″言葉″のファンタジー『図書館の魔女』
今回はその主要な登場人物である″キリヒト″について思ったことを書いていく。
がっつりネタバレには触れてしまうので未読の方はコチラをどうぞ。
『図書館の魔女』感想・考察・まとめなどはコチラ
【『図書館の魔女』の記事まとめ】
″キリヒト″の謎
キリヒトの正体は2巻の後半で明らかになり、その場面では度肝を抜かれた方も多いことだろう。
キリヒトからの証言、また図書館メンバーたちの推論も2巻の後半でなされているが、まだまだ″キリヒト″の謎は明らかになっていない部分が多い。(図書館の魔女1~4巻の時点では)
″キリヒト″について
先代の″キリヒト″が今のキリヒトの先生のようだが、″キリヒト″について現時点での情報をまとめる。
キリヒトからの証言
・″キリヒト″は一子相伝で名を譲り、各代に一人
・″キリヒト″になれるものが出る家系がある
・先生は浅黒い肌、背は高くなく、痩せがた、眼は黒、白髪でだいぶ抜けている。
・先生はキリヒトの父親
マツリカの十年前の記憶での″キリヒト″
・キリヒトに似ていない
・キリヒトの父親というには、歳がいき過ぎている
・キリヒト同様、足音がしない
・黒の杖を持っていた。
ハルカゼの疑問
マツリカは先代のキリヒトを思い返して、(中略)キリヒトは先代の老齢になってからの子だというのだろうか。たとえば必要があって血を残さなければならなかったとか......
だとすればこれがキリヒトし自身の言葉とは微妙に矛盾する。キリヒトは「先生」の様子を聞かれて「十年前ともなれば様子が違っているかもしれない」などと言っていた。若年のものならともかく、ある程度の高齢にあるものならば十年で「様子が違っ」たりするものだろうか。なにか不自然だ。なにか証言の間に微妙な齟齬がある。
(引用:図書館の魔女 第2巻 P417/高田大介)
マツリカとハルカゼの会話より
・ロワンが若いときにエレニカという場所で先代の″キリヒト″と出会う
・先代″キリヒト″は海峡向こうで武術と兵法の訓練係だった。
・ロワンが先代″キリヒト″をタイキに紹介し、一ノ谷にやってきた。
・十年前まで一ノ谷にいた。
鍛冶の里の親方
「里を出るんだってな」一番鎚の大男が聞く。
「ああ。戻ってくるって言ってたけど」黒石は鎚を振り上げて構えに入った。
「キリヒトはすぐには戻ってこない。戻ってきた例はない」
親方は炉の火から目を離すことなく、黒石を窘めるように呟いた。(中略)戻ってきた例は無いって、親爺は誰のことを言ってるんだろう?
(引用:図書館の魔女 第1巻 P22/高田大介)
考察
※以下ではわかりやすくするため、主人公であるキリヒトはアカリと呼んで進める。またアカリの先生は先代と呼んで進める。
鍛冶の里の親方は「キリヒトはすぐには戻ってこない。戻ってきた例はない」と言っているが、黒石が言うようにこの″キリヒト″は誰を指すのだろうか。
このキリヒトがアカリを指していることはないだろう。もしそうなら黒石は疑問を抱くことはないはずだ。
では、このキリヒトは先代を指すのだろうか。その様に仮定すると、親方は先代であるキリヒトとアカリであるキリヒトの両方を知っていることになる。
親方はキリヒトの名を譲ることを知っていると考えるのが妥当だろう。もしかしたらもう少し細かい事情も知っているのかもしれない。
しかし親方の言うキリヒトが先代であったとしても、疑問の残る点がある。
「キリヒトはすぐには戻ってこない。戻ってきた例はない」
この表現から察するに、先代は鍛冶の里を出てしばらくしてから(何ヵ月?何年?)帰って来たということになる。
では何故里をでて、しばらく戻れなかったのか?
一番妥当なのは『起こらなかった第三次同盟市戦争』の書簡を配っていたためではないだろうか。
しかしそうするとまた新たな疑問が出て来てしまう。
第1に何故、先代は鍛冶の里にいたのか。
第2にアカリはどうしたのか。
ハルカゼとマツリカの会話より先代は元々鍛冶の里にいたわけではなく、海峡向こうから約10年前に一ノ谷に来たことが伺える。一ノ谷に来た理由は当然、書簡を届けるため、それとタイキの護衛としてだろう。
そうすると第1の疑問、何故先代は鍛冶の里にいたのか?
一ノ谷から3日はかかる鍛冶の里。タイキのために一ノ谷に来た先代が、わざわざ鍛冶の里に行く理由が見当たらない。
唯一の理由があるとすればアカリの修行のためとは考えられるが、10年前ともなればアカリはまだ2~3歳くらい。
先代とアカリが同じ時期に鍛冶の里にやって来たとすると、第2の疑問、アカリはいったいどうしたのか?
書簡の配達のため、危険な海峡向こうへ一緒に渡ったとは考えにくい。しかし幼子のアカリを鍛冶の里に置いていくのも考えにくい。
堂々巡りである。
謎が謎を呼んでわけがわからなくなってくる。
キリヒトの父親にしては歳がいきすぎているというマツリカの言葉や、ハルカゼの気づいた矛盾を考えるとキリヒトはアカリと先代とは別にもう一人いた。
と考えても面白いかもしれない。
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