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『天冥の標Ⅲ〈アウレーリア一統〉』感想:過去と未来を繋ぐ物語【小川一水】

「総員傾聴!天に在り、すなわちここに在る主神代理ケブネカイセの聖位のもと、大王主デイム・グレーデル・シンデルのしもべ、主教サー・アダムス・アウレーリアが命じる!系内平和をかき乱す、邪なる者滅ぼすため、一統身命を御許に擲ち、怒り、溜め、撃ち放せ!大気なくとも大地あり!」

(引用:天冥の標Ⅲ〈アウレーリア一統〉P67)


小川一水の長編SF小説『天冥の標』のシリーズ第3段『天冥の標Ⅲ〈アウレーリア一統〉』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前回の感想・考察はコチラ
【『天冥の標Ⅱ〈救世群〉の感想・考察』】


目次

感想

サブタイトルの〈アウレーリア一統〉から察せられた通り、『天冥の標Ⅰ』で登場したアクリラ・アウレーリアの先祖たちの話。


呼吸を必要としない電気体質のルーツや、アウレーリアの歴史など今まで語られていなかった興味深いことが目白押しだった。


ⅠとⅡに比べるとガッツリSFで今まで一番読んでてボリュームがあったな。Ⅰが約2800年、Ⅱが約2000年、そして今回のⅢが約2300年の話ということで、飛び飛びの時代に困惑しつつも、過去と未来の繋がりが見えてくると面白くてたまらない。


主要な登場人物たちが、ⅠとⅡの先祖だったりするので、アウレーリアとセキアの繋がりはここから始まったのか…とか垣間見えてる。とくに500年後の2800年でも繋がりがあるとか感慨深い。


アイザワとクルメーロも未だに一緒にいて、Ⅱの絶望的な状況からなんとか協力してやってきたんだろうとは想像できるけど、冥王斑患者の扱いが冥王斑発生から300年たった今でもあまり変わってなくて、彼女たちの境遇が胸にくる。

──ドロテア

物語の本筋はドロテアを巡る争いと言っていいだろう。Ⅰにサラッとでてきたこのドロテア。大きな宇宙船くらいのイメージだったけど、実際はとんでもなく物騒な代物だった……。そりゃ500年後の未来でも〈海の一統〉たちに語り継がれるわけだ。


終盤までドロテアを誰が、何のために作ったのか?というのは明かされなくて、次回に持ち越しかなぁと思ってたら、最後の断章でとんでもない事実が明かされて……。スケールが違いすぎる……。人間なんてちっぽけなんだなぁって……。


Ⅰでアクリラが「こんなところにドロテアがあるはずない!」みたいなこといってたけど、ドロテアの本質を知ったらそう思うのも納得。


やっぱりⅠでハーブCで重工兵が作業をしてたのってドロテアが目的としか思えなくなってきた。


ただし、今回でてきたドロテアと、Ⅰでアクリラが発見したドロテアは明らかに別物だと思われるんだよな。

その複雑で禍々しい姿をぼんやりと眺めているうちに、絡みつくパイプ類に隠された、紡錘形の精悍な輪郭を見つけたようにアクリラは思った。
見覚えがあった。屋敷の広間を圧していたタペストリー。《海の一統》の全員が全歴史を通じて目にしてきた伝説の旗艦。厳戒される破砕の箱。

(引用:天冥の標Ⅰ〈上〉P340)


形と大きさがⅢででてきたドロテアと異なる。一部が組み込まれたのかな。


──まだまだ謎は深まるばかりで……

ⅠとⅡでの繋がりは少なったけど、今回のⅢで今までの橋渡しができたようなイメージ。だがしかし解決された謎があれば、深まる謎もあるわけで……。まだまだストーリーがどこに向かっていくのか予想もつかない。


究極的には、ダダーとミスチフの対決に人類が巻き込まれているっていう構図なのかな……。現在でもその節があるけど。

「ミスチフ、失敗した被展開体。オムニフロラと睦んでしまった、ぼくの歓迎できない仲間だ」

(引用:天冥の標Ⅲ P509)

オムニフロラってこれまででてきたっけ……?はじめて見た気が……。


ドロテアを造るのにミスチフが裏で手を引いていたけれど、ミスチフがダダーと同じような被展開体だとすると、ダダーが人を利用してるように、ミスチフも”何か”を利用して、その”何か”がドロテアを造ったってことになるよな……?


──印象に残ったセリフなど

「それが私の境地。救世群の境地。囲まれて奪われて突き落とされて叩かれる。苦しくて、痛くて、息もできないでしょう。どうして自分がこんな目に遭うのかって、呪わしいでしょう。人も神も名にもかも遠ざけたくなるでしょう。──あたながわかるわ、とてもよくわかる。生まれてきた新しい赤ん坊を見るような気持ちよ。ようこそアダムス、愛しいわ。今までで一番あなたを近くに感じる」

(引用:天冥の標Ⅲ P384)

グレアの狂気。なんとなく千茅の影がチラつく。血を引いてるんだなぁって実感する。

「重要よ、知らないことを知るというのはね。それが無意味であればかるほどいい。意味を求めると濁るから。──私はそれが、私たちと海賊をわける点だと思っているわ」

(引用:天冥の標Ⅲ P424)

