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新しい世界を知れる!お仕事小説5選




『お仕事小説』というジャンルの小説がある。主人公が仕事に取り組む様子がメインで描かれ、主人公が仕事を通して成長いく様子、プロ意識や職務を全うする大切さを教えてくれる。


また、自分とはまったく縁のなかった新しい仕事の内容、その裏事情を知れるのも魅力の一つだろう。


今回はそんなお仕事小説の中でも、普段の生活ではあまり関わる事が少ない人が多いであろう、変わった仕事に焦点を当てた作品5作品を紹介していく。

注意事項

  • 2022年現在の私が実際に読んだ作品から紹介している。
  • 紹介はランキング形式ではなく、ランダムに紹介する。
  • あらすじは、基本裏表紙のものを引用している。
  • 物語の核心に触れるネタバレはしていない。
  • 一人の作家に対して、一つの作品を採用している。

1.舟を編む/三浦しをん

──あらすじ

出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間際の下手な編集者。日本語研究に人生を過ぎる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚達。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の想いが胸を打つ本屋大賞受賞作!

──『言葉は海であり、辞書とは海を渡っていく舟 』

お仕事小説としても、かなりメジャーな作品である『舟を編む』。本書は、"辞書作り"がメインテーマの物語である。誰もが一度はひいたことがあるであろう辞書。しかし、その辞書を『誰が』『どうやって』『何を思って』作ったか……考えたことはあるだろうか?


『船を編む』では、そんな辞書作りについて焦点をあてつつ、携わる人たちの成長や思い、そして辞書作りに人生をかける人たちの情熱がつまった作品である。


固いイメージが湧くかもしれないが、仕事や人間模様を静謐に、時にコミカルに描いているので軽快に読み進めることができるはずだ。主人公の不器用な恋愛も歯がゆさがあるが素直に応援したくなる。


2.羊と鋼の森/宮下奈都

──あらすじ

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、調律の森へと深く分け入っていく─。一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。

──静かな情熱に勇気をもらえる一冊

ピアニストの物語は多くあれど、そのピアノを支える"調律師"の物語はどれくらいあるだろうか?『羊と鋼の森』は、そんなピアノの調律師を目指す青年の物語である。


劇的な展開や大きな事件が起こる訳ではないが、繊細な心情描写と、主人公の確かに成長の様子は、ジワジワと熱を帯びてくるような面白さがある。


読みやすくスッキリした読了感。そして単行本で243ページと文量も多過ぎず少なすぎず、普段あまり本に触れない方も読みやすい作品だと思う。


『羊と鋼の森』は、一つひとつの表現が、心理描写が、情景が繊細だと思う。とくにピアノ…つまり"音"を表現する描写が必然的に多い。もちろん本で音を聴けるはずがないのだが…「こんな音なんだろうなぁ」と自然とピアノの音が頭に浮かぶような、そんな繊細な表現が魅力の一つだ。


ピアノの音と向き合って、ピアノを通してお客さんや職場の先輩と向き合って成長していく。ひた向きに調律の道を進む主人公の静かな情熱が私は少し羨ましかった。


3.本日は、お日柄もよく/原田マハ

──あらすじ

OLの二ノ宮こと葉は、想いをよせていた幼なじみ厚志の結婚式に最悪の気分で出席していた。ところがその結婚式で涙が溢れるほど感動する衝撃的なスピーチに出会う。それは伝説のスピーチライター久遠久美の祝辞だった。空気を一変させる言葉に魅せられてしまったこと葉はすぐに弟子入り。久美の教えを受け、「政権交代」を叫ぶ野党のスピーチライターに抜擢された!目頭が熱くなるお仕事小説。

──言葉は、世の中を変える力を持つ

"スピーチライター"という職業にピックアップした物語『本日は、お日柄もよく』。この職業柄、本書にはいくつもの名言が散りばめられている。そのうちの一つに下記のような言葉がある。

言葉は、ときとして、世の中を変える力を持つ。

(引用:本日は、お日柄もよく P331/原田マハ)


このセリフ通り、私たちが普段なにげなく使っている『言葉』の力、『言葉』の可能性をスピーチという形で読者に投げかけている。


スピーチがメインテーマなだけあって、スピーチの場面は思わず引き込まれる。私はスピーチ……というか目立つこと一般がとても苦手なのだが、そんな私でもちょっと人前で話すのも楽しそう!『言葉』で世界を変えてみたい!と思えたほどだ。

4.ギンカムロ/美奈川護

──あらすじ

花火には、二つしかない。一瞬で消えるか、永遠に残るか。幼い頃、花火工場の爆発事故で両親を亡くした昇一は、高校卒業後、一人東京で暮らしていた。ある日、祖父から電話があり、四年ぶりに帰郷する。そこには花火職人として修行中の風間絢がいた。十二年前に不幸な出来事が重なった。それぞれが様々な思いを抱え、苦しみ、悩み、葛藤していく。花火に託された思いとは──。希望と再生の物語。

──花火は2種類、一瞬で消えるか永遠に残るか

『ギンカムロ』は、『花火師』にスポットを当てた作品である。打ち上げ花火を見たことがない、という人はいないだろう。しかし、その華やかな舞台を支える職人たちの仕事を見たことがある人がどれだけいるだろう?


