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2分でわかる『マスカレード・ゲーム』のあらすじ・紹介【東野圭吾】




今回は、2022年4月20日に発売した東野圭吾『マスカレードシリーズ』の最新作『マスカレード・ゲーム』のあらすじやどんな内容なのかを重要なネタバレを除いてを紹介していく。



目次

1.はじめに

『マスカレード・ゲーム』は、『マスカレード・ホテル』からはじまるシリーズ作品である。以下、シリーズ一覧。

1.『マスカレード・ホテル』
2.『マスカレード・イブ』
3.『マスカレード・ナイト』
4.『マスカレード・ゲーム』

過去作を読んだことない方は、とりあえず『マスカレード・ホテル』から読み進める事をオススメする。シリーズの紹介をしているので詳しくは下記リンクからどうぞ。

『マスカレードシリーズ』一覧・あらすじ紹介




2.あらすじ

解決の糸口すらつかめない3つの殺人事件。
共通点はその殺害方法と、被害者はみな過去に人を死なせた者であることだった。
捜査を進めると、その被害者たちを憎む過去の事件における遺族らが、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。
警部となった新田浩介は、複雑な思いを抱えながら再び潜入捜査を開始する──。
累計490万部突破シリーズ、総決算!

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0-%E6%9D%B1%E9%87%8E-%E5%9C%AD%E5%90%BE/dp/4087754618)


不可解な殺人事件が3件、連続で発生する。この3つの殺人事件に共通すること、それは前科持ちだったこと……被害者は全員、過去に人を殺したことのある人物だったのである。


復讐目的の犯行かと目星をつけた警察は、過去の事件の遺族たちに捜査の手を伸ばすものの、なかなか決定的な証拠をつかむまではいかなかった。


そんな中、その過去の遺族たちがクリスマスイブにホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明する。


この絶好の機会を生かすべく、警部となった新田浩介は、再びホテルマンとして潜入捜査を開始するのであったが、今回もまた次々と問題が浮かび上がってきて……。

3.あらすじ補足

もう少し踏み込んで『マスカレード・ゲーム』について紹介していく。
重要なネタバレには触れないが、ちょこちょこと物語の中身に触れていくので嫌な方は戻る推奨。
















今回の『マスカレード・ゲーム』では、新たな主要人物が登場する。それが女性警部の梓 真尋である。頭がキレ、優秀な人物なのは間違いないのだが、我の強い部分があり、『マスカレード・ホテル』初期の頃の新田を思い出させる。


梓は、事件を解決させるためなら、盗聴・盗撮など手段を選ばない捜査方法で違法ではあるものの、着実に事件の輪郭を明らかにしていく。新田は、これまでの経験があり、更にはホテル側との信頼関係もあるため、無茶な捜査を進める梓と衝突を繰り返すこととなる。
そんな二人のやりとりは、かつての新田・山岸を連想させられるものだ。


さて、ではそんな山岸は?という疑問は当然浮かぶだろう。時系列的には『マスカレード・ゲーム』は、前作『マスカレード・ナイト』の数年後。なので山岸はまだロサンゼルスから戻ってきていないのである……。


だがしかし、ちゃんと山岸は本作に登場し再び新田・山岸ペアを拝むことができるので、二人の活躍を期待している方は安心して読んでもらって大丈夫だ。


肝心の殺人事件の方だが、物語が始まった段階で既に3つの事件が起きていて、次の事件現場として可能性が挙がったのがホテル・コルテシア東京。なんとか事件を阻止するべく新田たち刑事が潜入捜査を行う……という流れなわけだが……。そう、この流れ『マスカレード・ホテル』とかなり近い展開なのである。


もちろん、事件の展開まで同じということはないので、そこは安心してほしい。しかし、似た展開の中での新田・山岸の関係の変化を感じられるのは、今作の大きな見所の一つと言っていいだろう。


事件だけでなく、"シリーズ作品"としての楽しみも大いに堪能できる一冊となっている。これまでの『マスカレードシリーズ』を読んできた方にとっては、必読といっていい作品だろう。


最後に

先程も述べたが、シリーズ通して読んでいる方には、是非勧めたい一冊。ネタバレありの感想等は、下記で書いているので既に『マスカレード・ゲーム』を読んでいる方は是非、どうぞ。

【『マスカレード・ゲーム』感想】





【オススメ記事】






和製ファンタジーといえばこの人!!上橋菜穂子の作品一覧・あらすじ・読む順番等を紹介



和製ファンタジーといえばこの人!!というほどの知名度を持つ上橋菜穂子


その緻密に作り上げられた世界観、登場人物たちの関係性や気持ち、著者の民族学者ならではの知識を生かしての物語……など、子供向けかと思いきや大人が読んでも面白い。また子供の頃読んだことがあっても、大人になった今読んだらまた違う視点で物語を楽しめること間違いない。


今回は、上橋菜穂子の作品をすべてまとめて紹介していく。(エッセイ等は除く)




目次

上橋菜穂子の作品一覧・読む順番

以下、著者の小説一覧である。《》内は刊行年。

1.精霊の木《1989年》
2.月の森に、カミよ眠れ《1991年》
3.精霊の守り人《1996年》
4.闇の守り人《1999年》
5.夢の守り人《2000年》
6.虚空の旅人《2001年》
7.神の守り人〈上〉来訪編《2003年》
8.神の守り人〈下〉帰還編《2003年》
9.狐笛のかなた《2003年》
10.蒼路の旅人《2005年》
11.天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編《2006年》
12.天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編《2007年》
13.天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編《2007年》
14.流れ行く者〈守り人短編集〉《2008年》
15.炎路を行く者〈守り人短編集〉《2012年》
16.風と行く者〈守り人外伝〉《2018年》
17.獣の奏者〈Ⅰ闘蛇編〉《2006年》
18.獣の奏者〈Ⅱ王獣編〉《2006年》
19.獣の奏者〈Ⅲ探求編〉《2009年》
20.獣の奏者〈Ⅳ完結編〉《2009年》
21.獣の奏者〈外伝刹那〉《2010年》
22.鹿の王《2014年》
23.鹿の王 水底の橋《2019年》
24.香君《2022年》


読む順番は、シリーズの途中からでなければ、好きなもの・気になったものから読めばいいだろう。個人的に上橋作品で一番好きなのは『獣の奏者』なので、そこは推しておく。

以下では、シリーズ事に各作品を紹介していくので、そこで気になった作品が見つかれば幸いである。

1.『精霊の守り人』シリーズ

──あらすじ

 老練な女用心棒のバルサは新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズは今始まる


──言わずと知られた和製ファンタジーの代表作
小さいときから読書家だった方なら必ずと言っていいほど通るであろう上橋菜穂子の代表作、『精霊の守り人』シリーズ。以下シリーズ一覧。


【守り人シリーズ・作品一覧】

1.精霊の守り人
2.闇の守り人
3.夢の守り人
4.虚空の旅人
5.神の守り人〈上・下〉
6.蒼路の旅人
7.天と地の守り人〈1〜3部〉
8.流れ行く者〈短編集〉
9.炎路を行く者〈短編集〉
10.風と行く者〈外伝〉


短編集まで含めると全10作品で、『○○の”守り人”』は主人公がバルサという女短槍使い。『○○の”旅人”』は主人公がチャグムという皇子、といった構成となっている。


児童書という枠組みでもあるので、子供向けの作品なんじゃないの?と思われる方もいると思うが、ところがどっこいこのシリーズ、大人が読んでも面白い


純粋な気持ちでストーリーを楽しめる子供時代に出会ったとしても間違いなく面白いだろうし、大人の視点では、世界観の緻密さ、登場人物たちの関係性や気持ち、著者の民族学者ならではの知識を生かしての物語……面白い点が多すぎて物語の世界に没頭してしまうことだろう。


それでありながらキャラクターたちがそれぞれ魅力的で、彼らの会話のやり取りも読みやすい。そしてストーリーも小気味よく進むのでサクサクと読み進めることができることから子供向けというのも納得だ。

2.『獣の奏者』

──あらすじ

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが──。苦難に立ち向かう少女の物語が、今ここに幕を開ける!

