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『虹を待つ彼女』あらすじ・紹介:衝撃的な自殺を遂げた彼女の真意とは…【逸木裕】


世界が変わって見えた。まさにこのときだった。工藤賢は、生まれて初めて、恋に落ちた。水科晴。六年前、奇妙な方法でこの世を去った、彼女に対して。

(引用:虹を待つ彼女 P149/逸木裕)



第三十六回横溝正史ミステリ大賞受賞作、ゲームの世界と現実の世界を連動させ、何も知らないプレイヤーに渋谷で銃を乱射させる……衝撃的な場面から幕を開ける逸木裕のデビュー作『虹を待つ彼女』を紹介していく。人工知能をテーマに、近未来の世界観で描かれるストーリーは一気読み必至だ。感想はコチラ。


【『虹を待つ彼女』:感想】


目次

あらすじ

2020年、人工知能と恋愛できる人気アプリに携わる有能な研究者の工藤は、優秀さゆえに予想出来てしまう自らの限界に虚しさを覚えていた。そんな折、死者を人工知能化するプロジェクトに参加する。試作品のモデルに選ばれたのは、カルト的な人気を持つ美貌のゲームクリエイター、水科晴。彼女は6年前、自作した”ゾンビを撃ち殺す”オンラインゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして自殺を遂げていた。
晴について調べるうち、彼女の人格に共鳴し、次第に惹かれていく工藤。やがて彼女に”雨”と呼ばれる恋人がいたことを突き止めるが、何者からか「調査を止めなければ殺す」という脅迫を受ける。晴の遺した未発表のゲームの中に彼女への迫るヒントを見つけ、人工知能は完成に近づいていくが──。

(引用:虹を待つ彼女/逸木裕)


見所

『死者を人工知能化するプロジェクト』
『オンラインゲームとドローンを連携させての自殺』

と、あらすじを読んだだけでも興味を惹かれるポイントがいくつもある。先のよめない展開と、これらの気になる要素が物語の中でどう交わっていくのか。近未来の世界観が好奇心を刺激してくれる。


癖のある主人公

主人公の『工藤 賢』。この工藤がかなり癖のある人物。所謂”天才”なのだが、それをひけらかすわけではなく、目立たず仮面をつけた生活を小さい頃から送っていた。とくに未来に対しての「予想」の能力がずば抜けていた。


「自分のポテンシャルの見積もりと、どれくらいの労力でどれくらいのリターンが出るかの費用対効果」を予測できてしまう。予測できすぎてしまうが故に、スポーツも、勉強も、遊びも、人間関係も彼にとっては退屈な物だった。そしてそれは恋愛に関しても顕著に現れていた。

恋愛はサプリメントと同じだ。工藤はある時期から、そう考えるようになった。ドーパミン、ノルアドレナリン、フェニルエチルアミン。恋愛ホルモンなど俗称されるそれらが、脳内で活発になっている状態、それが「恋をしている」状態だ。恋愛とは脳内物質の分泌に過ぎない。必要な時に、必要な分だけ摂取すればいい。
中学、高校。工藤はひたすら人間関係の調整を行い、ときに「サプリメント」を摂取して過ごした。

(引用:虹を待つ彼女 P25/逸木裕)


こんな考えをもっていた彼が初めて本気で恋に落ち、物語の歯車が回り始めるわけだが、よからぬ方向へ進み始めてしまう。工藤が恋に落ちたのはすでにこの世から去っている『水科晴』という人物だった。


天才クリエイター『水科晴』

水科晴は6年前、自作した”ゾンビを撃ち殺す”オンラインゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして自殺を遂げていた。


彼女の美貌、そしてこの奇妙な自殺方法も相まって熱狂的なファンが多く、カルト的な人気を死してなお持っていた。


何故、こんな奇妙な自殺をしたのか?
そもそも、何故自殺してしまったのか?


多くの疑問が解消されていないなか、ひょんなことから、工藤が進める『死者を人工知能化するプロジェクト』の試作に『水科晴』をモデルとすることに決まり、工藤は人工知能作成のために水科晴の情報を集め始めるのだが……。


最後に

水科晴の自殺の理由
死者の人工知能化プロジェクトの結果
そして物語がどんな終着を迎えるのか?


気になる点がたくさんある『虹を待つ彼女』。メインジャンルはミステリだろうが、個人的には恋愛小説としてみても面白いなぁと思う。死者に恋をした主人公、そしてその人物を人工知能での復活を試みる……。


常識的に考えたら報われるはずのない恋にどんな結末が待っているのか?気になる方はぜひ読んでみては?