恥ずかしながら私は、花火職人たちの仕事を見たことはない。それどころか心に残るような花火を見たことがあるのに、その花火に魂を込めた職人の事を考えたはなかった。


この物語では、そんな素晴らしい職人たちの舞台を覗くことができる。 本書を読んだら、次から見る花火は今までとは少し違った見え方をすること間違いない。



5.マスカレード・ホテル

──あらすじ

都内で起きた不可解な連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明。残された暗号から判明したのは、次の犯行場所が一流ホテル・コルテシア東京ということのみ。若き刑事・新田浩介は、ホテルマンに化けて潜入捜査に就くことを命じられる。彼を教育するのは、女性フロントクラークの山岸尚美。次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、二人は真相に辿り着けるのか!? いま幕が開く傑作新シリーズ。


──超一流のホスピタリティ
少し番外編で、本格派のお仕事小説ではないが、一流ホテルマンのホスピタリティを感じることができる『マスカレード・ホテル』を紹介していく。


ミステリーがメインの作品だが、刑事とホテルマンという異色のコンビが活躍する作品だ。


優秀だがプライドの高い刑事の新田
ホテルウーマンとして優秀な能力を持つ山岸


犯人の仮面を暴こうとする新田と、お客様の仮面を守ろうとする山岸。職業柄、価値観のまったく違う二人は最悪の印象で物語は始まる。


しかし、警察という仕事、フロントクラークという仕事を通して、お互いがお互いをプロとして認め、信頼関係を気付いていく様子がとても印象的な作品。


メインのミステリーの他にも、ホテルという舞台、そしてそこで働く人たちの喜びや苦労が楽しめるのもこの作品の大きな魅力の一つだろう。最後まで予測のつかない犯人と、その緊張感。そして主人公二人の息のあったコンビがたまらない。



マスカレードシリーズ紹介
『マスカレードシリーズ』の作品一覧とあらすじ・内容を全4作品まとめて紹介する【東野圭吾】 - FGかふぇ


【オススメ】






森博嗣の『Gシリーズ』全12作品一覧と、あらすじ・紹介




今回は森博嗣『Gシリーズ』の作品一覧、またあらすじ・紹介とネタバレなしの感想を述べていく。
個人的には、『Gシリーズ』より先に『S&Mシリーズ』、『Vシリーズ』を読むことをオススメする。以下、各シリーズの紹介。


【S&Mシリーズの一覧・紹介】

【Vシリーズの一覧・紹介】


【四季シリーズの一覧・紹介】


目次

1.Gシリーズの作品一覧・読む順番

『Gシリーズ』のGは、ギリシャ文字の頭文字Gからきていると言われている。シリーズ作品はすべてタイトルにギリシャ文字が含まれており、タイトルに特徴のある森博嗣作品の中でも、特に目を引くシリーズだと言っても過言ではないだろう。


以外、シリーズの刊行順でのタイトル一覧

1.Φは壊れたね
2.θは遊んでくれたよ
3.τになるまで待って
4.εに誓って
5.λに歯がない
6.ηなのに夢のよう
7.目薬αで殺菌します
8.ジグβは神ですか
9.キウイγは機械仕掛け
10.χの悲劇
11.ψの悲劇
12.ωの悲劇


全12作品構成。読む順番は、刊行順で読み進めていけばいいだろう。ここで注意していただきたいのは、最終巻『ωの悲劇』はまだ発売されていないという点だ。


『ψの悲劇』は2021年6月、だいたい2-3年周期で新作がでているので2023-2024年には発売されるのではないかと期待している。

2.Gシリーズの特徴・登場人物

『Gシリーズ』の特徴として、まず主な登場人物たちについて述べる。

今回のシリーズでは、大学生の加部谷恵美、海月及介、山吹早月らが中心となってストーリーが進んでいく。
山吹は、四季シリーズの『秋』で、加部谷は、S&Mシリーズ『幻惑の死と使徒』で登場している人物である。


つまり、この『Gシリーズ』も『S&Mシリーズ』、『Vシリーズ』と同じ世界線であることが伺える。なので新たな人間関係が明らかになることも……!?


もう一つの『Gシリーズ』の特徴として、加部谷たちが遭遇する事件がかなり特徴的である(グロいとかそういう訳ではないので安心してほしい)。


事件についてはネタバレになってしまうので多くは語れないが……『S&Mシリーズ』、『Vシリーズ』と同じ気持ちで読み始めると面食らう事になるのではないかと思われる。


ここからは、各作品について簡単な紹介と感想を述べていく。


──1.Φは壊れたね

──あらすじ

その死体は、Yの字に吊られていた。背中に作りものの翼をつけて。部屋は密室状態。さらに死体発見の一部始終が、ビデオに録画されていた。タイトルは「Φは壊れたね」。これは挑戦なのか?N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。Gシリーズ、待望の文庫版スタート!


──感想
本書あらすじの後半では、『N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。』とある。萌絵が探偵役として事件の真相を解き明かしていくのかと思っていきや、ところがどっこい新たな探偵役が登場してシリーズ序盤を盛り上げてくれる。


登場人物は、先程ふれた西之園萌絵をはじめ、犀川、国枝、鵜飼刑事……とS&Mシリーズを読んでいた方にはお馴染みのメンバーが登場してとても懐かしい気分になれるだろう。
質のある密室トリック、そして新たな探偵。S&M、Vとはまた違う空気感の中、Gシリーズはどこへ向かうのか。



──2.θは遊んでくれたよ

──あらすじ

25歳の誕生日にマンションから転落死した男性の額には、θという文字が書かれていた。半月後、今度は手のひらに赤いθが書かれた女性の死体が。その後も、θがマーキングされた事件は続く。N大の旧友・反町愛から事件について聞き及んだ西之園萌絵は、山吹ら学生三人組、探偵・赤柳らと、推理を展開する!