──少女の執念は世界を変える
『獣の奏者』は、外伝も含めると5冊からなるファンタジー作品だ。

【獣の奏者・作品一覧】

1.獣の奏者〈Ⅰ 闘蛇編〉
2.獣の奏者〈Ⅱ 王獣編〉
3.獣の奏者〈Ⅲ探求編〉
4.獣の奏者〈Ⅳ完結編〉
5.獣の奏者〈外伝 刹那〉

〈Ⅰ 闘蛇編〉と〈Ⅱ 王獣編〉で一区切りつくので、興味がある方はまずこの2冊を読んでみてはいかがだろうか。


『獣の奏者』は、国と国の争いの物語でもあり、政治的な駆け引きの物語でもあり、決して人に懐かない王獣と少女が心を通わせていく物語でもある。


王獣闘蛇と呼ばれる二つの特殊な生き物が登場するのだが、どちらの生き物も人間では太刀打ちできないくらい強い。


闘蛇は、なんとか人が制御できるため国を守護する兵器として使われている。対する王獣は闘蛇以上に強いが決して人に懐かない。特殊な笛の音で硬直させてからでないと近づくことさえできない。


しかし、主人公・エリンは決して人に懐かないはずの王獣と心を通わせてしまう


エリンと王獣が仲良くなればなるほど、政治的な波に飲み込まれてしまう。心を通わせたい、しかしそれは王獣を兵器として使用させられてしまう事を意味する。そのときエリンが選んだ道は……。


一気読み必死のファンタジー。自信をもってオススメできる作品で個人的には上橋作品の中で一番好き。





3.『鹿の王』

──あらすじ

強大な帝国・東乎瑠から故郷を守るため、死兵の役目を引き受けた戦士団”独角”。妻と子を病で失い絶望の底にあったヴァンはその頭として戦うが、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子にユナと名前を付けて育てるが!?
たったふたりだけ生き残った父と子が、未曾有の危機に立ち向かう。壮大な冒険が、いまはじまる──!


──2人の男が過酷な運命に立ち向かう
『鹿の王』は4巻構成で、2つの視点を中心に物語が進行していく。一人はあらすじで書いてある”ヴァン”。そしてもう一人は医術師の”ホッサル”だ。


ヴァンは、飛鹿〈ピユイカ〉と呼ばれる鹿を操ることができる。また、独角〈どっかく〉という戦闘集団の頭領であった。しかし戦いに破れ、奴隷に落とされると岩塩鉱で働かされることとなる。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。多くの人が病で命を落とすなか生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子”ユナ”とともに逃げ出すが……。


ホッサルは病の原因究明のため岩塩鉱に行く。多くの者が命を落としている中、脱走防止の足枷がひとつ外れていることが分かり、ヴァンだけが生き残ったことが発覚する。犬に噛まれても病にかからない人もいる事がわかったことで、謎の病の究明のため生き残ったヴァンを捜索することになる。


ヴァンとホッサルの2人の男を中心に過酷な運命に立ち向かう人々のストーリーが展開されていく。


『鹿の王』は、上で紹介した上橋菜穂子氏の他作品『守り人シリーズ』と『獣の奏者』と比較するファンタジー的な要素はやや薄めな印象。その分、生と死、病気とは、医療とは…とリアルな部分を深く掘り下げているのが特徴と言えるだろう。


いつもながら登場人物が魅力的で、細部まで世界観が構築されていてる。そして思わずうなってしまうような美しい日本語(表現)がページをめくる手を止めさせてくれない。


4.『鹿の王 水底の橋』

──あらすじ

なによりも大切にせねばならぬ人の命。その命を守る治療ができぬよう、政治という手が私を縛るのであれば、私は政治と戦わねばなりません。
黒狼熱大流行の危機が去り、東乎瑠帝国では、次期皇帝争いが勃発。様々な思惑が密かに蠢きはじめているとは知らずオタワルの天才医術師ホッサルは、祭医・真那の招きに応じて、恋人ミラルとともに清心教医術の発祥の地・安房那領へと向かう。
ホッサルはそこで、清心教医術に秘められた驚くべき歴史を知るが、思いがけぬ成り行きで、次期皇帝争いに巻き込まれていき!?異なる医術の対立を軸に人の命と医療の在り方を問う意欲作!


──2つの医術とタイトルの意味
前作のヴァンたちの存在が気になりつつも登場はせず、ホッサルがメインのストーリー。『鹿の王 水底の橋』は『鹿の王』の続編なので、先に『鹿の王』を読むことをオススメする。


ホッサルひとりを主人公に置くとこによって医術についてピックアップされているので前作『鹿の王』よりもアクション要素は薄いが、民族間での医術や文化の違い、死についての考え方などファンタジーとは思えないほどリアルに展開されていた。安定の上橋菜穂子クオリティ。


物語の軸になってくるのは2つの医術、『清心教医術』と『オタワル医術』。患者の全体を見る清心教医術と、患者の身体の内部を見るオタワル医術。そして死への考え方など、相反する意見をもつ両者。2つの医術がどう物語に関係してくるのか、そしてタイトルの『水底の橋』に秘められた意味とは……?


5.『香君』

──あらすじ

遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲、オアレ稲。ウマール人はこの稲をもちいて帝国を作り上げた。この奇跡の稲をもたらし、香りで万象を知るという活神〈香君〉の庇護のもと、帝国は発展を続けてきたが、あるとき、オアレ稲に虫害が発生してしまう。
時を同じくして、ひとりの少女が帝都にやってきた。人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャは、やがて、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる。

──2022年に発売された最新作
『香君』は、2022年に発売された、上橋菜穂子の最初作。香りですべてを知ることのできる少女の物語……らしいのだが、買ってはあるものの、私はまだ読めていない。


読み次第追記するのでご容赦ください。



6.『精霊の木』

──あらすじ

環境破壊で地球が滅び、様々な星へ人類は移住していた。少年シンが暮らすナイラ星も移住二百年を迎えるなか、従妹のリシアに先住異星人の超能力が目覚める。失われた〈精霊の木(リンガラー・ホウ)〉を求め、黄昏の民と呼ばれる人々がこの地を目指していることを知った二人。しかし、真実を追い求める彼らに、歴史を闇に葬らんとする組織の手が迫る。「守り人」シリーズ著者のデビュ ー作、三十年の時を経て文庫化!

(引用:https://www.shinchosha.co.jp/book/132085/)



7.『月の森に、カミよ眠れ』

──あらすじ

月の森の蛇ガミをひたすら愛し、一生を森で送ったホウズキノヒメ。その息子である蛇ガミのタヤタに愛されながらも、カミとの契りを素直に受けいれられない娘、キシメ。神と人、自然と文明との関わりあいを描く古代ファンタジー。小学上級から。

(引用:https://www.amazon.co.jp/%E6%9C%88%E3%81%AE%E6%A3%AE%E3%81%AB%E3%80%81%E3%82%AB%E3%83%9F%E3%82%88%E7%9C%A0%E3%82%8C-%E5%81%95%E6%88%90%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E4%B8%8A%E6%A9%8B-%E8%8F%9C%E7%A9%82%E5%AD%90/dp/4036524305)

8.『狐笛のかなた』

──あらすじ

小夜は12歳。人の心が聞こえる〈聞き耳〉の力を亡き母から受け継いだ。ある日の夕暮れ、犬に追われる子狐を助けたが、狐はこの世と神の世の〈あわい〉に棲む霊狐・野火だった。隣り合う国の争いに巻き込まれ、呪いを避けて森陰屋敷に閉じ込められている少年をめぐり、小夜と野火の、孤独でけなげな愛が燃え上がる……ひたすらに。真直ぐに、呪いの彼方へと駆けていく、ニつの魂の物語。

【オススメ記事】






【2023年版】絶対に読んでほしいミステリ作品オススメ厳選9作品




あっと驚く展開、予想していなかったどんでん返し、華麗な伏線回収、摩訶不思議な密室トリック、そしてそれを解き明かす探偵……。ミステリーの楽しみは人それぞれ無限大である。




