FGかふぇ

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『天冥の標Ⅸ〈ヒトであるヒトとないヒトと〉』の感想:さぁ舞台は整った【小川一水】



「大きな構図の、外側のさらに大きな構図がわかったところで、いちばん小さな手元の問題が消えてなくなる訳じゃないの。ねえ、知ってるかしら?痛みや悲しみはそれが重なると麻痺してしまうけれど、責任というものは、背負えば背負っただけ、無限に重く感じていくものなのよ。

(引用:天冥の標Ⅸ part2 P100)



天冥の標シリーズ第9弾、『天冥の標Ⅸ〈ヒトであるヒトとないヒトと〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ
【『天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アーク〉』の感想】


目次

感想

ついに全10巻のうちの、9巻まで到達してしまった……。物語は佳境を迎えており、舞台は整い、役者は揃い、あとは結末を見るばかりって……感じ。


天冥の標シリーズに手を出してはや5ヶ月。シリーズを見届けたい気持ちと、読み終えたくない気持ち、相反する想いがせめぎあっている。


1巻から登場人物自体はあまり増えていないが、2〜8巻のこれまでの物語の軌跡を考えると、1巻と9巻は時系列的には全然変わらないのに関わらず、登場人物たちの歴史、背負っているものを知ってしまった今、物語から受ける重厚感がまるで違う。


以前の感想でも書いたかもしれないが、シンプルに時系列順に物語が進んでいくのではなく、はじめに1巻のようにはるか未来を描き、そこから過去の出来事を追っていく……。2巻の〈救世群〉編ではなく、この1巻の〈メニー・メニー・シープ〉編を先に描いていることが天冥の標の肝のような気がするし、1巻で散りばめられた伏線がその後の巻でジリジリと回収されていく様子がたまらなく面白い。よくこの構成ができたなぁと改めて思う。


──「ヒトとはなんだ?」

サブタイトルである〈ヒトであるヒトとないヒトと〉。謎掛けのようで興味をひかれるものだが、part2の半ば、エランカとラゴスの会話でこの核心に触れる部分があった。

「──しかし、ヒトとはなんだ?」
エランカは答えない。彼がいま答えを求めている相手は、自分ではない。
「植民地人、《海の一統》、《救世群》それに、カヨやフェオドールや、ロイズ社団のロボットたちもいたな。また今では、太陽系艦隊などという者たちも近づいている。これらみなヒトであり、ヒトの申し子たちだ。しかしその辺縁に向かうほど、もともとのヒト──二足歩行する知能の高い地球に発する生物の姿からは、隔たっていく。定義づけは難しくなり、曖昧になる。考えを推し進めれば、ヒトの被造物である俺たち自身もヒトだということになり、論理は自己言及の渦に呑みこまれてしまう。それは避けるにしても、俺たちは、自分を何に支配させるのかという思考を通じて、ヒトとはなんであるかを俺たちが規定できるかもしれないという着想にまで行きついたんだ

(引用:天冥の標Ⅸ part2 P233)


本当はエランカとラゴスのやりとり全文を引用したいくらいだが、長すぎてしまうので一部だけ(これでも長いが)。



大雑把に言えば、
《恋人たち》はヒトに支配される存在であり、そう設計されている→実際これまで様々なヒトに支配されてきた→つまり、《恋人たち》の支配させられる存在がヒトである。


『ヒト』を何をもって定義するのか……。森博嗣のWシリーズに通ずるものがあって面白い。あれは人間とロボットの境界についてだったかな……。


メニー・メニー・シープに生きるヒト
救世群
海の一統
恋人たち
カルミアン
地球軍
ノルルスカイン
ミスチフ


多様すぎる人種?生物が登場しているからこそ、ラゴスがこれから導き出すであろう”答え”も10巻で期待したい。


それにしてもラゴスの「自分を何に支配させるのか」って台詞面白いよね。《恋人たち》の(ラゴスの?)特殊性を端的に示してる。


一般的に支配は、強者が弱者を”支配する”ものだけど、”自らを支配させる”って初めて聞いた。支配される側なのにも関わらず風格が明らかに弱者じゃないんだよなぁ…。


最後に

エランカたち政府
イサリやカドムたち
ミヒルたち救世群
恋人たち……
互いの思わくが絡みあうなか、太陽系艦隊、カルミアン星との接近がせまり

さらにはミスチフ、ノルルスカイン、そしてラストに出てきた謎の第三者…?

複雑すぎぃ!!
さぁ10巻読むぞ!!



【オススメ】




『天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アーク〉』の感想:二つの”ジャイアント・アーク”【小川一水】



一千メートルの柱を登り、長い長いドーム天井の道を歩いてもなお、この巨大な箱舟〈ジャイアント・アーク〉の輪郭を実感きていなかったのだとカドムは思った。多分、今もなお実感しきっていないのだ。自分たちは、あとどれほどのことを理解していないのだろう……。

(引用:天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アークpart2〉P219)

天冥の標シリーズ第8段、『天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アーク〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

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【天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉の感想】

目次

感想

相も変わらず濃い展開だった。
「岸無し川」の訳がわからない断章から始まり、1巻のイサリ視点、〈恋人たち〉視点で、あの時の事情が明らかになって、ついに1巻の……〈メニー・メニー・シープ〉の物語の続きが明らかになる……と。これは間違いなく欲張りセット。「そういう事だったのかー!!」という伏瀬回収のオンパレード。そして懐かしい登場人物たちとの再開。