──感想
予想通り……っていうか出てこなきゃ拍子抜けだけど、無事に彼女がでてきた。Gシリーズでは、どのような思考を見せてくれるのか。どんな役割なのか。


事件のほうは、森博嗣作品にしては珍しく密室ではない事件。事件に関しては若干のモヤモヤが残る。


──3.τになるまで待って

──あらすじ

森に建つ洋館は”超能力者”神居静哉の別荘で《伽羅離館》と呼ばれていた。この屋敷のに探偵・赤柳初朗、山吹、加部谷ら7人が訪れる。突然轟く雷鳴、そして雨。豪華な晩餐のあと、密室で館の主が殺された。死ぬ直前に聴いていたラジオドラマは、「τになるまで待って」。大きな謎を孕む、人気のGシリーズ第三作。


──感想
密室トリックやらは面白みに欠けるところがあったが、シリーズ全体で考えた際には今後の展開が更に期待される巻であった。

正直に言えばちょっと不完全燃焼感がある。


──4.εに誓って

──あらすじ

山吹早月と加部谷恵美が乗り込んだ中部国際空港行きの高速バスが、ジャックされてしまった。犯人グループからは都市部とバスに爆弾をしかけたという声明が出される。乗客名簿にあった「εに誓って」という団体客名は、「Φは壊れたね」から続く事件と関係があるのか。西之園たちが見守る中、バスは疾走する


──感想
山吹と加部谷の乗ったバスがジャックされ、二人の命運やいかに……!?ってハラハラしながら読んでいたけど、更に驚きにの真実が……!?


これはね、詳しいことは言えないが見事と言う他ない。さらには、謎多き海月の秘密が少し垣間見える巻でもある。




──5.λに歯がない

──あらすじ

完全に施錠されていたT研究室で、四人の銃殺死体が発見された。いずれも近距離から撃たれており、全員のポケットに「λに歯がない」と書かれたカードが入っていた。また四人とも、死後、強制的に歯が抜かれていた。謎だらけの事件に迫る過程で、西之園萌絵は欠け落ちていた過去の大切な記憶を取り戻す。


──感想
萌絵と犀川の登場頻度が高くてS&Mの延長を読んてる感があった。二人の関係性が目に見えて進展していて月日が流れてるんだなぁ……って改めて感じる。そして頭脳明晰の犀川は健在。常に萌絵とか海月の一歩先をいってるよね


ギリシャ文字の謎は一向に答えが見えてこないけど、登場人物たちの関係は徐々に動きがでてきたのが印象的。

 

──6.ηなのに夢のよう

──あらすじ

地上12メートルの松の枝に、首吊り死体がぶら下がっていた。そばには、「ηなのに夢のよう」と書かれた絵馬が。その後も特異な場所での自殺が相次ぐ。一方、西之園萌絵は、両親の命を奪った10年まえの飛行機事故の真相に近づく。これら一連の事件に、天才・真賀田四季は、どう関わっているのか──?


──感想

S&M→V→四季→Gとシリーズを駆けてきて、ここにきて今更また萌絵の飛行機事故について言及されてくるとは……。しかもとんでもない事実を突きつけられ……!?


正直、なかなか先が見えなければ、先も読めない展開のGシリーズだが、萌絵の変化や、真賀田四季の登場(?)など今までにない進展を見せた巻で非常に見所がある巻。




──7.目薬αで殺菌します

──あらすじ

関西で発見された劇薬入りの目薬の名前には「α」の文字が。同じ頃、加部谷恵美が発見した変死体が握りしめてたのもやはり目薬「α」!探偵・赤柳初郎は調査を始めるが、事件の背景にはまたも謎のプロジェクトが?ギリシャ文字「α」は「Φ」から連なる展開を意味しているのか?Gシリーズ第7作!


──感想
またずいぶんと懐かしい人物の登場があった。彼女は『すべてがFになる』以来の登場か……?『有限と微小のパン』でもでてたかも…?


シリーズ作品らしく、過去キャラの登場。そしてメインキャラクターたちの心境の変化など、どことなく流れの変化を感じる一冊。


──8.ジグβは神ですか

──あらすじ

βと名乗る教祖をあおぐ宗教団体の施設・美之里。調査に訪れた探偵・水野は加部谷恵美たちと偶然の再開を果たす。つかの間、フィルムでラッピングされ棺に入った若い女性の美しい全裸死体が発見された。あちらこちらに見え隠れする真賀田四季の影。紅子が、萌絵が、加部谷たちが近づいた「神」の真実とは。

──感想
まず読み初めて驚くのが時は流れ。加部屋たちは社会人に、または院生になっている。そして唐突に赤柳探偵の秘密が明らかになり……!?


『天才なら凡人の振りができるが、凡人には天才のふりはできない』と紅子から名言が出ていたが、まさにそのとおり。本物は……神は、やっぱり格が違うんだよなぁ。


──9.キウイγは機械仕掛け

──あらすじ

建築学会が開催される大学に、γこ字が刻まれたキウイがひとつ届いた。銀のプルトップが差し込まれ手榴弾にも似たそれは誰がなぜおくってきたのか。その夜、学長が射殺される。学会に参加する犀川創平、西之園萌絵、国枝桃子、海月及介、加部谷恵美と山吹早月。取材にきていた雨宮純らが一堂に会し謎に迫るが。

──感想
Gシリーズではお馴染みの感想になってしまうが、次の作品に期待したいと思う。


こう書くと『キウイγは時計仕掛け』は面白くなかったの?と思われてしまうがそういった意味ではない。犀川、萌絵含め登場人物は勢ぞろいだし、相変わらず哲学チックな森博嗣節は炸裂しているし、人間関係にちょっと変化があったり……。


だがしかし、やっぱりシリーズを通して癖が強い。

──10.χの悲劇

──あらすじ

香港で仕事をする島田文子のもとに男が現れた。島田が真賀田研究所にいた頃に起きた飛行機事故について質問があるという。その日、走るトラムの中で殺人が起き、死者の手に「χ」の文字が遺される。乗客として警察の捜査に応じた島田だったが、そこである交換条件を持ちかけられ……。Gシリーズ後期三部作開幕。