今回は、そんなミステリーにジャンルを絞って、私が自信を持ってオススメできる小説9作品を紹介していく。


ジャンルフリーのオススメ14選はこちらから
【小説オススメ14 選】



注意事項

  • 2023年現在の私が実際に読んだ作品、ベスト9を紹介している。(随時更新予定)
  • 紹介はランキング形式ではなく、ランダムに紹介する。
  • あらすじは、基本裏表紙のものを引用している。
  • 物語の核心に触れるネタバレはしていない。
  • 一人の作家に対して、一つの作品を採用している。

目次

1.『容疑者Xの献身』/東野圭吾

──あらすじ

天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。


──天才vs天才 愛とはなんだ

『容疑者Xの献身』を簡単に説明すれば、惚れた女性の犯罪を隠す石神と、犯罪の秘密に迫る湯川の二人の天才による対決が描かれた物語だ。


あらすじなどから分かる通り『容疑者Xの献身』は倒叙もののミステリーである。(倒叙とは、ミステリーで最初から犯人が明かされて、主に犯人視点で物語が進行していくもの)
 

石神と湯川は大学時代の同期であり、お互いに「天才」という意味では同じであったが、決して似ている二人ではない。


湯川は頭脳明晰、容姿端麗おまけにスポーツ万能...とすべてを兼ね備えた完璧人間と言っても過言ではない。このようなことに対して石神は、湯川と対極の人物である、と説明すればわかりやすいだろう。


この二人によって展開される頭脳戦が『容疑者Xの献身』の見所の一つである。石神による人の盲点を突く、天才的発想の隠蔽工作は予想の斜め上をいく。また、その石神の隠蔽工作に対して湯川はどこから真実を見抜くのか...!?


もう一人の見所としてはタイトルの意味だろうか。読了後にはタイトルの意味を深く噛み締める事になるだろう。そして石神という人間に対してきっと涙するはずだ。


ちなみに『容疑者Xの献身』はガリレオシリーズと呼ばれる東野圭吾の人気シリーズである。『容疑者Xの献身』をはじめとするシリーズ作、またはどんなシリーズかは下記ページで紹介している。
《ガリレオシリーズ作品紹介・あらすじ》



2.『すべてがFになる』/森博嗣

──あらすじ

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウェディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大教授・犀川創平と学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。ミステリィの世界を変えた記念碑的作品。

──衝撃のデビュー作!伝説の始まり
だれが犯人なのか?どんなトリックを使っているのか?これらの要素はミステリーで欠かせない要素だが『すべてがFになる』は、これらに対する解答が素晴らしいと思う。


天才工学博士・真賀田四季の部屋にあるコンピューターのカレンダーには、たった一行のメッセージが残されていた。そのメッセージが『すべてがFになる』


謎めいたタイトルに秘められた意味が分かったときの衝撃といったら他にない。印象的すぎるタイトルにして意味不明なタイトルであるが、読んでから考えるとこれ以上のタイトルはないだろうと思える。


『すべてがFになる』は主人公・犀川創平と西野園萌絵の頭文字をとって『S&Mシリーズ』と呼ばれており、10冊から構成されている。以下、シリーズ一覧だ。

【S&Mシリーズ作品一覧】

1.『すべてがFになる』 The Perfect Insider
2.『冷たい密室と博士たち』 Doctors in Isolated Room
3.『笑わない数学者』  Mathematical Goodbye
4.『詩的私的ジャック』 Jack the Poetical Private
5.『封印再度』 Who Inside
6.『幻惑の死と使途』 Illusion Acts Like Magic
7.『夏のレプリカ』 Replaceable Summer
8.『今はもうない』 Switch Back
9.『数奇にして模型』 Numerical Models
10.『有限と微小のパン』 The Perfect Outsider


個人的に大好きなのは『すべてがFになる』と『有限と微小のパン』である。是非とも制覇してみてほしい。

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3.『まほり』/ 高田大介

──あらすじ

蛇の目紋に秘められた忌まわしき因習
膨大な史料から浮かび上がる恐るべき真実
大学院で社会学研究科を目指して研究を続けている大学四年生の勝山裕。卒研グループの飲み会に誘われた彼は、その際に出た都市伝説に興味をひかれる。上州の村では、二重丸が書かれた紙がいたるところに貼られているというのだ。この蛇の目紋は何を意味するのか? ちょうどその村に出身地が近かった裕は、夏休みの帰郷のついでに調査を始めた。偶然、図書館で司書のバイトをしていた昔なじみの飯山香織とともにフィールドワークを始めるが、調査の過程で出会った少年から不穏な噂を聞く。その村では少女が監禁されているというのだ……。代々伝わる、恐るべき因習とは? そして「まほり」の意味とは?
『図書館の魔女』の著者が放つ、初の長篇民俗学ミステリ!   

(引用:「まほり」 高田 大介[文芸書] - KADOKAWA)



──膨大な史料から浮かび上がる驚愕の真実
『まほり』は、現実世界を舞台にした民俗学ミステリーである。知識量と情報量が圧倒的で、史実をベースを展開される物語はリアリティの塊である。


大衆の歴史の裏に隠れて普段は表立っては出てこない史実をベースとして物語は展開されていくわけだが、とにかく事実と虚構(フィクション)の境目がわからなくなるくらいリアル。もしかしたら物語に登場する村はどこかあるのでは…?こんな風習が残されているんじゃないか…?と思ってしまうほど。


白文がでてきたり、知識量と情報量の圧倒的物量で会話が進んで行くところがあったり、歴史について深く突っ込んだりと、要所要所は間違いなく難解である。


だがしかし、白文でいえば登場人物たちがうまい具合に解説をしてくれたりと、なるべくスムーズに読み進められるようになっているので安心してほしい。


そして、そんな膨大な史料から答えを読み解いていき、少しづつ物語の全体像が浮かび上がってくる様子が、パズルのピースを一つ一つはめていき全体像を作っていくようでたまらなく面白い。史料を読み解くにしても、机にかじりついているだけではなくフィールドワークや実体験の昔話からのアプローチを駆使しているのも物語に引き込まれる。


あとは難しい話だからこそ、登場人物たちのやりとりがまた映えるし癒やされる…。


とはいえ、なんといっても一番のポイントはタイトルの『まほり』の意味、そして表紙にも散りばめられた◎の意味。すべての答えが明かされる時に…!


個人的には、ミステリではないが同著者の『図書館の魔女』も推したい一冊。本好きなら絶対に楽しめる濃密な内容になっているので是非。

《『図書館の魔女』あらすじ・見所紹介》

4.『スロウハイツの神様』/辻村深月

──あらすじ

人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ──あの事件から十年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激しあってた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。

(引用:スロウハイツの神様〈上〉/辻村深月)


──物語は衝撃で幕をあける
物語は小説家であるチヨダ・コーキの大ファンが廃屋で殺人事件を起こす場面から始まる。そしてこの殺人事件が普通の事件ではない。

「チヨダ・コーキの小説のせいで人が死んだ」その日の天気は、快晴だった。
《略》
二十一歳、大学生の園宮章吾の発案による自殺ゲーム。下は十五歳から、上は三八歳までの、参加者十五名は全員死亡。(発案者、園宮含む)

(引用:スロウハイツの神様〈上〉P9/辻村深月)


こんなインパクトのある始まりなわけだが、本筋は夢を追いかける創作家たちの青春物語が描かれている。


『スロウハイツの神様』を簡単に説明すると、現代版『トキワ荘』を舞台とした物語である。トキワ荘とは、手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎など、今なお語り継がれる漫画家たちが住んでいた実在のアパートだ。


『スロウハイツの神様』は登場人物こそ漫画家ではないが、脚本家、作家、漫画家etc…創作に情熱を注ぐ人たち共同生活をするアパートで、そのため現代版トキワ荘という訳である。


なぜ彼らは共同生活をしているのか?登場人物たちの関係は?そして殺人事件については?など、初めに多くの気になる情報を与えられて、後々なぜそうなったのかじっくり明かされていく形なので、気づかないうちに物語の世界に一気に惹き込まれることになるだろう。


読み終わる頃にはきっと、とある登場人物がとても好きになるはずだ。


5.『ダ・ヴィンチ・コード』/ダン・ブラウン

ルーヴル美術館館長のソニエールが館内で死体となって発見された。殺害当夜、館長と会う約束をしていたハーヴァード大教授ラングドンは、フランス警察より捜査協力を求められる。ソニエールの死体は、グランド・ギャラリーでダ・ヴィンチの最も有名な素描〈ウィトルウィウス的人体図〉を模した形で横たわっており、さらに、死体の周りには、複雑怪奇なダイイングメッセージが残されていた。館長の孫娘でもあり、現場に駆けつけてきた暗号解読官ソフィーは、一目で祖父が自分だけに分かる暗号を残したことに気付く...。
〈モナ・リザ〉〈岩窟の聖母〉〈ウィトルウィウス的人体図〉──。
数々のダ・ヴィンチ絵画の謎が導く、歴史の真実とは!?