1巻の続き(時系列的な意味で)が8巻にしてようやく読めるようになるとは、2ヶ月前の自分は思いもしていなかっただろう。

──1巻で気になってたこと

過去に1巻の感想を書いたときに、気になった点を8つ上げていたが、その疑問はこれまででほぼほぼ解消されていた。その疑問点は以下の通り。

1.イサリについて
2.メニー・メニー・シープの外の新天地
3.地球からの訪問者
4.アクリラの生死
5.ハーブC
6.羊飼い
7.ダダー
8.カドムが地下通路で聞いた謎の音

どこがどう気になっていたのか?などはここでは省略。詳しくはコチラで書いている。
【天冥の標Ⅰの感想】


今回8巻を読んでも解消されず、むしろ謎が増したのが『3.地球からの訪問者』について。


1巻では、『ルッツとキャスランという人物が地球から植民地へ、救援要請を出してほしい。と登場。』くらいの情報しかでていなかった。


今となっては、『地球からの訪問者』ってだけで疑問がいくつもでてくる。つまり、プラクティスに地球は征服されきれなかった?メニー・メニー・シープの存在をどうやって知ったのか?カルミアンを凌駕しそうな技術力は一体なんなのか?本当に救助のために来たのか?などなど……。


他に1巻ではよく分かっていなかったけど、〈恋人たち〉内部の関係も明らかになってきてようやく1巻で起きたことの重要性が見えてきた。とくにベンクト……。彼が〈恋人たち〉であるにも関わらず人を殺せた理由、そして彼を失ったことの重大さ……。


──アクリラとカヨ

アクリラが生きててくれて嬉しいと思った矢先にカヨの正体、そしてカヨの行動に再びの絶望。


これ……予想外すぎるだろ……。カヨの正体は全くわからんかった。これミスチフだったって理解でいいんだよな…?これまで度肝を抜かれる展開はいくつも味合わされてきたつもりだったけど、これはその中でも上位にくる驚きだった。


カヨの無機質だけど、どこか暖かみがある性格(?)に好感を抱いていたのも大きかったかもしれない。


──二つのジャイアント・アーク

物語中に『ジャイアント・アーク』という記載が恐らく2ヶ所あったのだが、意味がわかると、このタイトルなかなか痺れるものがある。


まず下記がその2ヶ所。

一千メートルの柱を登り、長い長いドーム天井の道を歩いてもなお、この巨大な箱舟〈ジャイアント・アーク〉の輪郭を実感きていなかったのだとカドムは思った。多分、今もなお実感しきっていないのだ。自分たちは、あとどれほどのことを理解していないのだろう……。

(引用:天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アークpart2〉P219)

太陽──にしては明らかに大きすぎる二つの恒星が天の半分を圧して浮かび、お互いがこぼす白金色の光の尾を、お互いの煮え立つ光球面へと注ぎかけているのでだった。
それはまさに、人知を超えたスケールで交換される、赤色の巨大な放電〈ジャイアント・アーク〉──。

(引用:天冥の標Ⅷ〈ジャイアント・アークpart2〉P349)


P219のほうがカドムの視点、P349のほうがアクリラの視点。


カドムのほうでは『巨大な箱舟』に〈ジャイアント・アーク〉のルビ。アクリラのほうには、『巨大な放電』に〈ジャイアント・アーク〉のルビがついている。


『Ark』が「箱、大箱、箱舟」の意味。そして『Arc』が「円弧または、二つの電極間の放電によってつくられる光の円弧。電弧。」の意味を持っている。


つまり、タイトルの『ジャイアント・アーク』にはこの二つ両方の意味が込められているのだと推測できる。


カドムとアクリラの二人ともお互いの消息が把握できていない中で、巨大すぎる箱舟と巨大すぎる放電、二つのジャイアント・アークに二人が唖然とする様子が印象深かった。


ともに巨大すぎるモノに打ちひしがれる様子が、これから抗うであろう困難を示しているように思えた。

最後に

舞台がメニー・メニー・シープに帰ってきていよいよ本番といった感じ。気づけばⅨとXを残すのみとなってしまった。まだまだ先は読めないし物語がどう着地するのかワクワクが止まらない。


『天冥の標〈ヒトであるヒトとないヒトと〉』の感想


【オススメ】




『天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉』感想:ついに謎の原点が明らかになる【小川一水】



「まだわかってないな。人類だよ」ハンは両手の先をクイと自分の顔に向けた。「僕たちが人類であり、人類といえば僕たちになったんだ。厳密な意味で」

(引用:天冥の標Ⅶ P213)


小川一水の『天冥の標』シリーズ第7段、『天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

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【天冥の標6〈宿怨〉 感想】

目次

感想

とりあえず一言、面白かった。これに尽きる。前作『天冥の標Ⅵ〈宿怨』も面白かったが、それに負けず劣らず…!これまでの伏線である衝撃の事実が次々に明らかになっていくから読む手が止められなかった。


Ⅵ、Ⅶと後半に突入してから加速度的に面白くなってる。終盤読む頃にはもう燃え尽きてるかもしれない。

──ついに……

ついに1巻〈メニー・メニー・シープ〉と繋がった。2〜6巻までは、1巻の祖先たちが出てきていたことで物語の繋がりを感じていたが、7 巻にしてついに謎多き1巻の舞台〈メニー・メニー・シープ〉が登場した。


私たちの新しい社会を豊かですばらしいものにしましょう。その願いをこめて、この国をメニー・メニー・シープと名付けたいと思います。──賛成の人は、また後で投票してくださいね」

(引用:天冥の標Ⅶ〈新世界ハーブC〉P358)


サンドラが「メニー・メニー・シープ」と発言するまでブラックチェンバーがそこであるなんて思いもしてなかった。逆にその一言ですべてが繋がった…!!


