FGかふぇ

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『θは遊んでくれたよ』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



「神様が必要となる理由は基本的に責任転嫁のメカニズムなんだ。誰か他人のせいにする。そうすることで、自分の立ち位置を保持する、というだけのこと」

(引用:θは遊んでくれたよ P237-238/森博嗣)

森博嗣Gシリーズ第2弾『θは遊んでくれたよ』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ。
【『Φは壊れたね』の感想】

【『Gシリーズ』一覧まとめ】

目次

あらすじ

25歳の誕生日にマンションから転落死した男性の額には、θという文字が書かれていた。半月後、今度は手のひらに赤いθが書かれた女性の死体が。その後も、θがマーキングされた事件は続く。N大の旧友・反町愛から事件について聞き及んだ西之園萌絵は、山吹ら学生三人組、探偵・赤柳らと、推理を展開する!

(引用:θは遊んでくれたよ 裏表紙)

感想

真賀田四季がでてきた…!!といってもまだ名前だけだけど(ラストは四季っぽいが)。彼女の名前が出る前から、なんとなくそんな予感がしてたから実際登場してくれて嬉しい。四季の存在が今後のGシリーズの鍵を握ってそうで、更にこのあとのGシリーズを読むのが楽しみになってきた。


事件のほうは、森博嗣作品にしては珍しく密室ではない事件。


Gシリーズが2作目だからまだなんともいえないが、真相を語りきらない(あくまで海月の仮説までで終わる)結末が、このシリーズの流れなのかな?


『Φが壊れたね』でも思ったのだが、海月によって語られているのは、あくまで辻褄が合う仮説なので、間違ってはいないものの、釈然としない所はある。今はまだ見えていない真相がこの先明らかになりそうでワクワクする。


今後に真相が明らかになって、四季繋がりで全部がひっくり返るようなら最高の展開。



──四季の予感

P250では直接『真賀田四季』の名前が出てくるし、その直前にはMNI(メタナチュラル協会)が出てくるし、四季が何かしらの形で物語に関わっていそうな気配をかもし出してくる。


しかし、『Θは遊んでくれたよ』ではもっと前に四季の関わりを暗示させるような部分があった。

「そうそう」西之園は頷き、こちらに顔を向けた。「Θというマーキングに、それを補完する意味合いがあるのかしら」
「補完?」
「うん、それを書くことによって、空間と時間を超えて、リンクされる」西之園が真面目な顔で言った。冗談ではなさそうだ。

(引用:Θは遊んでくれたよ P119-120)

「君が過去の記憶をすべて鮮明に再現できることは知っている。劣化しない歴史は、もう歴史とはいえない、すべて現実だ。君の現実は、空間も時間も越えている。それはわかる。しかしその場合、君にとって、実在する人間と、死んでしまった人間の差は、何?」

(引用:四季 冬 P105)

上記は『四季 冬』より四季と其志雄の会話から、其志雄の台詞。


まぁ四季シリーズでは散々四季が話してるから『空間も時間も超えて』のフレーズだけを引っ張ってきて暗示というのはおこがましいが、この台詞、とくに『空間も時間も超えて』って部分が個人的にかなり印象に残っていたので、『θは遊んでくれたよ』で萌絵からこのフレーズが飛び出したときは、びっくりした。


扱ってる話題も「生も死」で近いものがあるし大目に見てもらって……。

──『葉っぱは見られ、鳥は死なない』

海月があっさりとPHOENIX(フェニックス)と回答していた『葉っぱは見られ、鳥は死なない』。


フェニックスと聞いて、
鳥は死なない→不死鳥→フェニックス
というのはすぐにわかったが、前半部分がわからなかった。しかも海月は海月らしく詳細を語ってくれないし。


調べたら
葉っぱは見られ→観葉植物→フェニックス(という種類の植物がある)
だとか。


前半部と後半部2つに共通する単語は何か?ということでの『葉っぱは見られ、鳥は死なない』=『フェニックス』だったらしい。

──印象に残った台詞・名言

何だろう?そういえば、Φとθというギリシャ文字が使われているという共通点はある。しかし、それは単なる偶然だろう。まえの事件は、犯人も逮捕され、既に解決しているではないか。もちろん、数々の不思議は残ったままではある。特に、どうしてそんなことをしたのか、という動機の部分に関しては、未だに納得がいかない。

(引用:θは遊んでくれたよ P168)

一つ思いついた。
どこかに得体の知れない存在がある。
とにかく、それがあると仮定しよう。
名前がないものだ。
それと自殺者の関係が、θだという。
そうなると、Φもまた、同じだったかもしれない。
それが壊れた、ということか……。
関係が壊れた、というニュアンスは、なんとなくだが、すんなりと受け入れられる。

(引用:θは遊んでくれたよ P169)

一作目『Φは壊れたね』と二作目『θは遊んでくれたよ』の共通点は、自殺者の動機が不明なこと。


さらに言えば、自殺した早川聡志がなぜ額にθを書いたのか?なぜ口紅を使ったのか?その口紅はどこにいったのか?誕生日に自殺したことに意味はあるのか?
なぜ自分宛にメールで「シータは遊んでくれたよ」と送ったのか?……など、作中では明言されていない。今後に期待である。

「いずれにしても、本質ではない。宗教という形態自体が、メディアだからね」
「どういうことですか?」
「神様が必要となる理由は基本的に責任転嫁のメカニズムなんだ。誰か他人のせいにする。そうすることで、自分の立ち位置を保持する、というだけのこと」

(引用:θは遊んでくれたよ P237-238)