【オススメ】




『虹を待つ彼女』感想:もしかしたらそれは究極の愛の形【逸木 裕】


人工知能と劇場型自殺事件を起こした女性を扱ったミステリ『虹を待つ彼女』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はコチラからどうぞ。

【『虹を待つ彼女』あらすじ・紹介】

目次

感想

青が基調の美しい表紙と、『虹を待つ彼女』というタイトルに惹かれて購入。前情報なしに読み始めたわけだが、物語にのめり込んであっという間に読み切ってしまった。人工知能についての考えも面白いし、彼女の自殺の謎、ラストでは今までにない読後感を味わうことができた。そして未来の技術について考えさせられる一冊だった。


──ミステリ?いや、究極の恋愛小説

工藤を狙うのは誰なのか?
晴は何故、あんな自殺の仕方をしたのか?

この二つの謎に迫るのが『虹を待つ彼女』のミステリの主軸だと思うが、それ以上に工藤の晴に対する思いが強すぎて、人工知能によって復活させた晴とどのような結末を迎えるのかが気になりすぎてしまった。

恋愛はサプリメントと同じだ。工藤はある時期から、そう考えるようになった。ドーパミン、ノルアドレナリン、フェニルエチルアミン。恋愛ホルモンなど俗称されるそれらが、脳内で活発になっている状態、それが「恋をしている」状態だ。恋愛とは脳内物質の分泌に過ぎない。必要な時に、必要な分だけ摂取すればいい。
中学、高校。工藤はひたすら人間関係の調整を行い、ときに「サプリメント」を摂取して過ごした。

(引用:虹を待つ彼女 P25/逸木裕)


上記のあたりが工藤の恋愛観を如実に表わしている。小さいころから達観した人物……頭が良すぎるのも大変だなと思ってしまう。


そんな恋愛観をブチ壊して工藤を狂わせてしまったのが晴な訳だが……初めて体験した本気の恋愛感情を感じた相手がすでに死んでしまっているって切なすぎない?



自分のすべてをかけて晴を人工知能として復活させようとする様子は狂気を感じる……と最初は思ったが、少し考え方を変えると工藤がした事も共感できる点がある。


それは、もし自分が愛する人を失ったとして、生き返るらせることができる手段があるとしたら手を出さずにいられるだろうか?


工藤は「人工知能との恋愛は、通常の恋愛と変わらない」という考えの持ち主だった。つまり工藤にとっては”データ”としての復活ではなく、”一人の人間”としての復活だった……そして幸か不幸かそれができる環境と技術があった。愛する人と会いたい、という彼の気持ちをそこまで責められるだろうか。


工藤は晴とは生きてるうちに一度も会ったことがなく、彼女の生き様しか知らない点だ。それでもすべてをかけて晴に会おうとした姿勢はある意味、究極の愛だったのかもしれない。


──切なすぎるラスト

雨を協力者に迎え入れて、晴の完成もいよいよになってきた物語の佳境、このストーリーがどのように終幕を迎えるのか、まるで想像ができなかった。


工藤にとっては、辛すぎる結末だったと思う。小賢しく、頭がいいだけに本当の恋をしたことがなかった工藤。なのにはじめての恋がすでに死んだ人間。そして人工知能にも振られる。


工藤は人工知能との恋愛も普通という考えの持ち主だからいいかもしれないが、そう割り切ることができない私にとっては、その恋愛に切なさしか感じられなかった。


最後に工藤ではなくて、雨を選んだということは、生きていた頃と同様に人工知能の晴も同性愛者になったというわけで、人工知能の完成をあらわしていそう。完成な晴を追い求めすぎたがゆえにその恋が報われなくなるって皮肉もいいところだよな。



最後に

ミステリとしても面白かったけど、人工知能との恋愛かぁ…考えさせられる一冊だった。技術としては、現実世界においても近い将来実現可能にはなりそうな気がする。倫理感とかを考慮しなければ。


夢はある……が、しかしって感じ。
今回は、故人との恋愛だったわけだが、2次元と3次元の壁を超えられる技術でもあるわけだよな。それこそ工藤が言ってたように人工知能と普通に恋愛する時代がくるのかもしれない。



【オススメ】




『第六大陸』あらすじ・紹介:月へと挑む近未来SF【小川一水】


月への挑戦と少女の想いを描いた近未来ハードSF小説、小川一水の『第六大陸』のあらすじ・紹介をしていく。テンポのよいストーリーと飽くなき挑戦、そして宇宙のロマンが詰まった一冊だ。


感想はコチラ
【『第六大陸』感想】

目次

あらすじ

西暦2025年。サハラ、南極、ヒマラヤ──極限環境下での建設事業で、類例のない実績を誇る御鳥羽総合建設は、新たな計画を受注した。依頼主は巨大レジャー企業会長・桃園寺閃之助、工期は10年、予算1500億そして建設地は月。機動建設部の青峰は、桃園寺の孫娘・妙を伴い、月面の中国基地へ現場調査に赴く。だが彼が目にしたのは、想像を絶する過酷な環境だった──民間企業による月面開発計画「第六大陸」全2巻着工!