1巻で昼間にも関わらず空が暗くなったのは、それが地下だったから。プラクティスが襲ってきた理由と〈メニー・メニー・シープ〉にいた理由。ラゴスたち《恋人たち》がいた理由。メイスンがいた理由etc……。


今思えば、〈メニー・メニー・シープ〉に繋がる鍵はちゃんと揃ってた。登場人物でいえば、セキアやユレイン、《恋人たち》、メイスンなど。


他にはシェパード号も登場してたし、電力のひっ迫状況に関しては1巻と似た状態だなぁと思いはしたのに、同じ場所だとは結びつけられなかった。メニー・メニー・シープを1巻の説明にあったように、「どこか遠い宇宙」っていうのを完全に信じてしまっていた。


それに1巻ででてきた広大な場所がまさか地下だとは思えない。初期のブラックチェンバーとは絶対に結びつかない。


たくさんのヒントはあったのにまったく気づかなかった…。だからそこ明かされた瞬間の衝撃といったらなかった。




──相変わらずの絶望

先に後半について触れてしまったが、前半に語られる子供たちだけで取り残されてしまったブラックチェンバーでの生活もなかなかに絶望を極めてた。


ずっと息が詰まる展開だし、希望は絶たれていくし、ブラックチェンバー内の状況は悪化の一途をたどってるし……。


子供たちだけの無秩序さって、ここまで残酷になるんだなって思い知らされた。そんな中でもスカウトのメンバーは優秀すぎたよ……。


──印象に残ったセリフなど

「まだわかってないな。人類だよ」ハンは両手の先をクイと自分の顔に向けた。「僕たちが人類であり、人類といえば僕たちになったんだ。厳密な意味で」

(引用:天冥の標Ⅶ P213)

「『できない』を私は見るの。団結できない。ルールを守れない。弱いものを助けられない。夫婦で許しあえない。みんなが許そうとしないそういうところに、私は目が向く」

(引用:天冥の標Ⅶ P260)

サンドラのこのセリフ、自分でもなんで引っかかったのか最初はわからなかったけどこれ、『図書館の魔女』のキリンとマツリカの会話に似てるからだった。将棋でなぜその手を『選ばなかったか』のか、の話。
『図書館の魔女』はイイぞ…!

「ねぇ、アイン。乗り越えているの?そんなは、スカウトは、あなたは、私は、たくさんのたくさんの死を、乗り越えて前に進んでいるのかしら。乗り越えるってどういうことなのかしら」

(引用:天冥の標Ⅶ P264)

最後に

今回のⅦでは途中から重力が強くなったという描写はあったものの、結局その
原因は明記されていなかった気がする。そんなことができるとしたらドロテアくらいのものだと思うが……。実際メニー・メニー・シープがセレスの地下だから、ドロテアがある理由もわかるし、1巻でアクリラが地下で見た”ドロテアらしきもの”の正体もこれで繋がるような気がする。


何はともあれ2800年に近づいてきた今後に期待。




【オススメ】




『天冥の標Ⅵ〈宿怨〉』の感想:どこまでも「ヒト」の物語である【小川一水】

ブレイドがそれこそ真の目的だとして心の源に捉えたのは、どちらも人間であるという信念だった。《救世群》は歪められた人間である。パナストロ人は、まだそれを知らない人間である。〈中略〉何より絶望的なのは、《救世群》誕生からこれまでの5百年間、当の彼らも含めて、人間はただの一人もこのことに気づかなかったらしいということだ。

(引用:天冥の標Ⅵ Part3/P148)

小川一水氏の天冥の標シリーズ第6作品目、『天冥の標Ⅵ〈宿怨〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


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【『天冥の標Ⅴ』の感想】


目次

感想

あれよあれよという目まぐるしく展開、そしてパート3まであり合計1000ページを超える濃密すぎるシリーズ第6弾だった。辛い箇所も多かったが今までの中で一番好きだったかもしれない。


シリーズ1作目〈メニー・メニー・シープ〉に残されていた核心の謎についに迫ってきた(毎回感想で言ってる気もする)。なにより今回は活発化した救世群たちの行動が見所。彼らの復讐心にも共感できる所があり、序盤は応援しながら読んではいたが、カルミアンとの出会いで道を大きく踏み外し始めてからは、見てられなくなった。

──イサリとミヒル

本編の前にまずパート1の裏表紙にイサリの名前が早速でてきてしまうんだよね……《救世群》の少女イサリって。


やっぱり天冥の標Ⅰ〈メニー・メニー・シープ〉ででてきた異質すぎる存在《咀嚼者》は、《救世群》の成れの果てだったのか……とあらすじの時点で察してしまって絶望した。しかも300年は生き続けることになるし、残酷すぎる。


