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『天冥の標Ⅰ 〈メニー・メニー・シープ〉』の感想:革命と忍び寄る絶望【小川一水】


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小川一水の『天冥の標Ⅰ〈メニー・メニー・シープ〉』の感想を語る。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

感想

著者の作品は以前『第六大陸』を読んだことがあり、それが面白かったので今回読み始めたシリーズ作品『天冥の標』も期待を込めて読み始めた。


読みはじめてビックリしたのは『第六大陸』を書いた人と同じ作者とは思えなかった。もちろんいい意味で。現代に近い舞台設定だった『第六大陸』に対して『天冥の標』は2800年という未来の物語。


時代が違うだけではなく、作風がかなり違う印象。『第六大陸』は王道のハードSFって感じだけど、『天冥の標』はSF要素、電気体質を手にした人間や昆虫兵が登場するファンタジックな要素、政治的なやり取りなど、幅広い要素を詰め込んだ作品となっていた。


勝手にSF作家かと思っていたから、今回の『天冥の標』でSFとは違ったそのギャップにやられた。未来の世界の物語ではあるが、この星では先端文明の技術が失われていて見ることはなかったが、今後技術が失われなかった世界では、どんな世界が広がっているのか気になるところ。


今回の『天冥の標Ⅰ〈メニー・メニー・シープ〉』では、まだまだ序章の序章って感じで、回収されてない伏線どころか、物語もいい所で終わっているので引き続き、次作を読んでいきたい。


──交錯する想い

医師のカドム、海の一統のアクリラ、議員のエランカ…と複数の視点で物語が進んでいくが、どこの視点も面白かった。


アクリラ視点で進む、メニー・メニー・シープの外へと向かう冒険が希望と絶望の隣合わせの展開がとくに印象的。新天地を求めて希望をもっていたはずが、仲間が次々と死んでしまっていき、カヨと二人で地上より400キロの地下に閉じ込められて……。


さらにその新天地の場所も謎に包まれすぎてて今後の鍵になりそう。


最初と最後で180度印象が変わったのがユレイン。彼もきちんとした正義を背負っていたんだなぁって。下巻の中盤でスピーチの最中に涙を流すシーンなどがあり、彼はいったい何を抱えているのだろう?と疑問を持って、段々と思いつめていく彼に同情してしまった。


ただ自分が助かりたいだけの敵かと思ってたから、真相を知ったときはなんとも言えない想いになった。



──弱者の反撃

ストーリー全体を通して、困難を乗り越えての『弱者の反撃』。これが印象的だった。


強大な権力を保有するユレインに対する植民地の民達の反撃、これが大きな流れの弱者の反撃だが、そこに至るまでの個々の活躍もまたしびれる。


人間を殺すことが禁忌のはずなのに、ラバーズのベンクトは大事なモノを守るためにそれを犯した。石工〈メイスン〉たちはリリーを主導に怒りを覚えて人間への抵抗をしたり…と、今まで不当な支配を受けていた側の者たちが困難を乗り越えていく様子があつい。


彼らの活躍が個々の小さな流れを作り、それらが集まって全体を動かす大きな流れとなって革命を起こしているようだった。


──残された謎

『天冥の標Ⅰ』を読んで気になった謎や伏線などを簡単にまとめた。

1.イサリについて

・他のフェロシアンは、ユレインによって抑えられていたのに何故イサリだけ逃げ出すことができたのか?

2.メニー・メニー・シープの外の新天地

アクリラたちが辿り着いたメニー・メニー・シープの外の世界は謎ばかり。

・人の20倍ほどの大きさがあるとされる重工兵が巨大すぎる濠と壁を作っていたが、目的は明らかになっていない。

深さ百メートル以上ありそうな深い谷──いや、濠だ。U字型の地溝が左右にどこまでも伸びている。その先はほこりっぽい空気の中に消えており、果てもみえない。
向こう岸までの距離は一キロ以上もありそうで、岸の上に最も驚くべきものがあった。垂直に立ち上がる高い壁だ。濠に沿って左右へ長く伸びており、これもどこまでも続いているのか見当もつかない。
その壁の高さは濠の底から二百メートルにも達しているようだった。

(引用:天冥の標Ⅰ 〈上〉 P317)


・植民地の人を逃さないための壁、敵から守るための壁などの考察は物語の中でされていた。
・アクリラが四百キロの地下で『ドロテア』と呼ばれる巨大戦艦を目撃する。
・なぜ、地下深くに埋まっているのか?
・重工兵が掘っているのは、ドロアテが目的か?
・ユレインですら重工兵の工事の目的はわからない。

3.地球からの訪問者

・ルッツとキャスランという人物が地球から植民地へ、救援要請を出してほしい。と登場。(〈下〉P160)その後地球についての話題はでていない。

4.アクリラの生死

・深淵へ落下して……(〈下〉P324)とあるが決定的な死ではない(?)。というか死んでないと思いたい。

5.ハーブC

・この星は本当にハーブCなのか?

「私にも分からないねえ。私は理詰めで考えただけだよ。ハーブCにはドロアテは落ちていない。ドロテアはこの地に埋まっている。だから、ここはハーブCではない。ただの三段論法だ。その間にどれだけ条件が狭まるのやら」

(引用:天冥の標Ⅰ 〈下〉P71)


6.羊飼い

・ラバーズのオーロラがエランカに「羊飼いを味方にするといい」と助言をしたが、その伏線は回収されていない。

7.ダダー

・〈上〉P82では”偽薬売りに『ダダー』のルビがついていた。
・物語の要所要所で「ダダーめ」など不思議な使われ方をしてる。ノルルスカイン曰く、ただの驚きの間投詞とのことだが。
・昔は実在する者を指す言葉だった。シェパード号を墜落させた人だとも、シェパード号の人々を守ったとも言われる、奇妙な人物──あるいは機械(〈上〉P238)
・ノルルスカインがダダーと呼ばれる。
・ダダーはシェパード号の制御人格である。(〈下〉P313)

8.カドムが地下通路で聞いた謎の音

・この音について下記以降触れられていない。

一万歩を過ぎると、どこからか不気味な低い音が伝わってきた。どぅん……どぅん……という、巨大な太鼓のようにも落雷のようにも聞こえる音だ。間隔は長く、一定ではなかった。
「あれはなんだ?」
カドムは訊いたが、イサリは答えなかった。その音は十回ほど聞こえて、途絶えた。

(引用:天冥の標Ⅰ〈下〉P137)


最後に

物語の終わり方が予想外すぎたなぁ……。絶望感しかない。これは……続きを読まざるを得ない……!

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