(引用:第六大陸 〈1〉 小川一水)

『第六大陸』紹介

ざっくりと『第六大陸』を説明するとすれば、民間企業が月面開発計画に挑む物語だ。物語上の年は2025年なので現在から考えれば約5年後の未来を描いたストーリーとなる。人類が初めて本格的な月面開発に挑むわけだが、そこに立ち塞がる困難、その困難に立ち向かう技術者たち、宇宙のリアル、そしてロマン……見どころは多彩である。

──計画の主導者は…年端もいかない少女!?

人類初の月面基地を作る壮大な計画、なんとそれの発案者は一人の少女である。もちろんただの少女ではない、彼女は大企業の会長のお嬢様・桃園寺 妙。


恵まれた環境、優秀な頭脳、なに一つ不自由ない暮らしを手にしている幼き少女は、何故月を目指すのか?そして月に何を作ろうとしているか?


ごりっごりのハードSFにも関わらず、それを主導するのが一人の少女なんて夢がある話じゃないか。

──宇宙のリアル

『第六大陸』の大きな見所が、壮絶で未知なる月面開発に挑む技術者たちの奮闘、そしてそこで描かれる宇宙の現実だ。


月の環境でいえば、温度は−170〜110℃まで変化するし、放射能は降り注ぎ、真空状態、そして重力は地球の6分の1……と、地球とはまったく違った環境である。そんな環境に0から基地を作るとなれば、その苦労は計り知れない。


基地を作るためには、重機が必要になってくるが、もちろんそれも地球から運ばなくてはならない。しかし重機を使うとなると動かすためのガソリンが必要になるが、そんな便利なもの月にはないため、エネルギーの問題もクリアしなくてはならない。さらに、その重機は月の重力6分の1に適応させた形にしなければならない。


このように一つの問題をとりあげただけでも、様々な課題が浮かび上がってくる。この困難を地道にクリアしていく様子がたまらなく面白い。物語の年代が現在と近いというのも一つポイントかもしれない。


そもそもだが物語の中は現在と同じで、簡単にロケットを打ち上げられる環境ではない。莫大なお金がかかるうえに、打ち上げの成功率はもちろん100%ではない。民間企業による宇宙進出を描くこの『第六大陸』だからこそシビアな金銭事情が語られている。


最後に

1969年にアメリカのアポロ計画によって人類は初めて月に降り立った。そこからすでに約50年がたっている。月へ行く技術は、50年前からあるにも関わらず、何故、人類は未だに月に進出していないのか?漠然と思っていた疑問だが『第六大陸』を読んで解決したが、こんな単純明快な問題だとは思わなかった。


ストーリーはテンポよく進んで飽きずに読めるし、宇宙のロマンも感じるオススメの一冊。



【オススメ】




『第六大陸』感想:緻密な構成と宇宙のロマンが詰まった一冊【小川一水】

月への挑戦と少女の想いを描いた近未来ハードSF小説、小川一水の『第六大陸』の感想を語っていく。導入から読者を惹き付ける流れが完璧で、あれよあれよという間に読み切ってしまった。以下ネタバレありのため未読の方はコチラからどうぞ。

【『第六大陸』あらすじ・紹介】


目次

感想

導入から本編(月)への流れが完璧で、あっという間に物語の世界に引き込まれた。海底都市の建築、謎の少女との出会い、そして月への旅立ち…。テンポよく流れるストーリーは飽きがこないし、今後の展開にワクワクが止まらない。

──ストーリーについて

まだ人が住んでいない月に初めて作る建物が結婚式っていう発想がぶっ飛んでて好き。加えてそれの主導者がまだ年端もいかない少女ってのがまた面白い。


幼さ故の発想かも、とも思ったけど物語序盤から妙がただの少女だとは思えなかったし、月に結婚式場を作る計画…『第六大陸』の真の目的がなんなのか?それが気になってどんどん読み進めてしまった。
ただ個人のわがままで宇宙に進出するスケールは規格外すぎる。


もちろん、妙の目的がなんなのか?最初はそれが読み進める大きな原動力にはなっていたが、途中からは『第六大陸』計画に立ちはだかる様々な困難を解決していく過程がたまらなく面白く夢中になって読んでいった。