救世群は、どんな墓を作るのだろう。
はじめ太平洋上の小島にあり、紆余曲折を経て月に追いやられたのが彼らだ。もとの国籍や民族に関係なく、そういった差別を受けてきた彼らのことだから、当然、先祖代々の土地、代々の墓といった概念もないだろう。もっていないがゆえに、ああも恨むのかもしれない。
墓を持てない一族。そういういさ捉え方をすると、ひときわ救世群の悲哀が身に迫るような気がした。

(引用:天冥の標Ⅲ P532-533)

”墓を持てない一族”って形容、グサッてくる。


最後に

断章ではいつも爆弾ぶっこまれて気が休まらない。何はともあれ続編に期待。

【『天冥の標Ⅳ』感想】

  


【オススメ】




『天冥の標Ⅱ〈救世群〉』の感想と考察【小川一水】

小川一水の『天冥の標Ⅱ 救世群』の感想と、疑問・考察について書いた。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


【『天冥の標Ⅰ』の感想はコチラ】

目次

感想

『天冥の標Ⅰ』での未来の話とは打って変わって『天冥の標Ⅱ〈救世群〉』では現代の話。それだけで「おいおい、続きじゃないんか!?カドムたちはどうなったんや!?」ってなった。


けれども、裏表紙のあらすじの「すべての発端を描くシリーズ第2巻」とあるように冥王班について触れられはじめ、Ⅰとの繋がりが見えてくると一気に物語に引き込まれる。


物語に引き込まれたのは、Ⅰとの繋がりがきっかけだけど、そこから先はシンプルにストーリーと展開が面白かった。読んでいてつらい場面もあったが……。


同じ本を読むにしても、読む時期によって受け取る印象が変わるだろうなぁと思わざるを得なかった。というのも感染症について大きく触れられている物語なので、ついつい今のコロナの状況と照らし合わせて読んでしまう。


もしまだコロナが蔓延する前に読んでいたとしたら”フィクションの世界”と割り切って読めていただろうが、コロナ禍の今の状況だと、もし今回のコロナがこれほど殺傷力があったとしたら、阿鼻叫喚の世界に変わってしまっていた可能性も否定できないと思うと、ゾッとした。


圭吾視点からみる医療現場もずいぶん悲惨さが溢れているけど、とくに競技場に感染者が集められるところから、無人島へ送られるところなんて辛すぎるんだよなぁ……。理想論だけでは語れないつらすぎる現実がある。


天冥の標ⅠとⅡの繋がり

1.フィオドール

Ⅰでは、カドムが持っている石造のロボットの名前
Ⅱでは、主要な登場人物の名前であり、そのAIは『フェオドール・ダッシュ』という名前。


そしてⅡの最後では、AIのアバターとして石造のロボットがでてきている。

2.病気

Ⅰでイサリがもたらした病と、Ⅱの病、病名はともに『冥王斑』であり同じである。

3.ダダー

断章で唐突にⅠにでてきたダダーがでてきた。フェオドール・ダッシュを乗っ取ったようだが……これがⅠにでてきたダダーになると思われる。

4.救世群

千茅たちは回復者たちである自分たちの事を『救世群〈プラクティス〉』と名乗り始める。

そしてⅠのラストで

かつて六つの勢力があった。
それらは「医師団〈リエゾン・ドクター〉」「宇宙軍〈リカバラー〉」「恋人〈プロステイユート〉」「亡霊〈ダダー〉」「石工〈メイスン〉」「議会〈スカウト〉」からなり、「救世群〈プラクティス〉」に抗した。

(引用:天冥の標Ⅰ〈下〉P357)

とあるようように、この救世群が着実に力をつけていくであろうことが伺える。


残された謎・今後気になる点

1.コトクトについて

「解剖学的に地球の生物の系統樹から大きく外れたことクトクトの体や、大気圏突入を前提とした卵の構造、それに冥王斑を人類に蔓延させるために調整されたとしか思えない、ゲノム塩基配列などから、これは地球の生き物ではないと考えられます。その意味するところを、私はこう解釈しました。──すなわち、冥王斑とは地球外の何者かが仕掛けた、大げさないたずらだった、と」

(引用:天冥の標Ⅱ P433)

もっともらしい事をいっているが、これを言っているのがフェオドール・ダッシュだから素直に受け取れない。


2.村崩壊の原因

ジョプの村が冥王斑に襲われることになった原因は下記である。

だが、そこで運命が一変した。夫婦がある者にそそのかされ、何かを食べた。そこから悪夢が始まった。

(引用:天冥の標Ⅱ P195-196)

ある者何かは、今回明かされていなかったが、”何か”はコクトク関連だと推測できる。


またジョプが”ある者”と言っているので、ジョプが名前の知らない村の部外者であることが想像できる(この書き方だと村人の誰かという意味で”ある者”をさしている可能性もあるが)。


そうなるとコトクトについて知っていて、かつ閉鎖的なこの村で婚礼の儀に参加できる人物と考えるとだいぶ謎が深まる。


印象に残ったセリフなど

どうということもない、何の意味もない会話。再び自分にそれができたことが、自制を忘れるぐらい嬉しかった。しかも、もっともあり得ないと思っていた相手がそれを持ってきてくれたのだ。
それに自分が飢えていることすら、いつしか忘れ果ててしまっていた。千茅は両手で代わる代わる涙をぬぐいながら、必死になってマイクに手を伸ばした。

(引用:天冥の標Ⅱ P225)

