新潮社出版の短編集、『ストーリーセラー 〜StorySeller〜』の感想を語っていく。この短編集は伊坂幸太郎、近藤史恵、有川浩、米澤穂信、佐藤友哉、道雄秀介、本多考好の7人の作家で構成されている。
表紙にある通り『読み応えは長篇並 読みやすさは短篇並』で、好きな作家さんのお話を楽しむもよし、初めて読む作家さんの作品と出会うのもよしの一冊になっている。ネタバレありなのでご注意を。
目次
感想
──首折り男の周辺/伊坂幸太郎
伏線の張り方はさすが伊坂幸太郎って思える短篇。
・いじめられている少年
・疑う夫婦
・間違われた男
3つの視点からなるストーリーを数十ページで綺麗にまとめていた。
疑う夫婦からみる隣人がはたして、小笠原なのか大藪なのか考えながら読んでいたけど完全に騙された。
最後「ごめん、幽霊って、いるのかも」で締めているのも好き。
──近藤史恵/プロトンの中の孤独
自転車の漫画はいくつか読んだことあるし、私自身もクロスバイクに乗るくらい自転車は好きだけど、自転車をメインにした小説は初めて読んだ。
面白いかったなぁ。外国で経験を積んだ赤城と、山で天才的な走りをする石尾。チームで浮いている二人が活躍する様子は読んでいてスッキリするし、なんだかんだいってもチームに貢献する走りをした石尾がカッコいい。
タイトル『プロトンの中の孤独』、プロトンの意味は終盤に明かされている訳だが、『大集団』という意味らしい。『大集団の中の孤独』と深いタイトルだなぁ。
この短編で完結しているけど、まだまだ続きが読んでみたいと思える話だった。
──有川浩/ストーリー・セラー
感情のジェットコースター。甘いところは、とことん甘く、切ないところは、とにかく切ない。約100ページでこの感情の落差を味わせられるんだからすごい。
初っ端から残酷な設定を叩きつけられて、ハッピーエンドは難しいってわかっているけど、二人の仲睦まじい様子をみていると感情移入せずにはいられない。
彼の最初の強引すぎる行動はちょっと引いてしまったけど、それ以降はとことんカッコよく、彼女に真摯に向き合う理想ともいえる男性だった。
冒頭に彼女が病気になってしまうという未来が明かされているから、幸せな方向に進んでいくにつれて、この現状が崩れ落ちてしまうのか……という、やりきれない思いがフツフツと浮かんでしまう。
しかし、彼女に降りかかる仕事関係のストレス、家庭環境など、読んでいて辛ぎて精神が参ってしまうのも納得してしまった。唐突な病気の展開ではなくて、筋の通った病気の展開……というのも変な話だが、とにかく違和感を感じることなく物語にのめり込んでいた。
だからこそ最後の数ページ、とくに彼女からの手紙が刺さるものがあった。
──米澤穂信/玉野五十鈴の誉れ
名前はよく目にしてたけど初めて読んだ作家さん。言い回しとか難解なものも多かったけど、物語の展開が気になりすぎてどんどん読み進めてしまった。
それになにより、わたしはお祖母さまを説得できるとわかった。お祖母さまは決して逆らい得ぬ絶対の王ではなかったのだ。一度の抵抗が成功したいま、二度目、三度目があり得ないことではない。己の器量で運命を切り拓いたわそんな高揚感にわたしは酔った。
本当に幸せだった。つまりわたしは、まだお祖母さまのことをよく知っていなかったのだ。
(引用:ストーリーセラー P305)
ここの絶望感ハンパがなかったな……。
そして『始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな──』
最後に意味が分かるとゾッとする。
どう考えても、赤子とお祖母さまに手を出したのは五十鈴だよなぁ…。
途中、五十鈴の気持ちがどちらに向いているのか分からなかったけど、純香が軟禁されている間もずっとなんとかして助け出す算段をたてていたのかな。
あれしか手段がなかったとはいえ、助けだされた喜びよりも、ゾッとする読後感が残る、癖になる怖さだった。
──333のテッペン/佐藤友哉
東京タワーのテッペンで死体が見つかるというなんとも大胆なミステリー。
土江田の終始皮肉を込めたような言い回しや、例えの表現が独特。正直読み終えた時は、土江田の過去の因縁など明らかにされていない事が多くて不完全燃焼感があったが、ちょっと調べてみたら
『444のイッペン 』
『555のコッペン 』
『666のワッペン 』
と続きもあるようだ。
続きがあれば読んでみたいと思ったのでこれはありがたい。
「下手な物語よりも物語的な生活をすごした人間の発想ですね」
(引用:ストーリーセラー P407)
この台詞がすき。
──道尾秀介/光の箱
道尾秀介の作品は『向日葵の咲かない夏』に続いて2作目。感想はコチラで書いている。
【『向日葵の咲かない夏』感想】
『向日葵の咲かない夏』でしか道尾秀介を知らなかったので戦々恐々で読み始めたのだが、いい意味で期待を裏切られた。
ハッピーエンドではあったけど人間の後ろ暗い部分を書いた表現は、生々しくて目を背けたくなってしまうけど、何故か読み進めてしまう不思議な魅力がある。そして名前を使ったトリックも見事に騙された。
とくに主人公が真実に気付いたキッカケも、絵本の伏線と相まって関心してしまった。
ホテルのラウンジでコーヒーを飲みながら音楽に耳を傾けていた主人公がなぜ、突然真実に気づいたのか?
最後まで読み進めてようやく気づいたけど、夜道を照らす赤鼻のトナカイと、暗闇を照らすためのカメラのフラッシュ……。あぁ、赤鼻のトナカイの絵本はこの為の伏線だったのかと分かったときは鳥肌がたった。
──本多考好/ここじゃない場所
普通でいることが嫌になり、だからといって”ズレる”ことができない主人公。そして突如、普通だと思っていたクラスメートが目の前で”消える”。彼の正体を確かめる為に近づくと、不穏な影が……。
…と設定は面白いし、文体も読みやすくサクサクと読めた。
しかし、主人公の向こう見ずで突っ走る様子や、彼女の性格にどうしても感情移入できなかった。
『アゲハ』という謎の組織もでてきたり、秋山たちは明らかに不思議な力をもった人たちだったのに、その正体も結局明らかにされておらず、不完全燃焼感が否めなかった。
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