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『天冥の標X〈青葉よ、豊かなれ〉』の感想を好き勝手に語る【小川一水】


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「……あんたもじゃない」
「ん?」
「とてつもなく大きな敵に立ち向かって、とてつもなくたくさんの味方と戦ってきただけだかと思ったら、あんたにも……一番大事な一人が、いたんじゃない」

(引用:天冥の標X part1 P303/小川一水)


シリーズラストとなる『天冥の標X〈青葉よ、豊かなれ〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。前回の感想はコチラ。

【『天冥の標Ⅸ』感想】

目次

感想

怒涛の最終巻だったぜ…。10巻だけで3冊構成、1000ページオーバーの特大ボリューム。

チカヤの過去編から始まり、コルホーネン視点で地球群と救世群侵略後の地球の様子が語られ、アカネカをはじめとする異星物とそれらの規模に圧倒され、ついにミスチフとの決着がつく…と。まさに最終巻にふさわしい圧巻の展開だった。


印象的なシーンが数多くあったし、好きなシーンも数多くできた。


──MMS人としての自覚

Part1だけでも『第1章 芽生えざる種』のチカヤたちの月面編、『第3章 昏睡の眠り』のコルホーネンの過去編…と、見所と印象的な場面が目白押しだった。


10巻にしてまさかチカヤから始まるとは思いもよらず。確かに救世群が月に追いやられた事実は告げられていたけど、ここに持ってくるとは…!月面の開拓は著者の『第六大陸』をふと思い出したね。


遠い未来でも崇められていた理由がわかる、チカヤの強さが垣間見えた話だった。


コルホーネンの過去編もそれだけで一巻使えそうなほど面白い。”孤独”が印象深い。


そんな見事満載なPart1で一番印象深かったのがカルミアンとノルルスカインの意識の変化だった。


カルミアンは人と異なる種族である、しかし人と同じ『メニー・メニー・シープ人』であることには変わりない。さらには、ノルルスカインさえも

「僕もまた、他の何者でもなくメニー・メニー・シープの住人に違いない。

(引用:天冥の標X part1 P288)


生まれた星は異なれど、今はメニー・メニー・シープがそれぞれのかけがえのない場所に変わっている。この自覚を期に、どこか取り引きめいた関係からメニー・メニー・シープもとい惑星セレスを守るための本当の協力体制に変わった両者が印象的で胸が熱くなった。


──ノルルスカインの素

今まで圧倒的な性能と存在感で全知全能めいていたノルルスカイン。先程ふれた『メニー・メニー・シープの住人』という自覚もそうだが、最終巻にしてようやくノルルスカインの素の部分と感情的な部分が見れた巻だった。


下記はイサリとノルルスカインの会話

「……あんたもじゃない」
「ん?」
「とてつもなく大きな敵に立ち向かって、とてつもなくたくさんの味方と戦ってきただけだかと思ったら、あんたにも……一番大事な一人が、いたんじゃない」
「なんの──」ことだい、と訊き返そうとしてノルルスカインは言葉を切った。
そう、だった。確かにそうなのだった。分厚い地層のように積み重なった体験の底に埋もれ、たびたび思い出しはしても、もうすっかり化石のように白く乾いた一つの名前は、しかし最初は、何よりも大切なものだったはずなのだ。
「ミスチフ……」

(引用:天冥の標X part1 P303)


被展開体といえば、アクリラが被展開体になるとはなぁ…誰も予想できないでしょ…。被展開体になってからのアクリラとノルルスカインの軽快な掛け合いが好き。とくにアクリラがノルルスカインのことを『ノル』って呼ぶ所とか最高。


また同じ被展開体としてノルルスカインがアクリラを同等に見る……信頼できる仲間のように扱ってる場面がこれまでのノルルスカインからは想像できない姿で、ミスチフ以来やっとできた本当の友達なんだなぁと思い知らされた。

「僕が何で君を選んだと思う?単に都合のいい時に都合のいい場所で死にかかったやつはいたからか?そんなわけがないだろう!君が一人じゃないからだ!三百年の歴史を持つメニー・メニー・シープ、六百年の歴史を持つ《酸素いらず》八百年の歴史を持つ《救世群》、一万年の歴史を持つ人類文明、そして原始のシアノバクテリア以来三十五億年の歴史を持つ地球生命、そういう宇宙の片隅のちっぽけなカビみたいではあるけれど、それなりに長いこと努力を積み上げてきた連中の、一番先っちょで一番みんなと仲のいいやつだと思ったから、ここへ連れてきたんだ!みんな君を信じてる。誰が一人だもんか!」