『第六大陸』計画は確かに、ぶっ飛んだ計画ではあるが、それを実現させるための過程はとてもリアルに描かれている。


月に基地を作るにあたって、まずロケットを打ち上げて荷物を運ばなければならない。もちろん基地をつくるためには重機も必要になる。その重機を動かすためのエネルギーを確保しなければならない。もちろん重機は月の過酷な環境に適応させた形にしなければならない。


自分が考えもしなかった問題と次々と直面する。あぁ、これが宇宙へ行くことなんだなぁと思い知らされる。


後半になるにつれ、妙の考えが明らかになっていくわけだが、彼女の恐ろしさと、それ以上の哀れさに見舞われる。しかし拍子抜け…というか意外だったのが、妙の真の目的(原動力?)が父親への対抗心だったこと。もっと壮大なモノを持っているかと思っていた。まぁ逆に考えれば妙も一人の少女だったということかな。



──宇宙へ”行く”ことのリアル

宇宙に関する知識については言わずもがな丁寧に描かれている。そんな中でひときわ印象に残っているのが宇宙へ行くこと、月に安定した拠点を作ることの難しさ、そしてそれにどれほどお金がかかるのか。


国ではなく民間企業が宇宙を目指す物語なのもあってかこのお金の面が、とてもリアルに描かれていた。宇宙へ行くのは技術以上に金銭問題が深刻なんだと思い知らされた。


今まで似たような宇宙をテーマにしたSF小説はいくつか読んだ事があったが、これほど現実的な問題と向き合った小説は初めてだった。


月面に安定した基地を作るのにかかる費用が1兆2000億……。物語の中では技術革新で10分の1ほどに抑えられるということになっていたが、それにしても果てしない額。


あとは宇宙のリアルについて語るなら危険性については避けて通れない。ロケット墜落などの危険もあるし、なにより月では、死と隣合わせだということ。−170〜110℃まで変化する気温、降り注ぐ放射能、真空etc…。泰の死がなによりも、宇宙は夢ばかりではない、危険な場所なんだということを教えてくれた。

最後に

1969年にアメリカのアポロ計画によって人類は初めて月に降り立った。そこからすでに約50年がたっている。宇宙へ行く技術があるのに何故そこから進んでいないのか?漠然とは思っていた疑問だが『第六大陸』を読んで分かった。単純明快だった。


お金がかかりすぎるから
そしてそれに見合うリターンがないから。


現実的すぎだったなぁ……。でもだからこそ、それを覆す『第六大陸』は面白いんだろうな。


自分が生きているうちに『第六大陸』のように月に人類が進出できることを祈っている。是非ともこの目で見てみたい。




【オススメ】




【26作品】2020年上期に読んだ小説を5段階で評価する&ベスト3紹介【一言感想】



2020年上期(1〜6月)に読んだ小説26作品を5段階評価で好き勝手に感想を書いていく。


そして、後半は上期に読んだ小説の面白かった作品ベスト3をあらすじなどと共に紹介。2020年に発売した小説ではなく、あくまで私が1〜6月に読んだ小説なのでご注意を。

目次

1.読んだ小説・一言感想

おやすみラフマニノフ/中山七里
☆☆☆☆
ミステリ面でみて面白いのはもちろんだが、表現の一つひとつが繊細できれい。音楽をテーマにしているのでついついもとになった曲を聞きたくなる。


密室の鍵貸します/東川篤哉
☆☆☆☆
メタ的な書き方がちょっと歯がゆいところがあったけど、トリックも面白かったし、テンポがよくて読みやすかった。


狼と香辛料XXⅠ SpringLogⅣ /支倉凍砂
☆☆☆☆
ロレンスとホロ、久しぶりの二人旅の様子が懐かしい。違うのは昔みたいなハラハラ感はなく、安心して読めるところ。


狼と香辛料XXⅡ SpringLogⅤ/支倉凍砂
☆☆☆☆
これは『マグダラで眠れ』と繋がってるのか……!?