この国に国民は人間に囲まれすぎているいっぽう、アジアの多くの都市よりも恵まれた環境に生きており、外因に害される心配がないので、人間関係以外のものが見えなくなっている。興味があるのは自分とつながりのあるごく狭い世界だけ。──あの圭吾や華奈子のような例外はあるにしても、ほとんどの人が自分の周りに壁を作り、壁の外の事は関係ないと考えている。ただ壁の内側に入られたと感じたときだけ、昨日の施設で目撃したように、猛然と反撃してくるのだ。

(引用:天冥の標Ⅱ P265)

まさに今の日本の状況に近い。

最後に

千茅視点しかり、圭吾視点しかり、相変わらず気になる終わり方なんだよなぁ。ⅠとⅡの繋がりが今後のストーリーでどのような影響をもたらすのか、とても楽しみだ。

【天冥の標Ⅲ〈アウレーリア一統〉の感想】

【オススメ】




『天冥の標Ⅰ 〈メニー・メニー・シープ〉』の感想:革命と忍び寄る絶望【小川一水】



小川一水の『天冥の標Ⅰ〈メニー・メニー・シープ〉』の感想を語る。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


目次

感想

著者の作品は以前『第六大陸』を読んだことがあり、それが面白かったので今回読み始めたシリーズ作品『天冥の標』も期待を込めて読み始めた。


読みはじめてビックリしたのは『第六大陸』を書いた人と同じ作者とは思えなかった。もちろんいい意味で。現代に近い舞台設定だった『第六大陸』に対して『天冥の標』は2800年という未来の物語。


時代が違うだけではなく、作風がかなり違う印象。『第六大陸』は王道のハードSFって感じだけど、『天冥の標』はSF要素、電気体質を手にした人間や昆虫兵が登場するファンタジックな要素、政治的なやり取りなど、幅広い要素を詰め込んだ作品となっていた。


勝手にSF作家かと思っていたから、今回の『天冥の標』でSFとは違ったそのギャップにやられた。未来の世界の物語ではあるが、この星では先端文明の技術が失われていて見ることはなかったが、今後技術が失われなかった世界では、どんな世界が広がっているのか気になるところ。


今回の『天冥の標Ⅰ〈メニー・メニー・シープ〉』では、まだまだ序章の序章って感じで、回収されてない伏線どころか、物語もいい所で終わっているので引き続き、次作を読んでいきたい。


──交錯する想い

医師のカドム、海の一統のアクリラ、議員のエランカ…と複数の視点で物語が進んでいくが、どこの視点も面白かった。


アクリラ視点で進む、メニー・メニー・シープの外へと向かう冒険が希望と絶望の隣合わせの展開がとくに印象的。新天地を求めて希望をもっていたはずが、仲間が次々と死んでしまっていき、カヨと二人で地上より400キロの地下に閉じ込められて……。


さらにその新天地の場所も謎に包まれすぎてて今後の鍵になりそう。


最初と最後で180度印象が変わったのがユレイン。彼もきちんとした正義を背負っていたんだなぁって。下巻の中盤でスピーチの最中に涙を流すシーンなどがあり、彼はいったい何を抱えているのだろう?と疑問を持って、段々と思いつめていく彼に同情してしまった。


ただ自分が助かりたいだけの敵かと思ってたから、真相を知ったときはなんとも言えない想いになった。



──弱者の反撃

ストーリー全体を通して、困難を乗り越えての『弱者の反撃』。これが印象的だった。


強大な権力を保有するユレインに対する植民地の民達の反撃、これが大きな流れの弱者の反撃だが、そこに至るまでの個々の活躍もまたしびれる。


人間を殺すことが禁忌のはずなのに、ラバーズのベンクトは大事なモノを守るためにそれを犯した。石工〈メイスン〉たちはリリーを主導に怒りを覚えて人間への抵抗をしたり…と、今まで不当な支配を受けていた側の者たちが困難を乗り越えていく様子があつい。


彼らの活躍が個々の小さな流れを作り、それらが集まって全体を動かす大きな流れとなって革命を起こしているようだった。


──残された謎

『天冥の標Ⅰ』を読んで気になった謎や伏線などを簡単にまとめた。

1.イサリについて

・他のフェロシアンは、ユレインによって抑えられていたのに何故イサリだけ逃げ出すことができたのか?

2.メニー・メニー・シープの外の新天地

アクリラたちが辿り着いたメニー・メニー・シープの外の世界は謎ばかり。

・人の20倍ほどの大きさがあるとされる重工兵が巨大すぎる濠と壁を作っていたが、目的は明らかになっていない。

深さ百メートル以上ありそうな深い谷──いや、濠だ。U字型の地溝が左右にどこまでも伸びている。その先はほこりっぽい空気の中に消えており、果てもみえない。
向こう岸までの距離は一キロ以上もありそうで、岸の上に最も驚くべきものがあった。垂直に立ち上がる高い壁だ。濠に沿って左右へ長く伸びており、これもどこまでも続いているのか見当もつかない。
その壁の高さは濠の底から二百メートルにも達しているようだった。

(引用:天冥の標Ⅰ 〈上〉 P317)


・植民地の人を逃さないための壁、敵から守るための壁などの考察は物語の中でされていた。
・アクリラが四百キロの地下で『ドロテア』と呼ばれる巨大戦艦を目撃する。
・なぜ、地下深くに埋まっているのか?
・重工兵が掘っているのは、ドロアテが目的か?
・ユレインですら重工兵の工事の目的はわからない。

3.地球からの訪問者

・ルッツとキャスランという人物が地球から植民地へ、救援要請を出してほしい。と登場。(〈下〉P160)その後地球についての話題はでていない。

4.アクリラの生死

・深淵へ落下して……(〈下〉P324)とあるが決定的な死ではない(?)。というか死んでないと思いたい。

5.ハーブC

・この星は本当にハーブCなのか?