気になってⅠを読み返したら、イサリの妹ミヒルの名前もすでに登場してたことに気づいた。

ラゴスは目を細めて、小柄な影に声をかけた。
「生きてたんだな……ミヒル」
《咀嚼者》がラゴスを見つめる。

(引用:天冥の標Ⅰ〈下〉P345)


Ⅰのイサリがセアキに異常に執着していた理由も今回明らかになったわけだが……。Ⅵを読んだあとなら分かる、Ⅰのイサリの心情を察するともう押し潰れそうになる。巻を進めるごとにⅠの重みが増してくる。


しかもⅠでは(Ⅵから300年経ったあとでも)イサリとミヒルが敵対関係っていうのも、絶望感に拍車をかけてる。


まぁ、硬殻体がでてくるまではイサリが化け物になる技術も理由もないし、たまたま”イサリ”という名前が同じだけだろう、と淡い期待をしてたけど、カルミアンの登場ですべての期待を裏切られたよね。

──カルミアン

カルミアンの登場は、完全に予想外だった。名前は違うがⅠの《石工(メイスン)》だということは、特徴的にすぐわかる。しかし、Ⅰの奴隷的で無能さすら感じる存在だった彼女らが、人類を凌駕する技術力を持っていたことがまず驚き。そして人類の歴史において、こんなにも大きな影響を及ぼしてしまったやつらだったのかと、二重に驚いた。


これまでの天冥の標シリーズの傾向は、Ⅰの登場人物たちの先祖たちの話で展開されてきたわけだが、そこにメイスンも入っているとは思わなかった。正直メイスンが登場するまで存在すら完全に忘れてた。


カルミアンと人類の接触は、オーバーテクノロジーを与えてしまうとどうなってしまうかっていういい見本。


『技術力はあるが間抜け』という印象が否めないカルミアンだが、『異星人』としてのカルミアンに注目するとその生態がなかなか面白い。


まずカルミアンがどんな生物かというのを改めて考えると、地球でいう昆虫の姿に人間並の知能を持った生物。生態的には、アリや蜂など女王を持つ社会性昆虫。


地球生まれの人類と比べて大きく違うのは、やはり昆虫らしい性質を大きく継いでいる点。


個々を優先する人間と比較すると集団を優先するカルミアン。物語を読んでいると違いがよくわかる。物語上では前述したように間抜けな印象だが、間抜けなのではなく人間の社会に適応できなかった(人間と性質が違いすぎた)感が強い。


女王を基盤とする社会性昆虫感のあるカルミアンは、一つの種族が完全な協力体制を気づいている。カルミアン視点からは、人間同士で争いあう非合理さを指摘している場面もあった。


そのカルミアンがもつ完全なる協力体制は、一見争いもなく完璧なように思えるが脆弱な部分ももちろんある。それは人のような狡猾さがないこと。つまり種族間の争いが起こらない社会のため(共感覚を持っているため?)、嘘や騙し合いがないことである。


技術力で人類を圧倒しながらも、《救世群》にやりこまれていいように利用されてしまったカルミアンだが、これまで嘘や裏を探るようなやりとりを経験してなかったカルミアンが人間の深い闇に浸り続けていた《救世群》の手玉に取られたのは必然といっていいのではないだろうか。


結局《救世群》はカルミアンの、悪意のない効率主義によって計画が大きく崩れてしまうわけだが……。


つまり何が言いたいかって、カルミアンのまさに人類とはまったく違う”異星人”であるっていう設定が作りこまれてるなって思った。


──「ヒト」の物語である

物語の大きな流れは、ノルルスカインとオムニフロラの強大すぎる被展開体たちの手の上で踊らされる人間たちという構図になってしまうが、『天冥の標』は、結局は「ヒト」の物語である。


私に『天冥の標』を推してくれたうちの一人の方が「『天冥の標』はどこまでも『ヒト』の物語である」仰っていたが、その意味がよくわかる巻であった。


それを強く感じたのは、ブレイド・ヴァンディとシュタンドーレ総監とのやりとりであったり、冒頭と下記に引用したとおり結局は、《救世群》も人間であるという所。

ブレイドがそれこそ真の目的だとして心の源に捉えたのは、どちらも人間であるという信念だった。《救世群》は歪められた人間である。パナストロ人は、まだそれを知らない人間である。〈中略〉何より絶望的なのは、《救世群》誕生からこれまでの五百年間、当の彼らも含めて、人間はただの一人もこのことに気づかなかったらしいということだ。

(引用:天冥の標Ⅵ Part3/P148)


アイネイアとイサリだったり、ブレイドとシュタンドーレだったり、《救世群》だろうが、そうじゃなかろうが人間同士うまくいきそうな兆しはあるのに……。ノルルスカインVSオムニフロラの構図は、物語の重要な点であるが、結局胸に刺さるのは「ヒト」同士のやり取りなんだよなぁ……。

最後に

ホント、Part3に入ってからは急展開で面白かったが、それ以上に胸が痛む展開が多すぎて辛かった……。著者は容赦がない。読者を絶望させるのがうますぎる。



【オススメ】




『天冥の標Ⅴ〈羊と猿と百掬の銀河〉』の感想:本当の根源に迫る【小川一水】


「知ろうとした?今は違うの?」
「今でもそうだ。けれどもぼくは思ったよりもたくさん見てしまったから」
「何を?」
「人が、可憐に滅んでいくさまを」
かの者を除いて、この世に彼より可憐でないものなど、存在しなかった。