──感想
Gシリーズはとくに謎が多い印象だが、今回『χの悲劇』では、多くの読者が謎に思っていただろう、ある人物の秘密が明かされる。


そしてメインのストーリーが、加部谷たちではなく、まさかの島田文子というのもまた面白い。彼女のルーツ、そして彼女の人生はどうなっていくのか、目が離せない。

──11.ψの悲劇

──あらすじ

遺書ともとれる手紙を残して老博士、八田洋久が失踪した。一年後、洋久と親しかった人々が八田家に集まり、失踪の手がかりを探して実験室に入ると、コンピュータに「ψの悲劇」と題された小説、ノートに〈真賀田博士への返答〉とのメモが。その夜、八田家に悲劇が訪れた。Gシリーズ後期三部作、第二弾。


──感想
このレベルの衝撃を味わったのは久しぶりな気がする。
物語のほとんどが鈴木という人物の視点で展開され、鈴木の思考も惜しみなく描写されている。ホントに惜しみなくだ。彼にはとんでもない秘密があり……。


今まではシリーズを通した人間関係で衝撃を受けることが多かったが、シンプルに『ψの悲劇』単体の物語の展開、とくにラストシーンの衝撃が凄まじかった。最終巻にむけて期待が高まる。


──12.ωの悲劇

最終巻(予定)
詳細はまだ未発表である。



【オススメ】






『ψの悲劇』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



「それじゃあ、話をしましょうか」島田は言った。「鈴木さん、覚悟はよろしい?」
「何の覚悟ですか?」
「貴方が何者か、という話です」

(引用ψの悲劇 P195/森博嗣)


森博嗣のGシリーズ第11弾、後期三部作の二作目『ψの悲劇』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前回の感想
【『χの悲劇』感想】

【『Gシリーズ』一覧まとめ】

目次

あらすじ

遺書ともとれる手紙を残して老博士、八田洋久が失踪した。一年後、洋久と親しかった人々が八田家に集まり、失踪の手がかりを探して実験室に入ると、コンピュータに「ψの悲劇」と題された小説、ノートに〈真賀田博士への返答〉とのメモが。その夜、八田家に悲劇が訪れた。Gシリーズ後期三部作、第二弾。

(引用:ψの悲劇 裏表紙)


感想

やられたね。やられましたよ。
最後に全部持っていかれた……。
このレベルの衝撃を味わったのは久しぶりな気がする。


この流れで、そのままGシリーズ最終巻へ!!……と思っていたら2022年現在、Gシリーズラストを飾る『ωの悲劇』はまだ発売されていないと……。これまでの刊行ペースでいくと2023〜2024年くらいの発売になりそうだから、気長に待つとする……。 



読み始めは時系列が分からず、探り探りで読み進めていた。
島田が登場していて、若い……ってことは『χの悲劇』の最後より前の出来事か?でも今やってることもなんか違うし、どことなくキャラも違うし……って思ってたら、まさかまさかの展開に突入していったね。


ロボットがここまで精巧に、そして世界に根付いていってるとは……。しっかり『χの悲劇』より未来の話だった。私はWシリーズを少しかじっていたので、ロボット技術的には、ようやく繋がってきたなぁと思ったが、Gシリーズしか読んでいなかった方は、この精密すぎて人間と遜色ないロボットの登場に大いに驚かれたはずだ。


物語のほとんどが鈴木の視点で展開され、鈴木の思考も惜しみなく描写されている。ホントに惜しみなくだ。途中で鈴木がロボットだと明かされるわけだが(八田の頭脳の鱗片があるとはいえ)、この今までの思考がロボットで!人工知能で!!作られたものだったなんて!!!と思わずにはいられない。作中でも語られていたが、『人間』っていったいなんなのか、生きているとはなんなのか、考えさせられる。





──衝撃の連続

これまでのGシリーズにないくらい衝撃の連続。前作『χの悲劇』は登場人物の人間関係が明らかになり、そちらの面での衝撃が大きかったが、今回の『ψの悲劇』では、シンプルに物語の展開、前述したが、とくにラストシーンの衝撃が凄まじかった。最後はホントに鳥肌だった。


鈴木、そして八田洋久と2人にポスト・インストールしていたってことは、3人目ができない理由なんてないが、そんなこと考えてもいなかった。



結果を見れば、猫のブラン、将太、吉野を殺害(将太は死んでないが)したのは、身体は違えど八田ということになる。えげつない。


──「わかりません」

八田洋久の残した
最後に内容の数字が、暗号化されていて、解読すると「わかりません」との内容だったことが明かされる。


(残念ながら、もとの数字の暗号、解読方法は明記されていなかった。わかるのは数字は、十数桁だった。ということのみ P39)
そしてその数字の下に〈真賀田博士への返答〉と書かれていたということ。


読者からしたら、こっちがわからないわ!!と言いたくなる所だが、真賀田四季と「わからない」といえばS&Mシリーズ『有限と微小のパン』で下記の会話を四季と犀川でしていた。


「退屈ですか?」
「いいえ」四季はにっこりと微笑む。「先生……。私、最近、いろいろな矛盾を受け入れていますのよ。不思議なくらい、これが素敵なのです。宇宙の起源のように、これが綺麗なの」
「よくわかりません」
「そう……、それが、最後の言葉に相応しい」
「最後の言葉?」
「その言葉こそ、人類の墓標に刻まれるべき一言です。神様、よくわかりませんでした……ってね」
「神様、ですか?」
「ええ、だって、人類の墓標なのですから、それをお読みになるのは、神様しかいないわ」

