生まれるずっとずっと前から、自分を待っていたかのように書架で眠り続けていた本。


遠い未来の誰かと巡り合わせるために、図書館の誰かが保存し続けてきた。それは「小さな欠片を未来に届ける」ため。


最近気づいたんだけど、ちゃんと「図書館の仕事」についての前ふり……のような伏線が2巻でされてるんだよね。

──キリヒト、これはね、「それだけのこと」なんかじゃない。ここで彼女らが守ろうとしているものは、彼女らを使嗾した者達が守ろうとしていた議会の権益だの、王室の威光だの、そんなものよりはずっと重要でずっと永続的で、それでいて守るに難しいものなんだ。それを倦まず弛まず数千年を超えて守ってきた高い塔の伝統にくられれば、王権の三百年の威光やら議会の埒もない利害の葛藤なんて、吹けば飛ぶようなものに過ぎない。
 それはハルカゼにだって、キリンにだって、それぞれの来歴もあれば義理もあろう、任務もあろう、それは勝手にやってくれればいいんだ。でもあの二人ならもうとっくに判っている。高い塔が何のためにあるのか、図書館が何故ここにあり続けばならないのか。
「それは何のためなんですか」
──大層なことを軽々しく聞くんじゃないよ。しばらく自分で考えなさい。

(引用:図書館の魔女 〈2〉P15-16/高田大介)



2巻で、「しばらく自分で考えなさい。」ってキリヒトと読者を突き放しておいて、3巻でイズミルの回想っていう具体的な例を出して答えにたどり着く形になっている。


ただし読者には「図書館がなぜここにあり続けなければならないのか」のヒントは、このページの4ページ後ろにハルカゼについての記述に含まれている。


ハルカゼの関心は地質や鉱物、人の歴史に比べれば遙か永遠にも近い時間軸の中で展開する無機物の繰り広げるドラマの方に向けられていた。ところがこれら鉱物の永遠の片鱗が、書物と図録と標本の森となって、この図書館の一劃に、その価値を知る者の来訪をずっと待っていたのである。
《中略》
ハルカゼはこの図書館の書架の狭間で、世の鉱物学者や地質学者の書きためた資料と、集めた標本とを総合して地下数十尋におよぶ、岩石と鉱物の織りなす、幾重にも重なった綴れ織りのような立体地図を構想しつつあった。ちょうどマツリカが、焼け残った写本の束から、歴史上失われている原本を脳内で再構をしているように、ハルカゼもこの図書館の書棚の前で、野山に足を踏みいれるものでも気がつかぬ深層の地質の歴史を、ありありとまぶたの裏に描き、彼女の愛する好物の歴史物語を心の中に組み立てていたのである。彼女の偏愛に応える地質と鉱物の真実は、大地の下に隠されているばかりではない、むしろ図書館の中にこそひっそりと隠されてあったのである。

(引用:図書館の魔女〈2〉P19-20/高田大介)


マツリカは、「焼け残った写本の束から、歴史上失われている原本を脳内で再構をしている」と書かれている。
これはまさに、3巻で語っていたいたように、誰かが取り集めた欠片を全体の中に置き戻す作業だし、ハルカゼがおこなっていることも同様だ。


こうやってマツリカ、ハルカゼが残した欠片がさらに未来で誰かの手によって、さらに精錬されていくのだろう。


こういう話がファンタジーの作品で書かれているって物凄く贅沢な寄り道だと思う。好き。


本編では、語られていないけどキリンは、兵法や蝶々の世界を作りあげて、未来に残そうとしているんだろうな。そうなると、ゆくゆくはキリヒトやイズミルたちも未来に欠片を残すことになるのかな……彼らは何を残すんだろう。


最後に

高い塔といえば、『謎めいた螺旋階段』とかに注目しがちだけれども、図書館としての本質もしっかり語られているのがたまらなく好きなポイント。


他にも、登場人物紹介、考察など色々書いてるので興味があれば是非どうぞ。

【図書館の魔女 まとめ】



【オススメ】




物語のスケールに圧倒される『三体』のあらすじ・紹介【劉慈欣】

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「それは、宇宙のどの場所においても適用できる物理法則が存在しないことを意味する。ということはつまり……物理学は存在しない」