犀川先生の明言。出番が少ないが切れ味は抜群。

「僕が想像した仮説だ。単に、こう考えれば不思議な点がない、というだけのこと。少なくとも、僕が知っている情報に対する、重心だということ」
「ジューシンって?」今度は反町が尋ねた。
「バランスが取れる唯一の点、という意味で使いました」

(引用:θは遊んでくれたよ P292)

重心ね。海月の、言葉の選択と使い方がセンスいい。




【オススメ】





『Φは壊れたね』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



語りえぬものについては、沈黙せねばならない。

(引用:Φは壊れたね P299/森博嗣)

森博嗣のGシリーズ第1弾『Φは壊れたね』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。

【『Gシリーズ』一覧まとめ】

目次

あらすじ

その死体は、Yの字に吊られていた。背中に作りものの翼をつけて。部屋は密室状態。さらに死体発見の一部始終が、ビデオに録画されていた。タイトルは「Φは壊れたね」。これは挑戦なのか?N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。Gシリーズ、待望の文庫版スタート!

感想

本書あらすじの後半『N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。』を見て、てっきり萌絵が探偵役として事件の真相を解き明かしていくのかと思っていたが、ところがどっこい新たな探偵役が登場してGシリーズも楽しそうで期待が高まる。


登場人物は、先程ふれた西之園萌絵をはじめ、犀川、国枝、鵜飼刑事……とS&Mシリーズを読んでいた方にはお馴染みのメンバーが登場してとても懐かしい気分になった。


山吹は、『四季 秋』で萌絵にコーヒーの入れ方を教えていた人物だとすぐにわかったが、加部谷もすでに登場していた人物だったらしい…。


ちょいと調べたらS&Mシリーズ『幻惑の死と使徒』で登場してた。読み返してみたら加部谷は初登場は中学生…!今回のGシリーズでは大学生となっていて時の流れを感じる……。


ちなみに若干(?)のヒントはあって、物語の中盤、録画の映像を見ているシーンで

加部谷は呼吸を整え、もう完全に復活した。
死体を間近に見た経験が、彼女にはある。そのときは、本当にびっくりした。今でも、その映像を鮮明に再現できる。

(引用:Φは壊れたね P195)


『死体を間近に見た経験が、彼女にはある。』と明らかなフリを書きながら『Φは壊れたね』の物語中では、このコトについて触れられなかったのから、どういうことかと思っていたが、過去作へのヒントだった訳か。納得納得。


──海月及介

海月及介《クラゲキュウスケ》。今回の探偵役。変わった名前がよく登場する、でお馴染みの森博嗣作品だが、『クラゲ』はなかなかのインパクト。でも実際にある苗字らしいね。


必要なこと以外しゃべらない寡黙さは犀川以上。犀川のようにジョークさえ言わないので、よりクールな印象。でも滞りなく理路整然と推理を話すのはギャップの塊。


その姿をみて、犀川に似てる…!と思ったが萌絵ですら『同類』と称するのなら、私の印象は間違ってなかったようだ。

「そう……」西之園も目を丸くして海月を見ていた。「いるのね、同じ系列の人が……」

(引用:Φは壊れたね P275)



萌絵が活躍するものだとばかり思っていたので、彼の活躍は予想外だった。


──『Φは壊れたね』

正直、私はタイトル『Φは壊れたね』の意味を納得しきれなかった。作中では海月の推理によって一応の解釈は提示されていた。

「作品なんですよ」海月は答える。「そういう作品だったのです。その作品のタイトルが《Φは壊れたね》だったのです。もちろん、宙吊りになり、手も腕も痛い。彼の意識は殺されるときには、既に朦朧となっていたでしょう。しかし、声を上げなかったのは、彼に相当な覚悟があったからだと想像できます。

(引用:Φは壊れたね P291)


『作品のタイトルです。はい、おしまい』って感じで釈然とせず、他の方の記事を読んでみてたのだが、この方の記事のタイトルへの考察アプローチが面白かったので、海月の推理で納得しきれなかった方は是非目を通してみてほしい。
森博嗣『φは壊れたね』ガチ考察|そら|肩書きのないnoter|note


もちろんこの記事の解釈が正解かは、わからない。答えは森博嗣のみぞ知るのだから仕方がない。それにしても私としては、納得できたし、その他の考察も本書の隅々まで目を光らせ、そして他シリーズまで絡めて書かれており、とても参考になった。


最後に

質のある密室トリック、そして新たな探偵。S&M、Vとはまた違う空気感の中、Gシリーズはどこへ向かうのか。次作がはやくも楽しみだ。



【オススメ】





『四季 冬〈BLACK WINTER〉』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】


「僕を、殺してくれるんだね?」彼は言った。
彼の瞼が一瞬震える。
「はい、お約束しましたから」彼女は頷いた。

(引用:四季 冬 P50/森博嗣)

森博嗣の四季シリーズ最終巻、『四季 冬』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前巻『四季 秋』の感想はコチラ。


目次

あらすじ

「それでも、人は、類型の中に夢を見ることが可能です」四季はそう言った。生も死も、時間という概念をも自らの中で解体し再構築し、新たな価値を与える彼女。超然とありつづけながら、成熟する天才の内面を、ある殺人事件を通して描く。作者の一つの到達点であり新しな作品世界の入口ともなる、四部作完結編。

感想

面白かった。ただただ夢中になって読んだ。


四季の、理解の範疇を超えた天才の思考をなぞるだけでも面白い。そして、四季シリーズはこの『冬』で終わりになるが、今後のシリーズでおそらく鍵になるであろう伏線も随所にあって、今後の展開が楽しみでしかない。