(引用:有限と微小のパン P826-827)



神様、よくわかりませんでした。
神様=四季って考えられるし、八田の言葉としては死ぬ(眠りにつく)前の、最後の言葉ともとれる。


八田も素晴らしい頭脳の持ち主であるし、四季と似た思考をもっていたのかな。それか八田が四季と話したことがあったか。


たぶん前者かな。八田は下記のような言葉も残していたし

わからない。
私には、わかりません。
それが結論なのだ。
そこが私の到達点。
その先には、なにもない。

(引用:ψの悲劇 P312)

──印象に残ったセリフ・名言

「鈴木さんは、八田家の執事さんなんですね?」島田はきいた。
「はい、そうです」
「私も、メイドをしていたことがあります」
「メイド、ですか……」どういう意味だろうか。

(引用:ψの悲劇 P55)

ここで島田の言うメイドは、冥土とかけたシャレかな。たぶん。一回死んだことありますよ、と。

「人工知能がさ、しかたがない、なんて言うか?それは、あきらかに人間の台詞。人間の思考回路が移植されているから、でてくる言葉だよ」

(引用:ψの悲劇 P216)
人工知能でも言いそうなものだが……。根拠がよくわからない。

「してない。二年まえの八田先生の頭脳を取り込んだの。コピィしてね。ダウンロードに半月近くかかった。それで人口頭脳ストラクチャに二ヶ月もかけてインストールしたわけだ

(引用:ψの悲劇 P218-219)
コピーアンドペーストみたいに簡単に言うなぁ……。もうSFみがある。これが未来か。

「人間なんですか?」
「どこが人間と違う?私には違いがわからない。私自身にわからないんだから、誰にもわからないじゃない?そうでしょう?」

(引用:ψの悲劇 P229)

人間ってなんだろうね?何をもって人間っていうんだろうね?

私は機械だ。《中略》まちがいなく無機なのである。
だが、私には、有機のストラクチャが再現され、組み込まれ、有機の記憶が刻まれてた。それは、生きていることと、かぎりなく近い。
私は意識を持っている、と意識できる。
私というものを、疑うことなく、知っているのだ。
私は、私には証明できる。
私は、私だからだ。

(引用:ψの悲劇 P241)


「難しいところですね。人間って、存在しなければならないのかな」私は言った。それは自分へ跳ね返ってくるテーマにほかならない。「人間は、コンピュータを作った。これが、つまりは人間の進化であって、もう前世代の人間は、役目を終えたのかもしれません」

(引用:ψの悲劇 P278)
人類とコンピュータ、そして人工知能。ダン・ブラウンの『オリジン』にも似たような話があったな。



──備忘録

「えっとね、頭脳を物理的に移植するんじゃないの。全然違う。頭脳回路を、擬似的に構築させるわけ。ニューラルネットワークの構築プロセスに、個人の頭脳から遺伝子アルゴリズムをまず抽出して、その履歴から、同じようにリンクを増殖させる。簡単に言えないんだけど、ようするに、頭の作り方をコピィして、それを電子的に再現する。だから元の頭脳には損傷はなくて、単なるシステムのコピィというか、似た意識を再現することになる。上手く設計どおりに構築すれば、もう同じ器ができたわけで、あとは、メモリィ上のデータを転送するだけ。ほとんど同じ思考回路を持つ個人がもう一体できてしまう。人間の頭脳のシステムだけを、そうやってインストールできるの。わかります?」

(引用:ψの悲劇 P227)
☆頭脳の作り方☆



・八田の利き手がなぜか入れ替わる(P257、P275)

・鈴木は二重人格のロボットだった。人工知能へのインストール技術(P260-261)

・また、久慈昌山の名前が登場(P320)

最後に

後期三部作の『χの悲劇』『ψの悲劇』、そして今後発売予定の『ωの悲劇』は、アメリカの推理作家『エラリー・クイーン』の作品のオマージュだということは、明かされていたが、私の自身その作品を読んだことがなく、是非読んでみようと思っている。どうぜ『ωの悲劇』はまだ発売されないし……。



【オススメ】






傑作ぞろい!圧倒的な世界観に引き込まれるオススメSF小説4選




宇宙、知的生命体、未来、タイムトラベル、パラレルワールド……。人間の想像によって生み出されたSFの世界は、そのディテールの細かさ、完成された世界観から、あたかも本当にそんな世界があるかのように錯覚させられる。


今回は、読み始めたら世界に引き込まれて読む手が止まらなくなる傑作作品たちを4作品紹介していく。さっそくどうぞ。



1.地球の長い午後/ブライアン・W・オールディス

──あらすじ

大地を覆いつくす巨木の世界は、永遠に太陽を片面に向けてめぐる植物の王国と化した地球の姿をだった! わがもの顔に跳梁する食肉植物ハネンボウ、トビエイ、ヒカゲワナ。人類はかつての威厳を失い、支配者たる植物のかげでほそぼそと生きのびる存在になりはてていた。人類にとって救済は虚空に張り渡された蜘蛛の巣を、植物蜘蛛に運ばれて月へ昇ること。だが滅びの運命に反逆した異端児が......ヒューゴー賞受賞の傑作

(引用:地球の長い午後 裏表紙/ブライアン・w・オールディス)


──植物が世界を支配する地球の未来
現代から数億年未来の話。地球の自転が停止し、世界は永遠の昼と夜となる。片面は太陽が照り続ける植物の世界。もう片面は明けることのない夜の世界。つまり明けることのない長い昼..….それがタイトルの『地球の長い午後』という訳だ。


永遠の昼となり熱帯と化した世界では、巨大に進化した樹木が大陸を覆い尽くし、活動する食肉植物たちが世界を支配していた。生存している動物は巨大化した数種類の昆虫と人間のみ。