(引用:三体 P78/劉慈欣)


SF小説の話題作、中国作家である劉慈欣(りゅう・じきん)の『三体』のあらすじ・紹介をしていく。


【感想はコチラ】



目次

1.あらすじ

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。
失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。
そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。
その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。
そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

(引用:三体 /劉慈欣)

2.三部作で綴られる『三体』

中国作家・劉慈欣の『三体』は三部作で構成されている(今回詳しく紹介するのは第一部のみ)。


第一部:『三体』
第二部:『三体 黒暗森林』
第三部:『三体 死神永生』

このうち現在日本では、2020年6月28日に『三体 黒暗森林』が発売されている。『三体 死神永生』に関しては2020年9月現在では、まだ発売日は未定となっている。



3.見所・ポイント

──序盤は読むのに苦労する

紹介しておいていきなり「読みにくいよ!」というのは恐縮なのだが、序盤は読むのに苦労するだろうと思う。逆にいえばそこを乗り越えられれば、あとはノンストップでいけるはずなので、少し我慢して読み進めてみてほしい。その「読みにくい!」と感じてしまう理由は、主に3つある。



1つ目は、作者が中国の方であり物語の舞台が中国であること。私自身、中国の文化や歴史や地理に疎いため、世界観に順応するのに少し手間取った。


2つ目は、登場人物が覚えづらい。これはあるあるが、海外の作品で横文字の登場人物の名前がわかりにくい、覚えづらい、というのはよくあると思う。これと同じで、登場人物が総じて馴染みのない漢字と読み方なのでスッと頭に入ってこなかった。


3つ目は、序盤は先がまったく見えないこと。『三体』の”さ”の字もでてこないし、歴史の闇を見るような暗い話もでてきて、とっつきにくい感がある。


少し具体的に説明すると、『三体』は3章で構成されている。


第1章 沈黙の春
第2章 三体
第3章 人類の落日

この第1章が先程述べたようになかなかに曲者な部分。あとから振り返ってみれば必要不可欠なことがわかるわけだが、この最初が難問。しかし450ページほどの本書で、第1章は50ページほどしかないので、そこは安心してほしい。

──科学者の相次ぐ不審死と怪現象

主人公で、科学者である汪森(ワン・ミャオ)は、軍と警察の共同組織の会議に招集され、科学者が相次いで不審な死を遂げていることを告げられる。

汪森は共同組織の指令に従い、学術組織「科学フロンティア」のスパイを引き受けるのだが、その後彼の身を『ゴースト・カウントダウン』という怪現象が襲う。物理学の常識を覆す体験をした汪森は、やがて3つの太陽がある異星を舞台としたVRゲーム『三体』にたどり着くのだが……。

──VRゲーム『三体』とその由来

そもそもタイトルの『三体』とは、古典力学の三体問題に由来するものであると思われる。

 天体力学の一分野。三個の物体が、万有引力で引き合っている場合の運動を明らかにする研究。二体問題はニュートンによって解かれたが、三体問題は今日に至るまで厳密な解は得られていない。

(引用:三体問題(さんたいもんだい)とは - コトバンク)


つまりどういうこと?と思った方、百聞は一見にしかず。You Tubeで『三体問題』と調べるとシミュレーションの動画がいくつかでてくる。

https://youtu.be/k7ADUocDHZk

簡単に説明すれば、3つの物体は、万有引力の影響で常に位置を変え続けるため歪んだ軌道になり、予測不可能になる。というもの。


そして主人公は、この摩訶不思議な軌道を描く3つの太陽がある異星を舞台としたVRゲームに出会う。誰がなんのためにこのゲームを作ったのか、そしてこのゲームが示唆するものはなんなのか?