──全世界7000万部突破の衝撃作

『ダ・ヴィンチ・コード』は、ハーヴァード大学の象徴学者ロバート・ラングドンを主人公としたシリーズ作品であり『ダ・ヴィンチ・コード』はそのシリーズ第2作目の作品である。シリーズ作品の2作目ではあるが、この作品から読んでも問題ないようになっている。


とはいえ、第一作目である『天使と悪魔』も負けず劣らず面白いので、興味と時間がある方はそちらからトライしてみてもいいだろう。以下、2022年時点での『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズ一覧

シリーズ5作品と刊行年
1.天使と悪魔〈2000年〉
2.ダ・ヴィンチ・コード〈2003年〉
3.ロスト・シンボル〈2009年〉
4.インフェルノ〈2013年〉
5.オリジン〈2017年〉


『ダ・ヴィンチ・コード』は、史実にまつわるストーリー、実在する舞台、芸術作品、名だたる偉人、宗教が登場するので、フィクションなのだがノンフィクションのようなリアルさがある。実在するものゆえに知的好奇心が刺激されてやまない。


歴史や宗教に対して予備知識があったほうが楽しみやすいし理解もしやすいだろうが、予備知識がなかったとしても十分に楽しめるはずだ(私は予備知識をもってはなかった)。逆に『ダ・ヴィンチ・コード』が新しい興味を発掘させてくらるきっかけになるかもしれない。


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6.『カラスの親指』/道尾秀介

──あらすじ

人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは?息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末。道尾秀介の真骨頂がここに!

(引用:カラスの親指 裏表紙)


──大計画に目が離せない!?
あらすじに出てくる中年二人、タケさんとテツさんの絶妙なやりとりがコミカルで最初から引き込まれ、二人の重い過去に気持ちが沈み、しかしそれを上回る爽快もあり、そして予想の斜め上の結末を迎える……。是非その大計画に刮目してほしい。


『カラスの親指』、タイトルだけみたらものすごく不穏な感じがするが、その意味がわかると納得しかない。


物語に端々に仕組まれた細かいトリックや伏線、人間の後ろ暗い部分の書き方など道尾秀介らしさが存分に発揮されている一冊になっている。著者の作品を読んだことがない人にとって、初めてにピッタリの作品だと思う。
最後に心に残った本作の一文を。

「親指だけが、正面からほかの指を見ることができるんです。ぜんぶの指の中で、親指だけが、ほかの指の顔を知ってるんですよ」

(引用:カラスの親指 道尾秀介)

7.『重力ピエロ』/伊坂幸太郎

──あらすじ

兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟は大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは──。溢れくる未知の感動、小説の軌跡が今ここに。

──『春が2階から落ちてきた』
登場人物たちのユーモアな会話や言葉選びで軽快に物語は進むのにも関わらず、レイプ、放火、父の癌……と、取り扱っている題材は、かなり重いラインナップである。


本書の名言の一つに「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」とある。『重力ピエロ』は春の上記の名言を、まさに実行してる物語のようである。深刻なテーマな物語であるにも関わらず、軽快でユーモアある……つまり陽気なやりとりで構成されている。



読み進めているときには気づかない、何気ないエピソードの一つひとつが最後に線で結ばれる様子が圧巻。著者の作品を数多く読んでいる訳ではないが、「あぁ、この感じが伊坂幸太郎だなぁ」と思い知らされる。


ちなみに『春が2階から落ちてきた』は本書の冒頭部分である。この始まりがあまりにも美しい。


【関連記事:印象的な小説の一文目まとめ】

8.『盤上の向日葵』/柚月裕子


──あらすじ

実業界の寵児で天才棋士――。 男は果たして殺人犯なのか! ? さいたま市天木山山中で発見された白骨死体。唯一残された手がかりは初代菊水月作の名駒のみ。それから4ヶ月、叩き上げ刑事・石破と、かつて将棋を志した若手刑事・佐野は真冬の天童市に降り立つ。向かう先は、世紀の一戦が行われようとしている竜昇戦会場。果たしてその先で二人が目撃したものとは! ?日本推理作家協会賞作家が描く、渾身の将棋ミステリー!

──慟哭のミステリー


タイトルの『盤上』、そして表紙の『王将』を見て分かる通り、将棋、そして将棋の駒が物語の中核をなすミステリー作品。


もちろん対局の様子も描かれていて将棋を知っている方ならイメージしやすいと思う。将棋のルールを知らない方でも楽しめる内容になっているので、その辺りは安心してほしい。


物語は
・白骨死体と駒の謎に迫る刑事・石破と佐野の視点
・異色の天才棋士・上条の視点
この二つの視点で物語が進展していく。


ポイントとしては、
・死体は誰なのか?何故、駒が埋められていたのか?
・異色の天才棋士・上条の生い立ち
・タイトルにもなっている『向日葵』


死体と共に埋められていたいた駒は普通の将棋の駒ではなく、初代菊水月作錦旗島黄楊根杢盛り上げ駒という、時価600万は下らない高価な駒であった。そんな貴重な駒を何故、一緒に埋めなければならなかったのか?


些細な手掛かりから徐々に真相に迫っていく様子は読者にワクワクを与え、その先にあるものの想像を掻き立てる。


9.『さよならドビュッシー』/中山七里

──あらすじ

ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。第8回『このミス』大賞受賞作品。


──
『さよならドビュッシー』は探偵役・岬洋介の名前をとって『岬洋介シリーズ』と呼ばれるシリーズの第一作目である。


他作品には『おやすみラフマニノフ』や『いつまでもショパン』などがある。ここまで説明すればおおよそ検討がつくだろうが、このシリーズは『音楽』がメインのテーマとなっている。ちなみに岬洋介はピアニストだ。


音楽がテーマなだけあって、音の表現が秀逸。ついつい本作に登場する曲を実際に聞きたくなる。というか、聞いたことがない人は是非聞いてみてほしい。もちろんそれだけではなく、ストーリーは最後まで目が離せない。きっと衝撃を与えてくれるはずだ。




【オススメ】






【2023年版】『ラプラスの魔女』シリーズ紹介!全3作品のあらすじ・感想【東野圭吾】


不幸な偶然の重なり──そんな簡単な言葉で片付けていいものだろうか。
しかしそれ以外には考えられない。人為的なものが関わる余地などゼロだ。この世に魔力とでもいうべきものが存在しないかぎりは──。

(引用:魔力の胎動/東野圭吾)


今回は、東野圭吾の『ラプラスの魔女』シリーズを紹介していく。


目次

『ラプラスの魔女』シリーズとは?読む順番は?

