FGかふぇ

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『白鳥とコウモリ』感想:負の連鎖は止まらない【東野圭吾】

「そんなことが起こりますか?そんな奇跡みたいなことが」
「夢だよ、俺の。刑事ってのは、辛い現実ばかりを見せられる仕事だ。たまには夢ぐらい見せてくれ」

(引用:白鳥とコウモリ P502/東野圭吾)


2021年4月に発売された東野圭吾の新作『白鳥とコウモリ』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

目次

感想

東野圭吾の作品を読むのは久しぶりだったのだが、やはり圧倒的に読みやすい。そして面白い。今回の『白鳥とコウモリ』、単行本で500ページ越えとなかなかの文量があったが、すぐに物語の中に引き込まれあっという間に読了。


彼の作品は一気読みさせる魔力がある。『罪と罰』がテーマになっていることから明らかなように、決して、読んでいて無条件に「楽しい!!」となる話ではない。


しかし、じりじりと真相に迫る緊張感、物語がひっくり返る瞬間の驚き、そして最後をどう締めくくるのかという期待……!読み手の飽きさせない500ページだった。


最後には希望の光も覗かせたりと、個人的にはスッキリした気持ちで読み終えることができた一冊。


──すべての元凶は……

詐欺師の灰谷さえいなければ、今回の事件も30年前の事件も起きることはなかったんだろうなぁと思わずにはいられない。


灰谷の悪行のせいで白石が殺人を犯してしまい、同時期に倉木が灰谷に絡まれてしまっていたからこそ、誤認逮捕で福間が捕まり自殺。


福間の残された家族、織江と洋子は周りから非難の目で見られ、苦労の人生を送ることになり、さらには白石も復讐(というには怪しいが)で殺されてしまう…と。


まさに負の連鎖。


悪人のせいで善人の人生が狂わされていくのは、見ていてやるせない気持ちになるけど、見えないだけで大なり小なり現実世界でも同じようなことが起きてるんだよなぁ……。


──『白鳥とコウモリ』

タイトルの意味、読み始める前は「何らかの対比だろう」と思っていたけど、対比+αの意味合いがあったようだ。

「どちらも事件の真相に納得していないってことだ。《中略》加害者側と被害者側、立場上は敵同士だが、目的は同じ。ならば手を組もうと思っても不思議じゃない」
「なるほどねえ……といいつつ、やっぱり納得できないですね。《中略》光と影、昼と夜、まるで白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぼうって話だ」

(引用:白鳥とコウモリ P391)


『被害者側』と『加害者側』という互いに相容れない関係の例えとして『白鳥とコウモリ』としている。その上で、その白鳥とコウモリがどうしたら手を取り合っていけるのか?(上の引用から取れば、どうしたら一緒に空が飛べるのか)が本書の肝……というか著者が書きたかった所なのかな、と思った。


その肝の部分が『被害者側』と『加害者側』の入れ代わり。両方の体験をしたからこそ、お互いの気持ちが分かる。だから手を取り合っていける。


けっこう無茶はあるけど、この建前が成立するのは和真と美令の人間性……ひいては二人の父親の人間性あってこそだと思う。


本書の大きな部分で「白石健介は殺されるような人ではない」、「倉木達郎は殺人を行うような人ではない」と語られるし、それが真実である。まぁ白石は過去に殺人をしている訳だが……それには訳があり真人間であることは間違いないだろう。


この二人の血を継いでいる和真と美令、根本の部分は二人とも真面目で素晴らしい人間だからこそ成り立ったのかなと思ったり思わなかったり。


印象に残ったセリフなど

「真相なんてね、そう簡単にわかるものじゃないの。わかったとしても大したものじゃない。お父さんがよくいってた。犯行動機をうまく説明できない被告人は多いって。なんとなく盗んだ、気が付いたら殺してた、自分でもよくわからない、そんなのばっかりだって。

(引用:白鳥とコウモリ P360)

なんでもないセリフだが、真相を知る前は、白石が弁護士として働いてきたからこそでてきた言葉だと思っていたが、実体験として自らのことも暗に言ってたのだなと分かったときの重みが…。


「人を殺しておきながら罪を逃れ、ふつうの生活を送って家庭まで築いた。そんな男の子供が生きていてもいいんだろうかって。母と父とは他人です。でもあたしの身体には殺人者の血が流れています。もしあたしが子供を産んだら、その子にも血が受け継がれます。それは許されることでしょうか?」

(引用:白鳥とコウモリ P521)


殺人者の血が受け継がれるかもしれないが、それ以上に素晴らしいものを和真と美令の子供なら受け継いでくれそうな気がする。

最後に

本書の帯には下記のようにあった。

『白夜行』『手紙』──新たなる最高傑作。東野圭吾『罪と罰』

まぁ順当に面白かったが……。最高傑作は宣伝文句感が強いなぁとは思ってしまった。物語の構成は緻密で抜け目がないが、読み手の感情に刺さる部分は弱い印象。


とはいってもそもそもガリレオに加賀恭一郎に白夜行に…と比較されるハードルが高すぎるってのもあるよね。


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