すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった。
(引用:三体 P66/劉慈欣)
SF小説の話題作、中国の作家である劉慈欣(りゅう・じきん)の『三体』。つい最近続編の『三体 暗黒森林』も発売され話題沸騰中なわけだが、満を持して読んだので感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。
【『三体』あらすじ・紹介】
目次
感想
中盤、終盤にかけてひたすらに圧倒されたよね。そして『三体』の物語がまだ終わらず続編があることが、まだこの圧倒的な物語を楽しめることが純粋に嬉しかった。なにより終わり方がズルい。間違いなく面白かったのに、まだ序章にすぎない…って感じの終わり方。続編も期待しかない。
──高く飛ぶには、それだけ助走もいるわけで
読み終わってみればこの『三体』面白い事この上ないわけだが、序盤は読むのになかなか苦労した。
その理由は、作者が中国の方であり物語の舞台も中国であること。私自身、中国の文化や歴史に疎いため、世界観に順応するのに少し手間取った。あとは登場人物が覚えづらい。これはあるあるだが、海外の作品で横文字の登場人物の名前がわかりにくい、というのはよくあると思う。これと同じで馴染みのない漢字と読み方なのでスッと頭に入ってこなかった。
もう一つの理由は、先がまったく見えないこと。文潔の過去の話から始まっていくわけだが、『三体』の”さ”の字もでてこないし、歴史の闇を見るような暗い話にとっつきにくい感はあった。
しかしそれも今思えば物語に必要不可欠な助走的で部分だった。いい助走がなければ高く飛べないように、文潔の過去話があってこそ、物語に深みが生まれているようだった。
──『三体』の意味が分かったとき……
『三体』を読んでいたときに疑問だったのは、そもそもタイトルの『三体』とはなんなのか?という点。
タイトルの本当の意味が明らかになったときの衝撃といったらない。
はじめ、ゲームの『三体』が登場し、その不思議な世界に一気に流れが変わって物語に惹き込まれた。そこで「これがタイトルの『三体』の意味なのか!」と早とちりしていたために、本当の意味の『三体』が明かされたときはもう、「やられた!!」って思った。
読んでいて一番不可思議だったのは汪淼( ワン・ミャオ)の視界に現れた『ゴーストカウントダウン』のこと。特殊な装置をつけているわけでもないのに、視界に現れる謎のカウントダウン。常識的に考えて不可能な事象がどのように起きているのか?どう説明されるのか?
その解明が、三体世界の実在、そして三体世界の技術によって、これまでの伏線(ゴーストカウントダウンも含めて)が一気に結びつくことになる。正直震えたよね。
スケールが……やべぇよ……そうくるのかよ……。
簡単に、雑に、言ってしまえば『三体』って、”地球VS三体”侵略戦争の準備段階でしかないんだよね。
『三体』という星が存在する。そして密かに侵略が始まっている。ということを描いただけ。
それだけなのに、抜群に面白い。
まだまだ序章にしか思えないのに、これからどうなってしまうのか気になってしかたがない。
──シミュレーション
百聞は一見にしかず。You Tubeで『三体問題』と調べるとシミュレーションの動画がいくつかでてくる。この摩訶不思議な軌道を見ていると、三体世界がいかに過酷な状況下に置かれているかが理解できる。そして地球がいかに安全な奇跡の上に存在しているのかも実感できる。
三体問題 - YouTube
──印象に残ったセリフなど
人類のすべての行為は悪であり、悪こそが人類の本質であって、悪だと気づく部分が人によって違うだけなのではないか。人類が自ら道徳に目覚めることなどありえない。
(引用:三体 P29/劉慈欣)
すべての証拠が示す結論はひとつ。これまでも、これからも、物理学は存在しない。この行動が無責任なのはわかっています。でも、ほかにどうしようもなかった。
(引用:三体 P66/劉慈欣)
「それは、宇宙のどの場所においても適用できる物理法則が存在しないことを意味する。ということはつまり……物理学は存在しない」
(引用:三体 P78/劉慈欣)