『ラプラスの魔女』シリーズは、フランス人数学者の「ピエール・シモン・ラプラス(1749-1827)」が提唱した「ラプラスの悪魔」という仮説を題材にした物語となっている。具体的にどんな仮題かというのは、作品紹介で書いているのでここでは省略する。


今回はシリーズとして、まとめて紹介していて現在は3作品が刊行されている。以下、その3作品と刊行年。


1.ラプラスの魔女《2015年》
2.魔力の胎動《2018年》
3.魔女と過ごした七日間《2023年》


シリーズ第一弾が『ラプラスの魔女』、その前日譚が『魔力の胎動』だ。そして続編として『魔女と過ごした七日間』読む順番としては、素直に『ラプラスの魔女』→『魔力の胎動』→『魔女と過ごした七日間』の順で読んでいけばいいだろう。


評判的に賛否が分かれている作品ではあるが、個人的にはかなり好きな作品たちなので、この3作で終わらずに続編が出る事を切に願っている。


また『ラプラスの魔女』は2018年に櫻井翔さん、広瀬すずさん主演で映画化されている。
まぁ……個人的には小説で楽しむ事をオススメする。

1.『ラプラスの魔女』

──あらすじ

円華という若い女性のボディーガードを依頼された元警官の武尾は、行動を共にするにつれ彼女には不思議な《力》が備わっているのではと、疑いはじめる。
同じ頃、遠く離れた2つの温泉地で硫化水素による死亡事故が起きていた。検証に赴いた地球化学の研究者・青江は、双方の現場で謎の娘・円華を目撃する──。
価値観をくつがえされる衝撃。物語に翻弄される興奮。作家デビュー30年、80作目の到達点。

──彼女の瞳は何を写すのか

冒頭で前述した通り、『ラプラスの魔女』は、フランス人数学者の「ピエール・シモン・ラプラス(1749-1827)」が提唱した「ラプラスの悪魔」という仮説を題材にした物語となっている。どんな仮説かというと以下の通りだ。
 

 「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は、物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから、未来の状態のがどうなるか完全に予知できる。」

これは実際に『ラプラスの魔女』本文から引用したものだ。


「もし、未来がわかったら…」と、だれもが一度は考えたことがあるはず。そんな力を得てしまった主人公と、巻き起こる事件に一気読み必死の作品だ。


賛否がわかれる作品ではあるが、個人的には推したい一冊。何よりも『ラプラスの悪魔』を持ち込んできた設定が好みすぎた。

2.魔力の胎動

──あらすじ

成績不振に苦しむスポーツ選手、息子が植物状態になった水難事故から立ち直れない父親、同性愛者への偏見に悩むミュージシャン。
彼等の悩みを知る鍼灸師・工藤ナユタの前に、物理現象を予測する力を持つ不思議な娘・円華が現れる。
挫けかけた人々は彼女の力と助言によって光を取り戻せるか?円華の献身に秘められた本当の目的と、切実な祈りとは。
規格外の衝撃ミステリ『ラプラスの魔女』とつながる、あたたかな希望と共感の物語。

(引用:「魔力の胎動」 東野 圭吾[角川文庫] - KADOKAWA)

──悩める人々の前に現れた彼女は、魔女

『魔力の胎動』は、『ラプラスの魔女』の前日譚になっている。そのため、先に『ラプラスの魔女』を読むことをオススメする。『ラプラスの魔女』と交差してる部分もあるので、それらの伏線も気にしながら読むと、よりいっそう楽しめるはずだ。


『魔力の胎動』は五章構成で

第一章:あの風に向かって翔べ
第二章:この手で魔球を
第三章:その流れの行方は
第四章:どの道で迷っていようとも
第五章:魔力の胎動

一~四章は、円華がラプラスの魔女の力を使って悩める人たちを救っていく物語。


そして五章は青江が過去に出会った事件で、『ラプラスの魔女』の事件に呼ばれるきっかけとなる物語。


本作は、『ラプラスの魔女』ありきの物語であり、欠けているところ……ではないが、歯痒いところを補った作品というのが『魔力の胎動』の印象。


物語前半は、東野圭吾らしい読み進めやすい理系チックな話、感動を誘ういい話だが、後半になるにつれて徐々に雰囲気が……!?


3.魔女と過ごした七日間

──あらすじ

AIによる監視システムが強化された日本。
指名手配犯捜しのスペシャリストだった元刑事が殺された。
「あたしなりに推理する。その気があるなら、ついてきて」
不思議な女性・円華に導かれ、父を亡くした少年の冒険が始まる。
少年の冒険×警察ミステリ×空想科学
記念すべき著作100作目、圧巻の傑作誕生! 

(引用:https://www.kadokawa.co.jp/product/322208000298/)

──少年の冒険×警察の闇×AI×ラプラスの悪魔

待ちに待っていていた『ラプラスの魔女』シリーズの第三段。『魔力の胎動』は『ラプラスの魔女』の前日譚的な話だったので、『魔女と過ごした七日間』がシリーズの実質的な続編と言っていいだろう。


タイトルから予測できるように、今回の主人公は魔女と共に事件を追った少年がメインである。少年・陸真の父親がある日、何者かによって殺害される。陸真の父親・克司は元警察官で、『見当たり捜査官』という指名手配犯を探す部署の人間だった。


事件によって父親を失った少年が、魔女・円華の力を借りて事件の真相に迫っていくと、そこには警察の闇があって……。AIが普及しはじめているこの世界で人間にできることはなんなのか、人間にしかできないことはなんなのか。


シリーズファンには必読の一冊となっている。



最後に

《ラプラスの悪魔》の仮説を取り入れたこのシリーズ、ホント好きだから続編に期待したいのだが、ようやく第三段も読むことができて嬉しい限りだ。

【オススメ】






新しい世界を知れる!お仕事小説5選




『お仕事小説』というジャンルの小説がある。主人公が仕事に取り組む様子がメインで描かれ、主人公が仕事を通して成長いく様子、プロ意識や職務を全うする大切さを教えてくれる。


また、自分とはまったく縁のなかった新しい仕事の内容、その裏事情を知れるのも魅力の一つだろう。


今回はそんなお仕事小説の中でも、普段の生活ではあまり関わる事が少ない人が多いであろう、変わった仕事に焦点を当てた作品5作品を紹介していく。

注意事項

  • 2022年現在の私が実際に読んだ作品から紹介している。
  • 紹介はランキング形式ではなく、ランダムに紹介する。
  • あらすじは、基本裏表紙のものを引用している。
  • 物語の核心に触れるネタバレはしていない。
  • 一人の作家に対して、一つの作品を採用している。

1.舟を編む/三浦しをん

──あらすじ

出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間際の下手な編集者。日本語研究に人生を過ぎる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚達。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の想いが胸を打つ本屋大賞受賞作!

──『言葉は海であり、辞書とは海を渡っていく舟 』

お仕事小説としても、かなりメジャーな作品である『舟を編む』。本書は、"辞書作り"がメインテーマの物語である。誰もが一度はひいたことがあるであろう辞書。しかし、その辞書を『誰が』『どうやって』『何を思って』作ったか……考えたことはあるだろうか?


『船を編む』では、そんな辞書作りについて焦点をあてつつ、携わる人たちの成長や思い、そして辞書作りに人生をかける人たちの情熱がつまった作品である。


固いイメージが湧くかもしれないが、仕事や人間模様を静謐に、時にコミカルに描いているので軽快に読み進めることができるはずだ。主人公の不器用な恋愛も歯がゆさがあるが素直に応援したくなる。


2.羊と鋼の森/宮下奈都

──あらすじ

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、調律の森へと深く分け入っていく─。一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。

──静かな情熱に勇気をもらえる一冊

ピアニストの物語は多くあれど、そのピアノを支える"調律師"の物語はどれくらいあるだろうか?『羊と鋼の森』は、そんなピアノの調律師を目指す青年の物語である。


劇的な展開や大きな事件が起こる訳ではないが、繊細な心情描写と、主人公の確かに成長の様子は、ジワジワと熱を帯びてくるような面白さがある。


読みやすくスッキリした読了感。そして単行本で243ページと文量も多過ぎず少なすぎず、普段あまり本に触れない方も読みやすい作品だと思う。


『羊と鋼の森』は、一つひとつの表現が、心理描写が、情景が繊細だと思う。とくにピアノ…つまり"音"を表現する描写が必然的に多い。もちろん本で音を聴けるはずがないのだが…「こんな音なんだろうなぁ」と自然とピアノの音が頭に浮かぶような、そんな繊細な表現が魅力の一つだ。