徐々に明らかになっていく、壮大なスケールを目の当たりにしたらもう戻れない。

最後に

冒頭でも述べたが、序盤こそ乗り切ってしまえば、あとはノンストップの読書体験ができるはずだ。私自身、まだ第2部は読めておらず、これから読むのだが楽しみでしかたない。


そう思えるほど、この『三体』は素晴らしいものだと思う。SF好きはもちろん、普段SFを読まない方も一度手にとってみてはいかがだろうか。



【オススメ】




『三体』感想:圧倒される傑作SF【劉 慈欣】


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 すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった。

(引用:三体 P66/劉慈欣)


SF小説の話題作、中国の作家である劉慈欣(りゅう・じきん)の『三体』。つい最近続編の『三体 暗黒森林』も発売され話題沸騰中なわけだが、満を持して読んだので感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『三体』あらすじ・紹介】



目次

感想

中盤、終盤にかけてひたすらに圧倒されたよね。そして『三体』の物語がまだ終わらず続編があることが、まだこの圧倒的な物語を楽しめることが純粋に嬉しかった。なにより終わり方がズルい。間違いなく面白かったのに、まだ序章にすぎない…って感じの終わり方。続編も期待しかない。


──高く飛ぶには、それだけ助走もいるわけで

読み終わってみればこの『三体』面白い事この上ないわけだが、序盤は読むのになかなか苦労した。


その理由は、作者が中国の方であり物語の舞台も中国であること。私自身、中国の文化や歴史に疎いため、世界観に順応するのに少し手間取った。あとは登場人物が覚えづらい。これはあるあるが、海外の作品で横文字の登場人物の名前がわかりにくい、というのはよくあると思う。これと同じで馴染みのない漢字と読み方なのでスッと頭に入ってこなかった。


もう一つの理由は、先がまったく見えないこと。文潔の過去の話から始まっていくわけだが、『三体』の”さ”の字もでてこないし、歴史の闇を見るような暗い話にとっつきにくい感はあった。


しかしそれも今思えば物語に必要不可欠な助走的で部分だった。いい助走がなければ高く飛べないように、文潔の過去話があってこそ、物語に深みが生まれているようだった。


──『三体』の意味が分かったとき……

『三体』を読んでいたときに疑問だったのは、そもそもタイトルの『三体』とはなんなのか?という点。


タイトルの本当の意味が明らかになったときの衝撃といったらない。


はじめ、ゲームの『三体』が登場し、その不思議な世界に一気に流れが変わって物語に惹き込まれた。そこで「これがタイトルの『三体』の意味なのか!」と早とちりしていたために、本当の意味の『三体』が明かされたときはもう、「やられた!!」って思った。


読んでいて一番不可思議だったのは汪淼( ワン・ミャオ)の視界に現れた『ゴーストカウントダウン』のこと。特殊な装置をつけているわけでもないのに、視界に現れる謎のカウントダウン。常識的に考えて不可能な事象がどのように起きているのか?どう説明されるのか?


その解明が、三体世界の実在、そして三体世界の技術によって、これまでの伏線(ゴーストカウントダウンも含めて)が一気に結びつくことになる。正直震えたよね。


スケールが……やべぇよ……そうくるのかよ……。


簡単に、雑に、言ってしまえば『三体』って、”地球VS三体”侵略戦争の準備段階でしかないんだよね。
『三体』という星が存在する。そして密かに侵略が始まっている。ということを描いただけ。


それだけなのに、抜群に面白い。


まだまだ序章にしか思えないのに、これからどうなってしまうのか気になってしかたがない。

──シミュレーション

百聞は一見にしかず。You Tubeで『三体問題』と調べるとシミュレーションの動画がいくつかでてくる。この摩訶不思議な軌道を見ていると、三体世界がいかに過酷な状況下に置かれているかが理解できる。そして地球がいかに安全な奇跡の上に存在しているのかも実感できる。
https://youtu.be/k7ADUocDHZk


──印象に残ったセリフなど

人類のすべての行為は悪であり、悪こそが人類の本質であって、悪だと気づく部分が人によって違うだけなのではないか。人類が自ら道徳に目覚めることなどありえない。

(引用:三体 P29/劉慈欣)

 すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった。

(引用:三体 P66/劉慈欣)

「それは、宇宙のどの場所においても適用できる物理法則が存在しないことを意味する。ということはつまり……物理学は存在しない」

(引用:三体 P78/劉慈欣)



最後に

物語の怒涛の展開も『三体』の大きな魅力だが、やはり一番面白いのはゲームの三体。ゲームが登場してからが、一気に流れが変わってワクワクする。あの不可思議な世界……怖いもの見たさかもしれないけど、人列コンピュータとか寒気がする。よくもまぁ思いつくものだなぁって思ってしまった。