「私にも分からないねえ。私は理詰めで考えただけだよ。ハーブCにはドロアテは落ちていない。ドロテアはこの地に埋まっている。だから、ここはハーブCではない。ただの三段論法だ。その間にどれだけ条件が狭まるのやら」

(引用:天冥の標Ⅰ 〈下〉P71)


6.羊飼い

・ラバーズのオーロラがエランカに「羊飼いを味方にするといい」と助言をしたが、その伏線は回収されていない。

7.ダダー

・〈上〉P82では”偽薬売りに『ダダー』のルビがついていた。
・物語の要所要所で「ダダーめ」など不思議な使われ方をしてる。ノルルスカイン曰く、ただの驚きの間投詞とのことだが。
・昔は実在する者を指す言葉だった。シェパード号を墜落させた人だとも、シェパード号の人々を守ったとも言われる、奇妙な人物──あるいは機械(〈上〉P238)
・ノルルスカインがダダーと呼ばれる。
・ダダーはシェパード号の制御人格である。(〈下〉P313)

8.カドムが地下通路で聞いた謎の音

・この音について下記以降触れられていない。

一万歩を過ぎると、どこからか不気味な低い音が伝わってきた。どぅん……どぅん……という、巨大な太鼓のようにも落雷のようにも聞こえる音だ。間隔は長く、一定ではなかった。
「あれはなんだ?」
カドムは訊いたが、イサリは答えなかった。その音は十回ほど聞こえて、途絶えた。

(引用:天冥の標Ⅰ〈下〉P137)


最後に

物語の終わり方が予想外すぎたなぁ……。絶望感しかない。これは……続きを読まざるを得ない……!

【天冥の標Ⅱ〈救世群〉の感想】


【オススメ】




高田大介の小説一覧とこれから刊行するであろう作品まとめ【3作品+α】

私の好きな作者、高田大介氏の2023年現在で出版されている小説と、これから出版されるであろう小説についてまとめた。現在出版されている小説についてはあらすじ、紹介、ネタバレは触れていない感想を述べている。

また『図書館の魔女』に関しては、考察・登場人物一覧など別ページで色々と書いているのでよろしければコチラからどうぞ。


目次

1.作品一覧

──①図書館の魔女

──あらすじ

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女(ソルシエール)」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たないうら若き少女だった。超弩級異世界ファンタジー全四巻、ここに始まる!

──剣でも魔法でもない。少女は言葉で世界を拓く
【ボーイミーツガール】であり、【知的エンタメ】であり、【国家謀略戦争】であり、【大冒険】でもある。しかし何より大きいのは、『図書館の魔女』は"言葉"がテーマのファンタジー作品だという点だ。


タイトルは『図書館の"魔女"』だが、魔術で物を浮かせたりだとか、大釜で怪しげな薬を作っていたりだとかそんなことはない。ファンタジーに出てくるような竜だとか、伝説の剣だとか魔法もでてくるわけではない。


むしろファンタジーなのに非現実的要素を全否定するような場面すらある。


そんな世界観の中、図書館の魔女・マツリカは魔法を使わずに言葉を使う。いくつもの言語を扱い、難解な書物を繙き、言葉一つで世界を動かす。それにも関わらずマツリカ本人はしゃべることができないのだ。このギャップに惹かれないことがあるだろうか、いやない。


手話を用いた意思伝達を主としているマツリカのもとにある日、少年・キリヒトが手話通訳として図書館に遣わされる。特別な境遇に生まれ、特別な能力をもった二人の出会いで物語は始まる。お互いの能力で欠点を補いながら、そして、なくてはならない存在へと変わっていく。その過程が、やりとりがたまらなく愛おしい。


文庫本では第1巻~第4巻で構成されており、合計のページは1800ページを越える長編作品だが、ページ数もさることながら内容が非常に濃密である。

──②図書館の魔女 烏の伝言

──あらすじ

道案内の剛力たちに導かれ、山の尾根を行く逃避行の果てに、目指す港町に辿り着いたニザマ高級官僚の姫君と近衛兵の一行。しかし、休息の地と頼ったそこは、陰謀渦巻き、売国奴の跋扈する裏切り者の街と化していた。姫は廓に囚われ、兵士たちの多くは命を落とす……。喝采を浴びた前作に比肩する稀なる続篇。


──暗躍する者達
シリーズ第二作目の『烏の伝言』
一ノ谷、ニザマ、アルデシュの三国円卓会議から約一年後、舞台は東大陸の一ノ谷とはうってかわって西大陸のニザマ方面へと舞台を移しての物語。


あくまでストーリーの主軸は、ニザマ高級官僚の姫君と近衛兵、そして山の案内をする剛力たち。一ノ谷、ニザマ、アルデシュの和睦会議の結果、実際に影響を受けた者の逃避行を描いた物語。ということで前作の敵国の人々が中心となっている。