ピアノの音と向き合って、ピアノを通してお客さんや職場の先輩と向き合って成長していく。ひた向きに調律の道を進む主人公の静かな情熱が私は少し羨ましかった。


3.本日は、お日柄もよく/原田マハ

──あらすじ

OLの二ノ宮こと葉は、想いをよせていた幼なじみ厚志の結婚式に最悪の気分で出席していた。ところがその結婚式で涙が溢れるほど感動する衝撃的なスピーチに出会う。それは伝説のスピーチライター久遠久美の祝辞だった。空気を一変させる言葉に魅せられてしまったこと葉はすぐに弟子入り。久美の教えを受け、「政権交代」を叫ぶ野党のスピーチライターに抜擢された!目頭が熱くなるお仕事小説。

──言葉は、世の中を変える力を持つ

"スピーチライター"という職業にピックアップした物語『本日は、お日柄もよく』。この職業柄、本書にはいくつもの名言が散りばめられている。そのうちの一つに下記のような言葉がある。

言葉は、ときとして、世の中を変える力を持つ。

(引用:本日は、お日柄もよく P331/原田マハ)


このセリフ通り、私たちが普段なにげなく使っている『言葉』の力、『言葉』の可能性をスピーチという形で読者に投げかけている。


スピーチがメインテーマなだけあって、スピーチの場面は思わず引き込まれる。私はスピーチ……というか目立つこと一般がとても苦手なのだが、そんな私でもちょっと人前で話すのも楽しそう!『言葉』で世界を変えてみたい!と思えたほどだ。

4.ギンカムロ/美奈川護

──あらすじ

花火には、二つしかない。一瞬で消えるか、永遠に残るか。幼い頃、花火工場の爆発事故で両親を亡くした昇一は、高校卒業後、一人東京で暮らしていた。ある日、祖父から電話があり、四年ぶりに帰郷する。そこには花火職人として修行中の風間絢がいた。十二年前に不幸な出来事が重なった。それぞれが様々な思いを抱え、苦しみ、悩み、葛藤していく。花火に託された思いとは──。希望と再生の物語。

──花火は2種類、一瞬で消えるか永遠に残るか

『ギンカムロ』は、『花火師』にスポットを当てた作品である。打ち上げ花火を見たことがない、という人はいないだろう。しかし、その華やかな舞台を支える職人たちの仕事を見たことがある人がどれだけいるだろう?


恥ずかしながら私は、花火職人たちの仕事を見たことはない。それどころか心に残るような花火を見たことがあるのに、その花火に魂を込めた職人の事を考えたはなかった。


この物語では、そんな素晴らしい職人たちの舞台を覗くことができる。 本書を読んだら、次から見る花火は今までとは少し違った見え方をすること間違いない。



5.マスカレード・ホテル

──あらすじ

都内で起きた不可解な連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明。残された暗号から判明したのは、次の犯行場所が一流ホテル・コルテシア東京ということのみ。若き刑事・新田浩介は、ホテルマンに化けて潜入捜査に就くことを命じられる。彼を教育するのは、女性フロントクラークの山岸尚美。次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、二人は真相に辿り着けるのか!? いま幕が開く傑作新シリーズ。


──超一流のホスピタリティ
少し番外編で、本格派のお仕事小説ではないが、一流ホテルマンのホスピタリティを感じることができる『マスカレード・ホテル』を紹介していく。


ミステリーがメインの作品だが、刑事とホテルマンという異色のコンビが活躍する作品だ。


優秀だがプライドの高い刑事の新田
ホテルウーマンとして優秀な能力を持つ山岸


犯人の仮面を暴こうとする新田と、お客様の仮面を守ろうとする山岸。職業柄、価値観のまったく違う二人は最悪の印象で物語は始まる。


しかし、警察という仕事、フロントクラークという仕事を通して、お互いがお互いをプロとして認め、信頼関係を気付いていく様子がとても印象的な作品。


メインのミステリーの他にも、ホテルという舞台、そしてそこで働く人たちの喜びや苦労が楽しめるのもこの作品の大きな魅力の一つだろう。最後まで予測のつかない犯人と、その緊張感。そして主人公二人の息のあったコンビがたまらない。



マスカレードシリーズ紹介
『マスカレードシリーズ』の作品一覧とあらすじ・内容を全4作品まとめて紹介する【東野圭吾】 - FGかふぇ


【オススメ】






森博嗣の『Gシリーズ』全12作品一覧と、あらすじ・紹介




今回は森博嗣『Gシリーズ』の作品一覧、またあらすじ・紹介とネタバレなしの感想を述べていく。
個人的には、『Gシリーズ』より先に『S&Mシリーズ』、『Vシリーズ』を読むことをオススメする。以下、各シリーズの紹介。


【S&Mシリーズの一覧・紹介】

【Vシリーズの一覧・紹介】


【四季シリーズの一覧・紹介】


目次

1.Gシリーズの作品一覧・読む順番

『Gシリーズ』のGは、ギリシャ文字の頭文字Gからきていると言われている。シリーズ作品はすべてタイトルにギリシャ文字が含まれており、タイトルに特徴のある森博嗣作品の中でも、特に目を引くシリーズだと言っても過言ではないだろう。


以外、シリーズの刊行順でのタイトル一覧

1.Φは壊れたね
2.θは遊んでくれたよ
3.τになるまで待って
4.εに誓って
5.λに歯がない
6.ηなのに夢のよう
7.目薬αで殺菌します
8.ジグβは神ですか
9.キウイγは機械仕掛け
10.χの悲劇
11.ψの悲劇
12.ωの悲劇


全12作品構成。読む順番は、刊行順で読み進めていけばいいだろう。ここで注意していただきたいのは、最終巻『ωの悲劇』はまだ発売されていないという点だ。


『ψの悲劇』は2021年6月、だいたい2-3年周期で新作がでているので2023-2024年には発売されるのではないかと期待している。

2.Gシリーズの特徴・登場人物

『Gシリーズ』の特徴として、まず主な登場人物たちについて述べる。

今回のシリーズでは、大学生の加部谷恵美、海月及介、山吹早月らが中心となってストーリーが進んでいく。
山吹は、四季シリーズの『秋』で、加部谷は、S&Mシリーズ『幻惑の死と使徒』で登場している人物である。


つまり、この『Gシリーズ』も『S&Mシリーズ』、『Vシリーズ』と同じ世界線であることが伺える。なので新たな人間関係が明らかになることも……!?


もう一つの『Gシリーズ』の特徴として、加部谷たちが遭遇する事件がかなり特徴的である(グロいとかそういう訳ではないので安心してほしい)。


事件についてはネタバレになってしまうので多くは語れないが……『S&Mシリーズ』、『Vシリーズ』と同じ気持ちで読み始めると面食らう事になるのではないかと思われる。


ここからは、各作品について簡単な紹介と感想を述べていく。


──1.Φは壊れたね

──あらすじ

その死体は、Yの字に吊られていた。背中に作りものの翼をつけて。部屋は密室状態。さらに死体発見の一部始終が、ビデオに録画されていた。タイトルは「Φは壊れたね」。これは挑戦なのか?N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。Gシリーズ、待望の文庫版スタート!


──感想
本書あらすじの後半では、『N大のスーパ大学院生、西之園萌絵が、山吹ら学生たちと、事件解明に挑む。』とある。萌絵が探偵役として事件の真相を解き明かしていくのかと思っていきや、ところがどっこい新たな探偵役が登場してシリーズ序盤を盛り上げてくれる。


登場人物は、先程ふれた西之園萌絵をはじめ、犀川、国枝、鵜飼刑事……とS&Mシリーズを読んでいた方にはお馴染みのメンバーが登場してとても懐かしい気分になれるだろう。
質のある密室トリック、そして新たな探偵。S&M、Vとはまた違う空気感の中、Gシリーズはどこへ向かうのか。



──2.θは遊んでくれたよ

──あらすじ

25歳の誕生日にマンションから転落死した男性の額には、θという文字が書かれていた。半月後、今度は手のひらに赤いθが書かれた女性の死体が。その後も、θがマーキングされた事件は続く。N大の旧友・反町愛から事件について聞き及んだ西之園萌絵は、山吹ら学生三人組、探偵・赤柳らと、推理を展開する!