内なる宇宙/ジェイムズ・P・ホーガン
☆☆☆☆☆
”内なる”宇宙ね、なるほどね。タイトルの意味がわかったときが圧巻。『内なる宇宙』は『星を継ぐもの』からなるシリーズものの4作目になるが、過去作を巻き込んだ予想外の展開が最高。


宝石商リチャード氏の謎鑑定/辻村七子
☆☆☆☆
宝石は何故”宝石”なのか?『華やか』『贅沢品』といったイメージが強かったけど、『支え』『絆』とか新しい考えが自分の中に入ってきた。随所にでてくる宝石に関する蘊蓄は分かりやすい。なにより宝石の世界が自分にとって新しい世界だからシンプルに面白かった。


図書館内乱/有川浩
☆☆☆☆
郁の悩める家庭問題から小牧の恋愛事情、そして手塚兄の登場と目白押しの展開で今回も面白かった。まだまだ続きが気になるところ。


図書館危機/有川浩
☆☆☆☆
ほのぼのからシリアスまで飽きさせない展開で読み応えバッチリ、一気に読み切った。手塚のギャップが新鮮。


図書館革命/有川浩
☆☆☆☆☆
本編完結編。
甘々、だがそれがいい。


別冊 図書館戦争Ⅰ/有川浩
☆☆☆☆
『図書館革命』の甘さを超えてくるとは…!
前作ではラストでいきなり結婚していて、ちょっと物足りなさを感じていたけど、見事に解消された。


別冊 図書館戦争Ⅱ>/有川浩
☆☆☆☆
いくつかの短編があったけど、一番心に残ったのは手塚と柴崎のその後を描いた『背中合わせの二人』。タイトルが、これまでの二人の関係を示していてまたいいよね。


ハリーポッターと賢者の石/J・K・ローリング
☆☆☆☆
映画では散々見たことがあったが本デビュー。わくわく感はそのままに、映画より人間関係などが詳細に描かれていた。さくさく読める。


ハリーポッターと秘密の部屋/J・K・ローリング
☆☆☆☆☆
『自分が何者かは、能力ではなくてどんな選択をしたかで決まる』名言や。
ダンブルドアの偉大さが段々と見えてくる。


ハリーポッターとアズカバンの囚人/J・K・ローリング
☆☆☆☆☆
ラスト、怒涛の伏線回収が見事すぎて一気読み。アズカバンは間違いなく映画より本で読んだほうが楽しめる気がする。


ハリーポッターと炎のゴブレット/J・K・ローリング
☆☆☆☆☆
シリアス展開に舵がきられていく。4巻のラストにして、いよいよ物語の本番が幕をあけるって感じが鳥肌立つ。


ハリーポッターと不死鳥の騎士団/J・K・ローリング
☆☆☆☆☆
フレット・ジョージの『ピーブス!おれたちにかわってあの女を手こずらせてやれよ!!』
このシーンがめっちゃ好き。


ハリーポッターと謎のプリンス/J・K・ローリング
☆☆☆☆☆
過去作の伏線をことごとく回収していく目が離せない。そしてまさかすぎる展開。『謎のプリンス』あたりから映画を見てないのでハラハラしっぱなしだった。あの人の死がつらすぎる…。


ハリーポッターと死の秘宝/J・K・ローリング
☆☆☆☆☆
『キャラクターの成長』ってファンタジー作品の中で、重要なポイントだと思うけど、それが遺憾なく堪能できる。シリーズ通してはもちろんのこと、『死の秘宝』だけをとっても。読み終えた直後に再読したくなる、とてつもない物語だった。


謎解きはディナーのあとで/東川篤哉
☆☆☆☆☆
個性的なキャラクターたちが軽快に活躍していて読みやすい。その上、ミステリーの内容はとても凝っている。殺人事件を扱っているが、謎解きに特化していてスピーディで癖になる。


ソラリス/スタニスワフ・レム
☆☆
合わなかった。
淡々とソラリス(惑星)学の歴史を追うのが退屈すぎた。


StorySeller
☆☆☆☆
『読み応えは長篇並 読みやすさは短篇並』。好きな作家さんのお話を楽しむもよし、初めて読む作家さんの作品と出会うのもよし。1バン印象深かったのは有川浩さんの『ストーリー・セラー』。


夜のピクニック/ 恩田陸
☆☆☆☆
事件らしい事件は起きないけど、二人の登場人物の心情の変化が面白く、すべてが丸く収まってく様が読んでいて心地よい。懐かしい『あの時』を思い出させてくれる。


数奇にして模型/森博嗣
☆☆☆☆
『作っている最中にだけ所有できる実感』ね、なるほどね。
森博嗣作品って個人的に好き嫌いが分かれるんだけどこれは好きなやつ。


コーヒーが冷めないうちに/川口俊和
☆☆☆
登場人物たちの「前向きになって生きよう」という気持ちに心打たれるとともに、自分もこれからの未来をがんばって生きようと思える一冊だった。