三国の和睦が成立し、ニザマ帝勢力とミツクビ勢力が真っ二つになった現在ニザマ国。そしてニザマ帝により、逆賊として追われるミツクビ率いる宦官連中。


その宦官派に属する高級官僚の姫君と近衛兵は追っ手から逃れるために山を越えての逃避行を図る事となる。姫君と近衛兵が山越えをするにあたり、山中のガイドとして雇われたのが、剛力衆である。


本来の剛力としての仕事とは異なるものの、彼らも三国和睦の影響により仕事がなく、道案内という危険な依頼を引き受けることになる。


作中の重要な登場人物たちにがいる。鼠と言っても齧歯類(げっしるい)のほうではなく、港町の地下で生きる孤児の少年たちの名称。


地下でひっそりと生きる彼らの力を借りて、近衛兵と剛力たちは迫り来る追っ手から逃げ回る。


近衛兵・剛力・鼠、本来は住む世界が異なる三方の結束が深まっていく様子が今作のポイントの一つだと思う。最初は己の目的のため、利用し利用されの関係だったが、お互いの美徳に気付き感化・共闘する様は心揺さぶられるものがある。


──③まほり

──あらすじ

蛇の目紋に秘められた忌まわしき因習
膨大な史料から浮かび上がる恐るべき真実
大学院で社会学研究科を目指して研究を続けている大学四年生の勝山裕。卒研グループの飲み会に誘われた彼は、その際に出た都市伝説に興味をひかれる。上州の村では、二重丸が書かれた紙がいたるところに貼られているというのだ。この蛇の目紋は何を意味するのか? ちょうどその村に出身地が近かった裕は、夏休みの帰郷のついでに調査を始めた。偶然、図書館で司書のバイトをしていた昔なじみの飯山香織とともにフィールドワークを始めるが、調査の過程で出会った少年から不穏な噂を聞く。その村では少女が監禁されているというのだ……。代々伝わる、恐るべき因習とは? そして「まほり」の意味とは?
『図書館の魔女』の著者が放つ、初の長篇民俗学ミステリ!   

(引用:「まほり」 高田 大介[文芸書] - KADOKAWA)



──膨大な史料から浮かび上がる驚愕の真実
ファンタジー作品の『図書館の魔女』とは違い、現実世界を舞台にした民俗学ミステリーの『まほり』。知識量と情報量が圧倒的で、史実をベースを展開される物語はリアリティの塊である。


大衆の歴史の裏に隠れて普段は表立っては出てこない史実をベースとして物語は展開されていくわけだが、とにかく事実と虚構(フィクション)の境目がわからなくなるくらいリアル。もしかしたら物語に登場する村はどこかあるのでは…?こんな風習が残されているんじゃないか…?と思ってしまうほど。


白文がでてきたり、知識量と情報量の圧倒的物量で会話が進んで行くところがあったり、歴史について深く突っ込んだりと、要所要所は間違いなく難解である。


だがしかし、白文でいえば登場人物たちがうまい具合に解説をしてくれたりと、なるべくスムーズに読み進められるようになっているので安心してほしい。


そして、そんな膨大な史料から答えを読み解いていき、少しづつ物語の全体像が浮かび上がってくる様子が、パズルのピースを一つ一つはめていき全体像を作っていくようでたまらなく面白い。史料を読み解くにしても、机にかじりついているだけではなくフィールドワークや実体験の昔話からのアプローチを駆使しているのも物語に引き込まれる。


あとは難しい話だからこそ、登場人物たちのやりとりがまた映えるし癒やされる…。


とはいえ、なんといっても一番のポイントはタイトルの『まほり』の意味、そして表紙にも散りばめられた◎の意味。すべての答えが明かされる時に…!


(追記:2022/1/17)
『まほり』の文庫本が2022年1月21日についに発売となる。まだ読んだことがない方はこの機会に是非…!



2.番外編

──『鍵』

『図書館の魔女』の読者のあなたのための物語
ということで下記のサイトから『図書館の魔女』のショートストーリーが読める。もちろん著者が書いたストーリー。詳しい時系列はわからないが、恐らくは烏の伝言の後くらいだと思われる。


また、上記の『鍵』を含めたショートストーリー集『Story for you』が講談社より発売となった。
ファンタジー、青春、エンタメ、児童文学……など幅広いジャンルを豪華絢爛62人の著者が綴ったショートストーリー集となっている。気になる著者、好きな著者がいるなら手を出してみてはいかがだろうか。


3.これから刊行されるであろう小説

──図書館の魔女 霆ける塔

『図書館の魔女』『図書館の魔女 烏の伝言』に続くシリーズ第3段が『図書館の魔女 霆ける塔』

2019年9月の著者のブログでは、「あと少しで脱稿します」との記事があった。


──記憶の対位法(仮題)

まだ数章しか書けていないとのことでしたが、『図書館の魔女』とは違う物語、『記憶の対位法』も現実並行して進めているらしい。


以下のリンクが著者のブログで新刊の事が載っていた記事だ。
『まほり』刊行、長らくご無沙汰のお詫びかたがた | 図書館の魔女 de sortiaria bibliothecae

4.その他

単行本、文庫本という形ではないが、高田大介氏が他にも書いているものがある。


野性時代第139号で『味噌をつける』という話(私は読んだことがないので詳細はわからないが……)