(引用:天冥の標X part3 P216)
こんな感情的なノルルスカイン今まで見たことがあっただろうか、いやない。


──オムニフロラへの対抗手段

Part2でもルッツとアッシュの死や、イサリとミヒルの決着など様々なことが描かれていたが、進化論に基づいたオムニフロラへの対抗手段が抜群に熱かった。


圧倒的な力を有するオムニフロラ、超新星爆発を持ち出してようやく対抗できる相手に他にどんな勝機が見いだせるか想像もできなかったが……。

「そうか……」カドムは大きくうなずく。「俺たち自身の、病原体との戦いの中で培われてきた力。6万年分の進化。その成果が……その遺伝子だというわけか!」

(引用:天冥の標X part2 P95)


オムニフロラはしていなかった『進化』。6千万年分の進化の歴史。こういう勝ち筋の見出し方があるのかと読んでいて最高に興奮した。引用した場所だけでなくこの付近20〜30ページのリリー、セアキ、イサリの会話は何度読んでも面白い。

──ヒトは、何処へ行けばいいのだろう?

セアキがPart1の123ページで想いを馳せていた。ウーラもまた「自分がどこからきて、どこへいくのか」悩んでいた。


すべてが解決したあとで、どこへ帰ればいいのだろうか?私も登場人物たちと同様、気になっていた点。


それを地球に帰る…!!ええやん。『ヴァンディ』の名前を継ぐものが現れて、《救世群》とカルミアンも同じ環境で暮らしている。さらにはカン類たち、あの時の戦友も移り住んでいる。大団円とはまさにこのこと。


他に印象に残ったセリフなど

 人類を知らない、人類の知らない者たちの前で、人類に淵源を発する、しかし人類とは異なるものとなった艦隊が、動き始める。

(引用:天冥の標X part1 P81)

「君、兵士がなぜ死ねるのかわかってないな」イスハークは首を振る。【兵士が目の前の敵に全力を叩き込めるのは、自分の背後に自分より大きなものがあると分かっているからだ。守るべき家族だったり、恋人だったり、そういう人々が住んでいる国だったり、あるいはそれらをすべて包み込む大きな存在が、自分が死んだ後も続いていくと信じられるから、死んでいけるんだ。未来だよ、セアキ先生。俺たちの帰りつく場所が見えていること、これが大事なんだ」

(引用:天冥の標X part1 P121-122)


このセリフの少し後にエンルエンラにも同じような思想があることが語られているんだけど、ヒトとエンルエンラも手を取り合っていける伏線がすでにあったんだな。

「本当のことを話していこう。嘘は百万でもつくことができるけど、本当のことを言える機会は滅多にない」

(引用:天冥の標X part2 P188)

「ヒトは、なるものじゃない!そのように在るものだ!誰かから奪えるものじゃない、今この自分がそうだと認める在るもの、殺されて殺して殺さない、そういうの全部抱えて自分だとするものが、ヒトじゃないの!」

(引用:天冥の標X part2 P299)
イサリとミヒルの戦闘中の会話。

裏表紙

天冥の標Xpart3の裏表紙のあらすじがズルい。これまでのサブタイトルすべてが詰め込まれている。

メニー・メニー・シープという人類の方舟を舞台にした、《救世群》たちと、アウレーリア一統の末裔、そして機械じかけの子息たちの物語は、ここに大円団を迎える。羊と猿と百掬の銀河の彼方より伝わる因縁、人類史上最悪の宿怨を乗り越え、かろうじて新世界ハーブCより再興した地で、絶望的なジャイアント・アークの下、ヒトであるヒトとないヒトとともに私たちは願う、青葉よ、豊かなれと。天冥の標10巻・17冊、ついに完結。

(引用:天冥の標X part3 裏表紙)

最後に

あとがきで著者が行き詰まったとき、それを突破できた理由をいくつか語られていたが、そのうちの一つが「キャラクターたちの力」だと仰っていた。

カドムやアクリラやイサリがあの世界を駆け抜けられないわけがない。

(引用:天冥の標X part3 P365)


『駆け抜けられないわけがない』かぁ。ホントに魅力的な3人だったなぁ。


1巻に手を出したのは約半年前、6ヶ月でようやく読み切った、いや読み切ってしまった。いやはや、長い長い冒険だった。


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