(引用:天冥の標Ⅴ P315-316/小川一水)


小川一水の人気SFシリーズ『天冥の標Ⅴ〈羊と猿と百掬の銀河〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前作の感想はコチラ
【『天冥の標Ⅳ』の感想】

目次

感想

Ⅰ〜Ⅳでは、少しずつ触れてきていたノルルスカインについて一気に進展した巻だった。


断章のノルルスカインについて語られる所は格別に面白い。面白いが……如何せん話が難しい。しかしタックたちの話と並行だったので丁度いい読み具合だった。


もちろん今回も独立した話な訳もなく、これまでの各巻(Ⅰ〜Ⅳ)に散らばってる伏線の回収がされ、また一つ核心に迫ってきた感がある。


ドロテア・ワットがでてきた所とか、こう繋がるのか!と興奮したし、冥王斑の出処もついにでてきた。前からコトクトは出てきていたが、”誰が”、”どうやって”行っていたかちゃんと明記されたのはコレが初だったはず。

オムニフロラの攻撃を察知するのは困難である。ごく小さなポッドを使って惑星へ保菌生物を降下させるからだ。
《中略》
広い惑星表面に六本足のサルの幼獣を収めた卵を一日ひとつだけ落とすという方法で、かの者は攻撃できる。

(引用:天冥の標Ⅴ P304)


先を読み進めば読み進めるだけ、以前の巻を読み返したくなる。今読み返したら新しい発見がありそう。


──ダダーのノルルスカイン編

相変わらずノルルスカインが出てくる話は、スケールが宇宙の基準だから年月が桁違い。今回はノルルスカインの誕生から成長、そして宿敵のオムニフロラとの戦いが描かれてる訳だが……。


どこをとっても興味深くて面白い。これまでのⅠ〜Ⅳのチラっと書かれた断章だけでも満足だったのに、今回は濃密すぎてお腹いっぱい。


ノルルスカインは、サンゴ人の奇妙な生態や他人依存な生き方に触れて誕生・成長をしたために彼らの生態と近しい所があるわけだが、じゃああのイタズラっこで自由奔放なミスチフは何が元で誕生したのか気になるところではある。たぶん語られることはないだろうが……。


ノルルスカインとオムニフロラの対立の進行が素直に面白い。
オムニフロラについてはⅢの感想で触れたがずっと気になっていて、ようやくでてきたか!って感じ。
【『天冥の標Ⅲ』の感想】
『天冥の標Ⅲ〈アウレーリア一統〉』感想:過去と未来を繋ぐ物語【小川一水】 - FGかふぇ


Ⅳまでの段階では、ミスチフ自体がノルルスカインと対立してるかと思っていたが、ミスチフが呑み込まれたのはビックリだった。弱肉強食……。


今思い返せば、Ⅲでフェオドール(ノルルスカイン)とオムニフロラの対面のシーン……こんなに深い因縁だったんだなって。

「あぁ、よく知ってる。こいつはぼくときみたちの敵だ。なかんずくきみたちとは、三百年前から不倶戴天となった──」
フェオドール・ロボットは、人の胴ホドもある玉石を連ねた右腕を振り上げ、轟然と突進した。
「ミスチフ、失敗した被展開体。オムニフロラと睦んでしまった、ぼくの歓迎できない仲間だ」

(引用:天冥の標Ⅲ P509)


ノルルスカイン目線で見るとオムニフロラとは敵対関係なわけだけど、オムニフロラは純粋な生存本能で動いていて、悪意がないのが逆にこわい。姿が植物なだけあって構造というか生態を強く反映してるのも面白い。


植物のテーマのSFというと以前『地球の長い午後』を読んだことあって、これも植物の純粋な生存本能からくる意図しない悪意が印象的だった。癖は強いけどオススメ。

【『地球の長い午後』紹介】
植物が地球を支配した世界『地球の長い午後』のあらすじ・感想を好き勝手に語る【ブライアン・W・オールディス】 - FGかふぇ

──本編(農業編)

宇宙での食料(農業)事情の話が個人的にすごく好き。Ⅲの〈アウレーリア一統〉みたいなゴリゴリに宇宙船を使った戦闘や宇宙海賊との争いも、いかにもSFって感じがしてワクワクする。


しかしそれ以上に、生活を支える『食』という生きていくうえで必要不可欠な存在が、地球外の環境においてどのようにまかなわれているのか?さらには地球外ではどのような問題が発生するのか?など派手さはないが、身近に感じてとても興味をひかれるし面白い。


また、農業だけではなくて地球ではない場所での食べて、寝て、働くという”普通”の暮らしが、今までのⅠ〜Ⅳではあまり描かれていなかったので、そんなあたりまえのような日常生活がみれて新鮮だった。


ザリーガがイシスのクローンというのは、明かされる前から予想がついたけど、アニーの正体は予想外すぎた……終盤までわからなかった。


また、詳細は語られてなかったけど、レッドリートもオムニフロラの仕業としか思えない。


タックたちの説明だと食用じゃない麦が広がるだけかと思ってたけど(それでも農家としたら大惨事だが)、残されてた映像の内容えぐすぎたな。そりゃ必死に食い止めようとするのも理解できる。あの生存能力、意図してない悪意がオムニフロラを連想させられる。