また、著者は現在フランスで暮らしているのだが、そこでの生活に触れたエッセイ『異邦人の虫眼鏡 Vol.1 フランスの悪い草』が「別冊文藝春秋」11月号で掲載されている。





【関連】




【オススメ】




『かがみの孤城』の感想を好き勝手に語る。鏡の向こう少年少女の体験記【辻村深月】


2018年本屋大賞、堂々の1位に輝いた、辻村深月の『かがみの孤城』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。




目次

あらすじ

あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた──
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

感想

──まとまりがあるストーリー

全体として見るとストーリーはキレイにまとまっている。不思議な城とオオカミさまとの邂逅、個人が抱える闇、仲間との出会い、そして成長。ホント粗がなく順当に面白かった。


ミオが作った”かがみの孤城”の設定の細かさがこの作品に深みを出していると思う。

姉の好きだったドールハウス。
迎えられた7人
姉がよく読んでくれた絵本になぞらえた『七ひきの子やぎ』の鍵探し。
そして、城が閉まると言われていた三月三十日。
三十一日ではなく、三十日。
その日が姉の命日であることに、意味がないとは思えなかった。

(引用:かがみの孤城 P537)

「みんなの中で、1999年だけ、抜けてるんだ。七年ごとに呼ばれているのに、その代だけ、だれもいない。アキとオレたちの間だけ、倍の十四年、違う」
こちらを振り向かない”オオカミさま”に声をぶつけるように訴える。
「オレと姉ちゃんの歳の差は、七歳だよ」

(引用:かがみの孤城 P538)


驚きのポイントとしては、①オオカミさまの正体、②喜多嶋の正体、③そしてパラレルワールドではなく時代が異なる。という3点が大まかな所だったと思う。


私はオオカミさまの正体だけは気づかなかったけど、喜多嶋の正体と時代が異なる、の2点は予想ができた。大どんでん返し的な面白さの要素は薄いかもしれないが、先が多少読めたとしてもそれを覆す程の登場人物たちの関係や設定の細かさが『かがみの孤城』の魅力だと思う。


読み始める前は、城の冒険がメインの異世界ファンタジー的な作品のイメージだったが、実際はそれとは異なり城での冒険ではなく、城を通しての登場人物たちのやりとりがメインだったのが意外だったけどもそれはそれで良かった。


現実世界ではありえない、違う時代の同じ世代とのやり取り……。12歳が12歳に会うのと、12歳が30歳に会うのでは関係がまったく変わってしまうもんなぁ……。


あとは『オオカミと7匹の子ヤギ』の童話自体を私は知らなかったから、城の設定が明かされたときに『なるほど!!』と感動できなかったのが残念だった……。


──こどもたちを繋ぐもの

オオカミさまを含めて、城には8人の子供がいてそれぞれは最終的には仲良くなって終わるわけだが(オオカミさまは除く)、とくに2人ずつが種類の異なる形で結ばれているのが印象的だった。


ウレシノとフウカは恋愛的な繋がり
スバルとマサムネは友情的な繋がり
こころとあきは庇護的な繋がり
リオンとミオ(オオカミさま)は姉弟の繋がり


このそれぞれにドラマをもたせてるのも抜け目がない。


ウレシノ&フウカのその後については、書かれていなかったが、これから未来で、いずれ出会えうことができれば夢がある。


スバル&マサムネは、ゲームで繋がる友情があつい。

「目指すよ。今から”ゲーム作る人”。マサムネが『このゲーム作ったの、オレの友達』ってちゃんと言えるように」
口が──きけなかった。
見えない力で胸が押されたように、息まで止まりそうになる。鼻の奥がつん、となって、あわてて、熱くなった目を伏せた。

(引用:かがみの孤城 P523)

ここの場面めっちゃすき。

このあとに別れの前の自己紹介で皆のフルネームが明らかになり、スバルの名前が”長久昴”だということが初めて分かるわけだが……。

「あん?知ってんだろ?『ゲートワールド』。今超売れてるプロフェッサー・ナガヒサのゲーム。まさか知らねえの?」
「ナガヒサ……?」
スバルが怪訝そうに問い返す声に、マサムネが苛立ったように言う。
「ナガヒサ・ロクレンだよ!ゲーム会社ユニゾンの天才ディレクター」

(引用:かがみの孤城 P358)


ちゃんと繋がってくるんだよなぁ……。さすが。もしかしたら、スバルが「ゲームを作る人になる」って言ったのは、マサムネのここのセリフを覚えていたからでもあるんじゃないかな。


『昴』の意味は

二十八宿の一、昴宿(ぼうしゅく)の和名。牡牛座(おうしざ)にあるプレアデス星団で、肉眼で見えるのはふつう6個。六連星(むつらぼし)。

(引用:昴(すばる)とは? 意味や使い方 - コトバンク)

ロクレンは6連星から取っているんだろう。



こころ&アキ
アキは城でこころに救われ、こころは「こころの教室」でアキに救われる。守り守られの関係、しかも記憶がなくなっているけれどもしっかり巡りあっているっていうのがほっこりする。しかもあのアキが立派な大人になって……。


リオン&ミオ(オオカミさま)、ついつい主人公のこころに注目してしまう所だけど、この二人の真相が一番びっくりした、完全に予想外だった。いい姉弟愛…。

──印象に残ったセリフなど

「自分は、みんなと同じになれない──、いつ、どうしてそうなったかわからないけど、失敗した子みたいに思えていたから。だから、みんなが普通の子にするみたいに友達になってくれて、すごく嬉しかった」

(引用:かがみの孤城 P528)

「未来で待ってるから」
そう言うのが精いっぱいだった。晶子が目を見開く。
「2006年。アキの、14年後の未来で、私は待ってる。会いに来てね」

(引用:かがみの孤城 P532)

時をかける少女かな?