片想い/東野圭吾
☆☆☆
男と女、男女の境界についてが興味深い。メビウスの例えがめっちゃわかりやすくて納得。


鹿の王 水底の橋/上橋菜穂子
☆☆☆☆☆
安定の上橋菜穂子クオリティ。前作からの期待を裏切らない面白さ。



2.2020年上期ベスト3

2020年上期に読んだなかでとくに面白かった3作品をあらすじなどとともに紹介していく。


3位:内なる宇宙

──あらすじ

架空戦争に敗れたジェヴレン。その全土を管理/運営くる超電子頭脳ジェヴェックスは、一方で人々を架空世界漬けにし、政治宗教団体の乱立を助長していた。一指導者による惑星規模の大プロジェクトが密かに進行するなか、進退谷まった行政側は、ついに地球の旧き友、ハント博士とダンチェッカー教授に助力を求めるが……《巨人たちの星》3部作から10年、待望の第4部登場!

(引用:内なる宇宙〈上〉/J・P・ホーガン)


──壮大なる物語の終着点
『内なる宇宙』は、全4作品からなるシリーズの最後のストーリー。これまでのシリーズとは少し毛色は異なるが、間違いなく傑作。

以下シリーズ一覧

1:『星を継ぐもの』
2:『ガニメデの優しい巨人』
3:『巨人たちの星』
4:『内なる宇宙』


正直『内なる宇宙』から読んでも訳がわからん事になると思うので順当に『星を継ぐもの』から読むことをオススメする。


『星を継ぐもの』は月面で宇宙服を身につけた死体が発見されて幕をあける。月面で死体が発見されることでも驚きなのに、調査の結果その人物は5万年前の死体だったと判明する。


『星を継ぐもの』の面白い点は、宇宙、そして宇宙人という壮大なテーマの物語であるにも関わらず、ストーリーは一貫して月面の死体は何者なのか?どこから来たのか?に特化している点だ。


物理学、言語学、天文学、数学、化学、地理...ありとあらゆる専門家が様々な視点から謎に迫っていくのだが、その様子がたまらなく面白い。




2位:鹿の王 水底の橋

──あらすじ

黒狼熱大流行の危機が去り、東乎瑠帝国では、次期皇帝争いが勃発。様々な思惑が密かに蠢きはじめているとは知らずオタワルの天才医術師ホッサルは、祭司医・真那の招きに応じて、恋人ミラルとともに清心教医術の発祥の地・安房那領へと向かう。ホッサルはそこで、清心教医術に秘められた驚くべき歴史を知るが、思いがけぬ成り行きで、次期皇帝争いに巻き込まれていき!?ふたつの医術の対立を軸に、人の命と医療の在り方を描いた傑作エンタテインメント!

(引用:鹿の王 水底の橋 | 上橋 菜穂子 |本 | 通販 | Amazon)


──安定の上橋菜穂子クオリティ

『鹿の王 水底の橋』は2015年の本屋大賞を受賞した『鹿の王』の続編にあたる物語。そして作者は『精霊の守人』シリーズでお馴染みの上橋菜穂子


『水底の橋』はシリーズ2作目の作目となるため、シリーズ第1段の『鹿の王』から読むことをオススメする。


『水底の橋』は、ホッサルひとりを主人公に置くとこによって医術についてピックアップされているので前作『鹿の王』よりもアクション要素は薄いが、民族間での医術や文化の違い、死についての考え方などファンタジーとは思えないほどリアルに展開されている。


前作を読んだ方なら是非読んでもらいたい一冊。



1位:ハリーポッターシリーズ

──あらすじ

ハリー・ポッターは孤児。意地悪な従兄にいじめられながら11歳の誕生日を迎えようとしたとき、ホグワーツ魔法学校からの入学許可証が届き、自分が魔法使いだと知る。キングズ・クロス駅、9と3/4番線から紅色の汽車に乗り、ハリーは未知の世界へ。親友のロン、ハーマイオニーに助けられ、ハリーの両親を殺した邪悪な魔法使いヴォルデモートとの運命の対決までの、息を飲む展開。9歳から108歳までのファンタジー。

(引用:ハリー・ポッターと賢者の石 (1) | J.K.ローリング, J.K.Rowling, 松岡 佑子 |本 | 通販 | Amazon)


──誰もが知る傑作ファンタジー
もはや知らない人はいない『ハリーポッターシリーズ』。ここで今更、紹介するのも野暮というものだろう。


だがしかし、「映画は見たことあるけど、本では読んだことない」という人が多いのではないだろうか?私もそのうちの1人だったのだが、映画をすでに観ていて先の展開を知ってたとしても十二分すぎるほど楽しんで読むことができた。