最後に

大きな進展をみせた巻、本編も断章もめっちゃ面白かった。Ⅰ〜Ⅴまで読んできたけど一番好きな巻になった。

次→
【天冥の標Ⅵ〈宿怨〉の感想】

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『星を継ぐもの』シリーズ一覧!全4作品+αをまとめて紹介する【J・P・ホーガン】


「夢を描くことがなくなったのだね」ダンチェッカーは悲しげに頭をふった。「それは悲劇だ。わたしたちが今当たり前と思っていることはすべて、誰かが突拍子もない夢を描いたところから始まっているのだからね」

(引用:巨人たちの星 P259/J・P・ホーガン)


名作は色褪せない。
1980年に発売したジェイムズ・P・ホーガンのデビュー小説『星を継ぐもの』。40年経った今でもその魅力はまったく衰えていない。


今回は私がSF小説にはまった原点であるこの『星を継ぐもの』について、シリーズの魅力と特徴に触れ、そのあとに各作品を一つずつピックアップして紹介していく。


一つ注意して頂きたいのは、シリーズ作品を紹介していく都合上、2作品目以降の紹介の場合、まったくネタバレに触れないというのは難しい(もちろん踏み込んだネタバレは避けているが)。


まっさらの状態で楽しみたい方は、1作品目の『星を継ぐもの』の紹介のみでブラウザバックしていただければと思う。またホーガンの作品一覧はコチラ。
作品一覧


目次

『星を継ぐもの』シリーズとは?

『星を継ぐもの』シリーズは4つ(邦訳されていない作品を入れれば5つ)の作品で構成されるハードSFシリーズである(〈ガニメアン〉シリーズとも呼ばれる)。著者はイギリスのジェイムズ・パトリック・ホーガン。

以下作品一覧

1.星を継ぐもの 〈1980年〉
2.ガニメデの優しい巨人 〈1981年〉
3.巨人たちの星 〈1983年〉
4.内なる宇宙 〈1997年〉
5.Mission to Minerva〈2005年〉

※内なる宇宙のみ上・下巻構成


『星を継ぐもの』は1980年に発売され、2018年には驚異の100刷を達成した、数字にも裏付けられた名作である。また小説の他に漫画化もされており、その人気の根強さが伺える。

シリーズの特徴・魅力

──人類は無限の宇宙へ

シリーズの時代は現代の科学より少し進んだ未来の話。人類の探究心は宇宙へ手を伸ばし、留まる所を知らなかった。火星の砂漠には探検隊が組織され、金星の雲には探査船が飛び、木星にも探検隊が着陸している。


そして月では月面探査基地があり、開削作業と現地探査が行われている。『星を継ぐもの』では月面で奇妙なモノが発見されたことによって物語の幕が開ける。


──緻密な構成と壮大なスケール

練りに練られた緻密な物語の構成と、それと対を成すような宇宙の壮大なスケールが描かれているのがこのシリーズの魅力の一つである。


小さな発見を積み重ねて真実に近づくその様は、上質なミステリのような緻密な構成であり、なおかつテーマは宇宙……月から始まり木星へ調査の足を伸ばし、地球に戻ってきたと思えば、更なる未知との遭遇が主人公たちを待ち受ける。


息をつかせない展開と驚愕の真実の連続がきっと、読み手を夢中にさせてくれるはずだ。巻を増すごとに新たなる展開を見えせくれるので、是非シリーズを通して読んでみてほしい。


1.星を継ぐもの

──あらすじ

月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密の調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもないだけでなく、この世界の住人でさえなかった。彼は5万年前に死亡していたのだ!一方、木星の衛星ガニメデで、地球のものではない宇宙船の残骸が発見される。関連は?J・P・ホーガンがこの一作を持って現代ハードSFの巨星となった傑作長編!

評価10/10
──月面探査で見つかったのは5万年前の人間の死体だった!?
物語は月面で宇宙服を身につけた死体が発見されて幕をあける。月面で死体が発見されることでも驚きなのに、調査の結果その人物は5万年前に死んでいたことが分かったのだ!!(ちなみに地球でいう5万年前というのは、ホモ・サピエンスが登場した頃である)


『星を継ぐもの』の面白い点は、宇宙、そして宇宙人という壮大なテーマの物語であるにも関わらず、ストーリーは一貫して月面の死体は何者なのか?どこから来たのか?に特化している点だ。


物理学、言語学、天文学、数学、化学、地理……ありとあらゆる専門家が様々な視点から謎に迫っていくのだが、その様子がたまらなく面白い。


例えるとすれば難解なパズルだろう。偽物も混じるたくさんのピースの中から専門家たちが、正しいピースを見つけ出す。そしてその正しいピースを主人公のヴィクター・ハントがあるべき所に並べ変える。


こんなにワクワクする小説はそうない。私をSF沼に落とした、自信を持ってオススメできる一冊。


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あらすじ・紹介
『星を継ぐもの』あらすじ・紹介:月面探査で見つかったのは……5万年前の死体!?【ジェイムズ・P・ホーガン】 - FGかふぇ


2.ガニメデの優しい巨人

──あらすじ

木星の衛星ガニメデで発見された2500万年前の宇宙船。それを建造した異星人種はガニメアンと名づけられた。ハント、ダンチェッカーら科学者たちは、宇宙船内で目にするその進歩した技術の所産に驚きを隠せない。彼らはどこに去ったのか。だが調査中、深宇宙から非行物体がガニメデを目指し接近してきた。はるか昔に太陽系を出発したガニメアンが帰還したのだ。シリーズ第2弾!

