数多くの作品を世に放っている東野圭吾。その中でもシリーズ作品は特に人気を博している。魅力的な主人公、巻き起こる事件、そしてシリーズを通して読むことで明らかになる新たな事実──!
東野圭吾でシリーズものとえば、天才物理学者・湯川学を主人公とした『ガリレオシリーズ』や、最近では映画化もされた『マスカレードシリーズ』も人気である。
【各シリーズ紹介】
そして今回は東野圭吾もう一つの人気シリーズ『加賀恭一郎シリーズ』の紹介をしていく。
目次
『加賀恭一郎シリーズ』の特徴
主人公の加賀恭一郎は刑事である。他シリーズと比較すると設定としては一番シンプル。いや、シンプルだからこそ小細工のない面白いさも魅力の一つであるのだろう。
また映像化作品も多数あり、『麒麟の翼』、『祈りの幕が下りる時』は映画化され、『赤い指』などはドラマ化されている。
以下、刊行順のシリーズ一覧と()内は文庫本の刊行年数
1.『卒業』(1989年)
2.『眠りの森』(1992年)
3.『どちらかが彼女を殺した』(1999年)
4.『悪意』(2001年)
5.『私が彼を殺した』(2002年)
6.『嘘をもうひとつだけ』(2003年)
7.『赤い指』(2009年)
8.『新参者』(2013年)
9.『麒麟の翼』(2014年)
10.『祈りの幕が下りる時』(2016年)
読む順番としては、素直に刊行順に読めば間違いない。ただ、単体で読んでもミステリーとして十二分として面白いし、楽しめるようにできてるので、気になったタイトルから手をつけてみてもいいかもしれない。ただし個人的には刊行順に、そして『祈るの幕が下りる時』は最後に読むのをオススメする。
『加賀恭一郎シリーズ』は、東野圭吾の他シリーズと違いすでに完結している。続きを待つモヤモヤが嫌な方にはオススメのシリーズである。
作品紹介
──1.『卒業』
──あらすじ7人の大学4年生が秋を迎え、就職、恋愛に忙しい季節。 ある日、祥子が自室で死んだ。 部屋は密室、自殺か、他殺か? 心やさしき大学生名探偵・加賀恭一郎は、祥子が残した日記を手掛りに死の謎を追求する。 しかし、第2の事件はさらに異常なものだった。 茶道の作法の中に秘められた殺人ゲームの真相は!? 加賀恭一郎シリーズ
──学生時代の加賀恭一郎
『加賀恭一郎シリーズは刑事ものである』と前述してしまったが、シリーズ1作目の『卒業』だけは例外で、加賀恭一郎が大学4年の時のストーリー。
加賀恭一郎のシリーズ1作目、そして東野圭吾の比較的初期の作品という点もあり、加賀恭一郎の、そして東野圭吾のルーツも垣間見える一冊となっている。
──2.『眠りの森』
──あらすじ美貌のバレリーナが男を殺したのは、ほんとうに正当防衛だったのか?完璧な踊りを求めて一途にけいこに励む高柳バレエ団のプリマたち。美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡未緒に魅かれ、事件の真相に肉迫する。華やかな舞台の裏の哀しいダンサーの悲恋物語。
──若き日の加賀恭一郎
バレエ団という、多くの人には馴染みのない世界で描かれる物語。華やかなイメージの裏側にある過酷なプロの世界が垣間見えるのが印象的。
加賀恭一郎シリーズの中でも、恐らくもっとも感情的、情熱的な彼の姿を見る事ができる作品。冷静沈着だが、まだまだ若き刑事だったんだなと、再確認させられた。
──3.『どちらかが彼女を殺した』
最愛の妹が偽装を施され殺害された。愛知県警豊橋署に勤務する兄・和泉康正は独自の“現場検証”の結果、容疑者を二人に絞り込む。一人は妹の親友。もう一人は、かつての恋人。妹の復讐に燃え真犯人に肉迫する兄、その前に立ちはだかる練馬署の加賀刑事。殺したのは男か?女か?究極の「推理」小説。
──作者からの挑戦状、あなたは解けるか…!?