時間的制約がある映画の性質上、原作の物語をすべて映しだすことはできない。「物語本来のすがたをじっくりと堪能することができる」これはハリーポッターに限ったことではないが、原作の素晴らしい点だ。


とくにシリーズ終盤(不死鳥の騎士団あたり)になるに従って、物語は複雑になっていく。映画であらかたの流れは把握しているつもりだったが、原作を読んで初めて知ったことがあったり、理解が深まった所が少なくなかった。


映画勢の方、是非原作にも手を出してみては?きっともっとハリーポッターシリーズが好きになるはずだ。

3.最後に

紹介した3作品がすべてシリーズものになってしまって申し訳ない……。ただ、自信をもってオススメできるシリーズなのでぜひとも読んでいただきたい。


またその他の作品で、☆5つをつけたものも一読の価値があると思うので読んだことない作品があればぜひ。

『鹿の王 水底の橋』の感想とタイトルの考察【上橋菜穂子】

人ってのは、良い言い訳が見つかると逃げたくなる生き物だ。それでいて、逃げることは後ろめたいもんだから、いつの間にか言い訳を鉄壁の理屈に祭り上げちまう。神さまがこういう存在を生んだから、なんて言われたら、そこですべてはどん詰まりだ。医術師に、そんな口実与えてどうするんです?

(引用:鹿の王 水底の橋 P249/上橋菜穂子)


2015年本屋大賞第1位の上橋菜穂子の『鹿の王』。その続編である『鹿の王 水底の橋』を読んだので感想を語っていく。水底の橋はすでに文庫本が発売されたので前作を読んだ方は是非この続編を読んでみては?前作とは違った感動がまっているはずだ。(写真はハードカバーの表紙。個人的にはコッチのほうが好き)
感想はネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

感想

前作のヴァンたちの存在が気になりつつも登場はせず、ホッサルがメインのストーリー。


患者の全体を見る清心教医術と、患者の身体の内部を見るオタワル医術。そして死への考え方など、相反する意見をもつ両者。

歩いてきた道は違うけど、辿り着いた先は同じっていう感じね

(引用:鹿の王 水底の橋 P103/上橋菜穂子)


しかし上記のセリフのように、異なる診察の仕方で同じ病気を導く。このときは漠然と「2つの医術を合わせればより確実かつ、医術の発展に繋がるんだろうな。でも考え方がまったく違う以上それは難しいんだろうな」思っていたが、まさか物語が2つの医術の架け橋を作るような終わり方になるとは思わなかった。とってもスッキリした。ミラルがいいキャラしてる。


ホッサルひとりを主人公に置くとこによって医術についてピックアップされているので前作『鹿の王』よりもアクション要素は薄いが、民族間での医術や文化の違い、死についての考え方などファンタジーとは思えないほどリアルに展開されていた。安定の上橋菜穂子クオリティ。


個人的には、P246-249あたりのオタワル、清心教お互いの医術に関する信念を討論しているあたりがたまらなく好き。ホッサルがひたすらにカッコいい。


また土毒の事件についてのミステリ性など前作にはない面白さが詰まった一冊だった。

──『水底の橋』の意味を考える

サブタイトルになっている『水底の橋』。これだけ見ると橋の話がメインになっているのかと思うが、橋に関する話は少ない。


しかしミラルの父が語る『水底の橋』の話はとても印象的だった。

「ある橋のな、 欄干から身を乗り出して川を見下ろした時、どきっとした。川底に長く横たわっているのが見えたんだ。── 沈んだ古い橋の、橋桁だった。
どれほど昔に沈んだのか、泥をかぶって、緑の藻に覆われていてな……それでも、川底を横切ってずっと向こうの対岸まで繋がっていた。橋だった頃の姿を残して、水底で繋がっていたのがな、いまも忘れられん」

(引用:鹿の王 水底の橋 P265-266/上橋菜穂子)



この『水底の橋』の存在が、物語上の様々なコトを暗に示しているように思える。


自然(川)に負けて沈んだ橋が、自然(病)に勝つことのできない医療技術を表しているようにも思える。そう思うと橋(医療技術)が様々な自然(病)に勝とうなんていかに無謀な話なのかよくわかる。


また、先程の引用より前の部分では水底の橋ではないが、橋について他にも面白いセリフがある。

「初めから、増水したら沈むのを想定して造る橋だ。流木などがひっかかないように欄干も造らん。なるべく流れに逆らわんように造って、橋桁の水没どころか、壊されて流されるのも覚悟の上で、なんとか橋脚だけは残るようにする、そういう橋だ」
《中略》
「下手に頑丈な橋を造って、大水のとき、橋に大量の流木が引っかかって堰のようになっちまうと、行き所がなくなった水が溢れて周囲の田畑を水没させてしまう。橋が頑張ってないで素直に流れてくれた方が、助かる場合もあるわけだ。自分が流れるか、周りを流すか、どっちをとるか、だな」