今回一番気になった、今後出てくるであろう点は、四季の子供(クローン)について。


冬で明らかになった概要は、
①『すべてがFになる』で四季が持ち出したミチルの細胞から、人間を再生した。

②その再生をした久慈という人物は、その細胞から育った個人と四季が会わないことを条件に再生を行った。

③久慈の曾孫と、②で再生した四季の子孫が殺人事件に巻き込まれ、久慈の曾孫は頭を銃で撃たれ即死、四季の子孫は腹部を撃たれ重症。久慈は四季の頭脳を曾孫の肉体に移植。手術は無事成功した。

④久慈と四季がした②の条件が撤廃された。


簡単にまとめると以上なのだが……こんなの絶対今後物語に関わってくるに決まってるやん。今後の展開に期待だ。


他に細かい点を上げるとすれば、四季にスカウトされて(?)連れていかれたG・Aという人物がどうなったのか、とかあるが上記に比べれば些末な問題である。

──ウォーカロン

森博嗣のWシリーズを2巻までだけ読んでいるから、『ウォーカロン』の単語が出てきてびっくりした。読み直す前はWシリーズにまだ手を出してなかったから気づかなかったけど、四季シリーズにも登場してたんだなぁ。こういう繋がりが見えると、お!!ってなる。

「パティ」彼には珍しいシチュエーションだったので、多少照れくさかった。「失礼を承知で尋ねるが……」
「はい、何でしょうか?」
「君は、人間かね?」
「いいえ」彼女は即答した。「私はウォーカロンです」

(引用:四季 冬 P163)

人間とほぼ同じ人形を作れている時点で伏線ではあった。Wシリーズは、この時代よりだいぶ未来を描いた作品のようだが、四季はこの時代にすでにウォーカロンのプロトタイプを作成していたんだな。


ちなみにウォーカロンとは下記の通り。

ウォーカロン〈Walk Alone〉。「単独歩行者」と呼ばれる、人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。

(引用:彼女は一人で歩くのか? 裏表紙)

『彼女は一人で歩くのか?』はWシリーズの一作目。面白さは保証するので気になる方は是非。

──印象に残った台詞・名言

「君が過去の記憶をすべて鮮明に再現できることは知っている。劣化しない歴史は、もう歴史とはいえない、すべて現実だ。君の現実は、空間も時間も越えている。それはわかる。しかしその場合、君にとって、実在する人間と、死んでしまった人間の差は、何?」

(引用:四季 冬 P105)

上記は四季と其志雄の会話から、其志雄の台詞。
『劣化しない歴史は、もう歴史とはいえない』

周りには、信じる者は少なかったが、彼はその技術を確信した。物理的に可能性だと直感したからだ。
特別な人間が、
つまり、
人間の思考の細部を、厳密な意味で解析できる優れた頭脳さえあれば、
可能なのだと……。
人を再現するためには、人を超えた頭脳が必要なのだ。

(引用:四季 冬 P125)


四季(ミチル)とG・Aが対面した場面より。
『人を再現するためには、人を超えた頭脳が必要なのだ。』
それをなし得るのは四季しかいないよなぁ!?

我々は長い間、子供は大人より劣っていると考えていました。《中略》生まれて、この世界の身近なものの存在、自分の存在、そして、それらの相互関係、さらには、それらを表現する言葉の存在、思考による予測を伝える手法など、子供は最初から、人生最大の難関を解決しなければなりません。これを、なんなくクリアしてしまう能力を想像してみて下さい。人間は最初に最も理解力を持ち、知識を蓄え、それらの応用と試行を繰り返すことによって、次第に制限され、思考力を失うのです。簡単にいえば、最初は誰もが天才、そして、だんだん凡人になる。

(引用:四季 冬 P156)

子供は大人より劣っているという幻想。言われてみれば確かに、と思えるが……。理解はできるが受け入れがたいのは、私も凡人だからだろう。

天才の思考が、凡人のそれを超越しているとしたら、そこには一般化されていない概念が当然、存在するだろう。それらには、対応する言葉がないかもしれない。言葉とは、凡人が共通に認識できる概念を記号化したものだ。

(引用:四季 冬 P219)

四季と久慈の会話より。

「自分の人生に干渉してもらいたい、それが、愛されたい、という言葉の意味ではありませんか?

(引用:四季 冬 P245-246)


最後に

彼女の事を知りたくて、この『四季シリーズ』に手を出したはずなのに、読み終えた今、彼女の謎がより一層深まった気がする。深淵を覗いた感じかな。


天才を理解しようなんて、浅はかこの上ないが、せめてもう少し近づいてみたいもの。




【オススメ】





【森博嗣】春・夏・秋・冬の4作からなる『四季シリーズ』のあらすじ・紹介


『すべてがFになる』を始めとしたS&Mシリーズ、瀬在丸紅子たちの活躍を描いたVシリーズ、そして今回は『四季シリーズ』の紹介をしていく。


セオリーとしては『S&Mシリーズ』→『Vシリーズ』と読んだあとに『四季シリーズ』を読んだほうが物語を100%楽しむことができるだろう。
【S&Mシリーズの紹介・あらすじ】

【Vシリーズの紹介・あらすじ】

目次

1.作品一覧・読む順番

1.四季 春〈Green Spring〉
2.四季 夏〈Red Summer〉
3.四季 秋〈White Autumn〉
4.四季 冬〈Black Winter〉

