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『未踏の蒼穹』の感想を好き勝手に語る【ジェイムズ・P・ホーガン】


「ずっと昔から伝わっているんだ。カテクには重要な秘密が隠されている。《中略》生命とはなにか、それはどのようにして始まったのか、わたしたちはどこから来たのか?」
「誰?人間のこと?」
「そうだ。わたしたちみんなだ。その答がカテクの中にあると考えられている。だがいまだにだれも解読できていない」

(引用:未踏の蒼穹 P83/J・P・ホーガン)


2022年1月に発売されたジェイムズ・P・ホーガンの『未踏の蒼穹』
これは、2007年2月に『Echoes of an Alien Sky』として刊行されたもので、15年の時を経て、ようやく邦訳、発売となった。今回はそんな『未踏の蒼穹』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。





目次

あらすじ

金星文明は、かつての栄華を誇りながら絶滅した文明が存在する惑星、地球〈テラ〉の探査計画に取り組んでいた。テラ文明はなぜ滅んだのか?月の遺跡で発見された、テラ人が持っていたはずのない超技術の痕跡は、何を示唆しているのか?科学探査隊の一員カイアル・リーンは、テラ文明が遺した数々の謎に挑む──。ハードSFの巨星が放つ、もうひとつの『星を継ぐもの』ついに邦訳。

(引用:未踏の蒼穹 裏表紙)


感想

あらすじに《もうひとつの『星を継ぐもの』》とあるように、『星を継ぐもの』に似た要素はあった。


具体的には、『星を継ぐもの』は、月で発見された人と似た生命体の起源を探る話。
対して『未踏の蒼穹』は、金星人たちが自分たちと似ている地球人について調べ、地球人並びに金星人の起源を探る話である。


『未踏の蒼穹』は、『星を継ぐもの』より圧倒的に未来の話なので、この二つの直接的な繋がりはない(もしかしたらあったかもしれないが、私は気づかなかった)。


正直な感想を言えば、文句なしに面白かった!!とは言えないかな。ハードSF、冒険SF、ロマンスなどの要素が詰め込まれて順当に物語は進み、ハッピーエンドで締めくくられる。普通に面白いが、【もうひとつの『星を継ぐもの』】というあらすじの触れ込みに期待して読むと少しがっかりするかもしれない。


「金星人の正体は、テラ人の子孫である」というのは、まぁ読者の予想の範囲内であろう。
テラ人が滅亡した時には、金星はまだ、人が住める状況ではなかった。そのため金星への単なる移住では話が合わない。本書の言葉を借りるならタイムスケールが合わない。


【金星人=テラ人】であろうという考えては、読者はすぐに浮かぶだろう(金星人の立場からしたら、あんな暴力的なテラ人と繋がりがあるとは、あまり思えないだろうが)。なのでその答えをどのようにすり合わせていくのか?結果より過程を楽しむのが本書の見所であると思ったし、プロヴィデンスに迫っていく様子はワクワクした。


あとは、金星人からみた過去の地球人についての見解も面白かった。物語の舞台が遠い未来の話だから、『過去の地球人』というのが丁度我々なわけだが、地球人をホントに客観的に見てる様子が新鮮だった……粘り強く、そして愚かな地球人……。

──カテクとプロヴィデンス

序盤にカテクの説明が絵?付きであったときに、「あ、これは明らかに重要なやつだな」って注目してたけど、期待通り最後はキレイにまとまっていた。


カテクについて語られていた部分を引用・書き出しをしていく。



・その形は金星で"カテク"と呼ばれている記号で、昔から幸運のシンボルとされていた。(P81)
・カテクは帰郷とも関連があった。(P81)
・実際のカテクのマークP81にあり。

「ずっと昔から伝わっているんだ。カテクには重要な秘密が隠されている。哲学者たちや科学者たちが一日中それについて議論したり長い本を書いたりしているがほとんどの人にとっては悩んでもしかたながない大きな謎のひとつだ。生命とはなにか、それはどのようにして始まったのか、わたしたちはどこから来たのか?」
「誰?人間のこと?」
「そうだ。わたしたちみんなだ。その答がカテクの中にあると考えられている。だがいまだにだれも解読できていない」

(引用:未踏の蒼穹 P83/J・P・ホーガン)


・カテクは、プロヴィデンス計画のロゴマークに似ていた。(P342)
・地図とカテクの形が一致する(P385、P410)




──悪役ジェニンを登場させたわけ

〈進歩派〉で言語学者のジェニン・ソーガン。ロリライには振られ、最後はテラを滅亡させた病原菌に感染し虚しい結末を迎える。物語にジェニン以外の悪役は登場しないが、そのジェニンも悪役としては中途半端が否めない。


彼の役割としては、悪役としての物語の盛り上げというよりは、『テラ人は金星人の祖先である』という本書の核心に対するヒントを与えている役割だと考える。


物語の多くの場面で、「金星人はテラ人のように暴力性はなく、協力的な人種である」というような主張がされている。


しかし、ジェニンは金星人が重視する考えから外れ己の欲のために行動をするようになる。つまりテラ人が持つような支配欲や暴力性があるように振る舞い始める。


テラ人のような暴力性、支配性を持った金星人もいる。つまり、金星人にもテラ人が持っていた考えを潜在的に持っているということを表している。よってテラ人と金星人の子孫の可能性がある……という訳だ。




──印象に残ったセリフ・名言

人類はたくさんのものを生み出してきたのになにも学んでいない。わたしたちの種族の潜在意識の奥底には国家を暴力と相互破壊の饗宴に駆り立てるなにかがあるようだ……。

(引用:未踏の蒼穹 P176-177)


それでも、彼らはこの地に立ち寄ったという記録だけは残した。自分たちが何者で、どんな来歴をもっているのかの記録を。そうしておけば、まるで彼らが存在しなかったかのように宇宙がそのままずっと続いていくことはないだろう。

(引用:未踏の蒼穹 P412-413)










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