最後に

著者の他作品は『冷たい校舎の時は止まる』と『スロウハイツの神様』は読んだことがある。『かがみの孤城』とそれらの作品で共通するのは、限られた空間の数人からなるグループがメインで構成されたストーリーである点。


『冷たい校舎の時は止まる』では、同級生同士が学校という空間で、『スロウハイツの神様』では、スロウハイツに集まった仲間同士で、そして『かがみの孤城』では、雪科第五中学に通えていない者同士が城で。


このようなシチュエーションの作品が著者は得意なのかな。他の作品も是非読んでみたくなった。



【オススメ】




【17作品】2020年下期に読んだ小説を5段階で評価する&ベスト3紹介【一言感想】


2020年下期(7〜12月)に読んだ小説17作品を5段階評価で好き勝手に感想を書いていく。


そして、後半は下期に読んだ小説の面白かった作品ベスト3をあらすじなどと共に紹介。2020年に発売した小説ではなく、あくまで私が7〜12月に読んだ小説なのでご注意を。

目次

1.読んだ小説・一言感想

虹を待つ彼女/逸木 裕
☆☆☆☆
タイトルと表紙がまず良き。
人工知能についての考えも面白いし、彼女の自殺の謎、ラストでは今までにない読後感を味わうことができた。


第六大陸/小川一水
☆☆☆☆☆
宇宙へ行くことのリアルさがいい。
宇宙に関する知識については言わずもがな。ひときわ印象に残っているのが宇宙へ行くこと、月に安定した拠点を作ることの難しさ、そしてそれにどれほどお金がかかるのか。


Unnamed Memory Ⅰ/古宮九時
☆☆☆
なんとなくかたいファンタジーを想像していたけど、キャラ同士の掛け合いが軽快で癖になる。Ⅰまだまだ序章って印象でこれからの展開が気になる。


キャプテンサンダーボルト/伊坂幸太郎・阿部 和重
☆☆☆☆☆
ペア、相棒そんな言葉が似合う小説だった。相葉と井ノ原の主人公コンビはもちろん、米軍兵の二人もそうだし、なにより伊坂幸太郎と阿部和重のコンビ。



彩雲国物語/雪乃紗衣
☆☆☆
芯のある真っ直ぐな少女が女性官吏を目指す中華ファンタジー。
ページ数は少ないが、内容は熱い。続きが気になる。


彩雲国物語2/雪乃紗衣
☆☆☆☆
魅力的な登場人物ばっかり。今回の巻でいえば燕青かな。


彩雲国物語3/雪乃紗衣
☆☆☆☆
どんでん返しがすごい。


三体/劉慈欣
☆☆☆☆☆
圧倒させられた。物語のスケールと、その展開に。
最近読んだものの中では一番おもしろかった。


三体2/劉慈欣
☆☆☆☆☆
期待を裏切らない第2作目。
第1段の流れをそのままにさらなる展開が最高。



彼女は一人で歩くのか?/森博嗣
☆☆☆☆
SFの森博嗣。ミステリの森博嗣よりさくさく読める。あの人の登場が予想外すぎて最高だった。



月は幽咽のデバイス/森博嗣
☆☆☆☆
意表を突かれた。王道のミステリーを求めている人からしたら、賛否両論は生むかもしれない作品だと思うけど、個人的にはすき。
「人はすべての現象に、意味を持たせたがる」


ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人/東野圭吾
☆☆☆☆
コロナの時代背景を反映させていてタイムリー。探偵役のキャラとマジシャンって設定が面白い。回収してない伏線がありそうなのでぜひ続編をだしてほしい所。


彩雲国物語4/雪乃紗衣
☆☆☆☆
さらっと重い過去語るやん…。
ターニングポイントの一冊。


彩雲国物語5/雪乃紗衣
☆☆☆☆☆
女性は強い。
その強さを支える信念が心に響く。


彩雲国物語6/雪乃紗衣
☆☆☆☆
王の孤独が胸にしみる。


魔法の色を知っているか?/森博嗣
☆☆☆☆
終わり方気になりすぎる。



かがみの孤城/辻村深月
☆☆☆☆
本屋大賞受賞作
物語全体がキレイにまとまってる。


2.2020年下期ベスト3

2020年下期に読んだなかでとくに面白かった3作品をあらすじなどとともに紹介していく。


3位:キャプテンサンダーボルト


──あらすじ

世界を救うために、二人は走る。東京大空襲の夜、東北の蔵王に墜落したB29。公開中止になった幻の映画。迫りくる冷酷非情な破壊者。すべての謎に答えが出たとき、カウントダウンがはじまった。二人でしか辿りつけなかった到達点。前代未聞の完全合作。

──伊坂幸太郎と阿部和重のコラボ作
『キャプテンサンダーボルト』は伊坂幸太郎と阿部和重、二人の大人気作家のコラボ作品。


『ペア・相棒』そんな言葉が似合う小説で、作家ふたりのコンビという意味もあるし、物語の中の主人公コンビも面白いし、カッコいいし印象的である。



ストーリー前半はあまり動きはないもののじわじわと広がる不穏な気配でどんな展開が待っているのか気になるし、後半はその期待を裏切らないスピード感とスリル、そして伏線回収で見事なエンタメ小説になっている。