【オススメ】




『虹を待つ彼女』あらすじ・紹介:衝撃的な自殺を遂げた彼女の真意とは…【逸木裕】

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世界が変わって見えた。まさにこのときだった。工藤賢は、生まれて初めて、恋に落ちた。水科晴。六年前、奇妙な方法でこの世を去った、彼女に対して。

(引用:虹を待つ彼女 P149/逸木裕)



第三十六回横溝正史ミステリ大賞受賞作、ゲームの世界と現実の世界を連動させ、何も知らないプレイヤーに渋谷で銃を乱射させる……衝撃的な場面から幕を開ける逸木裕のデビュー作『虹を待つ彼女』を紹介していく。人工知能をテーマに、近未来の世界観で描かれるストーリーは一気読み必至だ。感想はコチラ。


【『虹を待つ彼女』:感想】


目次

あらすじ

2020年、人工知能と恋愛できる人気アプリに携わる有能な研究者の工藤は、優秀さゆえに予想出来てしまう自らの限界に虚しさを覚えていた。そんな折、死者を人工知能化するプロジェクトに参加する。試作品のモデルに選ばれたのは、カルト的な人気を持つ美貌のゲームクリエイター、水科晴。彼女は6年前、自作した”ゾンビを撃ち殺す”オンラインゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして自殺を遂げていた。
晴について調べるうち、彼女の人格に共鳴し、次第に惹かれていく工藤。やがて彼女に”雨”と呼ばれる恋人がいたことを突き止めるが、何者からか「調査を止めなければ殺す」という脅迫を受ける。晴の遺した未発表のゲームの中に彼女への迫るヒントを見つけ、人工知能は完成に近づいていくが──。

(引用:虹を待つ彼女/逸木裕)


見所

『死者を人工知能化するプロジェクト』
『オンラインゲームとドローンを連携させての自殺』

と、あらすじを読んだだけでも興味を惹かれるポイントがいくつもある。先のよめない展開と、これらの気になる要素が物語の中でどう交わっていくのか。近未来の世界観が好奇心を刺激してくれる。


癖のある主人公

主人公の『工藤 賢』。この工藤がかなり癖のある人物。所謂”天才”なのだが、それをひけらかすわけではなく、目立たず仮面をつけた生活を小さい頃から送っていた。とくに未来に対しての「予想」の能力がずば抜けていた。


「自分のポテンシャルの見積もりと、どれくらいの労力でどれくらいのリターンが出るかの費用対効果」を予測できてしまう。予測できすぎてしまうが故に、スポーツも、勉強も、遊びも、人間関係も彼にとっては退屈な物だった。そしてそれは恋愛に関しても顕著に現れていた。

恋愛はサプリメントと同じだ。工藤はある時期から、そう考えるようになった。ドーパミン、ノルアドレナリン、フェニルエチルアミン。恋愛ホルモンなど俗称されるそれらが、脳内で活発になっている状態、それが「恋をしている」状態だ。恋愛とは脳内物質の分泌に過ぎない。必要な時に、必要な分だけ摂取すればいい。
中学、高校。工藤はひたすら人間関係の調整を行い、ときに「サプリメント」を摂取して過ごした。

(引用:虹を待つ彼女 P25/逸木裕)


こんな考えをもっていた彼が初めて本気で恋に落ち、物語の歯車が回り始めるわけだが、よからぬ方向へ進み始めてしまう。工藤が恋に落ちたのはすでにこの世から去っている『水科晴』という人物だった。


天才クリエイター『水科晴』

水科晴は6年前、自作した”ゾンビを撃ち殺す”オンラインゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして自殺を遂げていた。


彼女の美貌、そしてこの奇妙な自殺方法も相まって熱狂的なファンが多く、カルト的な人気を死してなお持っていた。


何故、こんな奇妙な自殺をしたのか?
そもそも、何故自殺してしまったのか?


