「そう、生と死の狭間が美しい。その境界だけが、朝日や夕日のように特別に輝く」
(引用:εに誓って P272/森博嗣)
森博嗣のGシリーズの第4弾『εに誓って』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。
前回の感想はコチラ。
【τになるまで待って】
【『Gシリーズ』一覧まとめ】
目次
あらすじ
山吹早月と加部谷恵美が乗り込んだ中部国際空港行きの高速バスが、ジャックされてしまった。犯人グループからは都市部とバスに爆弾をしかけたという声明が出される。乗客名簿にあった「εに誓って」という団体客名は、「Φは壊れたね」から続く事件と関係があるのか。西之園たちが見守る中、バスは疾走する
(引用:εに誓って 裏表紙)
感想
完全に騙された…!バスジャックの結末とεの組織に目を奪われていたら、まさかの叙述トリックだったか…。改めて読み返せば気付けるが、最初読んだときはまったく気づかなかった。え?バス転落して山吹たち死んだ…?って普通に思ってしまった。これはうまい。
これは前から気になっていたんだが、海月の萌絵に対する反応はなんなんだろう?
「西之園さんが、ここへ来るって」
「え?」海月は珍しく顔を上げ、こちらを向いた。
(引用:εに誓って P211)
寡黙で冷静沈着な海月が、萌絵が関わってくるといつもの反応ではない。根拠はまったくないけど、恋愛感情的なものではなく、過去に海月と萌絵の間で何かあったんじゃないかな。
いや、海月が一方的に萌絵の事を認知していたっていう可能性のほうが高いか…?けっこうわかりやすく伏線?っぽく何度か上記のようなやりとりがなされているから、流石にこの二人の関係性は後々明らかになると思うけど……。
──トリックの解説
結論から言えば叙述トリックで、そもそもバスが2台存在していたのである。
複数の乗客目線でバス内の様子が描かれており、物語に登場する全員が同じバスに乗っているように見せかけておいて、実は違いましたよーってのが叙述トリックの核。
事前にバスジャックの情報を入手した警察が動いたために、『εの集団自殺グループのバス』と『山吹たちが乗ったバスジャックされたバス』の2つが同時並行して進んでいたと。
更にトリックを見抜くのを難しくしているのは加部谷と筆談した柴田の存在である。柴田は、加部屋たちと同じく遅刻したために、εのメンバーでありながら、集団自殺のバスに乗っていないというイレギュラーな存在。
彼女の存在が、あたかもεの集団自殺のバスに山吹たちが乗ってしまったと錯覚させる大きなポイントである。
──印象に残った台詞・名言
「無も死も、有と生が作り出したもの。存在するものと、生きているものにもみ、その概念もその価値も、一瞬だけ浮かび上がる。しかし、捉えることはできません。何故なら、存在するものは消えることができないから。生きたままでは死ねないからです。破壊し尽くして、消し去ろうとしても、残骸の量が増すだけ。呼吸を止めて、死に至る苦しさを想像するしかない。涙で恐れを測るしかない。なんという健気なことでしょうか。それでも、面白いわ」
(引用:εに誓って P272)
「そう、生と死の狭間が美しい。その境界だけが、朝日や夕日のように特別に輝く」
(引用:εに誓って P272)
最後に
シリーズ4作目にしても、謎は増々深まるばかり、ギリシャ文字の意味とは、そして真賀田四季の考えは、そもそも彼女は本当にこれからの事件の背後にいるのか…?
Gシリーズの根幹を見極めるために、さらに森博嗣ワールドに足を踏み出さなければならない。
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