FGかふぇ

読書やらカフェ巡りが趣味。読んだ本、行ったカフェの紹介がメインのブログです。ごゆるりとどうぞ。

『夜のピクニック』の感想を好き勝手に語る。”あの時”を思い出す青春小説【恩田陸】

当たり前のようにやっていたことが、ある日を境に当たり前でなくなる。こんなふうにして、二度としない行為や、二度と足を踏み入れない場所が、いつのまにか自分の後ろに積み重なっていくのだ。

(引用:夜のピクニック P22/恩田陸)


第二回本屋大賞受賞作、恩田陸の『夜のピクニック』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『夜のピクニック』あらすじ・紹介】

目次

あらすじ

高校生活最後を飾るイベント『歩行祭』。それは全校生徒は夜を徹して80 キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かの誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために──。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。

(引用:夜のピクニック 裏表紙)

感想

ちょっと複雑な事情を抱えた男女が、80キロを歩き通す『歩行祭』という変わった行事を通して、心の成長を描いた物語。事件らしい事件は起きないけど、二人の登場人物の心情の変化が面白い。


貴子の小さな賭けと、去年歩行祭に現れた謎の少年、杏奈の謎めいた伝言…。
気になる要素がいくつも提示されながら物語が進んでいくけど、すべてが丸く収まってく様が読んでいて心地よい。


また主人公の友達たちもいいキャラしてるんだよなぁ。個人的には西脇融の親友、戸田忍くんのキャラがすき。

──なんでもない特別な時間

ただひたすらに80キロ歩き通す「歩行祭」。この発想自体が面白い。


言ってしまえば「歩行祭」なんてやっている事は”ただ歩くだけ”のなんでもない行為。しかしその距離が80キロ超え、時間も途方もなくかかってくると、”歩く”という日常の行為が、非日常の特別な行為へと変わる。


この非日常って中学・高校の修学旅行の夜を思い出す。消灯後の布団の中、先生の見回りを避けて友達とヒソヒソと秘密の話をした夜。


お互いの秘密を共有するこの感じも、打ち明けていいのか悩むもどかしい感じも、あの時の懐かしさを思い出してしまった。


大人になるにつれて、そのような環境と機会がいつの間にかなくなってしまったなぁ…。

──名言・好きな表現

恩田陸の表現・描写って、スッと心に入ってくる。思わずなるほど、と納得してしまう表現、好きな描写などをあげていく。

当たり前のようにやっていたことが、ある日を境に当たり前でなくなる。こんなふうにして、二度としない行為や、二度と足を踏み入れない場所が、いつのまにか自分の後ろに積み重なっていくのだ。卒業が近いのだ、ということを、彼はこの瞬間、初めて実感した。

(引用:夜のピクニック P22/恩田陸)


『二度としない行為や、二度と足を踏み入れない場所が、いつのまにか自分の後ろに積み重なっていく』


言ってしまえば当たり前だけど、なかなか気づけない事実。必死に走った運動会も、たくさん準備して望んだ文化祭も、大人になってしまったら二度とできないことだし、そもそも学校に足を踏み入れることも、もうない。


大人になるってことで、当たり前なんだけど、改めて考えると寂しさがつのるよな…。

日常生活は、意外と細々としたスケジュールに区切られていて、雑念が入らないようになっている。チャイムが鳴り、移動する。バスに乗り、降りる。歯を磨く。食事をする。どれも慣れてしまえば、深く考えることなく反射的にできる。むしろ、長時間連続して思考し続ける機会を、意識的に排除するようになっているのだろう。

(引用:夜のピクニック P73/恩田陸)


無意識に過ぎていってる日々を意識させてくれる。

昼は海の世界で、夜は陸の世界だ。
融はそんなことを思った。そして、自分たちはまさにその境界線に座っている。
昼と夜だけではなく、たった今、いろいろなものの境界線にいるような気がした。大人と子供、日常と非日常、現実と虚構。歩行祭は、そういう境界線の上を落ちないように歩いていく行事だ。

(引用:夜のピクニック P119/恩田陸)

水平線に滲む光は少しずつ弱まってゆき、やがては暗い一線で空と海が溶けた。

(引用:夜のピクニック P130/恩田陸)


『溶けた』って表現してるのが、何故かたまらなくいいなって思ってしまった。

「いいや。他人に対する優しさが、大人の優しさなんだよねえ。引き算の優しさ、というか」
〈中略〉
俺らみたいなガキの優しさって、プラスの優しさじゃん。何かしてあげるとか、文字通り何かあげるとかさ。でも、君らの場合は、何もしないでくれる優しさなんだよな。それって、大人だと思うんだ」

(引用:夜のピクニック P239-240/恩田陸)

その優しさに気づくことができる戸田くん…君もとても大人だと思うよ。


あとは引用すると長くなってしまうから省くけどP186-189の戸田くんの話や例えがとっても響く。林檎と人間関係の例えとか、本とタイミングの話でも、必要なノイズなどなど…。恩田陸『らしい』表現がたくさんあって読んでいて納得しっぱなしだった。


最後に

ちょっと余計な事かもしれないけど、仮眠あとの自由歩行、上位陣は1時間ちょっとで20キロ走りきるってあったけどだいぶ無茶があるのでは……って考えてしまった。


前日…というか2時間前まで60キロ歩いていて、リュックを背負った状態で、20キロを1時間ちょっと…。流石にそれをこなせるのは超人すぎるかな。






【オススメ記事】