2016年に日本で映画化された『オデッセイ』(小説名は『火星の人』)は火星でのサバイバルを描いたもので、火星版DASHとも呼ばれ話題になった。
その作者アンディ・ウィアーが放った第二作、月面都市を舞台にした『アルテミス』の感想を語っていく。
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感想
アメリカンジョークのきいた軽いノリに、皮肉の効いた表現が癖になる。しかし描いているものは命を懸けた「月面ミッションインポッシブル」
最初に月面都市「アルテミス」そして「アポロ11号 ビジターセンター」などの地図が載っている。
それを見るだけで、「この球体でどんなことが起きるのだろう?」と想像が掻き立てられる。
そして、いきなりジャズのスーツトラブルから始まり、一気に物語に引き込まれた。
ジャスミン=バシャラ
彼女のキャラが最高に好き。何があってもへこたれない性格、有能すぎるほどの技術と知恵と頭の回転、どんな場面でも見せるユーモアなセンス、そして普段の彼女からは想像できない涙...。
魅力的な彼女に振り回される物語が魅力的でないことがあるだろうか、いやない。
月面での派手なアクションが目をひくのはもちろんだが、それ以外の場面でも彼女の有能さが光っている。
私が印象に残ってるシーンの1つが、(上)巻のラスト~(下)巻で描かれている「ジン・チュウ」が泊まっているホテルを訪れるシーン。
泊まっているホテルを予想する思考力、部屋番号を知る技術と度胸、そしてZAFOの箱を開ける記憶力と推理力は一流の探偵を思わせた。
陰謀
まさにあらすじに恥じない陰謀への巻き込まれっぷりだった。
収穫機の破壊の時点で十分「危ない所に足を突っ込んでるなぁ」と思っていたのに、そこからは歯車が回りだしたように怒濤の展開。
「製錬所の破壊」「クロロホルムからの救助」とまさに不可能と思われるミッションの連続にワクワクが止まらない。後半はノンストップで読み進めてしまった。
親子愛
インパクトのあるミッションに隠れているが、ジャズと父・アマーの親子愛もこの作品の魅力の一つだと思う。
職人気質の父親と、父親とは正反対の性格のジャズ
ジャズが100万スラグの報酬に飛び付いたのは自分の快適な生活のためという自己中心的な事だと思っていたが(もちろんそれもあるだろうが)父親の工房のためだったとは...。
特に印象に残ってる場面
父親が自分をどれだけ愛しているか知るチャンスに恵まれる人はあまりいないと思う。でもわたしはそのチャンスに恵まれた。ふつうなら四五分で終える仕事に、父さんは三時間半かけた。父さんは、ほかのなによりもわたしのことを三三六%増しで愛しているということだ。
わかってよかった。
(引用:アルテミス〈下〉P125/アンディ・ウィアー)
「男なら背中で語れ」ではないが「職人なら仕事で語れ」といった感じ。言葉ではなく自らの積み重ねてきた仕事で娘に想いを伝える父親...カッコいい!
ジャズのユーモアも相変わらず。
おわりに
『火星の人(オデッセイ)』と同様、『アルテミス』も20世紀フォックスで映画化が決定している。
また、アルテミスを舞台にした続編の構想もあるということで今後とも月面都市『アルテミス』から目が離せない。
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