多くの疑問が解消されていないなか、ひょんなことから、工藤が進める『死者を人工知能化するプロジェクト』の試作に『水科晴』をモデルとすることに決まり、工藤は人工知能作成のために水科晴の情報を集め始めるのだが……。


最後に

水科晴の自殺の理由
死者の人工知能化プロジェクトの結果
そして物語がどんな終着を迎えるのか?


気になる点がたくさんある『虹を待つ彼女』。メインジャンルはミステリだろうが、個人的には恋愛小説としてみても面白いなぁと思う。死者に恋をした主人公、そしてその人物を人工知能での復活を試みる……。


常識的に考えたら報われるはずのない恋にどんな結末が待っているのか?気になる方はぜひ読んでみては?

【オススメ】




『虹を待つ彼女』感想:もしかしたらそれは究極の愛の形【逸木 裕】


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人工知能と劇場型自殺事件を起こした女性を扱ったミステリ『虹を待つ彼女』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『虹を待つ彼女』あらすじ・紹介】

目次

感想

青が基調の美しい表紙と、『虹を待つ彼女』というタイトルに惹かれて購入。前情報なしに読み始めたわけだが、物語にのめり込んであっという間に読み切ってしまった。人工知能についての考えも面白いし、彼女の自殺の謎、ラストでは今までにない読後感を味わうことができた。そして未来の技術について考えさせられる一冊だった。


──ミステリ?いや、究極の恋愛小説

工藤を狙うのは誰なのか?
晴は何故、あんな自殺の仕方をしたのか?

この二つの謎に迫るのが『虹を待つ彼女』のミステリの主軸だと思うが、それ以上に工藤の晴に対する思いが強すぎて、人工知能によって復活させた晴とどのような結末を迎えるのかが気になりすぎてしまった。

恋愛はサプリメントと同じだ。工藤はある時期から、そう考えるようになった。ドーパミン、ノルアドレナリン、フェニルエチルアミン。恋愛ホルモンなど俗称されるそれらが、脳内で活発になっている状態、それが「恋をしている」状態だ。恋愛とは脳内物質の分泌に過ぎない。必要な時に、必要な分だけ摂取すればいい。
中学、高校。工藤はひたすら人間関係の調整を行い、ときに「サプリメント」を摂取して過ごした。

(引用:虹を待つ彼女 P25/逸木裕)


上記のあたりが工藤の恋愛観を如実に表わしている。小さいころから達観した人物……頭が良すぎるのも大変だなと思ってしまう。


そんな恋愛観をブチ壊して工藤を狂わせてしまったのが晴な訳だが……初めて体験した本気の恋愛感情を感じた相手がすでに死んでしまっているって切なすぎない?



自分のすべてをかけて晴を人工知能として復活させようとする様子は狂気を感じる……と最初は思ったが、少し考え方を変えると工藤がした事も共感できる点がある。


それは、もし自分が愛する人を失ったとして、生き返るらせることができる手段があるとしたら手を出さずにいられるだろうか?


工藤は「人工知能との恋愛は、通常の恋愛と変わらない」という考えの持ち主だった。つまり工藤にとっては”データ”としての復活ではなく、”一人の人間”としての復活だった……そして幸か不幸かそれができる環境と技術があった。愛する人と会いたい、という彼の気持ちをそこまで責められるだろうか。


工藤は晴とは生きてるうちに一度も会ったことがなく、彼女の生き様しか知らない点だ。それでもすべてをかけて晴に会おうとした姿勢はある意味、究極の愛だったのかもしれない。


──切なすぎるラスト

雨を協力者に迎え入れて、晴の完成もいよいよになってきた物語の佳境、このストーリーがどのように終幕を迎えるのか、まるで想像ができなかった。


工藤にとっては、辛すぎる結末だったと思う。小賢しく、頭がいいだけに本当の恋をしたことがなかった工藤。なのにはじめての恋がすでに死んだ人間。そして人工知能にも振られる。


工藤は人工知能との恋愛も普通という考えの持ち主だからいいかもしれないが、そう割り切ることができない私にとっては、その恋愛に切なさしか感じられなかった。


最後に工藤ではなくて、雨を選んだということは、生きていた頃と同様に人工知能の晴も同性愛者になったというわけで、人工知能の完成をあらわしていそう。完成な晴を追い求めすぎたがゆえにその恋が報われなくなるって皮肉もいいところだよな。



