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『スロウハイツの神様』の感想を好き勝手に語る【辻村深月】


「愛は、イコール執着だよ。その相手にきちんと執着することだ」

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P58/辻村深月)


辻村深月の『スロウハイツの神様』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。



目次

感想

著者の作品を読むのは『冷たい校舎の時は止まる』を読んでからの2冊目だったが、印象が180度変わった。正直な所、『冷たい校舎の時は止まる』は私好みの作品ではなかったが今回読んだ『スロウハイツの神様』はどストライクだった。


ホラー寄りの作品が好きな方は『冷たい校舎の時は止まる』もきっと楽しめると思う。

──上巻の始まりと終わり

まず『スロウハイツの神様』で印象的だったのは上巻の始まりと終わり方。始まりの引き込みの強さと、上巻ラストの下巻へ続く橋渡しがとにかく強烈で忘れられない。


始まりではチヨダ・コーキの小説の大ファンが廃屋で殺人事件を起こす場面から物語が始まる。もうこのインパクトが凄い。でもこの時点だと事件がいつの時系列で起きているか分からないので、過去に起きたのか、これから起きるのかハラハラしながら読むことになった。

「チヨダ・コーキの小説のせいで人が死んだ」その日の天気は、快晴だった。
《略》
二十一歳、大学生の園宮章吾の発案による自殺ゲーム。下は十五歳から、上は三八歳までの、参加者十五名は全員死亡。(発案者、園宮含む)

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P9/辻村深月)

改めて見ても始まりのインパクト強烈だなぁ…。このように最初に与えられる情報が多くて(なぜ共同生活をしているのか、彼らの関係性とは、事件の真相は、など)後々なぜそうなったのかじっくり明かされていく形なので、気づかないうちに物語の世界に一気に惹き込まれることになっていた。


そして上巻の終わり方がズルい…環のあの反応、道化の理由…。上巻から下巻への流れが完璧なんだよなぁ。スロウハイツではナンバー2だったはずが、環のプライドをへし折るように明らかになる真実、これが続き気にならないはずがない。


──伏線回収の感動と主役の二人

最終章の『二十代の千代田公輝は死にたかった』の伏線回収は圧巻だった。アレも!コレも!!…と今までのストーリーがひっくり返る驚きと、これまではあまり触れていなかったコウちゃんの気持ちを知っていくうちに、悲しさ・嬉しさ・切なさなど様々な感情が混ざっていく不思議な気持ちになった。


コウちゃん視点から見ても、環の視点から見ても、あの初対面は舞台裏を知ってからだとこみ上げてくるものがある。全部分かったあとの、コウちゃんの環に対する第一声の『お久しぶりです』がもう色々込められすぎてズルい。よく、お久しぶりですの一言で抑えられたなぁとも思う。お互いをお互いに支えにしてたとかね…。


あとはコウちゃんの『影の立役者』が素晴らしいね。オズのケーキが偶然手に入るのは出来すぎだろって思ってたらそういうことか納得。テレビの一件はまったく気付かなかったなぁ。駅のテレビがコウちゃんのプラズマテレビだったとはなぁ。


コウちゃんのキャラが好きすぎてつらい。コレを読んで彼のことを嫌いになれる人いるのかな?環も環で、意地っ張りでプライドの高さも過去を知ると愛おしいと思えてくる。

──好きな表現とか

多分、環の周りで彼が1番弱かったのだ。磁石の対極が対極を求めるような素早さで、彼女の中の強さが、彼を求めた。

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P27-28/辻村深月)

「愛は、イコール執着だよ。その相手にきちんと執着することだ」

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P58/辻村深月)

 人間は自分が計算していればしているだけ、相手の計算やごまかしを敏感に読むようになる。

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P329/辻村深月)

十月の秋雨は夏の夕立とは明らかに様子が違っていて、それは季節の移り変わりを否応なしにこちらに思い知らせる。

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P/辻村深月)

「いいことも悪いことも、ずっとは続かないんです。いつか、終わりが来て、それが来ない場合には、きっと形が変容していく。悪いことがそうな分、その見返りとしていいことの方もそうでなければ摂理に反するし、何より続き続けることは、必ずしもいいことばかりではない。望むと望まざるとにかかわらず、絶対にそうなるんです。僕、結構知ってます」

(引用:スロウハイツの神様〈下〉P82/辻村深月)

不幸に依存する人間は、誰かにその状態を見せるところまで含めてが、一つの儀式なのよ。

(引用:スロウハイツの神様〈した〉P121/辻村深月)


最後に

『スロウハイツの神様』は、2019年に読んだ本の中で上位5番には入ってくる面白さだった。辻村深月の作品は他にも気になっている作品があるので(カガミの狐城とか)そちらのほうも攻めてみようと思う。





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