2位:第六大陸

──あらすじ

西暦2025年。サハラ、南極、ヒマラヤ──極限環境下での建設事業で、類例のない実績を誇る御鳥羽総合建設は、新たな計画を受注した。依頼主は巨大レジャー企業会長・桃園寺閃之助、工期は10年、予算1500億そして建設地は月。機動建設部の青峰は、桃園寺の孫娘・妙を伴い、月面の中国基地へ現場調査に赴く。だが彼が目にしたのは、想像を絶する過酷な環境だった──民間企業による月面開発計画「第六大陸」全2巻着工!

(引用:第六大陸 〈1〉 小川一水)


──民間企業が月面開発に挑む

ざっくりと『第六大陸』を説明するとすれば、民間企業が月面開発計画に挑む物語だ。物語上の年は2025年なので現在から考えれば約5年後の未来を描いたストーリーとなる。人類が初めて本格的な月面開発に挑むわけだが、そこに立ち塞がる困難、その困難に立ち向かう技術者たち、宇宙のリアル、そしてロマン……見どころは多彩である。


──計画の主導者は…年端もいかない少女!?
人類初の月面基地を作る壮大な計画、なんとそれの発案者は一人の少女である。もちろんただの少女ではない、彼女は大企業の会長のお嬢様・桃園寺 妙。


恵まれた環境、優秀な頭脳、なに一つ不自由ない暮らしを手にしている幼き少女は、何故月を目指すのか?そして月に何を作ろうとしているか?


ごりっごりのハードSFにも関わらず、それを主導するのが一人の少女なんて夢がある話じゃないか。




1位:三体

──あらすじ

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。
失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。
そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。
その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。
そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?


──圧倒的スケールの傑作SF
『三体』は三部作で構成されている。


第一部:『三体』
第二部:『三体 黒暗森林』
第三部:『三体 死神永生』

現在日本では、2020年6月28日に『三体 黒暗森林』が発売され、『三体 死神永生』に関しては2020年12月現在では、まだ発売日は未定となっている。


具体的に説明すると、『三体』は3章で構成されている。


第1章 沈黙の春
第2章 三体
第3章 人類の落日

この第1章が曲者な部分で、なかなか読み進めにくい。しかし450ページほどの本書で、第1章は50ページほどしかないので、そこは安心してほしい。


『月は幽咽のデバイス』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】

「偶然のうちの半分は、人の努力の結晶です」

(引用:月は幽咽のデバイス P59/森博嗣)


森博嗣のVシリーズ第3作目『月は幽咽のデバイス』の感想を語っていく。ネタバレありなので、未読の方はご注意を。


目次

感想

予想外すぎる結末だった。
王道のミステリーを求めている人からしたら、賛否両論は生むかもしれない作品だと思うけど、個人的にはすき。


物語の中で「人はすべての現象に、意味を持たせたがる」というニュアンスのセリフがあったけど(どこのページか忘れた)、まさにそれを逆手に取った事件の結末。予想外の方向からぶん殴られるような衝撃だった。


一冊で完結する物語でこの結末だったら、拍子抜け……というか納得いかなかったかもしれない。けれどシリーズ作品のうちの一つならば「あぁ、こういう事もあるよな」と自然に受け入れることができた。


あとは作者が森博嗣だったのも受け入れられた要因の一つかもしれない。いちファンとしてのおごりではなく、彼なら何か新しいコトを見せてくれるのではないか?という期待を見事に叶えてくれたからだ。


──プレジョン商会

「えっと、確か、アート・ギャラリィ・プレジョン商会」
「プレジョン?どんな意味かしら?」
《中略》
「いえ、英語じゃないのね」にっこりと紅子は微笑む。

(引用:月は幽咽のデバイス P60)


意味深な場面で、最初はまったくわからなかったけどコレ、『プレジョン商会』がアナグラムになっている。私は個人の方のブログでこの事実を知ったのだが、ノーヒントで気づいた人すごいな…。


プレシジョン(precision)なら『正確、精密』などの意味になるがらプレジョンなる単語はない。しかしプレジョン商会をローマ字にすることで答えが見えてくる。


「プレジョン商会=purejonshyoukai」
これを並べ替えると
「horokusajyunpei=保呂草潤平」
になる。『h』が少し無理矢理感あるけど。


だからなんだ!保呂草よ!そんなコトしてなんの意味がある!と言われればそこまでだが、この小ネタを仕込むところが面白いじゃないか。


──新しい登場人物

シリーズ3作目にして保呂草たちがすむ阿漕荘に新たな住人が引っ越してきた。


その人物『森川素直』は、「大人しく素朴な若者」「平凡」などあたりさわりのない紹介で登場。物語中でもとくに変わった様子は見せず、ザ・一般人という感じだった。


でも、何か気になる。
阿漕荘の住人って総じて一般的な名前ではない。保呂草潤平をはじめ、小鳥遊練無、香具山紫子……と個性的な名前が続く中、森川素直って……。


普通すぎて逆に浮いてる。こうなってくると、彼も今後の物語で何か鍵を握ってるのでは?と勘ぐってしまう。何にせよ今後の物語に期待。




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