その人間すら現代の文明は完全に廃れ、昼夜を問わず食肉植物に命を狙われるちっぽけな存在となってしまっている。


太陽から永遠に降り注ぐ紫外線の攻撃により多くの生物が絶滅に追い込まれる。もちろんそれは人間も例外ではない。なんとか絶滅は免れているものの、人間も体格は現在の五分の一にまで縮み、知能そのものも著しく退化している。


物語の主人公は、グループの仲間と対立し追放されてしまった少年・グレン。ここ弱肉強食の世界での孤独は、まさに死に直結するもの。心も身体も弱りきったときに、とある寄生植物と出会ってしまい……。


独特の生物や設定など、すんなり入って来ない部分も多いが、とにかくこの圧倒的な世界観がすごい。まさに想像力の限界に挑んでいると言っても過言ではないだろう。


2.三体/劉慈欣

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。
失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。
そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。
その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。
そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

──圧倒的スケールの傑作SF
『三体』は三部作の構成である。


第一部:『三体』
第二部:『三体 黒暗森林』《上・下》
第三部:『三体 死神永生』《上・下》


2021年についに第三部:死神永生まで発売され、無事完結を迎えた。一部より二部、二部より三部と、スケールが大きくなっていき、それと比例するように物語の面白さも増していく。一部を読み終える頃には、この先の展開が気になりすぎて、すぐに二部に手を出したくなることだろう。



──科学者の相次ぐ不審死と怪現象
主人公で、科学者である汪森(ワン・ミャオ)は、軍と警察の共同組織の会議に招集され、科学者が相次いで不審な死を遂げていることを告げられる。


汪森は共同組織の指令に従い、学術組織「科学フロンティア」のスパイを引き受けるのだが、その後彼の身を『ゴースト・カウントダウン』という怪現象が襲う。物理学の常識を覆す体験をした汪森は、やがて3つの太陽がある異星を舞台としたVRゲーム『三体』にたどり着くのだが……。


やはりこのVRゲームが登場してからが、一気に流れが変わってワクワクする。あの不可思議な世界……そして、そのゲームの存在意義がわかるときに……。






3.星を継ぐもの/ジェイムズ・P・ホーガン

──あらすじ

月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密の調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもないだけでなく、この世界の住人でさえなかった。彼は5万年前に死亡していたのだ!一方、木星の衛星ガニメデで、地球のものではない宇宙船の残骸が発見される。関連は?J・P・ホーガンがこの一作を持って現代ハードSFの巨星となった傑作長編!


──月面探査で見つかったのは5万年前の人間の死体だった!?
『星を継ぐもの』がきっかけでSFが好きになり色々読み漁っているが、未だにコレを超える作品には出会えていない。


名作は色褪せない。『星を継ぐもの』は1977年に発売され、2018年には驚異の100刷を達成した、数字にも裏付けられた名作である。


物語は月面で宇宙服を身につけた死体が発見されて幕をあける。月面で死体が発見されることでも驚きなのに、調査の結果その人物は5万年前に死んでいたことが分かったのだ!!


『星を継ぐもの』の面白い点は、宇宙、そして宇宙人という壮大なテーマの物語であるにも関わらず、ストーリーは一貫して月面の死体は何者なのか?どこから来たのか?に特化している点だ。


物理学、言語学、天文学、数学、化学、地理...ありとあらゆる専門家が様々な視点から謎に迫っていくのだが、その様子がたまらなく面白い。


例えるとすれば難解なパズルだろう。偽物も混じるたくさんのピースの中から専門家たちが、正しいピースを見つけ出す。そしてその正しいピースを主人公のヴィクター・ハントがあるべき所に並べ変える。


こんなにワクワクする小説は、そうないだろう。緻密な構成と宇宙の壮大なスケールが織りなす極上のハード系SF小説だ。



『星を継ぐもの』シリーズの紹介はコチラ



4.天冥の標/小川一水

──あらすじ

西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン3世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電規制などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、《海の一統》のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが……小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕編。

──宇宙の支配者は誰だ……!?
物語は、今からおよそ800年後、地球から遥か彼方にある植民星、『メニー・メニー・シープ』で幕を開ける。


2800年という圧倒的未来の話……かと思いきや、実はそうではない。すべては現代と繋がっているのである。1巻こそ未来の話なのだが、2巻の舞台はまさかの2000年の現代に巻き戻る。そして巻を重ねるごとに再び2800年に近づいていくのである。


1巻はこれから始まる壮絶な物語の序章にすぎない。2巻以降で歴史が語られ、徐々に1巻で描かれていた物語の裏側が明らかになってくる。その1巻では隠されていた真実が明らかになり、パズルのピースがハマるようか感覚がたまらない。しかしそれ以上に、それらの真実は過酷な現実でもあり心が揺さぶられる。


人々の歴史、異星人との邂逅、ヒトの底力、そして想像もできないような存在…。圧倒的スケールで語られる10巻、全17冊構成の特大ボリュームSF。



最後に

最後までご覧頂きありがとうございました。SFに関しては、まだまだ読み漁ってある途中でそこまで詳しいとは言えないが、そんな私でも自信を持って面白い!!と思える4作品である。


SF作品のオススメがあれば是非、ご教授願いたい。



【オススメ】






読みたい小説がきっと見つかる!?オススメリンク集




あなたの好き・読みたい小説がきっと見つかるオススメリンク集。これまで書いたオススメの小説一覧や、シリーズ一覧をまとめたもの。気になる所へ飛んでいただければ幸いである。