最後に

ミステリとしても面白かったけど、人工知能との恋愛かぁ…考えさせられる一冊だった。技術としては、現実世界においても近い将来実現可能にはなりそうな気がする。倫理感とかを考慮しなければ。


夢はある……が、しかしって感じ。
今回は、故人との恋愛だったわけだが、2次元と3次元の壁を超えられる技術でもあるわけだよな。それこそ工藤が言ってたように人工知能と普通に恋愛する時代がくるのかもしれない。



【オススメ】




『第六大陸』あらすじ・紹介:月へと挑む近未来SF【小川一水】

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月への挑戦と少女の想いを描いた近未来ハードSF小説、小川一水の『第六大陸』のあらすじ・紹介をしていく。テンポのよいストーリーと飽くなき挑戦、そして宇宙のロマンが詰まった一冊だ。


感想はコチラ
【『第六大陸』感想】

目次

あらすじ

西暦2025年。サハラ、南極、ヒマラヤ──極限環境下での建設事業で、類例のない実績を誇る御鳥羽総合建設は、新たな計画を受注した。依頼主は巨大レジャー企業会長・桃園寺閃之助、工期は10年、予算1500億そして建設地は月。機動建設部の青峰は、桃園寺の孫娘・妙を伴い、月面の中国基地へ現場調査に赴く。だが彼が目にしたのは、想像を絶する過酷な環境だった──民間企業による月面開発計画「第六大陸」全2巻着工!

(引用:第六大陸 〈1〉 小川一水)

『第六大陸』紹介

ざっくりと『第六大陸』を説明するとすれば、民間企業が月面開発計画に挑む物語だ。物語上の年は2025年なので現在から考えれば約5年後の未来を描いたストーリーとなる。人類が初めて本格的な月面開発に挑むわけだが、そこに立ち塞がる困難、その困難に立ち向かう技術者たち、宇宙のリアル、そしてロマン……見どころは多彩である。

──計画の主導者は…年端もいかない少女!?

人類初の月面基地を作る壮大な計画、なんとそれの発案者は一人の少女である。もちろんただの少女ではない、彼女は大企業の会長のお嬢様・桃園寺 妙。


恵まれた環境、優秀な頭脳、なに一つ不自由ない暮らしを手にしている幼き少女は、何故月を目指すのか?そして月に何を作ろうとしているか?


ごりっごりのハードSFにも関わらず、それを主導するのが一人の少女なんて夢がある話じゃないか。

──宇宙のリアル

『第六大陸』の大きな見所が、壮絶で未知なる月面開発に挑む技術者たちの奮闘、そしてそこで描かれる宇宙の現実だ。


月の環境でいえば、温度は−170〜110℃まで変化するし、放射能は降り注ぎ、真空状態、そして重力は地球の6分の1……と、地球とはまったく違った環境である。そんな環境に0から基地を作るとなれば、その苦労は計り知れない。


基地を作るためには、重機が必要になってくるが、もちろんそれも地球から運ばなくてはならない。しかし重機を使うとなると動かすためのガソリンが必要になるが、そんな便利なもの月にはないため、エネルギーの問題もクリアしなくてはならない。さらに、その重機は月の重力6分の1に適応させた形にしなければならない。


このように一つの問題をとりあげただけでも、様々な課題が浮かび上がってくる。この困難を地道にクリアしていく様子がたまらなく面白い。物語の年代が現在と近いというのも一つポイントかもしれない。


そもそもだが物語の中は現在と同じで、簡単にロケットを打ち上げられる環境ではない。莫大なお金がかかるうえに、打ち上げの成功率はもちろん100%ではない。民間企業による宇宙進出を描くこの『第六大陸』だからこそシビアな金銭事情が語られている。


最後に

1969年にアメリカのアポロ計画によって人類は初めて月に降り立った。そこからすでに約50年がたっている。月へ行く技術は、50年前からあるにも関わらず、何故、人類は未だに月に進出していないのか?漠然と思っていた疑問だが『第六大陸』を読んで解決したが、こんな単純明快な問題だとは思わなかった。