タイトル通り初めから殺人事件の容疑者は二人に絞られており、ラストでも犯人は明かされず、東野圭吾から読者への挑戦状のような形式となっている変わった作品。
一度でわからなくても、2周目、3周目と読み返して是非ご自身の力で真相に答えを見つけ出してほしい。そうしたならきっと加賀恭一郎のすごさを改めて思い知らさせるはずだ。
──4.『悪意』
──あらすじ人はなぜ人を殺すのか。
東野文学の最高峰。
人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、その妻と昔からの友人だった。
逮捕された犯人が決して語らない「動機」とはなんなのか。
超一級のホワイダニット。
加賀恭一郎シリーズ
──タイトルに込められた想い
早い段階で犯人は特定されてしまう。その段階から3作目『どちらかが彼女を殺した』では、”どちらが犯人なのか?”を突き詰めていった訳だが、『悪意』では犯人探しではなく、犯人の”とあること”についてスポットがあたっていく。
加賀恭一郎シリーズは、普段は隠れている人間の本性がよく見えるのも特徴の一つだと思うが、タイトル通りまさに人間が持つ『悪意』を思い知らされる一冊である。
──5.『私が彼を殺した』
──あらすじ婚約中の男性の自宅に突然現れた一人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺をはかった。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルの数とその行方。加賀刑事が探りあてた真相に、読者のあなたはどこまで迫れるか。
──作者からの挑戦状、第二弾
前々作『どちらかが彼女を殺した』に続き、最後まで犯人は明かされないスタイル。体感的には前作以上に難しい。是非チャレンジしてみてほしい。
前作と大きく異なるのは、加賀恭一郎視点ではなく、容疑者3人の視点でストーリーが進展していく点である。容疑者視点から見る加賀恭一郎も一味違って面白い。
──6.『嘘をもうひとつだけ』
──あらすじバレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は自殺で処理の方向に向かっている。だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに一人の刑事がやってきた。彼女には殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。ところが…。人間の悲哀を描く新しい形のミステリー。
──嘘は悪いこと?それとも…
加賀恭一郎シリーズ、唯一の短編集。 短編だけど、それぞれ読み応えはばっちりで、5つの事件が描かれている。一つひとつは50ページほどなので、サクサク読めるだろう。
自衛のため、逃れるため、また大切な人を守るため……。
人はそれぞれいろんな理由で嘘をついて生きているが、この作品で描かれている嘘は……!
── 7.『赤い指』
──あらすじ少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。
──平凡なんてないのかもしれない
名作と名高い『赤い指』
トリックや誰が犯人なのか?を追及するのではなく、ひたすらに人間関係、家族関係についてスポットをあてており、加賀恭一郎シリーズらしさが全面にでている。
最後にはミステリーらしく、どんでん返しのような予想外の展開もまっているのだが……。読んでいて心苦しくなること間違いなしだ。
──8.『新参者』
──あらすじ日本橋の片隅で一人の女性が絞殺された。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎の前に立ちはだかるのは、人情という名の謎。手掛かりをくれるのは江戸情緒残る街に暮らす普通の人びと。「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」。大切な人を守るために生まれた謎が、犯人へと繋がっていく。
──殺人事件と人間ドラマ
東京の下町を舞台に、殺人事件の謎に迫っていくのだが、殺人事件とは別に、加賀恭一郎が下町で暮す人々の日常に溶け込んだ作品である。
殺人事件の真相に迫りながらも、町で暮す人々との人間ドラマが絶妙に読み心地がいい。
重いテーマが多いこのシリーズだが、その中でも珍しく(?)暖かい気分になれる一冊。
──9.『麒麟の翼』
──あらすじここから夢に羽ばたいていく、はずだった。誰も信じなくても、自分だけは信じよう。加賀シリーズ最高傑作。
寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。
──大事なのは過ちを犯した後
人は過ちを犯してしまう生き物だが、その後の身の振り方について深く考えさせられる一冊。
事件現場に残された小さな謎から、大きな人情ドラマが展開される。被害者の不可解な行動に隠されていた真実を、一つ一つ紐解いていき、事件の背景を明らかにしていく様子はまさに圧巻。
『麒麟の翼』のタイトルに込められた想いもまた胸が熱くなる。
──10.『祈りの幕が下りる時』
──あらすじ明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。シリーズ最大の謎が決着する。吉川英治文学賞受賞作。
──圧巻の最終巻
まさに最終巻の名に恥じない名作中の名作。シリーズを通して読んできた方には、今までの伏線回収を含めたたまらない構成になっている。
個人的に、感想に「泣ける」と全面に出してオススメするのは好みではないのだが、理不尽な運命に振り回される親子の無償の愛に、泣けずにはいられなかった。
二組の親子の切ない”祈り”を描いたシリーズ集大成。
【オススメ】