偶然と認識されるものは、つまり必然であり、世界のどこを切り取っても、特別に偏った部分は見受けられない。神はいつも平等に振る舞われ、そして何事についても冷酷に判断されるようだ。
(引用:朽ちる散る落ちる P12)
森博嗣のVシリーズ第9弾『朽ちる散る落ちる』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。
目次
あらすじ
土井超音波研究所の地下に隠された謎の施設。絶対に出入り不可能な地下密室で奇妙な状態の死体が発見された。一方、数学者・小田原の示唆により紅子は周防教授に会う。彼は地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたと語った。空前の地下密室と前代未聞の宇宙密室の秘密を暴くVシリーズ第9作。
(引用:朽ちる散る落ちる 裏表紙)
感想
巻頭の地図に見覚えしかないと思っていたら、まさかのVシリーズ第7作『六人の超音波科学者』のほぼほぼ続き。第8作目『捩れ屋敷の利鈍』は時系列的にアレだから、実質『六人の〜』のすぐあとの出来事っていう認識でいいのだろう。
有人衛星の密室殺人と地下密室の死体。結果だけ見れば、どちらもストレートな結末ではなく、「なるほど、そうくるか…」と思ってしまう。決して悪いと言ってる訳ではない。
だって森博嗣の作品で!!
しかもVシリーズだし!!
逆にこれくらいひねくれているのを求めていた感すらある。
密室トリック自体よりは、2つの関連付けられそうにもない密室事件がどう繋がっていくのか?の期待感のほうが大きかった。練無の過去も関わって内容は複雑だったけど、その分読み応えがあって楽しめた。
建物が円形なのには、『六人の〜』を読んでいる時にも、何かしらの意味があるんだろうなぁと思ってたが、大掛かりすぎてビックリ。練無の風船の下りで漠然とトリックのイメージはあったが、予想の上をいくものだった……。
ちなみに表紙には風船が描かれている。読む前はわからなかったけど、読み終わってから気づいた。
「もしかしたら、まえの事件を起こした本当の理由は、地下の封印を解くためだったのかもしれない」
(引用:朽ちる散る落ちる P397)
ここが今回一番の鳥肌ポイント。
『六人の〜』で感じていたモヤモヤが取り除かれた。教授たちに感じていた形容し難い違和感と、語られなかった地下室。
巻をまたいでの、鳥肌がたつ伏線回収だった。
──印象に残った台詞・名言等
偶然と認識されるものは、つまり必然であり、世界のどこを切り取っても、特別に偏った部分は見受けられない。神はいつも平等に振る舞われ、そして何事についても冷酷に判断されるようだ。
それでも、我々は奇跡に出会う。
奇跡的な偶然の一致を頻々に見る。
おそらくは、そう認識するだけのことで、すべて、人間の勝手な思い込み、定義にほかならない、と片づけてしまえるだろうか。
(引用:朽ちる散る落ちる P12)
お気をつけて、という言葉があるが、正直なところ、私は思う。人間がどんなに気をつけていても、歴史はこれっぽっちも変わらなかっただろう。
(引用:朽ちる散る落ちる P17)
P12、P17はシリーズ恒例の保呂草による語り。このプロローグが毎回好き。哲学チックなのも面白くし、ここで今回の事件の全容というか、キーワード(今回でいえば偶然)について語ってる。読み終わったあとに、プロローグを読み返すと最初とはまた違った印象を受ける。
「ある存在が秘密である場合、それが秘密だと示すことによって、その存在を明かしてしまうのだ。秘密と答えるだけで、既に存在は秘密でなくなる。隠したいものは、命に代えても隠さればならぬが、その強い意志によって、結果的に際立つことにもなろう。ドアに鍵がかかっておれば、その中になにかがある、と必ず人は考えるだろう。どうしても開かなければ、ドアを壊してでも、そこへ入ろうとする。それが人の心、人の情、人の流れというものだ」
(引用:朽ちる散る落ちる P234)
「持って回ったやり方ですね」保呂草は紅子の横に立っていた。
「人間の迷いとは、そういうものでは?」紅子は保呂草を見上げる。
「迷いか……」
「迷うのは必ず、行き先がはっきりしているとき」
(引用:朽ちる散る落ちる P398)
「迷うのは必ず、行き先がはっきりしているとき」
シンプルだけど、今回で一番すきな台詞かも。
最後に
シリーズ順で『六人の超音波科学者』と『朽ちる散る落ちる』の間に『捩れ屋敷の利鈍』が挟まれているのが、ちょっと乙な感じがする。
ワンクッションというか、息抜きというか。
さて、ついにVシリーズも『赤緑黒白』でラストかー。わくわくする。
→次『赤緑黒白』
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