FGかふぇ

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『青白く輝く月を見たか?』感想:人と人工知能の終着点や如何に【森博嗣】


無限ともいえる知性あるい思考は、どこへ行き着くのか。壮大な実験を人間はスタートさせて、そのまま忘れてしまったのだ。コンピュータは、言われたとおりに学び続け、知性の実験を続けている。
なんとなく虚しい。
人工知能が、無限の虚しさに襲われても無理はない。
想像しただけで、躰が震えるほど、それは虚しく、悲しく、寂しい。

(引用:青白く輝く月を見たか? P184-185)

Wシリーズの6作目、森博嗣の『青白く輝く月を見たか?』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ。
【『私たちは生きているのか?』感想】

目次

あらすじ

オーロラ。北極基地に設置され、基地の閉鎖後、忘れさられたスーパ・コンピュータ。彼女は海底五千メートルで稼働し続けた。データを集積し、思考を重ね、そしていまジレンマに陥っていた。
放置しておけば暴走の可能性もあるとして、オーロラの停止を依頼されるハギリだが、オーロラとは接触することも出来ない。
孤独な人工知能が描く夢とは。知性が涵養する萌芽の物語。

(引用:青白く輝く月を見たか? 裏表紙)


感想

初めのページの登場人物紹介でもうわくわくが……!マガタ博士に、二人のフーリ。そして序盤からマガタ博士が惜しみなく登場するという豪華っぷり。


ちなみにフーリは前作『私たちは生きているのか?』で富の谷にでてきたウォーカロン。
「同じ名前の二人の登場人物ってどういうこと……?」って思ったが、読み進めて納得。悲しきかな、そういうことね……と。



本編のほうは、まさかの密室が登場。まぁ今回はWシリーズなのでがっつりトリックがあったわけではないが、深海5000メートルの密室とかロマンの塊。そしてそこにいるのが忘れ去られた人工知能オーロラ。今更だが設定が良すぎだな?




マガタ博士がアミラの本当の名を『スカーレット』と言っていた。

「アミラは、本当は何という名ですか?」
「スカーレットです。いえ、アミラでけっこうですよ」マガタは、そこで微笑んだ。

(引用:青白く輝く月を見たか? P43)

そもそもアミラって名は、ヴオッシュが勝手に命名した名前。また『テラ』という名前もある。(デボラ、眠っているのか?P152)


マガタ博士はスカーレットと命名したけど、その名はスカーレット自体には語られなかったのかな。スカーレット、紅、Vシリーズ……いや、考えすぎか……?


ベルベットの本名はなんなんだろうね?



人工知能の"心"について語られているのが、この巻で印象的だったことの一つだ。人工知能なのにオーロラは、詩情を読む。そして、素直になれず反発し、虚しさから病む。それは人間だけが持っていると思われていた、心を持っているということだ。そして、心があれば性格があるように知的領域で個人が変容するというのも面白い解釈。


人類は機械に近づき、人類は人間に近づく。
この終着点はどこになるのかな。



オーロラもデボラも能力は桁違いだが、ホント人間っぽさしかない。エピローグ部なんてとくに。エピローグといえば、ハギリとウグイのほんわかするパートが恒例(?)となっていたが、今回もまた良きであった。ミサイルのくだりね。


今回まででウグイがハギリのボディガードから外れて、次からサリノがボディガードになるみたい。新しい展開。ウグイとハギリのコンビは、ズレているようでどこか小気味よく好きだったな。


ボディガードから外れるってだけで今後も物語には登場するだろうけど……どうなることやら。とにかくまた、新しいスタートになりそうなWシリーズ、まだまだ楽しめそうだ。

──印象に残ったセリフ・名言

「それも、マガタ博士の計画の一環のような気がしますね」
「え?ああ……、人間の寿命を延ばして、機械に近づけたわけですか」
「そうです。図らずも、私もそうなりそうです」
「そうか、人類は長寿という餌に釣られて、罠にかかったのか」

(引用:青白く輝く月を見たか? P132-133)

人類は長寿という餌に釣られた…ね。

「応答がないので、みんなが心配していました」僕は話す。「マガタ博士から、その話を聞きました」
「あの方は、常に心配されるのです」オーロラは抑揚のないゆったりとした口調である。「優しすぎる。思い遣りが強すぎる。それで、つい反発してしまい、耳を塞いでおりました。あの方の前では素直になれないのは不思議なことです」
信じられないような言葉だった。これが人工知能の言うことか、と僕は思った。まるで、母娘の喧嘩ではないか。

(引用:青白く輝く月を見たか? P166-167)
ハギリとオーロラの会話。四季の前では、人工知能のオーロラは素直になれない。ハギリも言っているが、もうこれは完全に人の性質というか言葉だよなぁ……。こういう不完全さ?がハギリに言わせると人間の持つ唯一な所なんだろうな。じゃあそれすらもある人工知能のオーロラはもはや何なんだろうか。

彼女は、すべてを見られる。世界中のどこにでも目を持っている。地理的にも歴史的にも、すべてを見てきた。人間のやることを、全部知っている。
無限ともいえる知性、あるいは思考は、どこへ行き着くのか。壮大な実験を人間はスタートさせて、そのまま忘れてしまったのだ。コンピュータは、言われたとおりに学び続け、知性の実験を続けている。
なんとなく虚しい。
人工知能が、無限の虚しさに襲われても無理はない。
想像しただけで、躰が震えるほど、それは虚しく、悲しく、寂しい。

(引用:青白く輝く月を見たか? P184-185)

この場面だけでも面白いが、このあと続くハギリの思考がまた面白い。見所の一つ。

「そうそう、君たちが学ぶのは、言葉になったデータなんだ。そこが、ラーニングの最も大きな落とし穴といえる。人はね、大事なことは言葉にしない。呑み込んでしまうんだ。賢明で正しい思考ほど、言葉になっていない。一番学ばなければならない賢者には、マニュアルがないんだ」
「賢者がマニュアルを残さないのは、どうしてですか?」
「人に教えること、教えられると思い上がることが、賢者にはできないからだよ。そういう自分を許せないんだ」

(引用:青白く輝く月を見たか? P248-249)

これからの未来を、担っていくのは、いったい誰なのか?
おそらくそれは、マガタ博士が目指している共通思考だろう。ぼんやりと、そこにしか道はない、という感覚を僕は抱きつつある。すなわち、人間もウォーカロンも人工知能も、すべて取り込んだ次世代の生命だ。有機も無機もない、生命も非生命もない、現実と仮想もない、すべてが一つになった地球だろう。

(引用:青白く輝く月を見たか? P266)







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