評価9/10
──未知との遭遇、溢れるロマン
シリーズ第2弾『ガニメデの優しい巨人』では、『〈ガニメアン〉シリーズ』と言われる所以になっている地球外生命体”ガニメアン”との邂逅から物語がはじまる。


このガニメアンとの邂逅シーン、これが最初の見所だと思う。裏表紙のあらすじなどで、ガニメアンと接触があることは、あらかじめ分かっている。分かってはいるものの、このシーンは読んでいて面白い。宇宙人との邂逅なんてロマンの塊でしかない。


前作では「ガニメアンが2500万年前に忽然と姿を消してしまった」という事実しか分からなかったが、その『星を継ぐもの』で残された伏線も徐々に明らかになっていく。


また本書では、生物論、進化論についての話題が非常に興味をひかれる。何故、鳥の形態が生まれたのか?何故、地球人の技術発展のスピードがめざましいのか?ミネルヴァ(木星の衛星)での進化の過程etc...ホーガンによって綴られた生物論・進化論の世界観は独特だがストンと納得できた。


何が面白いかって地球人目線ではなく、ガニメアン目線でも地球の生物について語られるので、今までに気にしたこともないことにも気付かされた。とくにガニメアンから見た地球人への見解が興味深い。


3.巨人たちの星

──あらすじ

冥王星のかなたなら届く〈巨人たちの星〉のガニメアンの通信は、地球人の言葉で、データ伝送コードで送られていた。ということは、この地球はどこからか監視されているに違いない。それも、かなり以前から……!五万年前に月面で死んで男たちの謎、月が地球の衛星になった謎、ミネルヴァを離れたガニメアンたちの謎など、前二作の謎が見事に解き明かされる、シリーズたちの3作!

評価9/10
──シリーズ三作目、裏切らない面白さ
さらなる異星人との闘いがはじまるシリーズ3弾『巨人たちの星』。私が一番面白いと思った所は、現代社会に蔓延る謎や、過去の地球人の歴史と異星人の侵略をうまく溶け込ませて物語が描かれている点だ。


過去長い間、地球人は呪術や無力な偶像などの迷信を信じ非科学的な精神構造を持っていた。なぜ、合理主義的な生き方ができていなかったのか?


なぜ、19世紀のヨーロッパで科学や理性の発達を妨害するような、心霊教やオカルトなど荒唐無稽な信仰や運動が蔓延したのか?史実を絡めた展開にリアリティを感じずにはいられない。


さらには前2作の伏線も見事に回収していくのだからもうたまらない。シリーズの一区切りとなる圧巻の一冊。

4.内なる宇宙

──あらすじ

架空戦争に敗れたジェヴレン。その全土を管理/運営くる超電子頭脳ジェヴェックスは、一方で人々を架空世界漬けにし、政治宗教団体の乱立を助長していた。一指導者による惑星規模の大プロジェクトが密かに進行するなか、進退谷まった行政側は、ついに地球の旧き友、ハント博士とダンチェッカー教授に助力を求めるが……《巨人たちの星》3部作から10年、待望の第4部登場!

(引用:内なる宇宙〈上〉/J・P・ホーガン)


評価8/10
──壮大なる物語の終着点
シリーズの最後のストーリーとなる『内なる宇宙』。これまでのシリーズとは少し毛色は異なるが、間違いなく傑作。


というのも、『内なる宇宙』は10年越しのシリーズ4作品目で、『星を継ぐもの』『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』の3作品とは違って、初めは作者自身も「続編を書くつもりはなかった」と本書冒頭に書かれている。毛色が違うのもなんとなく納得できる。


タイトルの意味がわかったときが圧巻……。是非ともタイトルの意味を推理しながらこの『内なる宇宙』を読んでみてもらいたい。


他の方のブログや感想を拝見すると「3部作まででよかった」などの声が多く見られた。私もその気持ちは分かる。シリーズとしては『巨人たちの星』までのほうがまとまりがあったと思う。でもそれは『内なる宇宙』がつまらなかったという訳ではない。シリーズとしてのまとまりからは少し外れていたかな、というだけ。面白さは保証する。

5.Mission to Minerva【追記(2021.5.29)】

邦訳はされていないものの、シリーズ5作目が『Mission to Minerva』。私は原文で読める気がしないので手を出さてはいないが、英語が得意な方はチャレンジしてみてはいかがだろうか。


最後に

間違いなく面白いシリーズではある。しかし一つ懸念点をあげるとすれば”難しい”ところ。SF用語……というか科学用語が目白押しなのでSF慣れしていない方からすると拒否反応がでてしまうかもしれない。


だけれども”なんとなく”で読み進めても物語は楽しめるようにできている。事実、科学分野に疎い私だが『星を継ぐもの』がSFにはまったきっかけである。


SFアレルギーを出さず、「よくわからんけど、そういうものがあるのか」程度に肩の力を抜いてチャレンジしてみてほしい。SFにあまり触れてこなかったあなたにこそ、新しい世界が見えるシリーズのはずだ。