読む順番は、シンプルに春→夏→秋→冬と、読み進めていけばいいだろう。

2.『四季シリーズ』の概要

四季シリーズはタイトル通り、S&Mシリーズで衝撃の初登場をきめた天才・真賀田四季にひたすらにスポットを当てたシリーズになっている。


『すべてがFになる』の裏側、四季が両親を殺害した場面の詳細、更には彼女の幼少期の話など、これまでのシリーズで彼女の魅力にとりつかれた人に取ってはたまらないシリーズであろう。


ちなみにVシリーズラストの『赤緑黒白』。この不思議なタイトルは、四季シリーズのそれぞれのタイトルの伏線にもなっている。


3.『四季シリーズ』あらすじ・紹介

──1.四季 春〈Green Spring〉

──あらすじ

天才科学者・真賀田四季。彼女は五歳になるまでに語学を、六歳には数学と物理をマスタ、一流のエンジニアになった。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考するその能力に人々は魅了される。あらゆる概念にとらわれぬ知性が遭遇した殺人事件は、彼女にどんな影響を与えたのか。圧倒的人気の四部作、第一弾。

──天才の幼少期
『四季 春』では真賀田四季の、過去のエピソード。幼少期の彼女の、思考、感情、行動が綴られている。幼少期ですでにその存在は絶対的で、度肝を抜かれること間違いない。


また"其志雄"たち多重人格のルーツ、また深読みすればその多重人格が生まれたきっかけなども読み取れるかもしれない。


──2.四季 夏〈Red Summer〉

──あらすじ

十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだこととは?孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾。

──天才の旅立ち
VシリーズやS&Mシリーズの繋がりがさらに見える一冊。加えて『すべてがFになる』の前日譚的な要素もあり、さらに四季の生い立ちも追える欲張りセット。


『四季 夏』で起きることは、『すべてがFになる』で了解している。つまりそこへ至る展開と、天才の思考、天才と凡人の会話が本作の面白い所。


十三歳になり肉体的に不自由がなくなってきた四季が、しがらみを断ち切り、旅立つような印象を受けた。


──3.四季 秋〈White Autumn〉

──あらすじ

妃真加島で再び起きた殺人事件。その後、姿を消した四季を人は様々に噂した。現場に居合わせた西之園萌絵は、不在の四季の存在を、意識せずにはいられなかった……。犀川助教授が読み解いたメッセージに導かれ、二人は今一度、彼女との接触を試みる。四季に知られざる一面を鮮やかに描く、感動の第三弾。

──天才のその後
『四季 秋』は、時系列でいうとS&Mシリーズの『有限と微小のパン』より数年後の物語である。


『春』『夏』では、四季の視点がメインだったが、『秋』では、S&MとVの登場人物たちの視点で物語が進んでいく。


そして『秋』では、『すべてがFになる』に残された伏線の回収があるので、ファンには無視できない一冊である。




──4.四季 冬〈Black Winter〉

──あらすじ

「それでも、人は、類型の中に夢を見ることが可能です」四季はそう言った。生も死も、時間という概念をも自らの中で解体し再構築し、新たな価値を与える彼女。超然とありつづけながら、成熟する天才の内面を、ある殺人事件を通して描く。作者の一つの到達点であり新しな作品世界の入口ともなる、四部作完結編。

──天才の物語
『秋』とはうって変わって再び四季視点の物語。『すべてがFになる』に残された謎に犀川と萌絵は『秋』でついにたどり着いた。その更に先の展開が『冬』では待ち受けている。


更にS&Mシリーズの10作目『有限と微小のパン』のラストシーンで、犀川と四季の会話場面は印象的だが、そこを四季視点で味わうことができる。


詩的に、そして哲学的に語られる四季の思考。生と死とはなんなのか?孤独とはなんなのか?圧倒されるシリーズ最終巻。

4.Gシリーズ

『Gシリーズ』のGは、ギリシャ文字の頭文字Gからきていると言われている。シリーズ作品はすべてタイトルにギリシャ文字が含まれており、タイトルに特徴のある森博嗣作品の中でも、特に目を引くシリーズだと言っても過言ではない。


今回のシリーズでは、大学生の加部谷恵美、海月及介、山吹早月らが中心となってストーリーが進んでいく。
山吹は、四季シリーズの『秋』で、加部谷は、S&Mシリーズ『幻惑の死と使徒』で登場している人物である。


つまり、この『Gシリーズ』も『S&Mシリーズ』、『Vシリーズ』と同じ世界線であることが伺える。なので新たな人間関係が明らかになることも……!?


四季シリーズの次は、新シリーズGをどうぞ。リンクは作品一覧。
【『Gシリーズ』一覧まとめ】


【オススメ】





【森博嗣】『Vシリーズ』10作品の一覧とあらすじ・紹介




『すべてがFになる』を始めとしたS&Mシリーズの次なる物語、森博嗣のVシリーズの作品について紹介、また読む順番のオススメをしていく。


セオリーとしては『Vシリーズ』より『S&Mシリーズ』を先に読むことをオススメする。
【S&Mシリーズの紹介・あらすじ】


目次

1.Vシリーズの作品一覧・読む順番

1.黒猫の三角〈Delta in the Darkness〉
2.人形式モナリザ〈Shape of Things Human〉
3.月は幽咽のデバイス〈The Sound Waiks When the Moon Talks〉
4.夢・出逢い・魔性〈You May Die in My Show〉
5.魔剣天翔〈Cookpit on Knife Edge〉
6.恋恋蓮歩の演習〈A Sea of Deceits〉
7.六人の超音波科学者〈Six Supersonic Scientists〉
8.捩れ屋敷の利鈍〈The Riddle in Torsional Nest〉
9.朽ちる散る落ちる〈Rod off and Drop away〉
10.赤緑黒白〈Red Green Black and White〉


