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『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の感想:過去と繋がる奇蹟の手紙【東野圭吾】



東野圭吾の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はコチラの紹介からどうぞ。
【『ナミヤ雑貨店の奇蹟』あらすじ・紹介】



目次

あらすじ

悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。時空を超えて過去から投函されたのか?
3人は戸惑いながらも当時の店主・波矢雄治に代わって返事を書くが・・・。次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。悩める人々を救ってきた雑貨店は、最後に再び奇蹟を起こせるか!?

感想

『東野圭吾史上、最も泣ける作品』との触れ込みもあるが、それに恥じない感動と、心暖まるストーリー。個人的には東野圭吾の作品の中で一番好きな作品。


『最も泣ける』の部分は、悲壮からの涙ではなく、感動・心暖まるものなので、読了感がよい。そしてストーリーは、過去と手紙で繋がるというSF・ファンタジックな設定が軸になっているものの、描かれるのは終始人と人との繋がりを描くヒューマンドラマ。


全5章で構成されている物語は、それぞれ章ごとに違う人物の悩み相談で展開されるが、それぞれが少しづつ繋がっていき、最後に大きな輪郭が見えてくるという緻密な作り。


読後感がよく、ファンタジックな面白い設定、そして全体を通すことで見えてくる物語の緻密さ。すべて自分の好みに突き刺さる素晴らしい物語だった。


──読みやすく・飽きさせない構成

物語の基本的な構成は、5章とも過去と現在とが繋がる『ナミヤ雑貨店』の手紙のやりとりである。5章ともそれだと単調なストーリーになってしまうのでは……?と思うがところがどっこいそんなことはない。


一章〈回答は牛乳箱に〉では、敦也たち現在のみの視点で、過去のことは手紙の内容だけ。

二章〈夜明けにハーモニカを〉では逆に、過去の"魚屋ミュージシャン"の視点で、敦也たち現在は手紙の内容のみ。

三章〈シビックで朝まで〉は、ナミヤ雑貨店の店主である波矢のじいさんが初めてでてくる章。敦也たちがやりとりしている過去よりさらに昔の話。

四章〈黙祷はビートルズで〉では、波矢のじいさんが、はじめて真剣な悩み相談に回答する章。

五章〈空の上から祈りを〉では、再び敦也たちが登場。過去と現代2つの視点から物語が進んでいき、これまでの伏線を回収しつつ終幕へ。


以上のように、過去と現代の手紙のやりとりが軸となっているが、見せ方を少しずつ変えて物語が進行しているので飽きないし、最初は現代だけ、次は過去だけ、と時系列がはじめはごちゃごちゃしていないので、読者としても混乱せずに読み進めることができる。


──好きな展開・シーン3選

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で、個人的に特に展開・シーンが3つあるので挙げていく。

──1.『再生』

1つ目は2章〈夜明けにハーモニカを〉の魚屋ミュージシャンこと松岡克郎のオリジナル曲『再生』が、児童養護施設『丸光園』で育った水原セリに受け継がれ、大人気アーティストになる話。


メインは、売れないミュージシャン松岡が、このままミュージシャンを続けるか、実家の魚屋を継ぐべきか。という悩みをナミヤ雑貨店に相談する展開の話だが、とにかくラストシーンが刺さる。


恩返しとして『再生』を歌い続けるセリ、そして松岡が作った『再生』が彼女の歌声によって後世に残されていく……。シンプルにいい話すぎて泣ける。


このシーンに関しては、映画だと更にいい。理由としては単純に『再生』が映像とともに聴けるから。小説だとどうしてもこれはね……。門脇麦さんの魂揺さぶられる歌声、気になった方は是非映画のほうも除いてみてはどうだろうか。時間の都合で省かれている所はあるが、全体を通して原作ファンでも大満足な仕上がりだと思う。詳しくは下記の記事で書いている。
【映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』】


──2.受け継がれる意思・男と男の約束

何度も言うようだが『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は過去と現在とのやりとりが主軸となる物語だが、ナミヤ雑貨店のじいさんが未来(じいさんが過去の登場人物なので、ここでの未来は現在を指す)から手紙を貰うために彼の子孫が大活躍する。それが波矢駿吾だ。


彼は波矢貴之の孫、つまり波矢のじいさん・波矢雄治の曾孫にあたる人物。


雄治からの遺言を貴之の代では果たせず、更に孫の駿吾に託す。そして駿吾が約束通り雄治の遺言をネットに流すことで、雄治は未来からの手紙を受け取ることができた……と。30年越しの、世代を超えての男と男の約束。なかなかに熱いじゃないか。


駿吾自体の登場は一瞬だし、物語上ではここの場面はさらっと流されるが個人的にはかなり好きな場面。それだけに映画でこのシーンがなかったのは、ちょっと悲しかったな。


──3.白紙の手紙

敦也たちが雑貨店の秘密を確かめるためち白紙の紙をシャッターの郵便受けに入れ、それを受け取ったナミヤのじいさんがただのイタズラととらえずに真面目に白紙の紙へ、手紙の返事をする。


ラストシーンだし、印象に残ってる方も多いのではないかと思う。


この敦也たちへの手紙の返事の内容がまたいい。
「白紙の地図なら、これからどんな地図だって描くことができる。すべて自由で、自分次第で、無限の可能性がある」


現代で、悩み、迷走する敦也たちにとっての素晴らしすぎる回答。事実彼らは最後この手紙に後押しされてるしなぁ。彼らは過去から手紙を受け取っている唯一の人物だというのもなんだか響くものがある。


まぁ敦也たち以外への手紙の回答も、それぞれ刺さる部分があってじいさんの懐の深さというか、思慮深さが表現されてて好き。


──印象に残ったセリフ・名言

「おまえの世話にならなきゃいけないほど、俺も『魚松』もヤワじゃない。だから余計なことは考えず、もういっぺん命がけでやってみろ。東京で戦ってこい。その結果、負け戦なら負け戦でいい。自分の足跡ってものを残してこい。それができないうちは帰ってくるな。わかったな」

(引用:ナミヤ雑貨店の奇蹟 P128)

考えてみな。たとえでたらめな相談事でも、三十も考えて書くのは大変なことだ。そんなしんどいことをしておいて、何の答えも欲しくないなんてことは絶対にない。だからわしは回答を書くんだ。一生懸命、考えて書く。人の心の声は、決して無視しちゃいかん」

(引用:ナミヤ雑貨店の奇蹟 P142)


最後に

東野圭吾の中で個人的に一番好きな作品だが、好き故にこれまで感想を書けていなかったが、再読を期に書き記してみた。やっぱり何度読んでもいい話。一年後くらいにまたここに帰ってこようと思う。





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