【オススメ】




『天冥の標Ⅳ〈機械じかけの子息たち〉』の感想:少年は種族を超える【小川一水】



小川一水の天冥の標シリーズ第4弾『天冥の標Ⅳ〈機械じかけの子息たち〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

前回の感想はコチラ
【『天冥の標Ⅲ』感想】

目次

感想

──全体を通して

前情報で「『天冥の標Ⅳ』は癖がつよいから読者を選ぶかもしれない」と聞いていたから、どんな展開がきてもいいように身構えていたつもりではいたが……これは予想外だった。


主人公たちの目指すところが究極の性行為である混爾〈マージ〉のため、物語のほとんどが性描写なのはド肝を抜かされた。しかしそれでいて、ただエロティックなだけでないというのも不思議で面白いところ。


こんなストーリーもありなんだな、と一つ勉強になった。


ラゴスの印象と仲間からの扱いが1巻とまるで違っていて困惑したけど、全部読み切ってからは納得した。ラゴス自身も言ってたけど、そりゃ4人も混ざればそうなるか。なにせキリアン、ラゴス、アウローラ、ゲルトルッドの異なりすぎる4人なわけだし。なによりそれを収めることができるラゴスの器のでかさよ。また1巻読み返したくなる。今読んだらラゴスの印象が変わりそう。



──救世群と《恋人たち》

救世群であり、恋人たちになってしまったキリアンが二つの集団の架け橋となった場面が一番印象的だったかもしれない。


アウレーリアなど変わり者が多く登場する天冥の標において、さらに特殊な立場にいる救世群と《恋人たち》。

冥王斑という、呪いにも似た目に見えない強い力に、三百年この方縛りつけられ、それを憎みつつも、それを含む血液をワクチン材料として売らねばならないのが、救世群だ。冥王斑と向き合うことを、生まれてから死ぬまで、無意識のレベルから強制されているのがキリアン自身だ。
そんなキリアンにとって、自分たちの生業の中心に『混爾』という正しいものを置き、理屈抜きでそれを求めていりれる《恋人たち》は息詰まるほどまぶしく感じられた。

(引用:天冥の標Ⅳ P276-277)


まったく違う立場にあると思っていた二つだが、似た境遇にあるとわかった場面ではなるほど……と思わずいられなかった。それと協力関係になれればいいのに……と。そう思ってたら物語の流れがその通りにいってくれて……。

「別じゃない、だってほぼ間違いなく、救世群の人々もきみと同じ不満を溜めこんでいるだから。三百年の孤独を強いられて出会いを求められているんだから。今のきみの過去の仲間をつなぐ共通の感覚というものがもしあるとすれば、それを措いて他にない。きみは《恋人たち》に受け入れられた。きっと救世群の人々も受け入れてもらえるだろう。ここに仲間がいる。二億キロ離れたところにいる人々に、他人を救おうと思わせる呼びかけが、これ以外にあるかい?」

(引用:天冥の標Ⅳ P446)



救世群同士を除いて、《恋人たち》が救世群と分け隔てなく接することができる唯一の仲間。それと300年の孤独を経てようやく巡り会えると!めでたしめでたし!!


で、終わりそうもないのが悲しいところ。


Ⅰで《恋人たち》はでてきているが、救世群がでてきていない。そもそもラゴスたちが何故〈メニー・メニー・シープ〉にいたのかわからないけど、救世群と共生していないことは明らかだった。


Ⅰで救世群に近い性質を持っているのは咀嚼者なわけだけど……咀嚼者と救世群……いや、変な詮索はやめよう。

──《恋人たち》の原点と『混爾』の正体とは?

《恋人たち》の原点の話で、ウルヴァーノが出てきたのは本当にびっくりした。ここでお前がでてくるんかい!と。Ⅲで確かに変わり者だとは感じていたけど、《恋人たち》の原点になるほどの大物だったとは思いもしなかった。


『混爾』は、哀れな《恋人たち》に授けられた、代替の神か。
それともこの概念には、まだ何か見極めるべき深みがあるのか。
われら、いまだ交わりを知らざるのか、否か。

(引用:天冥の標Ⅳ P520)



『混爾』とは何か?を探る事に物語の大半が割かれているが、結局決定的な答えが明かされないまま物語の幕は下りてしまった。とくにラストでは上記のP520の引用をはじめ、核心に触れそうな所はたくさんあった。


読中は「子供をつくること」が混爾なのでは?と思いながら読んでいたのだが、エピローグを読むかぎり、それは否定されているんだよなぁ……。


最後に

Ⅰ〜Ⅳまで読んで思ったのは、Ⅰ単体で読んでも面白かったけれど、Ⅰは伏線の塊だったんだなぁと思い知らされる。今回の《恋人たち》しかり、Ⅱでは救世群、Ⅲではアウレーリア。


これまでのⅡ〜Ⅳは、謂わばⅠで登場した主要人物たちの昔話。Ⅰより未来の話、または近い時間軸の話がこれからでてくるだろうが、それが楽しみでならない。


まったく関係ないかどアウローラ=オーロラ(Ⅰで登場した《恋人たち》)だと深読みしてたのは内緒。


【『天冥の標Ⅴ』感想】



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