(引用:鹿の王 水底の橋 P264-265/上橋菜穂子)


この沈下橋の話が、オタワル医術と清心教医術の違いに近いものがあると思った。


頑丈な橋を目指すオタワル医術
沈下橋的な考え方に近い清心教医術


つまり
死を最後まで諦めることになく生きることにこだわるオタワル医術と
死を受け入れどう最後を迎えるかを考える清心教医術


相反する両者の考え方が、橋の構造に例えられているように思った。そう仮定すると物語で出てきた水底の橋は花部流医術を表しているように思える。

どれほど昔に沈んだのか、泥をかぶって、緑の藻に覆われていてな……それでも、川底を横切ってずっと向こうの対岸まで繋がっていた。橋だった頃の姿を残して、水底で繋がっていたのがな

昔に沈んだ橋。にもかかわらず途切れることなく、橋の姿を残したまま川底を対岸まで繫がっている。


この『水底の橋』は頑丈な橋と沈下橋の二つの性質をもっている。つまり、オタワル医術と清心教医術の両方に近い性質をもつ花部流医術だという考え方ができるのではないだろうか。


そして昔に沈んだ、という部分は、花部流医術が清心教医術の元になっていた、という事実について示していることの解釈ともとれる。

最後に

ほぼほぼ一気読みしてしまうくらい、熱中できる物語だった。『鹿の王』は私が初めて触れた上橋菜穂子作品だったゆえにとても思い入れのある物語だったのだが、その続編が読めてとても満足している。


ホッサルたちの続編が読めた今、次はヴァンたちの今後が気になるわけだが……それはじっくりと待ちたいと思う。



【オススメ】




『数奇にして模型』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】


自分は、どこまで一つだろう?
生きていれば一つなのか?
生きているうちは、どうにか一つなのか?

S&Mシリーズ第9段!森博嗣の『数奇にして模型』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。

S&Mシリーズの紹介はコチラ


あらすじ

密室の中には首なし死体と容疑者が 模型交換会会場の公会堂でモデル女性の死体が発見された。死体の首は切断されており、発見された部屋は密室状態。同じ密室内で昏倒していた大学院生・寺林高司に嫌疑がかけられたが、彼は同じ頃にM工業大で起こった女子大学院生密室殺人の容疑者でもあった。複雑に絡まった謎に犀川・西之園師弟が挑む。

感想

2つの密室殺人と、表紙に書かれているどこまでが”一つ”なのかという疑問。2つの見どころがある。


相変わらず森博嗣作品は、要所要所に挟まれる哲学チックな描写がたまらなく面白い。『クリップ』とか『正常と異常の違い』、そのうちの一つが犯人の思考と結びついてる。すごい伏線だこと。


『作っている最中にだけ所有できる実感』は大御坊が物語の序盤にインタビューで語っていた。犀川がその思考について触れたときそのインタビューを思い出して、もしかして彼が犯人なのか?って勘違いした。まぁ同じような思考の持ち主はたくさんいるよね、浅はかだった。


寺林の語る動機は常人ではけっして理解できるものではないが、犀川の語る推理を聞くと、こんな思考の人物もあり得るのか、と納得できてしまうのも面白いところ。

──真実はブラックボックス

物語の中では、寺林が犯人で終幕する。しかし寺林が犯人だと説明のつかない箇所もあり読者の判断に委ねられている部分がある。


中盤(P401)に真実を知っているかのような謎の多い手紙が登場する。物語の中では、萌絵に手紙を渡すように、寺林が紀世都に頼んだのではないか?と推測されていた(つまり手紙を書いたのも寺林)。


しかし本当に手紙を書いたのは、筒見紀世都だと思う、『メスからオスが生まれる』の発言も手紙の内容と一致する。この思考に関しては寺林も有識者だが、エピローグのシーンで鉄道模型の建物の中に、手紙通りの人形を配置されていたのが発見される。それができたのは紀世都しかいなかったように思える(教授も紀世都が作ったものだと言っていたし)。


タイミングとしては、手紙を渡したあとに人形を仕込んだのかな。紀世都は家に帰ったのに教授とも顔をあわせていないようだったし。


曲者なのは、手紙には「首を切った男」であり誰であるかが明言されていないことにある。明日香の首を切ったのが寺林か紀世都かはわからないけど、裏で手をひいていたのは紀世都のように思える。




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