目次

──1.オススメまとめ

──厳選14作品

1著者1作品の厳選14作品

──長編ファンタジー8選

日本人作家のオススメ長編ファンタジーまとめ

──ジャンルフリー59選

タイトル列挙型59選

──冒頭が印象的な小説14選

印象的・美しい冒頭まとめ

──オススメSF小説4選

世界観に圧倒されるSF4選

──オススメミステリ小説9選

衝撃続きのミステリ9作品

──お仕事小説5選

新しい世界が見えるお仕事小説

──2.東野圭吾

──大好きな東野作品10選
とにかく好きな東野作品を並べたもの。

──東野圭吾初心者へ向けた11選
コレを読んでおけば間違いないっていう東野作品まとめ

──心に刺さる東野圭吾作品9選
重いテーマの東野作品まとめ

──加賀恭一郎シリーズ一覧・紹介
加賀恭一郎シリーズまとめ

──長編ガリレオシリーズ一覧・紹介
長編ガリレオシリーズ5作品まとめ。短編は載せていないので注意。

──マスカレードシリーズ一覧・紹介
マスカレードシリーズ4作品まとめ。

──ラプラスの魔女シリーズ一覧・紹介
ラプラスの魔女シリーズ2作品まとめ。

──3.森博嗣

──S&Mシリーズ紹介
シリーズ10作品すべて紹介

──Vシリーズ紹介
シリーズ10作品すべて紹介

──四季シリーズ紹介
シリーズ4作品すべて紹介


──Gシリーズ紹介
シリーズ12作品の紹介・感想

──4.高田大介

──作品一覧・紹介
著者の小説一覧

──『図書館の魔女』の記事まとめ
一番好きな小説『図書館の魔女』の感想・考察などのまとめ

──5.小野不由美

──十二国記作品一覧
十二国記の作品一覧。シリーズ未完結(?)

──6.有川浩

──自衛隊三部作紹介
著者の原点である自衛隊三部作+αを紹介

──7.支倉凍砂

──作品一覧・紹介
人気ラノベ『狼と香辛料』で知られる著者の作品一覧

──8.ダン・ブラウン

──ダ・ヴィンチ・コードシリーズ一覧・紹介
シリーズ5作品の一覧・紹介

──作品一覧
著者の作品一覧

──9.ジェイムズ・P・ホーガン

──『星を継ぐもの』シリーズ一覧
シリーズ4作品+αの紹介

──作品一覧・紹介
ホーガンの前作まとめ。翻訳されていないものも含める。

──10.上橋菜穂子

──作品一覧・紹介
著者の小説一覧まとめ。読む順等。

『χの悲劇』の感想を好き勝手に語る。衝撃の事実が明らかになる後期3部作【森博嗣】


天才とは儚いものだ、と皆が語った。そうして、自分たちの社会を守ろうとした。
天才は寂しいものだ、と皆が感じた。そうすることで自分たちを慰めたのだ。

(引用:χの悲劇 P175)


森博嗣のGシリーズ第10弾『χの悲劇』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前回の感想
【『キウイγは時計仕掛け』感想】

【『Gシリーズ』一覧まとめ】


目次

あらすじ

香港で仕事をする島田文子のもとに男が現れた。島田が真賀田研究所にいた頃に起きた飛行機事故について質問があるという。その日、走るトラムの中で殺人が起き、死者の手に「χ」の文字が遺される。乗客として警察の捜査に応じた島田だったが、そこである交換条件を持ちかけられ……。Gシリーズ後期三部作開幕。

(引用:χの悲劇 裏表紙)

感想

ラストの衝撃といったらもう……。個人的に、Gシリーズの大きな謎の一つが海月の存在だった。Gシリーズにおける探偵役の一人を担い、西之園萌絵との関連も匂わせ、犀川と似た思考展開ができる人物。絶対に重要人物なのに、これまで一切の情報がでてこず、モヤモヤしていたが、この一冊で一気に晴れた。


各務亜樹良の息子……ねぇ。まったく予想してなかった事実だけど、意外なほどにしっくりくる。それに各務亜は各務亜で、飛行機事故の重要人物だったし、四季はでてくるし、もう後期3部作の1冊目にしてもうお腹いっぱい。


今回、海月の真実を知ったわけだけど、それを念頭に読み返したらまた面白いんだろうな。Gシリーズを読み返すのはエネルギィがいるけど……。


──島田文子と事件の結末

もはやGシリーズの恒例で、事件の結末(犯人がだれか、どんな手法で殺人が行われたのか)は重要視されていない『壊し屋』と『ブレイカー』の下りはなるほどとは思ったが。


今回のメインは事件を通して明かされる、島田文子という人物のディテールだろう。根源である『すべてがFになる』から登場する島田文子。彼女の過去の四季とのやりとりから、そして最後に息を引き取るまでを描き、その過程で各シリーズの人物相関の繋がりも明らかにする。そして四季も登場する。


読み始めは、島田を軸にした話ってどうなるんだろうと思ったけど、結果をみれば贅沢すぎる一冊だった。萌絵や犀川、紅子や保呂草もたびたび登場するGシリーズなだけに、彼らを登場させずにこの読み応えは凄まじかった。



──印象に残ったセリフ・名言等

日本を離れようと決心したのは、やはり、あれから逃れたかったからだった。逆に言えば、日本にいる間彼女は、あれに縛られていた。完全なる支配下にあったといっても過言ではない。
あれとは、何だろう?
言葉にすることができない。名称がなかったからだ。
意図的に、名称を作らなかった。
データになることを避けたかった。
あれが始まったのは、妃真加島での事件があってからだ。真賀田四季が研究所から脱走した、あのときからだ。

(引用:χの悲劇 P33)

島田の心境。『あれ』ってなんだろう。死について、命が狙われること。のような気もするが。

天才とは儚いものだ、と皆が語った。そうして、自分たちの社会を守ろうとした。
天才は寂しいものだ、と皆が感じた。そうすることで自分たちを慰めたのだ。
しかし、それは希望的観測でしかなかった。
天才は大衆が望まないほど大きかった。天才は既存の社会を守ろうとはしなかったし、また、少しの寂しさも感じてはいなかった。そのことに大衆が気づくのは、いつだろうか?

