彼らは、絶滅という題名のこの壮大な絵画に真っ先に描かれた人類となったのである。
(引用:三体Ⅲ 死神永生《下》P275)
1巻で『三体世界』があることがあきらかになり、2巻で三体世界との接触が始まり……そして今回の3巻『死神永生』で地球文明VS三体文明の決着がつく。
と、普通なら思うじゃないですか。
度肝を抜かれるとはまさにこの事。感想はネタバレありなので未読の方はご注意を。
目次
感想
タイトルが『三体』だし、1巻、2巻の展開から考えても3巻は両文明の争いに決着がつく話だと普通は思うよね?大半の読者はそう思うはず。確かに決着……というよりは道連れに近いが決着はつくが……その後の展開は予想外だったな……。
──この衝撃を文章で表現しきれない
『三体』を読み終わった後に襲ってくる感情は、面白かったとか、楽しかったとか、感動したとかではない。ただひたすらに衝撃だった。
小説に限らず物語において、その作品に惹きつけられる大きな要因の一つは”予想外”にあると思う。わかりやすい例でいえばミステリーのトリック。あとは練り込まれた伏線とその回収とか。
そういった読者をうならせる”予想外”が明らかになったときに、その作品に魅せられることが多いと思う。もちろんジャンルにもよるだろうが。
今回の『三体』はそんな予想外の連続に衝撃を受けた。1巻、2巻も十分すぎるほどの衝撃展開がたくさん待ち受けていたが、3巻に至ってはその1巻、2巻の出来事がまだまだ序章に過ぎなかったのだと思い知らされた。
こんなスケールの大きい物語と初めて出会ったよ。もちろんスケールが大きいだけでなくディテールが凝っているから、そのスケールの大きさに陳腐さがなくて、説得力とリアルさが物語を支えている。
正直私は、知識不足で3巻で語られる話の物理法則だとか宇宙法則だとか2次元、4次元、またその次元の崩壊の話だとか、時間の概念だとか理解しきれてないし、読解力と想像力も足りないから4次元の描写とかイメージしきれなかった。
しかしそんなことは些末な問題だ。もちろん知識があったほうが楽しめるのは間違いないが、細かい知識がなかったとしても、『三体』で語られる宇宙の広大さと登場人物たちの葛藤と活躍を楽しむには何の問題もない。
──物語の結末は……
先程も触れたが私は、『三体』は三体文明VS地球文明の対決が描かれた作品だと思っていた。事実3巻の《上巻》まではそうだった。そして甘い考えを持っていたので「どうせ最後は地球文明がなんとか生き延びるんだろう」と考えていた。
だからこそ、暗黒森林攻撃によってあっさりと地球、そして太陽系が滅びた時は開いた口がふさがらなかった。じゃあこの物語は最後はどこに向かっていくんだ!?と。ここが私が『三体』で一番の衝撃うけた所。予想外。
『三体』は地球文明VS三体文明なんて小さなスケールの物語ではなかった。この物語が三体文明VS地球文明の物語だけだと思っていた、自分の想像力を恥じている。
とはいったものの、まさか宇宙の終わりと始まりにまでスケールが発展していくなんて誰も思わんだろ!!
いま、わたしの責任の階段をてっぺんまで昇りつめた。宇宙の命運に対する責任を担っている。もちろんその責任を担うのは、わたしと関一帆の二人だけではないだろう。しかし、わたしたち二人にも分担すべき責任がある。とても想像できなかったような責任がある。
(引用:三体Ⅲ 死神永生《下》P419)
──印象に残った台詞など
「生命なんか、この惑星の表面にへばりついてる、もろくて柔らかな薄皮でしかないと思ってる?」
「違うの?」
「正しいよ、時間の力を計算に入れなければね。米粒サイズの土くれを倦まずたゆまず運びつづける蟻のコロニーに、十億の時間を与えたら、泰山をまるごと動かすことができる。十分な時間を与えるだけで、生命は岩石や金属よりも強固になるし、ハリケーンや火山よりも強力になる」
(引用:三体Ⅲ 死神永生《上》P40)
この前後の話も含めてシンプルに面白い。
では、宇宙は、生命によってすでにどれだけ変わってしまっているのだろう?どれほどのレベル、どれほどの深度で改変がなされているのだろう?
(引用:三体Ⅲ 死神永生《上》P42)
ここ読んでる時は興味深いなーくらいにしか思ってなかったけど、『宇宙は、生命によってすでにどれだけ変わってしまっているのだろう?』この問の、作者なりの答えが見られるとは思ってもなかった。
「われわれは、脳だけ送る」とウェイドは言った。
(引用:三体Ⅲ 死神永生《上》P107)
生命が海から陸に上がったのは、地球上の生物が進化するうえでのマイルストーンでした。しかし陸に上がった魚は、もはや魚ではありません。同様に、実際に宇宙に出た人間は、もはや人間ではないのです。
(引用:三体Ⅲ 死神永生《上》P157-158)
人類文明という幼い子どもは、玄関のドアを開け、外を覗いてみた。しかし、果てしなく広がる夜の深い闇に縮み上がり、あわててドアをまたしっかりと閉ざしたのである。
(引用:三体Ⅲ 死神永生《下》P152)
彼らは、絶滅という題名のこの壮大な絵画に真っ先に描かれた人類となったのである。
(引用:三体Ⅲ 死神永生《下》P275)
ここの絶望感はんぱなかったな。
こんな簡単に太陽系が終わるとは思わなかった。
「たぶん、もうそうなっている……新世界の物理学者と宇宙論研究者がいま努力していることはただひとつだけ。戦争前の宇宙のありようをとり戻すことだ。彼らはすでに、戦前の宇宙の姿をかなり明晰に記述する数理モデルを構築している。いまから百億年以上も昔に遡る、その時代の宇宙は、まさにエデンの園のような美しい楽園だった。もちろん、その美しさは数学でしか表現できないけどね。目に見えるかたちで描き出すことはできない。ぼくらの脳の次元の数が足りないからね」
(引用:三体Ⅲ 死神永生《下》P364)
先程の『宇宙は、生命によってすでにどれだけ変わってしまっているのだろう?』の答え。
「あなたはいまもまだ、責任のために生きているんですね」
(引用:三体Ⅲ 死神永生《下》P417)
最後に
間違いなく最近読んだ小説で一番の傑作だった。1巻より2巻。そして2巻より3巻。3巻の上巻より3巻の下巻……と、こんなに見事に高くなるハードルを超えてくるとは思わなかった。
とにかく作者の想像力に感服する。どんな人生を歩んだらこんな物語を作れるのか……。
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