以上は刊行順に並べてある。
読む順番としては、素直に1の『黒猫の三角』から読み進めていけばいいだろう。



2.Vシリーズの特徴・登場人物

シリーズ名の『V』とは、主人公のイニシャルに由来するもので、瀬在丸紅子〈セザイマルベニコ〉の『V』から取られたものである。


前作のS&Mシリーズと同じく、トリックの多くに工学などの理系分野で構成されているのが大きな特徴であるため「理系ミステリー」と称されることもしばしば。そして密室殺人をテーマにした作品が多い。


今回は4人の主要登場人物がいる。先程あげた瀬在丸紅子、あとの3人が保呂草潤平〈ホロクサジュンペイ〉、小鳥遊練無〈タカナシネリナ〉、香具山紫子〈カグヤマムラサキコ〉である。この3人はみな阿漕荘というアパートの住人である。


この4人は個性的すぎる性格をしており、彼らのウェットに富んだやりとりもこのシリーズの魅力の一つだろう。前作S&Mシリーズとの関係は……是非実際に読んでみて確かめてみてもらいたい。



3.各作品紹介

──1.黒猫の三角

──あらすじ

一年に一度決まったルールの元で起こる殺人。今年のターゲットなのか、六月六日、四十四歳になる小田原静江に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸を監視するが、衆人環視の密室で静江は殺されてしまう。森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第一作、待望の文庫化。

──衝撃のシリーズ1作目
一年に一度、ゾロ目の日付に、ゾロ目の年齢の人物が殺害される、連続殺人が起こっていた。11歳の小学生が7月7日に……22歳の大学生が7月7日に……33歳のOLが6月6日に……そして44歳の女性が……。謎の規則性によって巻き起こる殺人。犯人の目的はいったい……?!


個性的すぎる登場人物たちの人間関係と、作り込まれたトリック。そしてこのシリーズ第一作を読んだら、思わず続きのシリーズが読みたくなる魔力が詰まっている。


S&Mシリーズの衝撃が蘇る、堂々のシリーズ第一作である。


──2.人形式モナリザ

あらすじ

蓼科に建つ私設博物館「人形の館」に常設されたステージで衆人環視の中、「乙女文楽」演者が謎の死を遂げた。二年前に不可解な死に方をした悪魔崇拝者。その未亡人が語る「神の白い手」。美しい避暑地で起こった白昼夢のような事件に瀬在丸紅子と保呂草潤平ら阿漕荘の面々が対峙する。大人気Vシリーズ第2弾。


──Vシリーズの本領発揮…?
ネタバレなるため詳しくはかけないが、順当に『黒猫の三角』から読み進めているなら、2作目の『人形式モナリザ』からがVシリーズの本領発揮だ!という意味がわかるだろう。


トリックに真新しさや意外性は少ない印象。悪魔崇拝や悪魔と神など、作中には終始不気味さが漂う。


主要登場人物たちの人間性や性格も少しずつ明らかになっていき物語を加速させていく。

──3.月は幽咽のデバイス

あらすじ

薔薇屋敷あるいは月夜邸と呼ばれるその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。瀬在丸紅子たちが出席したパーティの最中、衣装も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。紅子が看破した事件の意外な真相とは!?

──オオカミ男がでると噂の館の真実は……

オオカミ男が出ると噂の月夜邸。その一室で密室殺人が起きるが……!人間の心理を逆手に取る展開が魅力。あなたもきっと騙される。


王道のミステリーを求めている人からしたら、賛否両論は生むかもしれない作品だと思うけど、個人的にはかなりすき。

──4.夢・出逢い・魔性

あらすじ

20年前に死んだ恋人の夢に怯えていたN放送プロデューサが殺害された。犯行時刻響いた炸裂音は一つ、だが遺体には二つの弾痕。番組出演のためテレビ局にいた小鳥遊練無は、事件の核心に位置するアイドルの少女と行方不明に……。繊細な心の揺らぎと、瀬在丸紅子の論理的な推理が際立つ、Vシリーズ第4作!

──不気味さが後を引く物語

犯人視点での怪しげな雰囲気、夢の中の不可解な様子など要領を得ない不思議な様子が不気味で後をひくのが特徴的。


しかしそんな暗いイメージとは対象的に密室トリックの全容は紅子から大盤振る舞いで解説されるのでスッキリとした読後感がある。




──5.魔剣天翔

あらすじ

アクロバット飛行中の二人乗り航空機。高空に浮ぶその完全密室で起こった殺人。エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣をめぐって、会場を訪れた保呂草と無料招待券につられた阿漕荘の面々は不可思議な事件に巻き込まれてしまう。悲劇の宝剣と最高難度の密室トリックの謎を瀬在丸紅子が鮮やかに解き明かす!

──シリーズの折り返し、空中密室殺人
飛行機の中、空中密室の殺人というインパクトあふれる作品。紅子の華麗な活躍が見られる反面、今回は主要登場人物の一人、練無にスポットが当てられている。


練無に関係の深い人物の登場により、練無の過去が垣間見えたのだが……。癖が強い阿漕荘のメンバー、その中でもとくに癖がある練無。あの明るさの裏に隠れているものは……。


──6.恋恋蓮歩の演習

あらすじ

世界一周中の豪華客船ヒミコに持ち込まれた天才画家・関根朔太の自画像を巡る陰謀。仕事のためその客船に乗り込んだ保呂草と紫子、無賃乗船した紅子と練無は、完全密室たる航海中の船内で男性客の奇妙な消失事件に遭遇する。交錯する謎、ロマンティックな罠、スリリングに深まるVシリーズ長編第6作!