──感想
予想通り……っていうか出てこなきゃ拍子抜けだけど、無事に彼女がでてきた。Gシリーズでは、どのような思考を見せてくれるのか。どんな役割なのか。


事件のほうは、森博嗣作品にしては珍しく密室ではない事件。事件に関しては若干のモヤモヤが残る。


──3.τになるまで待って

──あらすじ

森に建つ洋館は”超能力者”神居静哉の別荘で《伽羅離館》と呼ばれていた。この屋敷のに探偵・赤柳初朗、山吹、加部谷ら7人が訪れる。突然轟く雷鳴、そして雨。豪華な晩餐のあと、密室で館の主が殺された。死ぬ直前に聴いていたラジオドラマは、「τになるまで待って」。大きな謎を孕む、人気のGシリーズ第三作。


──感想
密室トリックやらは面白みに欠けるところがあったが、シリーズ全体で考えた際には今後の展開が更に期待される巻であった。

正直に言えばちょっと不完全燃焼感がある。


──4.εに誓って

──あらすじ

山吹早月と加部谷恵美が乗り込んだ中部国際空港行きの高速バスが、ジャックされてしまった。犯人グループからは都市部とバスに爆弾をしかけたという声明が出される。乗客名簿にあった「εに誓って」という団体客名は、「Φは壊れたね」から続く事件と関係があるのか。西之園たちが見守る中、バスは疾走する


──感想
山吹と加部谷の乗ったバスがジャックされ、二人の命運やいかに……!?ってハラハラしながら読んでいたけど、更に驚きにの真実が……!?


これはね、詳しいことは言えないが見事と言う他ない。さらには、謎多き海月の秘密が少し垣間見える巻でもある。




──5.λに歯がない

──あらすじ

完全に施錠されていたT研究室で、四人の銃殺死体が発見された。いずれも近距離から撃たれており、全員のポケットに「λに歯がない」と書かれたカードが入っていた。また四人とも、死後、強制的に歯が抜かれていた。謎だらけの事件に迫る過程で、西之園萌絵は欠け落ちていた過去の大切な記憶を取り戻す。


──感想
萌絵と犀川の登場頻度が高くてS&Mの延長を読んてる感があった。二人の関係性が目に見えて進展していて月日が流れてるんだなぁ……って改めて感じる。そして頭脳明晰の犀川は健在。常に萌絵とか海月の一歩先をいってるよね


ギリシャ文字の謎は一向に答えが見えてこないけど、登場人物たちの関係は徐々に動きがでてきたのが印象的。

 

──6.ηなのに夢のよう

──あらすじ

地上12メートルの松の枝に、首吊り死体がぶら下がっていた。そばには、「ηなのに夢のよう」と書かれた絵馬が。その後も特異な場所での自殺が相次ぐ。一方、西之園萌絵は、両親の命を奪った10年まえの飛行機事故の真相に近づく。これら一連の事件に、天才・真賀田四季は、どう関わっているのか──?


──感想

S&M→V→四季→Gとシリーズを駆けてきて、ここにきて今更また萌絵の飛行機事故について言及されてくるとは……。しかもとんでもない事実を突きつけられ……!?


正直、なかなか先が見えなければ、先も読めない展開のGシリーズだが、萌絵の変化や、真賀田四季の登場(?)など今までにない進展を見せた巻で非常に見所がある巻。




──7.目薬αで殺菌します

──あらすじ

関西で発見された劇薬入りの目薬の名前には「α」の文字が。同じ頃、加部谷恵美が発見した変死体が握りしめてたのもやはり目薬「α」!探偵・赤柳初郎は調査を始めるが、事件の背景にはまたも謎のプロジェクトが?ギリシャ文字「α」は「Φ」から連なる展開を意味しているのか?Gシリーズ第7作!


──感想
またずいぶんと懐かしい人物の登場があった。彼女は『すべてがFになる』以来の登場か……?『有限と微小のパン』でもでてたかも…?


シリーズ作品らしく、過去キャラの登場。そしてメインキャラクターたちの心境の変化など、どことなく流れの変化を感じる一冊。


──8.ジグβは神ですか

──あらすじ

βと名乗る教祖をあおぐ宗教団体の施設・美之里。調査に訪れた探偵・水野は加部谷恵美たちと偶然の再開を果たす。つかの間、フィルムでラッピングされ棺に入った若い女性の美しい全裸死体が発見された。あちらこちらに見え隠れする真賀田四季の影。紅子が、萌絵が、加部谷たちが近づいた「神」の真実とは。

──感想
まず読み初めて驚くのが時は流れ。加部屋たちは社会人に、または院生になっている。そして唐突に赤柳探偵の秘密が明らかになり……!?


『天才なら凡人の振りができるが、凡人には天才のふりはできない』と紅子から名言が出ていたが、まさにそのとおり。本物は……神は、やっぱり格が違うんだよなぁ。


──9.キウイγは機械仕掛け

──あらすじ

建築学会が開催される大学に、γこ字が刻まれたキウイがひとつ届いた。銀のプルトップが差し込まれ手榴弾にも似たそれは誰がなぜおくってきたのか。その夜、学長が射殺される。学会に参加する犀川創平、西之園萌絵、国枝桃子、海月及介、加部谷恵美と山吹早月。取材にきていた雨宮純らが一堂に会し謎に迫るが。

──感想
Gシリーズではお馴染みの感想になってしまうが、次の作品に期待したいと思う。


こう書くと『キウイγは時計仕掛け』は面白くなかったの?と思われてしまうがそういった意味ではない。犀川、萌絵含め登場人物は勢ぞろいだし、相変わらず哲学チックな森博嗣節は炸裂しているし、人間関係にちょっと変化があったり……。


だがしかし、やっぱりシリーズを通して癖が強い。

──10.χの悲劇

──あらすじ

香港で仕事をする島田文子のもとに男が現れた。島田が真賀田研究所にいた頃に起きた飛行機事故について質問があるという。その日、走るトラムの中で殺人が起き、死者の手に「χ」の文字が遺される。乗客として警察の捜査に応じた島田だったが、そこである交換条件を持ちかけられ……。Gシリーズ後期三部作開幕。

──感想
Gシリーズはとくに謎が多い印象だが、今回『χの悲劇』では、多くの読者が謎に思っていただろう、ある人物の秘密が明かされる。


そしてメインのストーリーが、加部谷たちではなく、まさかの島田文子というのもまた面白い。彼女のルーツ、そして彼女の人生はどうなっていくのか、目が離せない。

──11.ψの悲劇

──あらすじ

遺書ともとれる手紙を残して老博士、八田洋久が失踪した。一年後、洋久と親しかった人々が八田家に集まり、失踪の手がかりを探して実験室に入ると、コンピュータに「ψの悲劇」と題された小説、ノートに〈真賀田博士への返答〉とのメモが。その夜、八田家に悲劇が訪れた。Gシリーズ後期三部作、第二弾。


──感想
このレベルの衝撃を味わったのは久しぶりな気がする。
物語のほとんどが鈴木という人物の視点で展開され、鈴木の思考も惜しみなく描写されている。ホントに惜しみなくだ。彼にはとんでもない秘密があり……。


今まではシリーズを通した人間関係で衝撃を受けることが多かったが、シンプルに『ψの悲劇』単体の物語の展開、とくにラストシーンの衝撃が凄まじかった。最終巻にむけて期待が高まる。


──12.ωの悲劇

最終巻(予定)
詳細はまだ未発表である。



【オススメ】






『ψの悲劇』の感想を好き勝手に語る【森博嗣】



「それじゃあ、話をしましょうか」島田は言った。「鈴木さん、覚悟はよろしい?」
「何の覚悟ですか?」
「貴方が何者か、という話です」

(引用ψの悲劇 P195/森博嗣)


