FGかふぇ

読書やらカフェ巡りが趣味。読んだ本、行ったカフェの紹介がメインのブログです。ごゆるりとどうぞ。

『グラスホッパー』の感想を好き勝手に語る【伊坂幸太郎】


とにかくよ、仲間が燃やされて、他のホームレスが怒っちまったんだ。あいつらだって、やる時はやるからな。希望は持ってるってわけだ。ホームレスっつっても、ホープレスじゃねえだろ

(引用:グラスホッパー P46-47/伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ『グラスホッパー』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

あらすじ

「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。
一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに──「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!

感想

目の付け所というか、物語の設定が新鮮。あらすじに『分類不能の「殺し屋」小説』とあるように、たしかに分類不能でこれまでに読んだことがないような物語だった。


内容も個人的にかなり好きで面白かった。いきなりクライマックスか!?ってくらいの始まりの仕方。所謂、殺し屋などの裏の世界にはまったく縁のなかった鈴木が、妻の死により復讐を心に刻み、裏の世界に飛び込んでしまう。そこで暗い現実を目の当たりにしながらも、彼なりに強く生きていく……と。


登場する殺し屋が個性豊かなのがまた面白いところ。「蝉」が一般的(?)と言うのはまた違うかも知れないが、想像しやすい殺し屋だけど、他の殺し屋である「鯨」とか「押し屋」とかは、そのスタイルが面白い。まぁ「鯨」のやってる『自殺をさせる殺し屋』っていうのは、この現実世界でも少なからず存在してそうでちょっと暗い気持ちに。


あとは、あいも変わらず伊坂幸太郎らしい言葉選び、テンポの良さが光る作品だったと思う。


これは違う作品のネタバレになるから詳しいことは書かないが、物語の重要な部分、キーになってくる部分が道尾秀介の『カラスの親指』に似ていて「おぉ!?」ってなった。いや、パクり云々を言うつもりはサラサラない。なんなら刊行年で言えば『グラスホッパー』のほうが先だし。


『カラスの親指』は好きな作品だし、内容もかなり覚えていたのに、『グラスホッパー』で同じトリックにまんまとハマったのが少し悔しかった。



──印象に残ったセリフ・名言

「政治家の秘書が自殺して、どうなるって言うんですかね」
「誰かが自殺すると、面倒臭くなる。効果はあるんだ」
《中略》
死ぬなんて卑怯じゃないか、逃げただけじゃないか、というもっともな批判も上がるが大筋では、「これで許してやろうじゃないか」という暗黙の了解のようなものが広がる。
「生贄を差し出されると、理屈に合わなくても、それ以上責めるのが面倒臭くなる」

(引用:グラスホッパー P35)

「生贄を差し出されると、理屈に合わなくても、それ以上責めるのが面倒臭くなる」

事実なんだろうけど、なんだかなぁって。

「死にたくなければ、自殺しろ」と言う理屈だったが、それでも説得力を持っていた。拳銃で撃たれたくないために、言うことを聞く。人は本当に死ぬまで、自分が死ぬとは信じないからだ。

(引用:グラスホッパー P39)

とにかくよ、仲間が燃やされて、他のホームレスが怒っちまったんだ。あいつらだって、やる時はやるからな。希望は持ってるってわけだ。ホームレスっつっても、ホープレスじゃねえだろ

(引用:グラスホッパー P46-47)

ホームレスっつっても、ホープレスじゃねえ
言葉のリズムがいいね。

「不安になったり、「怒ったりするのは動物的だけど」と言った亡き妻の声が甦る。「原因を追求したり、打開策を見つけようとしたり、くよくよ悩んだりするのは、絶対人間特有のものだと思うよ」
「だがら、人間は偉いって言いたいわけ?それとも、人間は駄目だって言いたいわけ?」鈴木は訊き返した。
「動物にね、『どうして生き残ったんですか』って訊ねてみてよ。絶対こう答えるから『たまたまこうなった』って」

(引用:グラスホッパー P131)


度々鈴木の妻のエピソードが出てくるが、それはどれも印象的なものばかり。あとはバイキングの話とかね。鈴木が妻のこと、ホントに愛していたんだなって痛感させられる。まぁなにしろ復讐のあめに命がけで怪しい組織に潜入するくらいだしな。


手っ取り早く自由になる唯一の方法は、親を殺害することだ。ある小説にそう書いてあったことを蝉は思い出した。今は違う。世界から自由になるには、携帯電話を切ればいい。丹治で、ひどくくだらない。

(引用:グラスホッパー P168)


最後に

『グラスホッパー』の他シリーズとして、『マリアビートル』や『AX』が現在あるようなので、そちらも是非読んでみようと思う。チラッとあらすじをみたところ今回の登場人物とはまた違うキャラが活躍するらしい。


槿の謎めいたキャラがすきだったので、登場してほしいところだが……どうなることやら。





【オススメ記事】