──保呂草大活躍回
豪華客船を舞台に、阿漕荘のメンバーは事件に遭遇する。今回はどちらかといえば主要メンバーたちのやり取りを眺めるシリーズもの特有のまったり回。


そして前回練無にスポットが当てられたように、今回は保呂草さん大活躍回である。そしてこの男、まったくもって罪な男である。

──7.六人の超音波科学者

あらすじ

土井超音波研究所、山中深くに位置し橋によってのみ外界と接する、隔絶された場所。所内で開かれたパーティに紅子と阿漕荘の面々が出席中、死体が発見される。爆破予告を警察24時送った何者かは橋を爆破、現場は完全な陸の孤島と化す。真相研明に乗り出す紅子の怜悧か論理。美しいロジック溢れる推理長編。

──紅子の推理が光る
橋を落とした理由、首と手が切断してなくなっていた理由、壁に残された暗号、消えた死体、そして犯人……。


紅子の理路整然の推理がとにかく光る作品。多くの謎が浮かび上がるが、紅子がキレイに推理をあかしてくれたのでスッキリとした読了感がある。


しかし、これまで終始冷静沈着な彼女だったがとある出来事が怒りの琴線に……。

──8.捩れ屋敷の利鈍

あらすじ

エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣が眠る”メビウスの帯”構造の巨大なオブジェ様の捩れ屋敷。密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。そして発見される第二の死体。屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に迫る。S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリィ。

──S&MとVの共演
『捩れ屋敷の利鈍』の目玉はなんといっても、S&Mシリーズのキャラとの共演がついに実現していること。犀川の登場こそ少ないものの、萌絵と国枝が保呂草と初対面する。


Vシリーズなのに紅子が少ししか出てこなかったり、練無や紫子が登場しない異端な作品である。

──9.朽ちる散る落ちる

あらすじ

土井超音波研究所の地下に隠された謎の施設。絶対に出入り不可能な地下密室で奇妙な状態の死体が発見された。一方、数学者・小田原の示唆により紅子は周防教授に会う。彼は地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたと語った。空前の地下密室と前代未聞の宇宙密室の秘密を暴くVシリーズ第9作。


──舞台は再び超音波研究所へ
『朽ちる散る落ちる』は、まさかのVシリーズ第7作『六人の超音波科学者』のほぼほぼ続き。


有人衛星の密室殺人と地下密室の死体。トリックもそうだが、2つの関連付けられそうにもない密室事件がどう繋がっていくのか?が見所の一つ。


『六人の超音波科学者』で感じていた”違和感”もきっと解消されるだろう。


──10.赤緑黒白

あらすじ

鮮やかな赤に塗装された死体が、深夜マンションの駐車場で発見された。死んでいた男は、赤い。彼の恋人だったという女性が「犯人は誰かは、わかっている。それを証明して欲しい」と保呂草に依頼する。そして発生した第二の事件では、死者は緑色に塗られていた。シリーズ完結編にして、新たな始動を告げる傑作


──最終巻にして新たなシリーズへの橋渡し
Vシリーズラストの『赤緑黒白』。不思議なタイトルが多い森博嗣作品だが、これもそのうちの一つと言えるだろう。


また、『森博嗣作品といえば密室トリック』のようなイメージが強いし、Vシリーズを通してもそれは変わらない。しかし今回はそれに反して密室ではなく、殺害後の遺体に色が塗られるという猟奇的とも取れる連続殺人事件。


殺人事件の顛末もシリーズ最後に相応しい見ごたえのあるものだったが、登場人物たちのやりとりもそれと同じくらい惹かれるものがある。


そしてシリーズ最終巻ということは終わりでもあり、新たなシリーズの幕開けな訳でもあるので、新シリーズの伏線も密かに散りばめられている。そこにも目を向けながら読んでみてほしい。

4.四季シリーズ

Vシリーズの次に読んでほしい森博嗣作目は、四季シリーズだ。文字通り『春』『夏』『秋』『冬』の4冊から構成され、天才・真賀田四季にスポットを当てた作品たちである。


Vシリーズを読んでからのほうが、楽しめるだろが、この四季からの読んでも一応問題はない。(個人的にはVを読み切ってからがオススメだが)

【四季シリーズのあらすじ・紹介】




【オススメ】




『赤緑黒白』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



「端的にいえば、それは問題解決です。その邪魔ものが科学的な謎であれば、解決した者は科学者として成功し、その邪魔ものが技術的困難であれば、解決した者は一流のエンジニアになる。その邪魔ものが、たまたま生きた人間だったときは、解決した者が、殺人者と呼ばれるのです」

(引用:赤緑黒白 P336/森博嗣)

森博嗣のVシリーズ、最後の第10弾『赤緑黒白』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ。


目次

あらすじ

鮮やかな赤に塗装された死体が、深夜マンションの駐車場で発見された。死んでいた男は、赤い。彼の恋人だったという女性が「犯人は誰かは、わかっている。それを証明して欲しい」と保呂草に依頼する。そして発生した第二の事件では、死者は緑色に塗られていた。シリーズ完結編にして、新たな始動を告げる傑作

(引用:赤緑黒白 裏表紙)

感想

ついに……ついにVシリーズを読み切ってしまった……。シリーズ最終巻に相応しい癖者の犯人、遺体に色を塗る謎……。そして次のシリーズの足がかりとなる伏線。まだまだ森博嗣沼から抜け出すことは出来なそうだ。