森博嗣のGシリーズ第11弾、後期三部作の二作目『ψの悲劇』の感想を語っていく。ネタバレありなので未読の方はご注意を。


前回の感想
【『χの悲劇』感想】

【『Gシリーズ』一覧まとめ】

目次

あらすじ

遺書ともとれる手紙を残して老博士、八田洋久が失踪した。一年後、洋久と親しかった人々が八田家に集まり、失踪の手がかりを探して実験室に入ると、コンピュータに「ψの悲劇」と題された小説、ノートに〈真賀田博士への返答〉とのメモが。その夜、八田家に悲劇が訪れた。Gシリーズ後期三部作、第二弾。

(引用:ψの悲劇 裏表紙)


感想

やられたね。やられましたよ。
最後に全部持っていかれた……。
このレベルの衝撃を味わったのは久しぶりな気がする。


この流れで、そのままGシリーズ最終巻へ!!……と思っていたら2022年現在、Gシリーズラストを飾る『ωの悲劇』はまだ発売されていないと……。これまでの刊行ペースでいくと2023〜2024年くらいの発売になりそうだから、気長に待つとする……。 



読み始めは時系列が分からず、探り探りで読み進めていた。
島田が登場していて、若い……ってことは『χの悲劇』の最後より前の出来事か?でも今やってることもなんか違うし、どことなくキャラも違うし……って思ってたら、まさかまさかの展開に突入していったね。


ロボットがここまで精巧に、そして世界に根付いていってるとは……。しっかり『χの悲劇』より未来の話だった。私はWシリーズを少しかじっていたので、ロボット技術的には、ようやく繋がってきたなぁと思ったが、Gシリーズしか読んでいなかった方は、この精密すぎて人間と遜色ないロボットの登場に大いに驚かれたはずだ。


物語のほとんどが鈴木の視点で展開され、鈴木の思考も惜しみなく描写されている。ホントに惜しみなくだ。途中で鈴木がロボットだと明かされるわけだが(八田の頭脳の鱗片があるとはいえ)、この今までの思考がロボットで!人工知能で!!作られたものだったなんて!!!と思わずにはいられない。作中でも語られていたが、『人間』っていったいなんなのか、生きているとはなんなのか、考えさせられる。





──衝撃の連続

これまでのGシリーズにないくらい衝撃の連続。前作『χの悲劇』は登場人物の人間関係が明らかになり、そちらの面での衝撃が大きかったが、今回の『ψの悲劇』では、シンプルに物語の展開、前述したが、とくにラストシーンの衝撃が凄まじかった。最後はホントに鳥肌だった。


鈴木、そして八田洋久と2人にポスト・インストールしていたってことは、3人目ができない理由なんてないが、そんなこと考えてもいなかった。



結果を見れば、猫のブラン、将太、吉野を殺害(将太は死んでないが)したのは、身体は違えど八田ということになる。えげつない。


──「わかりません」

八田洋久の残した
最後に内容の数字が、暗号化されていて、解読すると「わかりません」との内容だったことが明かされる。


(残念ながら、もとの数字の暗号、解読方法は明記されていなかった。わかるのは数字は、十数桁だった。ということのみ P39)
そしてその数字の下に〈真賀田博士への返答〉と書かれていたということ。


読者からしたら、こっちがわからないわ!!と言いたくなる所だが、真賀田四季と「わからない」といえばS&Mシリーズ『有限と微小のパン』で下記の会話を四季と犀川でしていた。


「退屈ですか?」
「いいえ」四季はにっこりと微笑む。「先生……。私、最近、いろいろな矛盾を受け入れていますのよ。不思議なくらい、これが素敵なのです。宇宙の起源のように、これが綺麗なの」
「よくわかりません」
「そう……、それが、最後の言葉に相応しい」
「最後の言葉?」
「その言葉こそ、人類の墓標に刻まれるべき一言です。神様、よくわかりませんでした……ってね」
「神様、ですか?」
「ええ、だって、人類の墓標なのですから、それをお読みになるのは、神様しかいないわ」

(引用:有限と微小のパン P826-827)



神様、よくわかりませんでした。
神様=四季って考えられるし、八田の言葉としては死ぬ(眠りにつく)前の、最後の言葉ともとれる。


八田も素晴らしい頭脳の持ち主であるし、四季と似た思考をもっていたのかな。それか八田が四季と話したことがあったか。


たぶん前者かな。八田は下記のような言葉も残していたし

わからない。
私には、わかりません。
それが結論なのだ。
そこが私の到達点。
その先には、なにもない。

(引用:ψの悲劇 P312)

──印象に残ったセリフ・名言

「鈴木さんは、八田家の執事さんなんですね?」島田はきいた。
「はい、そうです」
「私も、メイドをしていたことがあります」
「メイド、ですか……」どういう意味だろうか。

(引用:ψの悲劇 P55)

ここで島田の言うメイドは、冥土とかけたシャレかな。たぶん。一回死んだことありますよ、と。

「人工知能がさ、しかたがない、なんて言うか?それは、あきらかに人間の台詞。人間の思考回路が移植されているから、でてくる言葉だよ」

(引用:ψの悲劇 P216)
人工知能でも言いそうなものだが……。根拠がよくわからない。

「してない。二年まえの八田先生の頭脳を取り込んだの。コピィしてね。ダウンロードに半月近くかかった。それで人口頭脳ストラクチャに二ヶ月もかけてインストールしたわけだ

(引用:ψの悲劇 P218-219)
コピーアンドペーストみたいに簡単に言うなぁ……。もうSFみがある。これが未来か。

「人間なんですか?」
「どこが人間と違う?私には違いがわからない。私自身にわからないんだから、誰にもわからないじゃない?そうでしょう?」

(引用:ψの悲劇 P229)

人間ってなんだろうね?何をもって人間っていうんだろうね?

私は機械だ。《中略》まちがいなく無機なのである。
だが、私には、有機のストラクチャが再現され、組み込まれ、有機の記憶が刻まれてた。それは、生きていることと、かぎりなく近い。
私は意識を持っている、と意識できる。
私というものを、疑うことなく、知っているのだ。
私は、私には証明できる。
私は、私だからだ。

(引用:ψの悲劇 P241)


「難しいところですね。人間って、存在しなければならないのかな」私は言った。それは自分へ跳ね返ってくるテーマにほかならない。「人間は、コンピュータを作った。これが、つまりは人間の進化であって、もう前世代の人間は、役目を終えたのかもしれません」

(引用:ψの悲劇 P278)
人類とコンピュータ、そして人工知能。ダン・ブラウンの『オリジン』にも似たような話があったな。



──備忘録

「えっとね、頭脳を物理的に移植するんじゃないの。全然違う。頭脳回路を、擬似的に構築させるわけ。ニューラルネットワークの構築プロセスに、個人の頭脳から遺伝子アルゴリズムをまず抽出して、その履歴から、同じようにリンクを増殖させる。簡単に言えないんだけど、ようするに、頭の作り方をコピィして、それを電子的に再現する。だから元の頭脳には損傷はなくて、単なるシステムのコピィというか、似た意識を再現することになる。上手く設計どおりに構築すれば、もう同じ器ができたわけで、あとは、メモリィ上のデータを転送するだけ。ほとんど同じ思考回路を持つ個人がもう一体できてしまう。人間の頭脳のシステムだけを、そうやってインストールできるの。わかります?」

(引用:ψの悲劇 P227)
☆頭脳の作り方☆



・八田の利き手がなぜか入れ替わる(P257、P275)

・鈴木は二重人格のロボットだった。人工知能へのインストール技術(P260-261)

・また、久慈昌山の名前が登場(P320)

最後に

後期三部作の『χの悲劇』『ψの悲劇』、そして今後発売予定の『ωの悲劇』は、アメリカの推理作家『エラリー・クイーン』の作品のオマージュだということは、明かされていたが、私の自身その作品を読んだことがなく、是非読んでみようと思っている。どうぜ『ωの悲劇』はまだ発売されないし……。



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