(引用:χの悲劇 P175)


「この病気が治りますか?」
「その肉体では治りません。ダメージは蓄積するだけ。命を保つには、ダメージを生じないクリアさを求めるしかありません」
「その……、命とは何ですか?」島田は尋ねた。
「そう。そのとおりです。その問いが、すなわち命なの」

(引用:χの悲劇 P323)

──備忘録

重要そうな点のメモ的。

・飛行機事故の生存者が2名いた。その2人の代わりに飛行機に乗った人がいて、身代わり?で亡くなった。一人は以前、真賀田研究所にいた『小山田真一』。もう一人は『各務亜樹良』。(P24-25)


・χ(海月)は小山田真一と各務亜樹良の子供(P203、P331-332)


・金(キン)は、西之園萌絵と繋がりがある人物。そして、飛行機事故で姉を亡くしている。(P269-271)

──金(キン)の正体は金子勇二?

先程述べたように、金は萌絵と関わりのある人物である。


そして以前、『ηなのに夢のよう』で萌絵と金子が飛行機事故について話をしていた。(ちなみにだが、金子は萌絵と同じ学年の建築学科の学生だった)

あの日、あの場所で、事故は起こった。その事実は不動だ。金子の家族も、あの事故の犠牲となった。そうだ、そのことさえ、すっかり忘れていた。

(引用:ηなのに夢のよう P77-78)


飛行機事故で、家族を亡くしている。そして萌絵と関わりがあり、事故の事を調べている人物というと金子がドンピシャに当てはまっている。


名前の"金"も同じだしね。


【『ηなのに夢のよう』感想】
『ηなのに夢のよう』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】 - FGかふぇ

最後に

Gシリーズって完結してるかと思ったら、まだ完結してないのか……。とりあえず次の『ψの悲劇』はすでに発売されているらしいので、そこまでは読むとして、最新刊は気長に待ちたいと思う。


それまでは積んであるXかWかな。順番的にはXから読むのがよさそうだけど、気になるのはWなんだよなぁ。悩みどころ。



【オススメ】





『キウイγは時計仕掛け』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



「僕の考えを聞いても、意味はない。真実は、推論の中から生まれるんじゃない。現実の観察から明かされるものだ」

(引用:キウイγは時計仕掛け P302-303)

森博嗣のGシリーズ第9弾『キウイγは時計仕掛け』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前回の感想
【『ジグβは神ですか』感想】

【『Gシリーズ』一覧まとめ】

目次

あらすじ

建築学会が開催される大学に、γこ字が刻まれたキウイがひとつ届いた。銀のプルトップが差し込まれ手榴弾にも似たそれは誰がなぜおくってきたのか。その夜、学長が射殺される。学会に参加する犀川創平、西之園萌絵、国枝桃子、海月及介、加部谷恵美と山吹早月。取材にきていた雨宮純らが一堂に会し謎に迫るが。

感想

Gシリーズではお馴染みの感想になってしまうが、次の作品に期待したいと思う。


こう書くと『キウイγは時計仕掛け』は面白くなかったの?と思われてしまうがそういった意味ではない。犀川、萌絵含め登場人物は勢ぞろいだし、相変わらず哲学チックな森博嗣節は炸裂しているし、人間関係にちょっと変化があったり……。


まぁGシリーズでは恒例だが、今回も事件にあまりスポットはあたっていない。なおかつタイトルの『キウイ』『γ』『時計仕掛け』全てにおいてタイトルの意味がわからないまま終わってしまった。(深く読み解けばわかるのかもしれないが、私はわからなかった)


なぜ、キウイを手榴弾に見せかけたのか?(犀川が言ったようにアボガドでは駄目だったのか)
γの意味はなんだったのか?
時計仕掛け、とはどんな意味なのか?


ここまで放っておかれると、逆にこの先回収があるのだと期待してしまう。


無理矢理答えを出そうとするなら、『時計仕掛け』の一般的な意味は、時限装置であとから指定の時間に作動させる。といった意味なので、今回の『キウイγ』はこの巻ではなく、先の巻で意味が明らかになる(再び登場する)。って所かな。


流石にこれで『キウイγ』の意味がわからず終わりってことはないと思いたい……。

──キウイの謎

前述と被る所も出てくるが、今回のキウイの謎について列挙しておく。

・なぜ、キウイを手榴弾に見せかけたのか?(犀川が言ったようにアボガドでは駄目だったのか)

・キウイに刻まれたγの意味はなんだったのか?

・最初にダンボールで送られてきたキウイの依頼主名の意味『GOSIP』(P30)。

・加部谷と雨宮が入った温泉に、キウイが浮かんでいた意味。

・大学の講堂の床が、模様も色もキウイの断面そのもので、キウイホールと呼ばれているが、今回のキウイと関連があるのか?

──印象に残ったセリフ・名言

「僕の考えを聞いても、意味はない。真実は、推論の中から生まれるんじゃない。現実の観察から明かされるものだ」

(引用:キウイγは時計仕掛け P302-303)


最後に

真賀田四季関係で言うと、以前四季の元で働いていた島田文子が登場していた。エピローグで今の会社をやめて、人形を作っている中小企業に行く。といっていたが、人形と聞くと前回『ジグβは神ですか』の四季そっくりの人形を思いだすんだよなぁ……。なにか繋がってくるのだろうか。



【オススメ】