『森博嗣作品といえば密室トリック』のようなイメージが強いが、今回はそれに反して密室ではなく、殺害後の遺体に色が塗られるという猟奇的とも取れる連続殺人事件。


遺体に色を塗った理由、そして想像以上に練り込まれた犯人の計画……赤井と田口美登里の出会いすらも仕組まれたことだったとは、思いもよらなかった。


殺人事件の顛末もシリーズ最後に相応しい見ごたえのあるものだったが、登場人物たちのやりとりもそれと同じくらい惹かれるものがあった。


今回のキーパーソンである秋野秀和。すっかり忘れてたいたのだが、彼はシリーズ第1弾『黒猫の三角』で登場した犯人である。


一年に一度、ゾロ目の日付にゾロ目の年齢の人間が殺されていく殺人事件……。


言われて見れば確かに今回とパターンが同じなんだよな……。結論から言えば両者とも”美しいものを作りたかっただけ”。


違うのは、規則に従って色を塗るのか、それとも日付と歳の関連性に従うのか……。


必ず何かしらの意味が隠されていると勘ぐってしまう時点で彼らの思う壺。ここで秋野秀和を登場させてくるとは一本取られた。


しかも表紙をよく見てみると『黒猫の三角』と『赤緑黒白』はかなり似てる構成になっている。ここでも今回の事件の共通点を密かに訴えかけていたんだな……。





──Vシリーズを支えた登場人物たち

保呂草、紅子、紫子、練無、七夏、林……個性豊かすぎる彼らのやりとりをこれ以上見ることができないのは少し残念だが、シリーズ最終巻にこれでもかってくらい、彼らの個性がひきたっていたところを見れた気がする。


保呂草の怪盗としての顔、紅子の華麗な推理と林への想い、紫子と練無のいつもの漫才のようなやりとりと、優しい一面、七夏のプライドの高さ、林の掴みどころがない感じ……。


中でも特に印象的だったのは、紫子が保呂草への想いをついに伝えたシーン。保呂草が紅子に別れを告げるシーン。そして林の名前が明らかになったシーン。


紫子と保呂草が結ばれることがないだろうことはわかってたけど、切なかったなぁ……。保呂草さん罪な男やで……。


そしてP555-561にかけての保呂草と紅子のやりとりが今回で一番好きな所。長くすぎて全部は引用はできないので一部だけ。

「貴女の幸せは、僕の幸せです」保呂草は言った。
紅子はじっと彼を見据え、やがて微笑む。
夜が逃げ出すのではないか、とさえ思えた。
「下がってよろしい」紅子は片手を差し出した。
保呂草は彼女の手を取り、地面に片膝をつく。
彼女の手に、キスをした。
「ご苦労でした」紅子は首を傾げて言う。
「おやすみなさい」保呂草は紅子の手を離す。
紅子は背中を向けて、遠ざかる。
しかし、数メートルほどのところで立ち止まり、振り返った。
「また、会えますか?」彼女はきいた。
「紅子さんが、そう思えば、いつだって」保呂草は答える。
彼女は頷く。
「じゃあ、さようならは、やめておこう」紅子は最後にそう言った。

(引用:赤緑黒赤 P559-560)

このシーンのためにこれまでのVシリーズがあったと言ってもいいだろう(言い過ぎ)。

夜が逃げ出すのではないか、とさえ思えた。ってなんだよ……この表現はずるい……。



もう一点、順当に読んでいった読者へのサプライズは”林”の名前、そしてそれによって明らかになる真実だろう。


P575、エピローグで林が無言亭に置いて行った祝儀袋に書いてある名前は、練無と紫子の証言曰く『○川 林』と書かれている。


ここで林は苗字ではなく、名前であることがあきらかになる。つまり林のフルネームは『犀川 林』。へっくんとはS&Mシリーズの主人公『犀川 創平』なのである。


シリーズ最後で、ものすごい爆弾を残してた……。林と紅子の遺伝子を継いだ犀川創平……前シリーズでの活躍も納得というわけだ。


私はVシリーズの先に四季シリーズを読んでしまったので紅子と犀川の関係は知っていたのだが、林の名前のトリックはここで初めて気付いた。『林』と『瀬在丸』の子供なのに、なんで『犀川』なのだろうと疑問に思ってたけど……まさか『林』が苗字じゃなく名前とは思わんやん。


──『赤緑黒白』は次への伏線

※以下、若干次のシリーズの内容に触れる。
ネタバレってほどではないけど、まっさらな状態で次が読みたい方は、ここで戻ることを進める。





さて、へっくんの正体が明らかになるのも『赤緑黒白』の大きな衝撃だが、今巻一の出来事は真賀田四季の登場だ。


具体的なページを挙げれば、P95-97、P313、P578-583。

「赤、緑、黒、白の4色は、四つの季節を表しています」
「ええ、風水の方角にも対応している。緑が青と表現されることが多いけど」紅子はいった「博学なのね」
「貴女ほどではありません」栗本は言う。
「その、春夏秋冬が、どうかしたの?」
「それが妹の名前なんです」少女は微笑んだ。「妹のために、彼女は、あれをやったんですよ」
「え?彼女って……室生さんが?」

(引用:赤緑黒白 P582-583)

室生の殺人の本当の動機が明らかになって鳥肌たった。


ここのやりとりは紅子視点で描かれているが、次の四季シリーズの『春』では四季(栗本)視点でP243から描かれている。ここで面白いのは、『春』のほうでは室生に関する情報はうまく隠されていてスムーズに読めるようになっている点。