ストーリーはテンポよく進んで飽きずに読めるし、宇宙のロマンも感じるオススメの一冊。

【オススメ】




『第六大陸』感想:緻密な構成と宇宙のロマンが詰まった一冊【小川一水】

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月への挑戦と少女の想いを描いた近未来ハードSF小説、小川一水の『第六大陸』の感想を語っていく。導入から読者を惹き付ける流れが完璧で、あれよあれよという間に読み切ってしまった。以下ネタバレありのため未読の方はコチラからどうぞ。

【『第六大陸』あらすじ・紹介】


目次

感想

導入から本編(月)への流れが完璧で、あっという間に物語の世界に引き込まれた。海底都市の建築、謎の少女との出会い、そして月への旅立ち…。テンポよく流れるストーリーは飽きがこないし、今後の展開にワクワクが止まらない。

──ストーリーについて

まだ人が住んでいない月に初めて作る建物が結婚式っていう発想がぶっ飛んでて好き。加えてそれの主導者がまだ年端もいかない少女ってのがまた面白い。


幼さ故の発想かも、とも思ったけど物語序盤から妙がただの少女だとは思えなかったし、月に結婚式場を作る計画…『第六大陸』の真の目的がなんなのか?それが気になってどんどん読み進めてしまった。
ただ個人のわがままで宇宙に進出するスケールは規格外すぎる。


もちろん、妙の目的がなんなのか?最初はそれが読み進める大きな原動力にはなっていたが、途中からは『第六大陸』計画に立ちはだかる様々な困難を解決していく過程がたまらなく面白く夢中になって読んでいった。


『第六大陸』計画は確かに、ぶっ飛んだ計画ではあるが、それを実現させるための過程はとてもリアルに描かれている。


月に基地を作るにあたって、まずロケットを打ち上げて荷物を運ばなければならない。もちろん基地をつくるためには重機も必要になる。その重機を動かすためのエネルギーを確保しなければならない。もちろん重機は月の過酷な環境に適応させた形にしなければならない。


自分が考えもしなかった問題と次々と直面する。あぁ、これが宇宙へ行くことなんだなぁと思い知らされる。


後半になるにつれ、妙の考えが明らかになっていくわけだが、彼女の恐ろしさと、それ以上の哀れさに見舞われる。しかし拍子抜け…というか意外だったのが、妙の真の目的(原動力?)が父親への対抗心だったこと。もっと壮大なモノを持っているかと思っていた。まぁ逆に考えれば妙も一人の少女だったということかな。



──宇宙へ”行く”ことのリアル

宇宙に関する知識については言わずもがな丁寧に描かれている。そんな中でひときわ印象に残っているのが宇宙へ行くこと、月に安定した拠点を作ることの難しさ、そしてそれにどれほどお金がかかるのか。


国ではなく民間企業が宇宙を目指す物語なのもあってかこのお金の面が、とてもリアルに描かれていた。宇宙へ行くのは技術以上に金銭問題が深刻なんだと思い知らされた。


今まで似たような宇宙をテーマにしたSF小説はいくつか読んだ事があったが、これほど現実的な問題と向き合った小説は初めてだった。


月面に安定した基地を作るのにかかる費用が1兆2000億……。物語の中では技術革新で10分の1ほどに抑えられるということになっていたが、それにしても果てしない額。


あとは宇宙のリアルについて語るなら危険性については避けて通れない。ロケット墜落などの危険もあるし、なにより月では、死と隣合わせだということ。−170〜110℃まで変化する気温、降り注ぐ放射能、真空etc…。泰の死がなによりも、宇宙は夢ばかりではない、危険な場所なんだということを教えてくれた。

最後に

1969年にアメリカのアポロ計画によって人類は初めて月に降り立った。そこからすでに約50年がたっている。宇宙へ行く技術があるのに何故そこから進んでいないのか?漠然とは思っていた疑問だが『第六大陸』を読んで分かった。単純明快だった。


お金がかかりすぎるから
そしてそれに見合うリターンがないから。


現実的すぎだったなぁ……。でもだからこそ、それを覆す『第六大陸』は面白いんだろうな。


自分が生きているうちに『第六大陸』のように月に人類が進出できることを祈っている。是非ともこの目で見てみたい。




【オススメ】