向こう側に捜査員が一人でも姿を見せた場合も、私はスイッチを入れる」
「湯川、気はたしかか」
「これまでの生涯で、最もたしかだ」
(引用:禁断の魔術 P287)
東野圭吾のガリレオシリーズ第8作目『禁断の魔術』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。
目次
あらすじ
高校の物理研究会で湯川の後輩にあたる古芝伸吾は、育ての親だった姉が亡くなって帝都大を中退し町工場で働いていた。ある日、フリーライターが殺された。彼は代議士の大賀を追っており、また大賀の担当の新聞記者が伸吾の姉だったことが判明する。伸吾が失踪し、湯川は伸吾のある"企み"に気づくが…。シリーズ最高傑作!
(引用:禁断の魔術 裏表紙/東野圭吾)
感想
物語終盤の湯川がカッコよすぎて、そこに全部持っていかれた。伸吾の犯行を止めるための、アレ以上の説得の仕方はないだろうな。湯川だからできた方法。
警察がレールガンの押収とかで無理矢理犯行を阻止したなら、伸吾の気持ちは変わらないままだっただろうけど、湯川は言葉だけではなく、行動で伸吾に寄り添っていたのが響いた。
自分も一緒に重荷を背負おうとするあたり、『真夏の方程式』を彷彿とさせるものがあった。いい話だったな。
厳しいのは間違いないんだけど、その厳しさも優しさの裏返し……みたいな感じで次にちゃんと繋がる厳しさが湯川らしさを感じた。『次に繋がる厳しさ』で言うと湯川が伸吾の指導をしているときもそれが垣間見える所がある。
時には、理論があまりに難解で、ついていけなくなりそうなこともあった。それで伸吾が諦めそうになると、湯川は珍しく厳しい言葉を発した。
「諦めるな。過去の人間が考えついたことを、若い君たちが理解できないなんてことはない。一度諦めたら、諦め癖がつく。解ける問題まで解けなくなるぞ」そして伸吾が理解できるまで、粘り強く説明してくれるのだった。
(引用:禁断の魔術 P17)
伸吾が由里奈に勉強を教えているときに、同じ言葉を使って教えていて、本当に湯川のことを尊敬しているんだなって深く感じた。
物語の中で意外だったのは、大賀の人間性と伸吾の姉・秋穂の気持ち。
秋穂をホテルで見殺しにしたであろう大賀はどんなクズ人間かと思いきや、意外や意外でまともな人間。まぁ、見殺しにしたことに変わりはないんだけど……。
秋穂については、伸吾を大学に通わせるお金のために大賀と関係があると思ったのに、まさかの普通の好意からの関係……。
明らかな悪役がいない分、この辺の関係はちょっと煮えきらない所があるけど……まぁ現実的にはこんなもんなんだろうね。
──印象に残ったセリフ・名言
「諦めるな。過去の人間が考えついたことを、若い君たちが理解できないなんてことはない。一度諦めたら、諦め癖がつく。解ける問題まで解けなくなるぞ」
(引用:禁断の魔術 P17)
先程も取り上げた所。湯川の伸吾へのアドバイス。
「彼はこういった。姉の死は悲しいけれど、悲しみは大きな力に変えることができる。だから科学を発達させた最大の原動力は人の死、すなわち戦争ではなかったのか、と」
「湯川先生は何と?」
「もちろん科学技術には常にそういう側面がある。良いことだけに使われるわけではない。要は扱う人間の心次第。邪悪な人間の手にかかれば禁断の魔術となる。科学者は常にそのことを忘れてはならない──そうなふうにいった」
(引用:禁断の魔術 P178)
タイトルが出てくる所。科学技術は使う人の心次第で人の命を奪う"禁断の魔術"になってしまう、と。
過去の伸吾の父にも当てはまるよな……。
「湯川、気はたしかか」
「これまでの生涯で、最もたしかだ」
(引用:禁断の魔術 P287)
このラストシーンの湯川がカッコよすぎる。そして上記のセリフは湯川の本気さが痺れる。