そしてこの『赤緑黒白』が四季シリーズのどんな伏線かというと、タイトルがそれをものがたっている。


[

『四季 春《Green Spring》』
『四季 夏《Red Summer》』
『四季 秋《White Autumn》』
『四季 冬《Black Winter》』

『赤緑黒白』が順番が違うものの、次シリーズのタイトルに入っているのである。


──印刷に残った台詞・名言

「端的にいえば、それは問題解決です。その邪魔ものが科学的な謎であれば、解決した者は科学者として成功し、その邪魔ものが技術的困難であれば、解決した者は一流のエンジニアになる。その邪魔ものが、たまたま生きた人間だったときは、解決した者が、殺人者と呼ばれるのです」

(引用:赤緑黒白 P336)




【オススメ】




『朽ちる散る落ちる』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】


偶然と認識されるものは、つまり必然であり、世界のどこを切り取っても、特別に偏った部分は見受けられない。神はいつも平等に振る舞われ、そして何事についても冷酷に判断されるようだ。

(引用:朽ちる散る落ちる P12)

森博嗣のVシリーズ第9弾『朽ちる散る落ちる』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

あらすじ

土井超音波研究所の地下に隠された謎の施設。絶対に出入り不可能な地下密室で奇妙な状態の死体が発見された。一方、数学者・小田原の示唆により紅子は周防教授に会う。彼は地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたと語った。空前の地下密室と前代未聞の宇宙密室の秘密を暴くVシリーズ第9作。

(引用:朽ちる散る落ちる 裏表紙)

感想

巻頭の地図に見覚えしかないと思っていたら、まさかのVシリーズ第7作『六人の超音波科学者』のほぼほぼ続き。第8作目『捩れ屋敷の利鈍』は時系列的にアレだから、実質『六人の〜』のすぐあとの出来事っていう認識でいいのだろう。


有人衛星の密室殺人と地下密室の死体。結果だけ見れば、どちらもストレートな結末ではなく、「なるほど、そうくるか…」と思ってしまう。決して悪いと言ってる訳ではない。


だって森博嗣の作品で!!
しかもVシリーズだし!!


逆にこれくらいひねくれているのを求めていた感すらある。


密室トリック自体よりは、2つの関連付けられそうにもない密室事件がどう繋がっていくのか?の期待感のほうが大きかった。練無の過去も関わって内容は複雑だったけど、その分読み応えがあって楽しめた。


建物が円形なのには、『六人の〜』を読んでいる時にも、何かしらの意味があるんだろうなぁと思ってたが、大掛かりすぎてビックリ。練無の風船の下りで漠然とトリックのイメージはあったが、予想の上をいくものだった……。


ちなみに表紙には風船が描かれている。読む前はわからなかったけど、読み終わってから気づいた。

「もしかしたら、まえの事件を起こした本当の理由は、地下の封印を解くためだったのかもしれない」

(引用:朽ちる散る落ちる P397)

ここが今回一番の鳥肌ポイント。
『六人の〜』で感じていたモヤモヤが取り除かれた。教授たちに感じていた形容し難い違和感と、語られなかった地下室。


巻をまたいでの、鳥肌がたつ伏線回収だった。

──印象に残った台詞・名言等

偶然と認識されるものは、つまり必然であり、世界のどこを切り取っても、特別に偏った部分は見受けられない。神はいつも平等に振る舞われ、そして何事についても冷酷に判断されるようだ。
それでも、我々は奇跡に出会う。
奇跡的な偶然の一致を頻々に見る。
おそらくは、そう認識するだけのことで、すべて、人間の勝手な思い込み、定義にほかならない、と片づけてしまえるだろうか。

(引用:朽ちる散る落ちる P12)

お気をつけて、という言葉があるが、正直なところ、私は思う。人間がどんなに気をつけていても、歴史はこれっぽっちも変わらなかっただろう。

(引用:朽ちる散る落ちる P17)


P12、P17はシリーズ恒例の保呂草による語り。このプロローグが毎回好き。哲学チックなのも面白くし、ここで今回の事件の全容というか、キーワード(今回でいえば偶然)について語ってる。読み終わったあとに、プロローグを読み返すと最初とはまた違った印象を受ける。

「ある存在が秘密である場合、それが秘密だと示すことによって、その存在を明かしてしまうのだ。秘密と答えるだけで、既に存在は秘密でなくなる。隠したいものは、命に代えても隠さればならぬが、その強い意志によって、結果的に際立つことにもなろう。ドアに鍵がかかっておれば、その中になにかがある、と必ず人は考えるだろう。どうしても開かなければ、ドアを壊してでも、そこへ入ろうとする。それが人の心、人の情、人の流れというものだ」

(引用:朽ちる散る落ちる P234)

「持って回ったやり方ですね」保呂草は紅子の横に立っていた。
「人間の迷いとは、そういうものでは?」紅子は保呂草を見上げる。
「迷いか……」
「迷うのは必ず、行き先がはっきりしているとき」

(引用:朽ちる散る落ちる P398)

「迷うのは必ず、行き先がはっきりしているとき」
シンプルだけど、今回で一番すきな台詞かも。

最後に

シリーズ順で『六人の超音波科学者』と『朽ちる散る落ちる』の間に『捩れ屋敷の利鈍』が挟まれているのが、ちょっと乙な感じがする。


ワンクッションというか、息抜きというか。


さて、ついにVシリーズも『赤緑黒白』でラストかー。わくわくする。


→次『赤緑黒白』




【オススメ】